変容する中国NEV市場とその各国への影響政府、業界団体の過当競争解消の取組本格化
「内巻」の行方(前編)

2025年12月16日

世界最大の中国自動車市場で、中国語で「内巻」と称される過酷な競争が繰り広げられており、業界団体や政府などが、過度な企業間競争で消耗戦となっている現状を問題視している。こうした中、中国自動車工業協会(CAAM)は、各社にコストを下回る価格で販売しないことなどを求めつつ、「自動車完成車メーカーによるサプライヤーへの代金支払いに関するガイドライン」を発表した。改正された中小企業代金支払保障条例や不正競争防止法も施行された。その他の取り組みも加速している。「内巻」の背景に消費マインドの低迷があることを踏まえ、販売促進の政策も継続している。連載の前編。

業界団体や政府が「内巻」解消へ号令

中国自動車市場で、「内巻」と称される過酷な競争が繰り広げられている。「内巻」は中国のネット流行語であり、過度な内部競争により、消耗戦に陥ることを指す。中国自動車工業協会(CAAM)は2025年5月31日、「公平な競争秩序の維持、産業の健全な発展を促進する提案」を発表した(2025年7月25日付地域・分析レポート参照)。各社は公平な競争の原則を順守し、コストを下回る価格で販売しないこと、優位企業はその優越的地位を乱用した他企業への干渉を避けることなどを盛り込んだ。自動車販売代理店の業界団体の中華全国工商業連合会汽車経銷商商会も6月3日、「『内巻』式競争に反対し、自動車販売代理業の質の高い発展を促進する提案」を発表した(2025年7月25日付地域・分析レポート参照)。頻繁に販売方針や製品価格を調整することは販売代理店の販売を困難にし、消費者のブランドイメージにも悪影響を及ぼすため、避けるべきだと呼び掛けるなどした。

自動車産業政策を司る工業情報化部は、2025年5月31日に公式アカウントで、CAAMの提案に賛同するとの同部責任者の発言を紹介していた。責任者は、自動車業界の「価格競争」が企業の正常な生産・経営に甚大な影響を及ぼし、健全で持続可能な業界の発展を脅かしていると指摘。産業構造を最適化しつつ、不正・不当な競争に対して法執行を行い、必要な監督措置をとるとした。なお、習近平国家主席が議長を務める中国共産党中央財経委員会の会議が7月1日に開催され、重点や課題に焦点を当て、法や規則にのっとって企業の低価格・無秩序競争を管理すべきと強調した。共産党・政府が、自動車産業を含めた「内巻」の解消に改めて力を入れて取り組むことを示した。

加速する政府の取り組み

高いレベルで号令がかけられたが、その前後から急拡大した市場の規範化を図る政府などの取り組みは一気に加速した(表1参照)。自動車業界に限ったものではないが、大局的な観点では、2025年6月1日、改正された中小企業代金支払保障条例が施行された。大企業から中小企業への支払いを納品から60日以内とすることなどを定めており、中国の主要完成車メーカー各社が相次いで支払期限を60日以内とする対応方針を表明した。7月24日には、価格法改正案への意見募集に関する公告を発表し、7月24日から8月23日まで意見募集を実施した。不当な価格行為として、影響力や業界の優位性を利用して、商品やサービスの強制的・抱き合わせ販売を行い、代金を徴収することなどを追加した。10月15日には、改正された不正競争防止法が施行された。第15条で大企業の優越的地位乱用の禁止を明文化しており、大企業が資金や技術、取引ルート、業界影響力などで優越的地位にあることを乱用し、中小企業に対して不合理な支払期限や、支払い方法、違約責任などの取引条件を強要することや、支払いを遅延させることなどを禁じている。

そして、国家発展改革委員会、国家市場監督管理総局は2025年10月9日に、「無秩序な価格競争の管理と健全な市場価格秩序の維持に関する公告」 を発表した(公告は9月28日付)。同公告では、価格競争問題が顕著な重点産業につき、業界団体などが、国家発展改革委員会などの指導の下、業界平均コストの調査・評価を実施し、事業者の合理的な価格設定の参考として提供できるとした。また、発展改革部門や市場監督管理部門は業界主管部門と連携し、無秩序な価格競争の疑いがある事業者には注意喚起を行い、価格競争の最低ラインを厳守するよう求めるともした。そして、注意喚起後も改善が見られない事業者に対しては、必要に応じてコスト調査・価格監督検査を実施し、価格に関する法令違反を発見した場合は、法に基づいて取り締まるとしている。

前述した改正版の中小企業代金支払保障条例施行を受けて、工業情報化部は2025年6月1日から、全国中小企業向け違約・代金支払遅延通報プラットフォームを開通した。さらに、7月9日には主要自動車企業による支払期限の約束履行に関する問題(建議)を申し立てるオンライン窓口を同プラットフォームに増設した。同窓口では、主要自動車企業が60日以内の支払期限の約束を履行しないといった、正当な理由なく検査証明や検収合格証明を出さずに支払期限を延ばしているケースなどについて、申し立てを受け付けている。

また工業情報化部など8部門は9月12日、「自動車産業の安定的成長に関する作業プラン(2025~2026年)」を発表し、自動車産業における競争秩序のさらなる規範化を図ることなどを掲げた。コスト調査、価格監視測定、製品生産の一貫性に対する監督・検査を強化するほか、主要自動車メーカーに対し支払約束の履行を促すとした。さらに前述のオンライン窓口を活用し、サプライヤーからのフィードバックを収集し、解決策を調整すること、業界団体による自動車メーカーサプライヤーへの支払規範策定を指導すること、虚偽の宣伝、商業誹謗(ひぼう)などの行為を法に基づき取り締まることなどにも取り組むとした。同プランでは、2025年の年間自動車販売台数を約3,230万台(前年比約3%増)、そのうち新エネルギー車の販売台数を約1,550万台(約20%増)との目標値を掲げた。中国自動車工業協会の許海東・副秘書長は2025年1月13日に、同年の自動車販売台数を前年比4.7%増の約3,290万台、新エネルギー車の販売台数を24.4%増の約1,600万台、自動車輸出台数を5.8%増の約620万台と予測していた。業界予測よりも抑制的な目標になったと注目を集めた。

なお、9月15日には、中国自動車工業協会が「自動車完成車メーカーによるサプライヤーへの代金支払いに関するガイドライン」を発表し、完成車企業とサプライヤー間の健全な取引関係を構築に向けて(1)注文確認、(2)納品・検収、(3)代金支払い・精算、(4)契約期間についてそれぞれ遵守すべき内容を定めた。例えば(2)において、納品後、完成車メーカーは速やかに検収を完了し(原則3営業日以内)、検収書を発行すべき、(3)において、支払い期日は検収完了日から最長60日以内、サプライヤーが中小企業である場合は全額現金または銀行引受手形による支払いを推奨するなどとしている。さらに(4)では、契約の有効期間を1年以上とし、長期的かつ安定的な協力関係を構築することを推奨するなどとしている。

表1:自動車産業の「内巻」解消に関連する政府などの取り組み
時期 政策 概要
2025年6月1日 改正された中小企業代金支払保障条例が施行 同条例では、大企業から中小企業への支払いを納品から60日以内とすることなどを定めている。中国の主要完成車メーカー各社が相次いで支払期限を60日以内とする対応方針を表明。
2025年7月9日 工業情報化部が主要自動車企業による支払期限の約束履行に関する問題(建議)を申し立てるオンライン窓口を開設 同窓口では、主要自動車企業が60日以内の支払期限の約束を履行しないといった、正当な理由なく検査証明や検収合格証明を出さずに支払期限を延ばしているケースなどについて、申し立てを受け付けている。同部は関係部門と協調してその解決に取り組むとした。また、今後は業界団体を指導して自動車業界の決済・支払いに関する規範を研究・策定、モデル契約を推進し、自動車企業のサプライヤーに対する支払いプロセスをさらに標準化していくと表明。
2025年7月24日 価格法改正案への意見募集に関する公告を発表 意見募集を7月24日から8月23日まで実施。改正案では、事業者の営業場所またはその他の関連場所に立ち入り検査を認めているほか、不当な価格行為として、影響力や業界の優位性などを利用して、商品やサービスの強制的・抱き合わせ販売を行い、代金を徴収することなどを追加。
2025年9月10日 工業情報化部など6部門が「自動車業界のネット上の不正行為に対する特別是正行動の実施に関する通知」を公布 3カ月間にわたって、全国規模で自動車業界のネット不正是正行動を実施するもの。不法な利益追求、誇張および虚偽宣伝、悪意ある中傷・攻撃を取り締まる。
2025年9月12日 工業情報化部など8部門が「自動車産業の安定的成長に関する作業プラン(2025~2026年)」を発表 同プランでは、(1)国内消費を着実に拡大する、(2)質の高い製品の供給促進、(3)自動車産業に対応したインフラ設備や政策・制度の整備、(4)国際化、対外開放レベルの向上、の4つの項目で具体的な取り組みが示されている。2025年の年間自動車販売台数を約3,230万台(前年比約3%増)、そのうち新エネルギー車の販売台数を約1,550万台(約20%増)との目標値を掲げた。
2025年9月15日 中国自動車工業協会が、「自動車完成車メーカーによるサプライヤーへの代金支払いに関するガイドライン」を発表 同ガイドラインは、完成車企業とサプライヤー間の健全な取引関係を構築し、「中小企業支払い保障条例」の着実な履行を図ることを目的に制定された。(1)注文確認、(2)納品・検収、(3)代金支払い、(4)契約期間についてそれぞれ遵守すべき内容を定めた。
2025年9月26日 商務部など4部門が、「電気自動車乗用車への輸出許可証管理の実施」を発表 「駆動用電動機のみを搭載し車両識別コード(VINコード)を有する乗用車」(参考とする中国のHSコード8703801090)の輸出に関し、2026年1月1日から輸出許可管理を実施することを定めた。
2025年10月9日 国家発展改革委員会、国家市場監督管理総局が、「無秩序な価格競争の管理と健全な市場価格秩序の維持に関する公告」 を発表 同公告では、価格競争問題が顕著な重点産業につき、業界団体などが、国家発展改革委員会、国家市場監督管理総局、業界主管部門の指導の下、業界平均コストの調査・評価を実施し、事業者の合理的な価格設定の参考として提供できるとした。また、発展改革部門や市場監督管理部門は業界主管部門と連携し、無秩序な価格競争の疑いがある事業者には注意喚起を行い、価格競争の最低ラインを厳守するよう求める。注意喚起後も改善が見られない事業者に対しては、必要に応じてコスト調査・価格監督検査を実施し、価格に関する法令違反を発見した場合は、法に基づいて取り締まる。
2025年10月15日 改正された不正競争防止法が施行 第15条で大企業の優越的地位乱用の禁止を明文化。大企業が資金や技術、取引ルート、業界影響力などで優越的地位にあることを乱用し、中小企業に対して不合理な支払期限や、支払い方法、違約責任などの取引条件を強要することや、支払いを遅延させることなどを禁じている。

出所:中国政府発表、中国自動車工業協会発表などを基にジェトロ作成

注目される自動車買い替え補助金の行方

そして、中国政府は「内巻」の背景に、国民の消費マインドの低迷があると考えており、販売促進の政策も継続している。ちなみに、中国の社会消費品小売総額は2024年に前年比3.5%増、2025年1~10月は前年同期比4.3%増と力強さを欠いている。中国人民銀行の2025年第3四半期の都市部預金者(2万世帯)向けアンケートでは、「より貯蓄する」の回答が62.3%と高止まりする一方で、「より消費する」が19.2%となっている(「より投資する」は18.5%)。

商務部、財政部など7部門は2024年4月26日、「自動車買い替え補助金実施細則」を公表し、2024年12月31日までに条件を満たす自動車の買い替えを行った個人消費者は、最大1万元の補助金を受給可能とした(表2参照)。

自動車排ガス基準「国3」以下の燃料式乗用車(注1)または2018年4月30日以前に登録された新エネルギー乗用車を廃棄し、かつ工業情報化部の「車両取得税を減免する新エネルギー車車種リスト」に記載されている新エネルギー乗用車、または排気量2.0リットル以下の燃料式乗用車を新たに購入する場合に支給対象となるとした。そのうち、上記2種類のいずれかの旧車を廃棄して新エネルギー乗用車を購入する場合には1万元が、「国3」以下の燃料式乗用車を廃棄して排気量2.0リットル以下の燃料式乗用車を購入する場合には7,000元が補助されるとした。

なお、2024年7月25日から、新エネルギー乗用車を購入する場合は従来の1万元から2万元に、排気量2.0リットル以下の燃料式乗用車を購入する場合は従来の7,000元から1万5,000元に補助金額が引き上げられた。

そして、2025年1月17日、商務部など8つの部門は、「商務部など8部門による2025年の自動車買い替え促進事業に関する通知」を発表し(文書は1月14日付)、条件に合致する「国4」排出基準の乗用車を廃棄対象に追加しつつ(注2)、2025年も引き続き補助金を支給することとした。また、個人消費者が保有する乗用車を譲渡して乗用車の新車を購入する場合、全国統一で、新エネルギー乗用車に対して最大1万5,000元、燃料式乗用車に対して最大1万3,000元の補助金支給とすることを決めた(注3)。

表2:発表毎の自動車買い替え補助金支給額の推移
項目 新規購入 2024年4月発表 2024年7月発表 2025年1月発表
廃棄して買い替え 新エネルギー乗用車 1万元 2万元 2万元
排気量2.0リットル以下の燃料式乗用車 7,000元 1万5,000元 1万5,000元
譲渡して買い替え 新エネルギー乗用車 各地がプランを策定(合理的な補助金基準をそれぞれ設定) 最大1万5,000元
燃料式乗用車 各地がプランを策定(合理的な補助金基準をそれぞれ設定) 最大1万3,000元

出所:中国政府発表などを基にジェトロ作成

自動車情報サイトの汽車之家が、2025年8月25日に公表した推計によると、2024年7月に乗用車購入者の24.4%が補助金を申請。補助金額引き上げ発表直後の同年8月には37.6%となり、その後上昇を続け、駆け込み需要とみられるが同年12月には81.2%となった。2025年1~3月は36.1%と一旦低下したものの、再び上昇が続き(4月が61.2%、5月が62.8%)、2025年6月では82.9%となっており、乗用車購入において補助金の果たしている役割は大きそうだ。国家統計局は9月10日までに、今年の補助金申請が830万件を突破したことを明らかにした。2026年以降どうなるかは現時点(2025年12月8日)では発表がない。

また、中国では10%の車両取得税が課されているが、新エネ車に対しては2014年から免税措置を実施しており、2025年末まで継続されている。その後、2026年から2027年までに購入された新エネ車に対して、1台当たり1万5,000元を上限に(2024~2025年は3万元)、車両取得税の50%を減税する予定だ。

車両取得税の優遇措置が縮小する中、2026年以降に買い替え補助金が継続されない場合には、ともに自動車購入マインドの下押し要因となる。


注1:
本細則でいう乗用車とは、公安交通管理部門に登記された小型および超小型乗用車を指す。自動車排ガス基準「国3」以下の乗用車とは、2011年6月30日以前に登記されたガソリン乗用車、2013年6月30日以前に登記されたディーゼル乗用車およびその他の燃料式乗用車を指す。燃料式乗用車とはガソリン車のほか、ディーゼルオイル、混合オイル、天然ガス、液化石油ガス、メタノール、エタノール、水素、バイオ燃料などを燃料とする乗用車を指す。
注2:
対象が、2012年6月30日以前に登記されたガソリン乗用車、2014年6月30日以前に登記されたディーゼル乗用車およびその他の燃料式乗用車へと拡大した。
注3:
2024年も、個人消費者が保有する乗用車を譲渡して乗用車の新車を購入する場合は補助金を支給していたが、各地方に支給基準設定が委ねられていた。

「内巻」の行方

執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課 課長
宗金 建志(むねかね けんじ)
1999年、ジェトロ入構。調査部中国北アジア課、企画部企画課海外地域戦略班(北東アジア)、北京事務所などでの業務に従事。2025年12月から現職。