変容する中国NEV市場とその各国への影響応用シーンの拡大で国内市場を強化
中国車載電池企業の戦略(前編)

2025年12月4日

新エネルギー車(NEV)の普及が加速している。その中で、中国の電池メーカーは急速な成長を遂げてきた。グローバル市場でも存在感を高めている。

本稿では、こうした中国電池メーカーの動きについて、国内市場展開と海外進出の観点から前編、後編の2回に分けて概観する。今回は、中国の電池メーカーが国内市場における応用分野にどのように対応しているのかなどを紹介する。

蓄電システム向け電池の出荷が急増、政策も後押し

NEVの急速な普及に伴い、中国の電池メーカー各社は車載電池の生産を拡大。一方で、蓄電システム向け電池の出荷量も年々増やしている。中国汽車動力電池産業創新聯盟(CABIA/車載電池の業界団体)は2023年、電池の用途別出荷量を初めて公表した。これによると「蓄電システム向けなど」(注1)は2023年1~9月、出荷シェアが12.0%だった。それが2025年同期には、26.3%に拡大している(表参照)。

表:中国2023~2025年(各1~9月)の電池出荷量(単位:GWh、%)
出荷量(全体) 駆動用電池 蓄電システム向け電池など
出荷量 シェア 出荷量 シェア
2023年 482.6 425.0 88.0 57.6 12.0
2024年 685.7 525.3 76.6 160.3 23.4
2025年 1,067.2 786.0 73.7 281.1 26.3

蓄電システム向けの電池需要が急増する背景には、中国政府がカーボンニュートラル達成に向けて政策的な後押しを強化していることがある。

国家発展改革委員会と国家能源局は近年、相次いで蓄電目標を打ち出してきた。2021年7月には「新型蓄電システムの発展を加速させる指導意見」を、2025年9月「新型蓄電システムの大規模設置の行動案(2025~2027年)」を定めた。具体的な目標としては、2027年に中国で導入する蓄電所の定格出力を合計1億8,000万キロワット(kW)以上にする。その結果、プロジェクト投資額が約2,500億元(約5兆円、1元=約20円)に達するとした。採用される電力貯蔵技術は依然としてリチウムイオン電池(LIB)が主流になっている。ただし、その他の技術ソリューションや応用シーンもさらに多様化するという。

こうした政策の後押しを受け、電池メーカーは積極的に投資を拡大している。例えば広西電網〔南方電網(電力送配電を担う国営事業者)の子会社〕は2025年10月、広西チワン族自治区南寧市にある「伏林ナトリウムイオン電池蓄電所」の第2期プロジェクトを正式に稼働。2024年5月に稼働済みの第1期と合わせて、定格容量が50メガワット時(MWh、注2)に達した。ナトリウムイオン電池を用いる中国初の大型蓄電所になっている。蓄電所では、電力需要が低い時に充電し、需要が高まるピーク時に放電することが容量の範囲内で可能。今回の拡張により、一般家庭約1万2,000世帯が使用する1日分の電力量を満たすことができるようなったという(「新華社」2025年10月9日)。

また、遠景動力〔AESC/再生可能エネルギー開発大手・遠景科技集団(エンビジョングループ)の傘下〕は2025年10月、湖北省宜昌市で蓄電システム向けLIB生産拠点の建設を開始した。宜昌市の発表によると、総投資額は約242億元で、AESCが世界で展開する14番目の生産拠点になるという。第1期の投資額は120億元で、年間40ギガワット時(GWh)に及ぶLIBを生産することを計画している。同社は電極から電池セル、電池パックまで一貫した生産体制を構築し、最新世代の蓄電システム向け電池モデルを製造する予定だ。

人型ロボットでも需要が高まる

電池の用途は、NEVや蓄電システムだけではない。加えて、船舶、電動バイク、ドローン、医療機器など、幅広い分野に展開しつつある。さらに、人工知能(AI)技術との融合で急速に成長している人型ロボットにも、新たな分野として注目が集まる。

人型ロボットの主な動力源はLIBで、その需要が高まっている。調査会社・高工産業研究院(GGII)が2025年6月に発表したところ、人型ロボット向けLIBの出荷量は、2025年時点で2.2GWh。これが2030年には、100GWhを超える見込みだ〔ロボット1台に平均2キロワット時(kWh)の電池を搭載する仮定に基づく〕。すなわち、この5年間にわたり、出荷量が平均して毎年倍増を超えた成長を続ける計算になる。

こうした需要の高まりに対応し、電池メーカーの恵州億緯鋰能(EVEエナジー)は2025年8月、「2025世界ロボット博覧会」(開催地:北京)で最新型のロボット専用電池セル「G26P」を公表した。ロボットの技術進化と製造業・サービス業への浸透が急速に進む中、搭載電池のエネルギー密度、急速充電性能、安全性に対する要請が一段と高まった。「G26P」はわずか9分で充電を完了して、高負荷な作業が可能だ。その上、重量エネルギー密度は1キロ当たり310ワット時(Wh)と業界トップレベルだ。ロボットの長時間稼働に向け、強力で持続的な電力を提供するという。

国策の「低空経済」に商機

電池を活用するもう1つの新興分野は、電動垂直離着陸機(eVTOL)だ。「空飛ぶクルマ」とも称されるeVTOLは、有人・無人のドローンとともに中国の国家戦略「低空経済」の発展を牽引している(2025月4日1日付地域・分析レポート参照)。

政府系シンクタンクの中国信息通信研究院(CAICT)が2025年3月に公表したレポートによると、中国の「低空経済」産業の規模は2030年に2兆元、2035年には5兆1,000億元を超える見通しだ。うち、ドローンの納入台数は2030年に3,800万機、2035年には6,100万機以上になると予測した。また、eVTOLの納入台数と生産額も、2027年から徐々に増加する。2030年の納入台数は、2万1,000機に達すると予測した。またeVTOLは、徐々に主要な交通手段の1つになる可能性がある。2035年には、納入台数が30万機に拡大すると見込んでいる。

こうした成長を背景に、電池メーカーもeVTOL市場への対応を強化しつつある(2024年12月18日付地域・分析レポート参照)。

電池メーカーの中創新航科技(CALB)は2025年9月、合肥覧翌航空科技(eVTOLメーカー)と戦略的提携協定を締結したと発表した。両社は、「LE200」(合肥覧翌航空科技が開発したeVTOL)に向けて、高エネルギー密度の駆動用電池ソリューションについて検討・協力する。ちなみに「LE200」は最大5人乗りで、約500機を受注済み。2028年から納入を開始する予定だ。CALBは、eVTOLメーカーのほか、人型ロボットなどのトップ企業とも提携。そうした提携を通じて、次世代電池技術の応用に向け事業化の道筋を明確に確保している。

次世代・全固体電池は商業化の道半ば

既述のとおり、人型ロボットやeVTOLなど、新興分野が拡大。それに伴い、電池に求める性能の要求が一段と厳しくなってきた。より高容量で安全性を備えた次世代電池に期待が高まっている。

次世代電池のうち最も有力視されているのが、全固体電池になる。しかし、その商業化はまだ道半ばだ(2024年12月18日付地域・分析レポート参照)。

欣旺達電子(サンオーダ/車載電池メーカー)は2025年10月、「2025年新エネルギー電池産業発展大会」(山東省で開催)で、エネルギー密度が1キロ当たり400Whを超える全固体電池を発表した。同社の梁鋭・副総裁兼最高戦略責任者(CSO)は、中国工業情報化部の公式アカウント「中国製造」のインタビューで、「日本や米国には、全固体電池の産業化を2027年に実現できるという予想がある。しかし個人的には、最も楽観的な見積もりでも、2030年以降に小規模な生産が可能になる程度」と慎重な判断を示した。同氏はさらに、全固体電池の量産を開始できても、コスト面で現行の液体LIBを短期間で上回るのは難しいと指摘。急速な普及は見込めないという見方を示した。


注1:
当該分類「蓄電システム向けなど」には、若干ながら小容量電池(電動アシスト自転車向けに使用)などを含む。
注2:
電池容量の換算式は1GWh=1,000MWh、1MWh=1,000kWh。

中国車載電池企業の戦略

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執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所
劉 元森(りゅう げんしん)
2003年、ジェトロ・上海事務所入所、現在に至る。