変容する中国NEV市場とその各国への影響中国EVの躍進と下流化政策への対応(インドネシア)

2026年2月2日

インドネシアの自動車市場では、中国系メーカーが攻勢をかけ、日系の2024年通年の販売シェアははじめて9割を下回り、2025年(9月末時点)はさらに落ち込んでいる。中国系では上汽通用五菱汽車が2017年に現地生産を開始したが、中国政府による国内EV(電気自動車)普及策の急加速と、中国国内市場の競争激化により、2024年以降、インドネシアでは中国メーカーによる進出が相次いでいる。インドネシア政府のニッケルを中心とした「下流化政策(サプライチェーンの川上から川下までにわたる高付加価値化を目指す政策)」により、BEV(バッテリー式EV)の国内生産とバッテリー製造が進んでいる。また、日系部品サプライヤーの中には、中国系との協業・連携を本格的に検討する動きもある。本稿では、インドネシアにおける中国系BEVメーカーの進出状況とインドネシア政府の政策を概観する。

市場構造の変容:中国勢躍進と日系シェアの低下

2021年から2025年9月までの自動車卸売販売台数の推移を見ると、新型コロナ禍の影響もあり2021年に88万7,000台まで落ち込んだ後、2022年には104万8,000台まで回復した。しかし、2023年には100万6,000台と再び減少し、2025年9月末時点の累計は56万2,000台にとどまっている(図1参照)。インドネシア自動車製造者協会(GAIKINDO)は2025年の販売目標を85万台としていたが、現状では80万台程度にとどまる見通しで、市場は伸び悩んでいる(2025年6月27日付地域・分析レポート参照)。

図1:インドネシア自動車卸売販売台数の推移(2021年~2025年9月)
2021年:1月 52,909、2月 49,202、3月 84,915、4月 78,908、5月 54,812、6月 72,720、7月 66,639、8月 83,319、9月 84,113、10月 75,555、11月 87,437、12月 96,673。2022年:1月 84,150、2月 80,995、3月 98,535、4月 82,731、5月 49,710、6月 78,909、7月 86,245、8月 96,956、9月 99,986、10月 93,194、11月 91,275、12月 105,354。2023年:1月 94,270、2月 87,059、3月 101,272、4月 58,981、5月 82,189、6月 82,656、7月 80,504、8月 88,928、9月 79,919、10月 80,350、11月 84,390、12月 85,284。2024年:1月 69,758、2月 70,772、3月 74,720、4月 48,764、5月 71,391、6月 74,615、7月 74,230、8月 76,302、9月 73,108、10月 77,404、11月 74,853、12月 79,806。2025年:1月 61,995、2月 72,356、3月 71,188、4月 52,369、5月 60,847、6月 58,338、7月 60,878、8月 61,777、9月 62,071。

出所:インドネシア自動車製造業者協会(GAIKINDO)

こうした中、自動車販売において、中国系メーカーの存在感が高まっている。2021年に95%だった日系シェアは、2025年1~9月には83.9%に低下する一方、中国系は3.4%から11.9%へと大きくシェアを伸ばしている(図2参照)。中国系の特徴は圧倒的にBEV比率が高く、2025年9月までの販売台数(約56万台)を燃料別に見ると、BEVが75.0%に達する。それに対して、日系はガソリン車が65.6%、ディーゼル車が25.6%となり、化石燃料車が91.2%を占める。

中国系をメーカー別に見ると、比亜迪(BYD)が2025年7月に小型車「ATTO1(中国販売名:海鴎、シーガル)」を1億9,500万ルピア(約179万円、1ルピア=約0.0092円)と、2億ルピアを下回る低価格で販売を開始し、注目を集めた。2024年8月投入の3列シート多目的車「M6」はタクシー最大手ブルーバードでも採用され、現地ニーズに合う車種投入が販売を押し上げている。

図2:国別自動車販売台数シェア(%)
2021年:日本 95.04、中国 3.39、韓国 0.68、ドイツ 0.83、その他 0.05。2022年:日本 92.50、中国 3.20、韓国 3.25、ドイツ 0.99、その他 0.06。2023年:日本 92.01、中国 3.09、韓国 3.67、ドイツ 1.10、その他 0.13。2024年:日本 89.55、中国 6.38、韓国 2.70、ドイツ 1.09、その他 0.28。2025年(1~9月):日本 83.88、中国 11.91、韓国 2.73、ドイツ 0.59、ベトナム 0.51、その他 0.38。

出所:GAIKINDO

一方、生産では、依然として日系の存在感が強い。2025年1~9月の総生産台数85万4,952台のうち、日系はシェアが88.9%(75万9,636台)であるのに対し、中国系は同4.1%(3万4,941台)にとどまる。また燃料別では、中国系は2024年以降、BEVの生産がガソリン車を上回る状況で推移している(表1参照)。

輸入では、中国勢の伸びが突出している。2025年1~9月の総輸入台数は前年同期比62.0%増、うち中国からは同3.1倍となった(表2参照)。BEV輸入が1万2,302台から4万3,986台へと急増したことから、中国系の輸入シェアは40.4%と日系の42.0%に迫っている。また、輸入BEVの増加が、国内のBEV販売拡大を下支えしている。こうした動きの背景には、後述する税制優遇に加え、現地生産を前提とした輸入税・奢侈(しゃし)税免除の枠組みがある。

表1:国別・燃料別生産台数と割合(単位:%)(ーは値なし)
国別/燃料別 2023年 2024年 2025年(1-9月) 割合
日本 1,274,665 1,070,925 759,636 88.9
階層レベル2の項目ガソリン車 1,028,310 855,562 571,509 75.2
階層レベル2の項目ディーゼル車 179,860 145,896 118,854 15.6
階層レベル2の項目HEV 66,495 69,357 69,273 9.1
階層レベル2の項目BEV 110
韓国 81,600 85,674 56,987 6.7
階層レベル2の項目ガソリン車 71,458 81,035 54,488 95.6
階層レベル2の項目BEV 7,560 3,865 500 0.9
階層レベル2の項目ディーゼル車 2,582 300 327 0.6
階層レベル2の項目HEV 474 1,672 2.9
中国 31,680 33,120 34,941 4.1
階層レベル2の項目ガソリン車 23,537 10,444 14,779 42.3
階層レベル2の項目BEV 7,758 21,886 15,206 43.5
階層レベル2の項目PHEV 4,563 13.1
階層レベル2の項目HEV 340 790 393 1.1
階層レベル2の項目ディーゼル車 45
その他の国 7,772 6,945 3,388 0.4
合計 1,395,717 1,196,664 854,952

出所:GAIKINDO

表2:国別・燃料輸入台数と伸び率(単位:%)(△はマイナス値、ーは値なし)
国別/燃料別 2024
1-9月
2025
1-9月
前年同期比
日本 48,111 47,695 △ 0.9
階層レベル2の項目ディーゼル車 22,079 29,302 32.7
階層レベル2の項目ガソリン車 19,227 14,008 △ 27.1
階層レベル2の項目ハイブリッド車(HEV) 6,744 4,175 △ 38.1
階層レベル2の項目プラグインハイブリッド車(PHEV) 54 81 50.0
階層レベル2の項目バッテリー式電気自動車(BEV) 6 129 2050.0
階層レベル2の項目燃料電池車 1 △ 100.0
中国 14,924 45,831 207.1
階層レベル2の項目バッテリー式電気自動車(BEV) 12,302 43,986 257.6
階層レベル2の項目ハイブリッド車(HEV) 1,118 429 △ 61.6
階層レベル2の項目ディーゼル車 693 941 35.8
階層レベル2の項目ガソリン車 811 475 △ 41.4
ベトナム 15,168 100.0
階層レベル2の項目バッテリー式電気自動車(BEV) 15,168 100.0
その他の国 7,017 4,759 △ 47.4
合計 70,052 113,453 62.0

出所:GAIKINDO

EV普及を加速する政策と課題

インドネシア政府は、BEVやハイブリッド自動車(HEV)などの販売奨励策を進めると同時に、BEVの国内生産を促すための政策を推進してきた。

2025年には、BEVやHEVの購入に係る税制優遇策を導入した(2025年2月26日付ビジネス短信参照)。国内で販売されるBEVに関し、一定の国内生産条件を満たす車両について、通常12%が賦課される付加価値税(VAT)のうち、政府は5~10ポイント分を負担する。10ポイント減税の対象は国産化率(TKDN)が40%以上の特定四輪と特定電動バス、5ポイント減税はTKDNが20%以上、40%未満の特定電動バスが対象である。卸売販売台数の低迷を受け、2025年にはHEVも優遇対象に加えた。

生産面では、2023年12月に、投資大臣規則2023年6号(インドネシア語)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(427KB)により、EVの完成車および部品の輸入に係る輸入税や奢侈税の免除が導入された。同規則は、遅くとも2026年1月1日までに商業生産の準備を完了し、2027年までに生産を開始することを条件とする(2024年1月15日付ビジネス短信参照)。ジャカルタ特別州では、州知事令2024年58号により、BEVは自動車所有税や名義変更料の免除対象で、ナンバープレートの奇数偶数規制(注)も適用除外としている。国営バッテリー公社インドネシア・バッテリー・コーポレーション(IBC)の担当者は、この適用除外が、富裕層のセカンドカー需要を喚起していると強調する。

一方で、これらのBEV優遇政策には、懐疑的な見方も出始めている。インドネシア大学経済社会研究所(LPEM)のリヤント研究員は、輸入優遇が国内生産の最適化を妨げるほか、現地生産車(国内で生産される低価格エコカー(LCGC)の要件を満たすガソリン車やHEV、PHEV)への優遇に比べて波及効果が小さいとして、国産化要求を満たすために早期から投資していた自動車OEM/部品メーカーとBEVを輸入するメーカーとの間で不公平が広がり、政策の矛盾が政府に対する信頼性に影響する、と指摘した(2025年8月26日付、「コンパス」)。これまで中国系メーカーは輸入優遇を活用してきたが、今後は国内生産を伴う展開が求められる。

中国系メーカーの「下流」投資動向

税制優遇と輸入免税の制度は、輸入販売から現地生産への移行を促す設計であり、中国系メーカーの投資を加速させている。投資大臣規則2023年6号は、2027年までの生産開始に加え、輸入した四輪BEVと同仕様の車両を国内で少なくとも同台数生産することを要件とする。2024年までに、上汽通用五菱汽車、東風小康汽車、奇瑞汽車(Chery)、賽力斯集団(セレス)、MG、哪吒汽車(NETA)がインドネシアで生産を開始し、2025年には、広汽埃安新能源汽車(AION)と浙江吉利控股集団(ジーリー)も加わった。BYDは、西ジャワ州スバン県に工場を建設中で、2026年初めの生産開始と年産15万台を掲げるが、日系自動車関係者からは工事の遅れを指摘する声もある(表3参照)。

表3:インドネシアにおけるBEVの現地生産開始時期(主なもの)(ーは値なし) 注:2025年11月時点。
メーカー 国名 生産開始時期 生産状況
現代自動車 韓国 2022年3月 生産開始済
上汽通用五菱汽車(SGMW) 中国 2022年8月 生産開始済
東風小康汽車(DFSK) 中国 2023年2月 生産開始済
奇瑞汽車(Chery) 中国 2023年12月 生産開始済
賽力斯集団(セレス) 中国 2023年12月 生産開始済
三菱自動車 日本 2023年12月 生産開始済
MG 中国 2024年2月 生産開始済
哪吒汽車(NETA) 中国 2024年5月 生産開始済
VKTRテクノロギ・モビリタス インドネシア 2025年1月 生産開始済
広汽埃安新能源汽車(AION) 中国 2025年6月 生産開始済
ポリトロン インドネシア 2025年6月 生産開始済
浙江吉利控股集団(ジーリー) 中国 2025年9月 生産開始済
トヨタ自動車 日本 生産開始予定(2025年12月)
ビンファスト ベトナム 生産開始予定(2025年第4四半期)
比亜迪(BYD) 中国 生産開始予定(2026年初め)
BMW ドイツ 現地生産検討中

注:2025年11月時点。
出所:各種報道からジェトロ作成

ニッケルを軸としたサプライチェーンの垂直統合

中国系企業の投資は完成車だけでなく、インドネシア政府が重視するニッケル資源を活用した電池サプライチェーン全体にも及ぶ。政府は2020年1月からニッケル鉱石の輸出を禁止し、国内での高付加価値化を強力に推進してきた。狙いは、製錬から材料、セル生産までを国内に集約し、完成車の生産拡大と結びつけることである。

その推進役となっているのが、国営バッテリー公社のIBCだ。IBCは2030年までのエコシステム構築を掲げ、中国系企業の資本と技術を積極的に呼び込んでいる。象徴的な動きとして、世界最大の車載電池メーカー、寧徳時代新能源科技(CATL)の傘下であるCBLや華友コバルトといった中国大手が、IBCとの連携の下、ニッケル採掘から電池セル生産、リサイクルまで包括的にプロジェクトを進行している。このように、中国系企業は完成車の販売・生産のみならず、政府が注力する電池生産、さらには上流の資源開発分野でも主要なプレーヤーとなりつつある。

サプライチェーン構築の課題

前述のとおり、川下から川上への投資は進むものの、電池材料や技術面では、インドネシア政府の政策意図と実際の市場ニーズとの間には乖離も見受けられる。

第1に、政府は自国のニッケル資源を使う三元系のNMC(ニッケルマンガンコバルト)を重視する一方、上汽通用五菱汽車やBYDなどが搭載する電池の多くは正極材にリン酸鉄リチウム(LFP)を用いる。LFPは一般に熱安定性が高くコストを抑えやすいため、低価格車の投入に欠かせない。国際エネルギー機関(IEA)によれば、2024年のLFPの世界シェアは50%で、中国市場では75%を占める。投資・下流化省担当官は、EV輸入優遇措置が2025年末に終了した後にNMCの使用を促すと述べ(2025年8月6日、「アンタラ」)、国営企業省(現・国営企業管理庁)のカルティカ・ウィルジョアトモジョ副大臣も2025年8月、「LFPからNMCへの移行を促す」意向を示した。しかし、正極材の選択は車両価格を大きく左右するため、政府がNMCの採用を過度に主張すれば、国産EVの価格競争力をそぐ結果になりかねない。

第2に、中国商務部および科学技術部は2025年7月、「輸出禁止・制限技術目録」を改正し、輸出制限技術として「電池正極材製造技術」を追加した(2025年7月22日付ビジネス短信参照)。インドネシアは現在、NMCを推進しているが、世界のメーカーはNMCとLFPの両面で開発を進めている。中国からのLFP調達や技術供与が不安定になれば、拠点としての魅力が相対的に低下し得る。

第3に、優遇措置の条件である国産化率(TKDN)40%の達成も大きな課題となる。BEVでは付加価値の30~40%を電池が占めるとされており、電池の国産化が達成のカギとなる。加えて、電池以外の部品に目を向けると、中国系メーカーは日系メーカーなどに比べて現地の自動車部品産業の集積との結びつきが弱い。今後、中国本土から部品サプライヤーを帯同させるのか、既に進出している他国系サプライヤー網に加わるのか、選択を迫られることになるだろう。

日系企業への示唆と協業の可能性

日系企業は、既存の生産・調達基盤という強みを生かしつつ、BEV領域での競争と協業の両面を前提に戦略を組み直す必要がある。在インドネシアの日系自動車部品メーカーの中には、中国企業との協力を模索する動きもある。一方、中国系メーカーはサプライヤーに対する支払い条件の長期化や大幅な値引き要請、短い開発リードタイムなどを背景に低価格を実現しているとされ、日系企業にとって対応は容易でない。現地部品メーカーからも、「極めて低い価格を提示されるため、取引には至らない」との声も聞かれる。また、中国系メーカーは、現地法人であっても意思決定権者が中国から派遣された駐在員であるケースが多く、商談において中国語を用いることが望ましい点も、日系企業が取引するうえでのハードルになっているとされる。ただし、日系企業の中には、上汽通用五菱汽車や複数の中国系メーカーなどに既に部品を納入したり、新たな取引を模索したりする企業もある。

インドネシアには、日系の自動車部品サプライヤーが多層的に集積しており、中国系メーカーが求める部材を供給できる可能性がある。また、BEVが現地生産で税制優遇を受けるための国産化率の基準は、2027年に60%に引き上げられる予定で、中国系メーカーによる現地化の取り組みは一層進むとみられる。日系企業には、インドネシア政府の政策のほか、中国系企業の進出状況を把握し、将来の協業あるいは競争に向けて、自社の強みを生かせる分野を特定することが求められる。


注:
ジャカルタ等の主要道で実施される「奇数偶数規制」は、車のナンバー末尾と日付の奇数・偶数が一致する車両のみ通行できる制度。平日の朝夕ラッシュ時に適用され、渋滞緩和や排ガス抑制を目的とする。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
大滝 泰史(おおたき やすふみ)
2014年、ジェトロ入構。総務部広報課、アムステルダム事務所、福井貿易情報センターを経て、2021~2023年に経済産業省通商政策局経済連携課に出向。CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)の英国加入プロセスなどの日本のEPA/FTA(経済連携協定/自由貿易協定)交渉および利活用促進のための業務に従事。その後、調査部国際経済課を経て、2023年12月からジャカルタ事務所で広域調査員として勤務。