変容する中国NEV市場とその各国への影響政府歓迎も、懸念含み
中国のEV関連投資がハンガリーに集中(前編)
2026年1月9日
電気自動車(EV)やバッテリーを製造する中国企業にとって、ハンガリーは欧州で主要な戦略的拠点になっている。2026年中に、中国EV関連企業による大型投資案件が稼働予定だ。こうした投資はハンガリー経済に大きく貢献するだろう。
一方で、現地の環境保護や労務、EUが講じる対中投資規制などの面から、懸念材料も浮上してきた。
中国のEV関連投資がハンガリーに集中
Rhodium Group(米国の経済調査機関)とMercator Institute for China Studies(MERICS/中国を専門に扱うドイツの研究機関)は2025年5月、「Chinese investment rebounds despite growing frictions - Chinese FDI in Europe: 2024 Update
」と題するレポートを発表した。
このレポートによると、ハンガリーは2024年、中国からの直接投資(FDI)受け入れで欧州最大になった。欧州で首位になるのは、2年連続だ。
特にEV関連プロジェクトでは、欧州全体の62%がハンガリーに集中している。前年の57%からさらに増加したかたちだ。中国が欧州で進めている主要投資10件のうち、4つがハンガリー案件だ。
中国受け入れにハンガリー政府は積極姿勢
これに対し、受け入れるハンガリー政府も積極的だ。EUには中国のEVメーカーに競争的な姿勢を示す国もあることからすると、異例とも言える。そうした姿勢を採るのは、自動車産業の電動化を将来の経済成長のカギと位置付けているからだ。その上で、自動車のEV移行を加速する戦略を進めている。そのため、当地では中国を戦略的パートナーと認識。今後も欧州で、中国の投資最重要拠点であり続けることを目指している。
政府は、中国メーカーとハンガリーのサプライヤーとの連携強化にも取り組んでいる。ハンガリー投資促進庁(HIPA)は2024年10月、中国のEV大手・比亜迪(BYD)向けサプライヤーフォーラムを首都ブダペストで開催。100社以上の地元企業が参加した。シーヤールトー・ペーテル外務貿易相は同フォーラムでの講演で、「EVのエコシステムで、最も競争力のある欧州製品を製造することを目指す」と述べた。
さらに、EVの普及促進にも取り組んでいる。2024年2月には、EV購入補助金制度を開始(2024年1月16日付ビジネス短信参照)。中国製EVが国内で普及する後押しにつながった。この補助金の対象は企業と個人事業主で、返済不要。当初は2025年3月末までの予定だったものの、予算を増額して2025年12月1日まで延長した。
2025年には、両国間の協力関係がさらに強まった。ナジ・マールトン国家経済相は2025年6月、北京で中国工業情報化部と「中国-ハンガリー自動車産業協力作業部会」の立ち上げに関する覚書に署名。この覚書には、主にEV充電インフラの整備や自動運転技術などを盛り込んだ。
環境的・社会的には懸念材料も
一方で、専門家や現地社会には、懸念の声もある。
ブダペスト・コルヴィヌス大学のスノマール・アーグネッシュ准教授(専門は中国研究)は、オックスフォードエネルギー研究所が2025年4月に発表した寄稿論文集
(1.94MB)の中で、「短期的には、中国製バッテリーがEUの気候変動目標達成やハンガリーの雇用創出、自動車産業の転換に貢献する可能性がある。しかし、長期的には環境負荷や社会的緊張、経済的課題をもたらすリスクもある」と指摘している。
また、政府と中国EV関連メーカーとの緊密な連携をよそに、大規模投資に対する地域住民の反応は一様でない。特に環境負荷に関する懸念は大きい、電力・水の大量消費や廃棄物処理の課題に指摘がある。例えば、次のような例が見られた。
- デブレツェン(ハンガリーの東部に所在):
当地に立地する寧徳時代新能源科技(CATL/中国の車載電池大手)の工場では2023年春、環境保護団体や市民団体が環境許可に異議を申し立てた。この件は、今も未解決のままだ。
これに対してCATLは、2025年8月に3度目の許可変更申請を提出。新技術を導入して用水使用量や排出量の削減を図っている。 - ソルノク(同じく東部):
香河崑崙新能源材料(KunLunChem/中国の化学品メーカー)は当地で、電解質生産工場を計画中だ。この計画にも住民抗議行動が複数、発生した。
労働市場でも、中国や他アジア諸国からの労働者受け入れや職場環境の変化が、緊張を生んでいる。政府の示す政治的レトリック(注)が矛盾していることが露呈したかたちだ。
例えば、現地メディア「telex」は2025年7月、CATLが既述のデブレツェン工場で大量解雇(150~200人規模)に踏み切ったと報じた(2025年7月3日付)。もっとも、当の企業に加え、政府もこれを否定。CATLは、「従業員数は800人超。2025年後半も、雇用増が続く見込み」と説明している。
なお、CATLのハンガリー現地法人(Contemporary Amperex Technology Hungary Kft)のマネージングディレクターであるシェン・フェン氏は、この件で「index」(現地ニュースポータルサイト)のインタビューに対応。その中で、(1)工場立ち上げ期間中には、中国人技術者の比率が最大で30%に上った、(2)しかし量産開始後は、10%未満に抑える予定、(3)これは、CATLがドイツに設置した既存工場にならっている、と語った(2025年8月4日付)。
欧州委が中国の投資に監視強化
さらにEUが、中国からの投資に厳しい目を向けるようになった。欧州委員会(欧州委)は、中国によるグリーンフィールド投資に監視を強化している。例えば2023年7月、「外国補助金規則(FSR)」(2023年7月13日付ビジネス短信参照)を施行済みだ。このFSKに基づき、欧州委は2025年3月、BYDのセゲド工場(ハンガリー南部に立地)建設について調査を開始した。同規則施行以降、初の本格的執行事例になる。
調査では、建設にあたって中国政府から不当な補助金がなかったかが焦点になる。ハンガリー政府は、この建設を支援していた。仮に欧州委が、「不当な」中国政府の補助金があったと認定すると、生産能力の制限、補助金の返還、罰金などの措置に至る可能性がある。
現地メディア「telex」(2025年3月20日付)によると、ハンガリー政府は、欧州委の調査について「懸念はない」と表明。中国政府から不当な補助金を受けていないこと(すなわち、ハンガリー政府がBYDを支援する妥当性)は工場建設前に精査済み、とした。
当該調査は、なおも進行中だ。その結果は今後、EU域外からの大型投資案件に対する欧州委の評価や規制に影響を与える可能性がある。
- 注:
- 国外からの移民についてハンガリー政府は、反対姿勢を示している。しかし実際には、対内直接投資に伴う外国人雇用の増加により、労働面でも外国依存が高まってきた。
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- 執筆者紹介
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ジェトロ・ブダペスト事務所
バラジ・ラウラ - 2000年よりジェトロ・ブダペスト事務所に勤務、ハンガリー国内の市場調査を担当。英語、数学の修士号のほか、日本語検定1級、経済貿易大学の学士を有する。




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