変容する中国NEV市場とその各国への影響待たれる状況改善、NEV化は今後も進展
「内巻」の行方(後編)
2025年12月16日
前編の「政府、業界団体の過当競争解消の取り組みが本格化」では、「内巻」と称される過酷な競争の中で、業界団体や政府などがその解消に向けて取り組みを急速に本格化させてきたこと、また「内巻」の背景にある消費マインドの低迷を受け、販売促進の政策を継続していることなどを紹介した。後編では、こうした取り組みの効果につき、データを基にした分析、現地関係者の見方などを紹介する。
利益率は低迷、在庫は改善か
業界団体や政府の取り組みを経て、幅広い産業チェーンを有する自動車製造業(部品製造などを含む、以下同様)の設備稼働率や利益率が直近どう推移しているかを確認してみる。
国家統計局のデータによると、一定規模以上の自動車製造業企業(注1)の設備稼働率は、2024年第1四半期に64.9%へと低下。その後、第2~4四半期は73%から77.2%の間での変動であったが、2025年第1四半期は71.9%、第2四半期は71.3%とまた若干低下した(図1参照)。しかし、第3四半期には73.3%と少し改善した。ただし、中国経済メディアの「第一財経」が2025年6月16日の報道で「健全」な状態としていた75%の水準には達していない。
そして、自動車製造業企業の設備稼働率は近年、一定規模以上の工業企業(注2)のそれを下回る傾向が続いており、かつ上下の変動がより大きい。もっとも第3四半期の自動車製造業企業と工業企業の差は1.3ポイントに縮まった(第1四半期、第2四半期の差はそれぞれ2.2ポイント、2.7ポイント)。
出所: 国家統計局データベースからジェトロ作成
一定規模以上の自動車製造業企業の利益率を、国家統計局のデータで、一定規模以上の自動車製造業企業の利益総額を営業収入で除したものとして計算した(図2参照)。2021年に6.4%となってから、3年連続で低下し2024年は4.3%となった。2025年1~10月はわずかに改善し4.4%となったが過去と比較して依然低水準だ。また、一定規模以上の工業企業の利益率は2024年が5.4%、2025年1~10月が5.2%となっており、全体平均を下回ったことになる。
そして2025年の直近の月別の利益率の推移をみると、6月には6.9%と高まったが、7月は3.5%、8月は3.4%、9月は4.4%、10月は3.9%となっており、4カ月連続で一定規模以上の工業企業の全体平均を下回った。
注:利益率は、一定規模以上の自動車製造業企業の利益総額を営業利益で除して計算した。
出所:国家統計局データベースおよび国家統計局「中国統計年鑑」各年版からジェトロ作成
2025年1~9月の新エネ車販売トップ(中国自動車工業協会(CAAM)発表の統計に基づく、326万台)の比亜迪が、2025年10月30日に発表した2025年1~9月の売上高は前年同期比12.8%増の5,663億元だった。純利益は7.6%減の233億元となった。第3四半期の売上高は前年同期比3.1%減の1,950億元で、純利益は前年同期比32.6%減の78億元と2四半期連続での減益となった。厳しい競争環境の影響が考えられる。
乗用車の販売価格が、どのように推移しているかを確認する。中国自動車流通協会乗用車市場信息聯席会(CPCA)の発表データによると、乗用車平均小売単価は、2019年の15万1,000元から、2023年には18万3,000元となったが、2024年は17万7,000元となり、2025年1~10月でも17万元と低下局面が続いている(表参照)。今年に入っての月別の推移をみても、2022~2024年と比較して低価格傾向が続いており、価格競争に関して「内巻」解消の取り組みの成果がすぐに見えているとは言えなさそうだ。なお、内燃機関車と新エネルギー車の価格を比較すると、新エネルギー車の価格低下傾向が目立つ。
表:中国の乗用車平均小売単価の推移 (単位:万元)
| 項目 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 |
2025年 1~10月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 乗用車全体 | 15.1 | 16.2 | 16.5 | 17.3 | 18.3 | 17.7 | 17.0 |
| 内燃機関車(ICE) | 15.0 | 16.1 | 16.6 | 17.4 | 18.3 | 18.3 | 18.1 |
| 新エネルギー車(NEV) | 16.8 | 17.5 | 16.3 | 16.9 | 18.4 | 17.1 | 15.9 |
| 項目 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 乗用車全体 | 17.3 | 16.6 | 17.0 | 17.0 | 17.3 | 17.4 | 16.9 | 16.8 | 16.8 | 16.6 |
| 内燃機関車(ICE) | 18.0 | 17.8 | 18.3 | 18.0 | 18.3 | 18.5 | 17.8 | 18.0 | 18.3 | 18.0 |
| 新エネルギー車(NEV) | 16.4 | 15.4 | 15.6 | 16.0 | 16.4 | 16.5 | 16.2 | 15.9 | 15.8 | 15.6 |
出所:中国自動車流通協会乗用車市場信息聯席会(CPCA)崔東樹秘書長の発表資料を基にジェトロ作成
ただし、CPCAの自動車ディーラー在庫係数(注3)の今年の推移をみると、2025年2月、3月は1.5を上回り、6月も1.42となったが、7月から9月は1.3台で推移し、10月は1.17となった(図3参照)。同協会は、国際的な同業界の一般的な慣行では、在庫係数が0.8〜1.2の範囲であれば在庫は合理的な範囲で、1.5を超えると在庫が警戒水準に達しており注意が必要としている。これに照らすと10月は合理的な範囲に入った。そして、2025年上半期と比較して、下半期に入って若干の改善傾向ということもできる。もっとも、国慶節などの連休がある9月と10月は「金九銀十」と呼ばれ、消費者の購買意欲が旺盛になり売買が特に活発化するといわれており、11月以降の在庫係数に注目が必要だ。
出所:中国自動車流通協会乗用車市場信息聯席会(CPCA)発表からジェトロ作成
解消には一定の時間を要するとの声が
「内巻」の解消に向けた取り組みを受けて、その解消見通しに注目が集まる。これには一定の時間がかかり、徐々に進展していくとの見方がある。自動車業界に詳しい中国の有識者は、「解消には4~5年の時間がかかる」と指摘する。そして、「その過程で一部勢力の淘汰を伴うものになる。年間生産能力が10万台以上の自動車メーカーが約40社とされているが、4分の1程度になる可能性もある」としている。また、中国経済に詳しい中国の有識者は、「かつて鉄鋼で生産能力過剰の解消が行われた。国有企業も多く、中央政府の方針を受け地方政府が具体的な計画を立て、立ち遅れた生産能力を解消するかたちで、政府主導で早いスピードで進められた面がある。しかし、自動車業界の過当競争では民営企業も多く、秩序を持った競争となり、市場の規律を重視したかたちで進められる漸進的なものになる」とした。在中日系自動車企業関係者からも、一定の時間がかかるとの見方が示されている。
中国自動車工業協会(CAAM)が2025年5月に、「公平な競争秩序の維持、産業の健全な発展を促進する提案」を発表して、コストを下回る価格で販売しないことを呼びかけた(9月には「自動車完成車メーカーによるサプライヤーへの代金支払いに関するガイドライン」を発表)。また、2025年6月に改正された中小企業代金支払保障条例も施行され、大企業から中小企業への支払いを納品から60日以内とすることなどを定めた。これらを受けて、中国メーカーが値引きに抑制的になっている、中小企業への支払いを短期化させているといった声も聞かれる。その一方で、一部では自動車メーカーの資金繰りに支障をきたすため、支払いを納品から60日以内とすることは容易ではない、中小企業としての立場の弱さから、部品メーカーが自動車メーカーに支払期日厳守を要望することは難しいといった指摘もある。
今後「内巻」の解消の取り組みは、中国の自動車のEV化、スマート化がさらに加速する中で進められていくことになる。中国における自動車専門家から成る全国規模の学術組織・中国自動車工程学会は、10月22日に「省エネルギー・新エネルギー車技術ロードマップ3.0」を発表した。工業情報化部の指導の下、同学会が中心となり作成したもので、政府の意向が一定程度反映されているとみられる。今回は、2016年、2020年に続けて3回目の発表となった。ロードマップでは、乗用車新車販売に占めるNEVの比率について、2030年には70%前後(BEVとPHVの比率は5:5)、2035年には80%以上(6:4)、2040年には85%以上(8:2)になるとの見方を示した。また、乗用車新車販売におけるインテリジェント・コネクテッド・ビークル(ICV)の比率につき、2030年までにレベル2以上が50%以上、2035年にはレベル3、レベル4が70%以上になるとした。今後は中国で中古車市場の拡大も指摘されており、「内巻」を取り巻く環境はより複雑化していきそうだ。
- 注1:
- 当該年の主な業務の売上高が2,000万元(約4億円、1元=約20円)以上の自動車製造業企業。
- 注2:
- 当該年の主な業務の売上高が2,000万元以上の工業企業。
- 注3:
- 中国自動車流通協会(CPCA)は、2010年7月から自動車ディーラーの在庫調査を定期的に実施している。各ブランドの自動車在庫状況と業界全体の総合在庫係数を算出している(在庫係数=期末在庫量 ÷ 当期販売量)。
「内巻」の行方
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- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中国北アジア課 課長
宗金 建志(むねかね けんじ) - 1999年、ジェトロ入構。調査部中国北アジア課、企画部企画課海外地域戦略班(北東アジア)、北京事務所などでの業務に従事。2025年12月から現職。




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