変容する中国NEV市場とその各国への影響中国EVメーカー、シェア下落も見本市で積極アピール(ドイツ)

2025年12月4日

ドイツでは、2025年の乗用車販売でバッテリー式電気自動車(BEV)の新規登録台数が前年比で大きく伸びている一方、中国メーカーは全体的にシェアを落とした。そんな中、ドイツ随一のモビリティー見本市に中国乗用車メーカーが多数出展し、一般市民にも積極的に新型モデルをアピールした。中国の部品サプライヤーの中には欧州に進出し、現地でのサプライチェーン構築を図る企業もある。

フリードリヒ・メルツ首相は見本市開会式で、「ドイツの自動車産業にとって、中国は世界市場で競合相手になっている」「技術力で勝負できるよう、政府としてイノベーションと競争力強化を後押しする」と言及した。

2025年に入って、BEVが大幅増

ドイツの2025年の乗用車新規登録台数は、8月末時点で前年同期比1.7%減(187万4,820台)にとどまっている(表1参照)。ガソリン車とディーゼル車が合わせて23.4%減(80万6,034台)と、大きく減少した。しかし、その分をBEVとハイブリッド車が補うかたちになった。特にBEVは、新規登録台数が39.2%増(33万6,707台)と大幅増になった。

表1:ドイツ乗用車市場の新規登録台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2024年1~8月 2025年1~8月 伸び率
ガソリン車 703,990 526,904 △ 25.2
ディーゼル車 348,433 279,130 △ 19.9
バッテリー式電気自動車(BEV) 241,911 336,707 39.2
ハイブリッド車 602,729 723,818 20.1
階層レベル2の項目うち、プラグインハイブリッド 117,925 190,075 61.2
その他 10,163 8,261 △ 18.7
合 計 1,907,226 1,874,820 △ 1.7

出所:ドイツ連邦自動車局(KBA)

ドイツ政府は2023年末、BEVをはじめとする低排出車の一般消費者向け購入助成制度を突如終了した(2023年12月25日付ビジネス短信参照)。これを受け2024年は、BEVの新規登録台数が前年比27.4%減と大幅に減少していた(2025年1月14日付ビジネス短信参照)。2025年は、対照的な状況になっている。

2025年になりBEVの販売が伸びている主な理由として、(1) EUによる新車の乗用車・小型商用車の二酸化炭素排出基準に係る規則(2025年4月7日付ビジネス短信参照)順守のため、自動車メーカーが手頃な価格のモデルを市場投入していること、(2)充電設備数が増えていること、(3)走行距離の伸びや充電時間短縮など、BEVの性能が向上していること、などが挙げられている。

ドイツBEV市場における中国メーカーの存在感は限定的

ドイツ連邦自動車局(KBA)の統計で2025年1~8月のドイツにおけるBEV新規登録台数(表2参照)を見ると、上位はほぼ欧州メーカーが占める。中国メーカーとしては、比亜迪(BYD)が17位で最上位だ。BEVの販売実績が確認できる中国完成車メーカーは9社で、9社合計のシェアは5.3%だ。2024年1~8月は、7社でシェア6.7%だった。

前年同期比で、新規登録台数全体では増加しているが、中国完成車メーカーのシェアは減ったことがわかる。BYDや零跑汽車(Leapmotor)など、大きく販売を伸ばした企業もあるが、当地BEV市場で中国メーカー全体の参入はまだ限定的といえる。

表2:メーカー別(上位および中国)ドイツBEV市場の新規登録台数(単位:台、%)(△はマイナス値、ーは値なし)
順位 メーカー 2024年1~8月 2025年1~8月 伸び率
1 フォルクスワーゲン 36,126 68,004 88.2
2 BMW 25,959 31,634 21.9
3 シュコダ 13,196 30,265 129.3
4 アウディ 15,210 25,803 69.6
5 セアト 9,586 20,802 117.0
17 比亜迪(BYD) 1,586 5,809 266.3
18 栄威(MG ROEWE) 12,823 5,733 △ 55.3
22 零跑汽車(Leapmotor) 3,083
27 小鵬汽車(Xpeng) 80 1,614 1917.5
28 長城汽車(GMW) 1,248 1,382 10.7
34 上海蔚来汽車(NIO) 301 191 △ 36.5
41 上汽大通汽車(Maxus) 48 80 66.7
46 領克(Lynk&Co) 24
48 奇瑞汽車(Chery) 11
54 愛馳汽車(Aiways) 27
合計 241,911 336,707 39.2

出所:ドイツ連邦自動車局(KBA)

モビリティー見本市に中国自動車メーカーが多数出展

ミュンヘンで2025年9月9~14日、国際モビリティー見本市「IAAモビリティー2025」(以下、IAA)が開催された(2025年9月17日付ビジネス短信参照)。IAAは、フランクフルト国際モーターショーの流れをくむ一大プラットフォームになっている。自動車メーカーや部品メーカーが新型モデルや新技術をビジネス客向けに展示会場で披露するほか、街中の「オープンスペース」で乗用車を一般市民向けにも披露する。

IAAの開会式には、フリードリヒ・メルツ首相が登壇。スピーチの中で、ドイツ自動車産業連合会(VDA)ヒルデガルド・ミュラー会長の「ドイツ自動産業は世界市場で競争にさらされている」「競争はBEVに限らない」「特に中国企業や米国企業と、競争が激化している」との発言に言及。「ドイツは市場閉鎖や規制ではなく、イノベーション、品質、ドイツ国内での持続可能な製造によってこの競争に対抗し、ドイツ政府としてこれを支援していく」と述べた。自動車立国ドイツにとって、中国の自動車産業は世界各国で競争相手になっているという認識を示した。

今回のIAAには、37カ国から約750社が出展した。中国企業は、ドイツ以外で最大となる116社が出展した。地元メディアも、その規模の大きさを報じた。個々の展示ブースこそドイツ大手メーカーに比べると小ぶりだったものの、IAAで中国企業の存在感は大きかった。各社とも積極的に新製品をアピールした。独自ブースで出展した中国自動車メーカー・ブランドは、(1)阿維塔(AVATR)、(2) BYD、(3)長安汽車(Changan)、(3)紅旗(Honqi)、(4) Leapmotor、(5)小鵬汽車(Xpeng)、(6)広州汽車集団(GAC)、(7)東風汽車(Dongfeng)、(8)問界(AITO)、(9)領途汽車(Linktour)、(10)奇瑞汽車(Chery)。このうち多くは、ミュンヘン市中心部のオープンスペースに新モデルを展示。BYDやXpengは、一般来場者に試乗機会を提供した。

Linktourは、街乗り用コンパクトカーを展開する。同社にとっては、今回のIAAが欧州で初めて出展する見本市だ。早期に量産を開始し、年内にイタリアとスペインで市場参入すべく調整している。欧州では、ドイツよりも南欧の方が町の道が細く入り組んでいることが多いため、コンパクトカー(EV)の需要が高いとみているという。


Linktourのコンパクトカー(ジェトロ撮影)

Changanは、2024年9月に欧州市場進出を発表。2025年3月に欧州本社をミュンヘンに設置した。ドイツでは、2025年秋から、傘下のEVブランド「Deepal」のミドルクラスの2モデルを販売開始する。それぞれ、3万8,990ユーロからと、4万4,990ユーロからの価格帯にする予定と説明した。


ドイツで販売予定のDeepal S07モデル(ジェトロ撮影)

AITOは、華為技術(Huawei/通信機器)と賽力斯集団(Seres/自動車メーカー)による電気自動車(EV)ブランドだ。今回のIAAではハイエンドの高級モデルを展示した。展示した3モデルはSeresにとって初の国外展開になる中東市場向けで、今回のIAAで初公開した。同社によると、まずアラブ首長国連邦(UAE)に進出、欧州市場については現状、具体的な計画はないが、IAAはブランドを欧州で認知してもらうために出展したという。

Dongfengは、IAA会場内で開催された中国メーカーによるパネルディスカッションに参加した。3年前に欧州市場に進出し、フランクフルトを拠点に欧州全域をカバーし、乗用車と商用車のシリーズを展開している。同社は欧州市場戦略として、投入モデルを増やし、顧客からフィードバックを受けるマーケティングを重視している。投入モデルの数は、3年前の3モデルから現在では15モデルになり、欧州で人気のあるMPV(多目的車)モデルを軸に展開していることをパネルディスカッションで説明した。


MPV中心の東風汽車のブース(ジェトロ撮影)

中国の自動車部品メーカーも欧州市場で積極展開

深セン市卓馭科技(Zhuoyu Technology)は、先進運転支援システム(ADAS)に関するハードウェアやソフトウェアなどを製造する。欧州で見本市に出展したのは、今回が初めてだ。中国国内では、既に多くの自動車メーカーを顧客として抱えている。今般、中国国内のフォルクスワーゲン(VW)合弁会社から、車載ソフトウェア開発プロセス標準(A-SPICE)を取得した。VWグループの地元である欧州でビジネスを展開していくべく、今後の足掛かりとしてIAAに出展したという。

徳賽西威(Desay SV)は、スマートコックピットや統合型運転支援など、モビリティーテクノロジーを提供する。2012年にドイツに進出し、製造拠点を構えている。2025年7月にはVWグループからコスト分野で特に優れたサプライヤーとして表彰を受けた。2024年にスペインで新規工場建設に着手、2025年中に完成予定という。同社は「in Europe with Europe」をモットーに、現地のエコシステムに入り込み、現地でサプライチェーンを構築することを優先している。また、Desay SVとNTTデータはIAA会期中(9月11日)、ドイツ語圏(ドイツ、オーストリア、スイス)でソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)技術(注)に関して連携していくと発表した。両社の技術を持ち寄って、車両からクラウド、モバイルアプリまでを完全デジタル空間でつなげたSDVの次世代プラットフォームを創造する。自動車メーカーがデータを管理しながらドライバーにデジタルサービスを提供できるようにすることを目指す。

中国メーカーは、コンパクトカーから高級車まで幅広いラインアップのBEVやハイブリッドカーをドイツで展開しており、ドイツにデザインや技術の開発拠点を構えるメーカーも複数ある。それでもドイツのBEV市場で中国メーカーのシェアが限定的な要因を指摘する声がある。市場参入して間もなく販売網やサービス拠点を十分に築けていないこと、ドイツではお気に入りのブランドに長く乗るドライバーが多いこと、ドイツ車に比べると安全性への懸念を払拭できていないことなどだ。

ドイツのBEV市場への中国メーカーの進出自体には、目新しさがなくなってきている。その中で、中国メーカーがドイツ市場で販売を増やしていくためには、話題性や価格以外にも販売・サービス網の拡充、ドイツメーカーにはない強みをどう訴えていくかが鍵になりそうだ。


注:
SDVは、Software-Defined Vehiclesの略。自動車の機能や性能をソフトウェアで定義することで、販売後もソフトウェアの更新によって自動車の機能を増やしたり、性能を高めたりできる。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課 課長代理
鷲澤 純(わしざわ じゅん)
1998年、ジェトロ入構。ジェトロ大分(2000~2004年)、市場開拓部(2004~2006年)、ジェトロ・ウィーン事務所(2010~2015年)などを経て現職。