変容する中国NEV市場とその各国への影響個別案件の動きを追う
中国のEV関連投資がハンガリーに集中(後編)
2026年1月9日
電気自動車(EV)に関連する中国企業の投資は、ハンガリーに集中している。
連載後編の本稿では、EVやバッテリーを製造する中国系企業のプロジェクトがどう動いているのかを探る。また、新規発表のあった中国案件や中国EVの販売動向などについても、報告する。
発表済み重要案件の進捗は
2024年12月17日付の地域・分析レポートでは、EVに関連する中国企業の動きを読むため、2024年秋時点での情報に基づき、特に目立った当地進出例を取り上げた。そこで紹介した案件に関して、現時点までの動きを追うと、次のとおりだ。
比亜迪(BYD)
BYDは、ハンガリーで複数の戦略的投資を進めている。いずれも、欧州展開の上で中核と位置付けている。
まず、セゲド市(ハンガリー南部)に、工場を建設中だ。40億ユーロ規模の投資で、同社のEV乗用車工場として欧州初になる。敷地面積も、300ヘクタールに及ぶ。
この大規模工場は当初、2025年末に稼働できる予定だった。しかし現地報道によると、量産開始は2026年第2四半期(4月~6月)になる見込みだ(2025年12月10日付「Hungary Today」紙)。最初の量産モデルは「ドルフィン・サーフ」で、初年度は年産15万台。将来的に、同30万台の生産を目指す。販売市場としては、欧州全体を視野に入れる。この工場では、バッテリー製造を想定しない。車両組み立て工場を先に立ち上げ、後にプレス工程と塗装工程を導入する計画だ。
セゲト市のボトカ・ラースロー市長によると、工場建設にあたり中国人労働者が数千人従事する。また、長期的に雇用を予定する従業員1万人のうち、20%が技術者になる見込みだ。当市内で職業訓練や工学を学んでいる若者に加えて、セルビアのボイボディナ地方(ハンガリー国境付近)の労働者も活用する予定という。
また同社は2025年5月、首都ブダペストに欧州統括本部と研究開発拠点を設置すると発表した。高技能者雇用を2,000人規模で創出。欧州市場向けモデルの設計・開発や自動運転支援・次世代電動化技術の研究開発を担う。具体的には、ハンガリーの大学やスタートアップと連携。総額2億5,000万ユーロ相当を投じて大型研究開発(R&D)プロジェクトを2件、立ち上げる。1つは、人工知能(AI)による自動運転システム開発。もう1つは、EVのパワートレイン性能とエネルギー効率の向上だ。
さらに2025年6月、コマーロム市(ハンガリー北部)に立地する既存工場の拡張を発表した。現時点での電動バス製造に加え、電動トラックの生産を開始する。試験ラボを含めて、投資規模は7,570万ユーロ。バス・トラック合わせて、年間1,250台の生産が可能になる。
BYDがハンガリーで進めるEV展開は、柔軟な市場対応を軸にする戦略に基づく。バッテリー式電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)を並行生産する想定になっている。
寧徳時代新能源科技(CATL)
CATLは、デブレツェン(ハンガリー東部)にEV用バッテリーの工場を建設することにしている。この件は、ハンガリー最大の産業プロジェクトだ。しかし、直近1年間の動きで、実施スケジュールの不確実性が浮き彫りになった。
投資規模は、総額73億4,000万ユーロに上る。3段階で実施する予定で、年間100ギガワット時(GWh)の生産能力を目指す。自動車大手のBMW、フォルクスワーゲン、ステランティス向けに、車載バッテリーを供給する見込みだ。
CATLが2025年7月に公表した財務報告書によると、第1段階は計画どおり進行中。生産能力や受注見通しも、変更ない。2025年10月末の発表では、試作生産開始は2025年末の予定で、量産開始が2026年初頭になる見込みだった。しかし、2025年12月初旬の現地報道によると、2026年3月~4月にずれ込む(2025年12月3日付 Daily News Hungary)。当初は、三元系リチウムイオンバッテリーだけを生産する計画だった。ただし、変動する原材料価格や不安定なEV需要に柔軟に対応するため、低コストのリン酸鉄リチウムイオン(LFP)バッテリーや新興のナトリウムイオンバッテリーを併せて生産する計画に変更した。
しかし、第2段階以降は計画が不順だ。工場建設自体を2025年夏以降、中断している。現地メディア「hvg」は、工場操業に必要な環境許可に関する訴訟やEV需要減少も影響している可能性があると報じている(2025年7月14日付)。
EVEエナジー(恵州億緯鋰能)
EVEエナジーは、デブレツェン市(既述)で、車載バッテリー工場の建設を進めている。BMWのEV工場(2025年秋、同市内で開所)向けの主要サプライヤーになる見込みだ。
工場を操業するための環境許可は2025年1月に当局から取得したことで、排水の産業再利用が可能になる。それにより、製造プロセスでの用水使用量を最小限に抑え、飲料水の枯渇リスクを低減できる。
同社の計画上、2026年中に工場(年間約30GWhの生産能力)が完成。1,000人以上の新規雇用を創出する。
また同社は2024年11月、デブレツェン大学および中国・武漢大学と協定を締結。産学連携した人材育成と研究開発を推進している。
サンオーダ(欣旺達電子)
サンオーダは2023年7月、ニーレジハーザ市(ハンガリー北東部)に車載バッテリー工場を建設すると発表した。同社にとって、欧州初の工場になる。
投資規模は、14億3,000万ユーロに及ぶ。このプロジェクトに対しては、ハンガリー政府が2億6,400万ユーロの支援(現金補助および税額控除)を講じている。その件に関して、欧州委員会は2025年8月、EUの国家補助規則に適合しているとして承認した。
当該プロジェクトでは、EV用リチウムイオンバッテリーセルを製造する。直接雇用を2,500人以上、関連産業での雇用創出を470人以上、見込んでいる。
セムコープ(Semcorp)
セムコープは2021年、デブレツェン(既述)でリチウムイオンバッテリー用セパレーターフィルム工場建設に着工。650億フォリント(約306億円、1フォリント=約0.47円)を投じた。この投資に、ハンガリー政府は135億フォリントの支援を提供している。
今後の需要動向によっては、生産拠点拡張を検討する構えだ。また、用水使用量削減のための技術開発も進めている。
ただし、2025年6月にデブレツェン工場の試運転を開始して以降、環境当局が同工場の操業停止を命じた。排水の排出基準を超過したのが、その理由。その余波で、今後の工場拡張に対して環境面から懸念が浮上している。
なおも新規投資の発表が相次ぐ
中国のEV関連事業者は2025年に入ってからも、当地で新規投資プロジェクトを相次いで発表している(表参照)。
| 企業名 | 所在地 | 製品 | 投資額 |
雇用 創出数 |
発表 時期 |
備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 信質集団(Xinzhi) | ハトヴァン | EV用モーター部品 | 500億フォリント | 900人 | 2025年1月 | 製造にあわせて、研究開発(R&D)活動を開始する予定(そのために、技術者30人を擁する)。 |
| 香河崑崙新能源材料(KunlunChem) | ソルノク | リチウムイオンバッテリー用電解液 | 400億フォリント | 120人 | 2025年3月 | 同社として、欧州初の工場。製品は、BMWとメルセデスのEV向けに供給する予定。 |
| 浙江華碩科技集団(Zhejiang Huashuo Technology Group) | ミシュコルツ | EV部品 | 2億ユーロ | 1,000人 | 2025年6月 |
同社は2023年、デブレツェン(ハンガリー東部)で、自動車用アルミ部品を製造する工場の稼働を開始していた(具体的には、エンジンカバー、ギアボックスなどを製造)。 今次プロジェクトでは、その取り組みに続き、EV部品を生産する。 |
|
威馳騰汽車(Wisdom Motor) ※進出を検討している段階 |
n.a. | 電動バス・トラック | 100~150億フォリント | 500人 | 2025年9月 | 同社として欧州初の生産拠点を建設する予定。ハンガリーかルーマニア、いずれかに立地する予定。 |
注:2025年1月以降に発表のあった案件。
出所:ハンガリー政府、HIPA(ハンガリー投資促進庁)、現地報道などからジェトロ作成
新ブランドの進出例も
中国製EVの販売は、当地で拡大を続けている。
BYDの発表によると、同社ブランドの当地販売台数は2025年1〜8月、1,180台(EVの乗用車と小型商用車)。2025年8月時点で、シェアが約14%に達した。同年8月だけを取ってみても141台で、ブランド別EV販売台数でトップだった。またモデル別でも、トップ10に入ったモデルが3つもあった。
また2025年には、新たな中国EVブランドの市場参入例もあった。
上海蔚来汽車(NIO)
NIOは、中国でも新興のEVブランドだ。当ブランド車について、AutoWallis(ハンガリー資本の自動車販売業)が2025年6月、独占輸入販売権を取得した。同社は、中・東欧地域に広範な販売網を持っている。今回の販売権も、地元ハンガリーに加え、オーストリア、チェコ、ポーランド、ルーマニアをカバーする。
販売開始は、ハンガリーとオーストリアで2025年末、そのほかでは2026年以降になる予定だ。
なおNIOは1,500万ユーロを投じ、2022年9月、ビアトルバージ(ブダペスト近郊)で、欧州市場向けEVバッテリー交換ステーションの製造工場を稼働している。
ちなみに、AutoWallisは2023年10月、BYDともハンガリーでの販売についても契約締結している。
小鵬汽車(Xpeng)
Xpengもやはり、新興EVに当たる。同じくAutoWallisが2025年9月、同ブランド車を輸入販売すると発表した。ただし、販売はSalvador Caetano(ポルトガル資本の自動車販売業)との合弁会社経由になる。カバー地域は、ハンガリー、クロアチア、スロベニアの3カ国だ。
なおXpengは同じく2025年9月、ブダペスト市内にEVモデルのポップアップストアを開設。ブランドデビューを果たした。
2025年に入ってバッテリー生産が回復
ここまで見たとおり、中国EV関連メーカーによる当地への投資は、急速に拡大している。もっとも、国全体で見たバッテリー生産額への波及は、まだ限定的だ。
その理由は、まず(1)欧州市場全体のEV需要が減退していることだ。さらに(2)近年、優れた技術力と規模の経済力を有する中国バッテリーメーカーが世界市場で台頭したことで、当地に進出済みだった韓国系バッテリーメーカー(サムスン、SK)の市場シェアが低下したことなどもある。
一方、ハンガリー中央統計局のデータによると、ハンガリーでのバッテリーの生産額は2025年以降、持ち直している。2023年10月から2024年末までは減少傾向が続いた。しかし、以降は回復基調に転じているのだ。2025年8月の生産額は、2022年5月と同水準に達した(図参照)。一方で輸出額は2025年前半に増加傾向にあったものの、6月以降、再び減少している。
欧州でEVバッテリーや部材の調達するためには、当地が非常に重要な役割を担う。関連産業界はそれだけに、そのバッテリー生産や輸出の動きを注視している。
出所:ハンガリー中央統計局のデータからジェトロ作成
中国のEV関連投資がハンガリーに集中
シリーズの前の記事も読む
- 執筆者紹介
-
ジェトロ・ブダペスト事務所
バラジ・ラウラ - 2000年よりジェトロ・ブダペスト事務所に勤務、ハンガリー国内の市場調査を担当。英語、数学の修士号のほか、日本語検定1級、経済貿易大学の学士を有する。




閉じる





