高リスクが常態化する時代に、踏みとどまる自由貿易体制世界のEV市場に変容の兆し
世界の脱炭素化動向(1)

2026年8月6日

2025年も世界のEV市場は成長したが、世界市場を牽引してきた中国とEV補助政策が転換された米国では、2026年に入り販売台数が減少している。一方、二酸化炭素(CO2)排出基準が引き上げられた欧州や、東南アジアなど新興市場では成長が続く見込みだ。さらに、2026年に入ってからは中東情勢悪化によるエネルギー危機も受け、中国・欧州・米国の3大市場がリードしてきた世界のEV市場に、成長市場や販売先、主力種のほか脱炭素化手法の広がりを伴う変容の兆しが出ている。本稿では、中国をはじめとする各国・地域のEV市場の最新動向を整理する。

主要3市場以外の新興市場が拡大

国際エネルギー機関(IEA)の「世界EV見通し2026外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」によれば、2025年の世界のEV(注1)新車販売台数(乗用車のみ)は、前年から20%増加して2,000万台を突破した(図1参照)。世界の新車販売台数の4分の1をEVが占める計算となる(2026年5月22日付ビジネス短信参照)。

主要国・地域における販売台数は、中国が1,330万台で最多だが、前年比の伸び率は2割弱となり、前年(約4割増)から低下した。欧州は2025年からの新車販売における二酸化炭素(CO2)排出基準引き上げに加え、一部の国でのEV購入補助金の再導入や継続も後押しし、前年比3割増の420万台となった。米国はEV購入への税額控除撤廃などの政策転換を受け、前年からほぼ横ばいの153万台にとどまった。

図1:世界におけるEV販売台数
015年から2025年までの世界のEV販売台数と地域別内訳を示した図。世界販売台数は2015年の53万台から2025年には2,100万台へ増加している。2025年の地域別構成は、中国が1,300万台(約62%)で最大を占め、次いで欧州420万台(20%)、その他の国・地域230万台(約11%)、米国150万台(約7%)となっている。2035年予測では世界販売台数は4,900万台に達し、中国2,600万台、欧州1,500万台、その他の国・地域680万台、米国120万台と見込まれている。

注:2035年のデータは現行の政策に基づくIEAの予測値。
出所:IEA “Global EV Outlook 2026”からジェトロ作成

中国・欧州・米国の3大市場が依然として約9割のシェアを占めるEV市場だが、新興市場も台頭している。2025年の3大市場以外の国・地域におけるEV販売台数は、前年の130万台から200万台に増加した。特に東南アジアでは増加が顕著で、2025年の販売台数は前年比で倍増し、50万台に達した。中でも、国産メーカーVinFastを有するベトナムや、中国からの輸入免税制度など有利な条件が整うタイ、インドネシアが増加を牽引した。後述のように、中国市場から安価なEVが流入してきていることが、EV販売台数増加につながっている。

また、中南米も前年比で75%増加し、約35万台に到達した。ブラジルとメキシコでの増加が主因で、プラグインハイブリッド車(PHEV)が占める割合が高くなっている。中東でも、前年比約4割超増の約7万5,000台となった。同地域の主要販売国であるUAEに加え、サウジアラビアやカタールでの伸びも大きい。また、EV販売規模が拡大し始めた2020年ごろはテスラが優勢だったのに対し、2025年時点では同社のシェアは低下し、代わりに比亜迪(BYD)のシェアが上昇している。

2026年に入り、国・地域によりEV販売動向の明暗が分かれている。IEAの同見通しによると、2026年第1四半期のEV販売台数は前年同期比8%減の390万台だった。中国のEV下取り制度改定とEV購入税優遇措置の縮小、米国のEV関連政策の縮小が世界全体の減少に影響した。一方で、欧州(前年同期比約3割増)や東南アジア(同約8割増)、中南米(同約75%増)では増加している。IEAは、2026年の世界の販売台数は約2,300万台に到達すると予測しており、特に欧州と新興市場での伸びが大きいと見込んでいる。 また、中東情勢を受けた原油価格高騰を機に、EV市場の成長が加速する可能性もIEAは示唆している。例えば、石油燃料依存の解消策として、タイではEV購入向けの低金利ローンや旧車下取り制度などの導入が検討されている(2026年5月7日付ビジネス短信参照)。一方、燃料税の減税や補助金導入、電気料金の急激な上昇が生じれば、EV購入のインセンティブは弱まる可能性もあるとしている。エネルギー危機も相まって、2026年以降のEV市場の再編が進む可能性がある。

BEVに迫るHEV、PHEV市場

EV市場の変化は、販売先だけではなく、環境対応車の車種別輸出動向にも表れている。2025年の環境対応車(BEV、HEV、PHEVの総称)の輸出を見ると、世界のEV需要を牽引してきたバッテリー式電気自動車(BEV)に加え、ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)も勢いを増している。これら3種を合計した環境対応車が乗用車の輸出総額に占める割合は42.0%で、3品目のHSコードが新設された2017年以降で最高となった(図2参照)。環境対応車の輸出総額に占める割合は、BEVが38.9%で最多だが、HEV(37.2%)が1.7ポイント差に迫る。世界のHEV輸出額の半数近くを占めるEUの輸出額は、27.0%増の703億ドルとなり、前年(0.5%増)から伸びが加速した。2025年のEUの乗用車市場では、初めてHEVの新車登録台数がガソリン車を上回り、首位となっている(2026年1月29日付ビジネス短信参照)。

図2:環境対応車輸出総額に占める各車種のシェア
2017年から2025年までのHEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、BEV(電気自動車)の市場規模と、環境対応車が乗用車市場に占める割合の推移を示した図。各車種とも拡大傾向にあり、特にBEVは2017年の約857万台から2025年には約1億5,965万台へ増加している。環境対応車全体の乗用車市場に占める割合は、2017年の4.9%から2025年には45.0%まで上昇している。

注1:輸出額ベース。
注2:環境対応車はHEV、PHEV、BEVの合計。
出所:ジェトロ推計値(Global Trade Atlasから作成)からジェトロ作成

また、主要輸出国である中国の2025年のEV輸出を見ると、BEVは13.9%増の364億ドルで前年のマイナスから持ち直した。HEVの世界シェアは5%程度にとどまるものの、輸出額は75.3%増の809億ドル、PHEVは約2.8倍増の224億ドルだった。中国の2025年のEU向け輸出は、BEVでは16.5%減少したのに対し、PHEVは約3.6倍に増加した。中国のHEV輸出の世界シェアは5%程度だが、スペインやイタリア向け輸出は増加した。EUは2024年10月に中国製BEVに対して追加関税を発動したが、BEVに比べて相対的に関税率の低いHEVやPHEVの輸出が伸びたと考えられる。

米国を筆頭とするEV推進政策の転換(注2)もあり、BEVに加えてHEVやPHEV市場も拡大していることがうかがえる。

中国メーカーは海外輸出や進出を模索

EV市場の変容を促す要因の1つが、中国メーカーの海外展開加速だ。中国の国内市場では、中国語で「内巻」と呼ばれる過度な価格競争に陥っており、国内の業界団体や政府は対策に乗り出している(2025年12月16日付地域・分析レポート参照)。国内市場の成長鈍化も相まって、大手メーカーは海外市場の開拓を急いできた。

一方、国外では、安価な中国製EVの流入に対し、欧米を中心に規制強化が進められてきた。中国の国家補助により競争市場が不公正にゆがめられているとして、2024年に米国、カナダ、EUが中国製EVに対する関税を強化した(注3)。国内市場の飽和と各国の関税引き上げを受け、中国の大手メーカーは、前述のように東南アジアをはじめとする新興市場へ輸出を拡大しつつ、関税措置への対応として海外進出にも注力している。ただし、BYDや寧徳時代新能源科技(CATL)のハンガリー工場、またBYDのトルコ工場の稼働時期には、当初計画からの遅れが生じている(表参照)。

表:中国EV関連メーカーによる欧州・米州向け海外展開の主な事例(ーは記載なし)
メーカー 進出予定国 報道・発表日 開業・予定時期 状況
寧徳時代新能源科技(CATL) ハンガリー 2026年5月
  • 新工場でのバッテリーモジュール組み立て:2026年5月
  • バッテリーセル生産開始:2025年末⇒延期
2024年秋から賃借工場でバッテリーモジュールの生産を行ってきたが、2026年5月に新工場での組み立てを開始した。一方、バッテリーセル生産は工場操業に必要な環境許認可の取得が難航しており、当初計画していた2025年12月の生産開始から遅れている。セル工場の建設は完了しており、生産開始に必要な認可が取得され次第、バッテリーセルの試験生産を開始する見込み。
比亜迪(BYD) ハンガリー 2026年6月 2025年5月末
⇒2026年第4四半期予定
生産開始は当初予定から約1年遅れる見込み。有害物質を含む土壌管理や環境規制違反の疑いにより、ハンガリー警察・当局による捜査を受けていたが、同社は規制を順守していると反論している。
比亜迪(BYD) トルコ 2026年6月 2026年末予定
⇒未定
年産15万台の電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)の生産工場、モビリティー技術開発センターを設立すると発表していたが、2026年6月時点ではハンガリー工場を優先し、トルコ工場は保留と報じられている。トルコ政府は投資契約は有効なままだと主張している。
比亜迪(BYD)、吉利汽車(Geely) メキシコ 2026年2月 - 閉鎖が決まった日産とメルセデス・ベンツの合弁工場の買収の最終候補に残っているとの報道がある。
比亜迪(BYD) カナダ 2026年4月 - 当初2024年に進出予定だったが、中国製EVへの関税引き上げを受け計画を凍結していた。2026年に入り、再び進出を検討している。

出所:各社発表、報道などからジェトロ作成

米国の追加関税への対抗策として、メキシコやカナダを足掛かりに北米へ進出しようとする動きもみられる。BYDは米国の関税政策などの不確実性の高まりから、2025年7月に投資計画を保留していた。だが2026年に入り、BYDと吉利汽車(Geely) は、閉鎖が決まった日産とメルセデス・ベンツの合弁工場の買収の最終候補に残っているとロイターが報じている(注4)。ほかにも長安汽車(Changan)、奇瑞汽車(Chery)、MG Motorなどの中国メーカーがメキシコ進出に関心を寄せており、中国メーカーの関心がメキシコに集まっている(2026年3月26日付地域・分析レポート参照)。

カナダは2024年10月から中国製EVに対し100%の関税を適用してきたが、中国との戦略的関係強化の一環で、2026年1月に年間4万9,000台の中国製EVの輸入割当枠を設け、最恵国待遇(MFN)税率の6.1%まで関税を引き下げた(2026年1月20日付ビジネス短信参照)。BYDは関税引き下げを受け、現地事業の設立も視野に入れているとされ(注5)、関税引き下げで他メーカーも含めてカナダへの輸出や進出が活発化する可能性がある。これまで見てきたように、中国メーカーは各国の通商政策や関税措置をふまえてグローバル生産体制の再構築を図ろうとしている。

自動車分野でも活用が期待される次世代燃料

このように、世界各国でEV導入が進み、運輸部門の脱炭素化が進展している。しかし近年は、全面電動化だけではなく、エネルギー安全保障や産業競争力の観点から、バイオ燃料や合成燃料などの次世代燃料との併用も進められている。航空燃料(SAF)に比べると、自動車分野での次世代燃料の活用は限定的ではあるが、ここでは自動車分野における各国の次世代燃料導入の動きを取り上げる(特集「世界の次世代燃料の生産・消費動向を追う」参照)。

IEAのRenewables 2025外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、再生可能エネルギー由来の電力や液体バイオ燃料などの利用拡大に伴い、輸送部門における再エネ消費量は2030年までに50%増加すると予測されている。増加分の半分近くをEV向けの再エネ由来電力が占め、次いで道路輸送用バイオ燃料(35%)が続く。IEAによると、特にブラジル、インド、インドネシア、マレーシアの4カ国での成長が見込まれている。例えば、インドでは2026年6月にE85(エタノール混合率が80~85%のガソリン)の販売も開始された(2026年6月11日付ビジネス短信参照)。世界最大のパーム油生産国であるインドネシアも、国家戦略としてバイオ燃料の導入を進めており、2026年7月からはB50の導入と軽油の輸入停止が始まっている(2026年5月19日付地域・分析レポート参照)。

前述の4カ国に加え、EUは2025年末に発表した「自動車パッケージ」で、乗用車・バンのCO2排出削減目標について、2035年目標を「2021年比で100%削減」から「90%削減」に引き下げる案を示した(2025年12月25日付ビジネス短信参照)。この案が成立すれば、2035年から予定していた内燃機関を搭載した新車販売を実質禁止する方針を転換するかたちとなる。残りの10%は、EU域内産の低炭素鉄鋼または合成燃料(e-fuels)やバイオ燃料の使用により相殺可能としている。また、米国で2025年7月に成立した「大きく美しい1つの法案法(OBBBA)」では、EV購入税額控除などが縮小された反面、バイオ燃料の生産にかかる税額控除の適用時期が延期されるなどの条項が設けられ、バイオ燃料普及の追い風となる可能性がある(2026年4月22日付地域・分析レポート参照)。

これまで見たように、世界のEV市場は引き続き拡大しているものの、成長を牽引する市場には変化も生じている。車種面でも、BEV一辺倒からHEVやPHEVを含む多様な選択肢へと移行し、多様な技術を組み合わせる方向へと変わりつつある。さらに、各国が脱炭素目標を掲げる中、EVと組み合わせるかたちで、バイオ燃料や合成燃料といった次世代燃料の普及も進められている。(2)では自動車分野以外も含めた、世界のエネルギー投資の動向を見ていく。


注1:
バッテリー式電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)の合計。 本文に戻る
注2:
インフレ削減法(IRA)で定められていたEV購入に対する7,500ドルの税額控除(IRC30D)を撤廃し、消費者の購入インセンティブを大幅に低下させた(2026年1月19日付地域・分析レポート参照)。 本文に戻る
注3:
EUの追加関税の対象はBEVのみ。 本文に戻る
注4:
ロイター “Seeking Mexico foothold, China's BYD and Geely bid to buy car plant外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます” (2026年2月12日付)。 本文に戻る
注5:
FT Locations “Redirection, not retreat: Tariffs and North American FDI外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます” (2026年4月23日付)。 本文に戻る

世界の脱炭素化動向