高リスクが常態化する時代に、踏みとどまる自由貿易体制戦略産業が牽引するFDI再編
選別される世界投資(2)

2026年8月6日

世界の海外直接投資(FDI)の動向に関する連載後半の本稿では、グリーンフィールド投資を中心に、FDIの変化を産業の観点から整理し、戦略産業への投資集中と製造業のサプライチェーン再編という2つの動きを概観する。 2025年のFDIには回復の兆しがみられるものの、その中身は一様ではない。投資は人工知能(AI)インフラや半導体、重要鉱物など、技術覇権や経済安全保障と結びつく戦略産業に集中している。一方、従来型の製造業投資は伸び悩み、企業は通商政策の不確実性やサプライチェーンの強靱(きょうじん)性の観点を踏まえて、生産拠点の見直しを進めている。国連貿易開発会議(UNCTAD)は2026年7月公表の報告書(注1)で、地政学的緊張、通商政策の不確実性、経済安全保障上の懸念が、多国籍企業の投資判断を変化させていると指摘する(図1参照)。

図1:変化する海外直接投資(FDI)のパターン

図1:PDF版を見るPDFファイル(297KB)

グローバル投資を揺るがす要因とその影響を示した図。左側に「グローバル投資を揺るがす要因」として、(1)地政学・不確実性の高まり、(2)関税・通商政策の転換、(3)技術競争の激化、(4)経済安全保障政策の強化を配置。これらの要因は、「戦略産業をめぐる競争」と「グローバル・サプライチェーンの再編」という2つの変化をもたらす。戦略産業をめぐる競争では、戦略産業が成長と投資をけん引し、一部先進国が主導する一方、産業政策の補助金やインセンティブが投資判断に大きく影響する。また、投資審査や規制の対象が技術・データ・サプライチェーンへと拡大し、国家安全保障上の観点が強まる。グローバル・サプライチェーンの再編では、製造業への投資機会が分野ごとに変化し、政策や関税リスクが投資判断を左右する。また、近接地への投資や地域連携は進むものの、投資創出効果は限定的であることが示されている。

出所:UNCTAD“World Investment Report 2026”からジェトロ作成

AI・半導体が牽引、戦略産業に集中する海外直接投資

2025年の世界のグリーンフィールド投資は、デジタル関連分野への集中が鮮明となった。世界の主要なグリーンフィールド海外直接投資プロジェクトを発表ベースで捕捉するfDi Markets(注2)によると、データセンターなどを含む通信分野が金額ベースで最大となり、2024年まで首位だった再生可能エネルギーを上回った。半導体も上位に入り、AIインフラ需要の拡大が投資動向を大きく左右している(図2参照)。

図2:2025年の世界のグリーンフィールド投資額(業種別構成比)
2025年における、世界のグリーンフィールド投資額を業種別構成比で見る。通信が24.4%で最も大きく、次いで再生可能エネルギーが14.3%、半導体が9.8%、不動産が7.9%を占める。以下、金属4.6%、石油・石炭・天然ガス4.4%、運輸・倉庫4.1%、製薬3.5%、ソフトウエア・IT2.8%、化学2.6%となっている。その他は21.7%。通信、再生可能エネルギー、半導体の3分野で全体の約半数を占める。

注1:2026年7月1日時点。
注2:発表ベース。
出所:fDi Markets(Financial Times)からジェトロ作成

UNCTADも、2025年の投資拡大は広範な産業に及ぶものではなく、AIインフラ、半導体、重要鉱物、エネルギー転換関連技術など、戦略性の高い産業に支えられたものだと指摘している。UNCTADは、戦略産業(注3)として、以下の5分野を挙げる。

  1. AIインフラ・関連技術(データセンター、クラウドコンピューティング、サイバーセキュリティなど)
  2. 半導体(チップ製造、設計支援活動、生産設備など)
  3. エネルギー転換技術およびサービス(バッテリー、電気自動車、水素、炭素回収など。ただし、再生可能エネルギーによる発電案件を除く)
  4. 重要鉱物(銅、リチウム、希土類元素など)
  5. 先端・機微技術(バイオテクノロジー、ロボティクス、量子技術、宇宙システムなど)

前述5分野の存在感は急速に高まっている。これらの分野は2025年に世界のグリーンフィールド投資額の44%を占め、2020年の16%から大きく上昇した。中でもAIインフラ・関連技術は5分野の中で最も多くのグリーンフィールド投資を集めており、2020年の約500億ドルから2025年には3,500億ドル近くに拡大した。戦略産業は2020~2025年の年平均成長率が39%を記録した。中でも半導体は同成長率が54%と、戦略産業の中で最も高い伸びを示した(図3参照)。

図3:戦略産業向けグリーンフィールド投資の推移(発表ベース)

図3:PDF版を見るPDFファイル(264KB)

戦略産業向けグリーンフィールド投資の推移(2020~2025年、発表ベース)を示す積み上げ棒グラフ。戦略産業向け投資総額は2020年の約1,100億ドルから2025年の約5,800億ドルへ拡大し、期間中の年平均成長率は39%となった。2025年の内訳は、AIインフラ・関連技術が3,410億ドルで最大、半導体が1,481億ドル、エネルギー転換技術・サービスが516億ドル、重要鉱物が217億ドル、その他先端・機微技術が137億ドル。2020~2025年の年平均成長率(CAGR)は、半導体が54%で最も高く、AIインフラ・関連技術が47%、エネルギー転換技術・サービスと重要鉱物がそれぞれ17%、その他先端・機密性の高い技術が8%となっている。また、戦略産業向け投資がグリーンフィールド投資総額に占める割合は、2020年の16%から2025年の44%へ上昇しており、戦略産業への投資集中が進んでいることを示している。

出所:UNCTAD “World Investment Report 2026”からジェトロ作成

ただし、戦略産業への投資拡大は、世界全体で均等に起こっているわけではない。UNCTADによると、戦略産業への投資は少数の投資国・地域と投資受け入れ国・地域に高度に集中している。上位3カ国・地域の平均シェアは、投資元国・地域で72%、投資受け入れ国・地域では56%に達した。その他の分野ではそれぞれ27%、34%であり、戦略産業ほど集中度が高いことが分かる。また、この5分野の投資パターンは異なる(図4参照)。

  1. AIインフラ・関連技術:戦略産業の中で最大の投資規模を有する。投資の主な供給源は米国であり、主な投資先は欧州連合(EU)だ。
  2. 半導体:発表ベースの投資額は最も急速に伸びているが、同時に投資国・地域、投資受入国・地域が最も集中している分野でもある。2020年から2025年にかけて、台湾から米国への投資は世界全体の約3分の1を占めた。
  3. エネルギー転換技術・サービス:投資は地理的により分散しており、グリーン産業チェーンのさまざまな分野に及んでいる。米国、EU、中国の3カ国・地域が、世界の投資額の約55%を受け入れている。
  4. 重要鉱物:中国は対外投資を主導し、加工能力においても主要な役割を果たしている。一方、鉱物資源を有する新興・途上国・地域への投資も増加している。
  5. 先端・機微技術:投資元は米国、欧州、日本を中心とし、投資先には米国と欧州に加え、中国も含まれる。

図4:戦略産業向けグリーンフィールド投資の主な投資元国・地域、投資受け入れ国・地域(発表ベース、2020~2025年、構成比)

図4:PDF版を見るPDFファイル(395KB)

戦略産業向けグリーンフィールド投資の主な投資国・地域と受入国・地域の構成比(2020~2025年)を示すサンキー図。分野ごとに投資元と受入先の関係を示している。AIインフラ・関連技術では、投資国は米国(46%)が最大で、受入国はEU(30%)が最大となっている。半導体では、投資国は台湾(45%)、米国(28%)が中心で、受入国は米国(47%)、EU(17%)、日本(9%)に集中している。エネルギー転換技術・サービスでは、投資国はEU(28%)、中国(16%)、韓国(12%)が主要な投資元で、受入国は米国(30%)、EU(19%)の割合が高い。重要鉱物では、中国(32%)が最大の投資国で、受入国はインドネシア(20%)、中国(15%)、EU(11%)が主要な投資先となっている。先端・機微技術では、投資国は米国(24%)、EU(20%)、日本(16%)が中心で、受入国は米国(36%)、EU(28%)、中国(8%)となっている。全体として、戦略産業向け投資は米国、EU、中国など主要国・地域を中心に行われる一方、分野によって投資国と受入国の構造が異なり、半導体では米国と台湾、重要鉱物では中国とインドネシアの存在感が大きいことを示している。

出所:UNCTAD“World Investment Report 2026”からジェトロ作成

従来型製造業の投資は減少、再編進む生産網

戦略産業に大型投資が集中する一方、戦略産業以外の製造業では、新規投資の縮小と生産ネットワークの再編が進んでいる。従来、製造業FDIは生産コストなどの効率性や市場アクセスを重視して決定されてきた。しかし近年は、通商政策の不確実性や関税措置への対応、サプライチェーンの強靱性、主要投入財へのアクセスに加え、国内投資や特定の海外拠点への投資を促す政策的なインセンティブや規制上の圧力が、企業の投資判断により強く影響するようになっている。こうした中、企業はこれまで進めてきたサプライチェーン強靱化の取り組みを土台に、生産ネットワークの地理的配置や組織体制の見直しを進めている。

UNCTADによると、戦略産業以外の製造業向けグリーンフィールド投資は弱含んでいる。2015~2019年と2021~2025年の各5年間の合計を比較すると、戦略産業以外の製造業向けグリーンフィールド投資額は17%減少した(図5参照)。減少は、アグリビジネス、消費財、繊維、従来型輸送機器など、これまで新興・途上国・地域が国際生産ネットワークに参入する足掛かりとなってきた産業にも及んでいる。

図5:主要投資国・地域による戦略産業を除く製造業向けグリーンフィールド投資額(発表ベース)(2015~2019年、2021~2025年合計)
主要投資国・地域による製造業向けグリーンフィールド投資額の比較(2015~2019年合計と2021~2025年合計)を示す積み上げ棒グラフ。投資額の総額は、2015~2019年の約9,700億ドルから2021~2025年の約8,100億ドルへ減少した。2015~2019年の内訳は、EUが2,710億ドルで最大、その他が2,910億ドル、米国が1,390億ドル、日本が1,050億ドル、中国が1,020億ドル、韓国が620億ドル。2021~2025年の内訳は、EUが2,310億ドル、その他が2,450億ドル、中国が1,090億ドル、米国が1,020億ドル、韓国が690億ドル、日本が520億ドル。期間比較では、中国が7%増、韓国が12%増となった一方、EUは15%減、米国は27%減、日本は51%減となった。日本の減少幅が最も大きく、中国と韓国が投資額を増やしている。

出所:UNCTAD“World Investment Report 2026”からジェトロ作成

サプライチェーン再編の方向性は産業によって異なる。UNCTADは、投資額の増減と投資先の多様化という2つの軸から、製造業の再編を「拡大」「集中」「分散」「縮小」の4パターンに整理している(表1参照)。

  1. 拡大:ICT・電子機器分野では、生産拠点が中国中心のモデルから、東南アジア、インド、メキシコ、モロッコといったより広範な地域へ移行しつつある一方、北米や欧州ではそれぞれの地域内で生産体制が深化している。電気自動車(EV)ではブラジル、インド、モロッコ、タイなどの新たな投資先へと広がっている。
  2. 集中:ライフサイエンス分野では、研究開発基盤や規制環境、専門的な生産能力を有する少数の国・地域(米国とEU、スイス、英国など)への集中が続いている。
  3. 分散:素材や工業製品分野では、企業がサプライチェーンを多角化し、代替的な生産拠点への投資が広がっている。特に中国からの投資では、資源や原材料の加工・精製を行うための新たな産業集積(例:カザフスタン)や、地域市場向けの輸出拠点(例:エジプト)の形成が進んでいる。ただし、新たな参入拠点は依然として選別的だ。
  4. 縮小:EVを除く輸送機器、アグリビジネス、消費財、繊維・アパレルでは、国際投資は縮小する傾向にある。新規投資は主要市場、特に北米に集中する傾向にある。メキシコは米国への輸出拠点として役割を強化している一方、新たな拠点はブラジル、インド、ベトナムといった少数の代替拠点に限定される。自動車分野の需要の低迷と、複雑なサプライチェーンを簡素化しようとする取り組みが背景にある。
表1:製造業におけるサプライチェーン再編の4パターン
投資 増加/減少 投資受け入れ国・地域の多様化
集中 多様化
投資額 増加 集中
成長が少数の先進的拠点に集中
業種:ライフサイエンス
拡大
新たな立地への展開
業種:ICT・電子機器、EV
減少 縮小
活動縮小と小規模拠点の周縁化
業種:アグリビジネス、消費財、輸送機器(EV除く)、繊維・アパレル
分散
立地間での再配分、分散化
業種:素材・工業製品

出所:UNCTAD“World Investment Report 2026”からジェトロ作成

この変化は一様ではなく選別的に進行している。一部の国・地域は生産移転や投資分散の恩恵を受ける一方、その対象は限定的であり、多くの国・地域に自動的に投資機会が広がるわけではない。また、ニアショアリングの動きも一様ではなく、地域内投資が各地域で一貫して増加しているわけではない。

産業政策が強める投資の選別

企業の投資判断に加え、各国政府の政策も投資先の選別を左右している。戦略産業への投資集中を後押ししているのが、主要国による産業政策の拡大だ。UNCTADは、近年の投資環境の大きな変化として、補助金や税制優遇などの支援策に加え、投資審査、輸出規制、対外投資規制など、投資を選別・制限する政策手段も広がっている点を指摘する。こうした政策は、戦略産業への投資を呼び込む一方、安全保障上の懸念がある取引を制限する役割も持つ。特に米国、中国、EUでは戦略産業を対象とする産業政策が拡大し、戦略産業を巡る投資誘致競争が激化している。

背景には、産業政策の重点の変化がある。IMFによると、2010年代までの産業政策は競争力強化や環境・気候変動対応が中心だったが、2020年以降はサプライチェーンの強靱化、国家安全保障、地政学的なリスクへの対応が重視されている(注4)。政策対象も、先端産業や重要鉱物などの分野に集中し、各国が同じ戦略産業で支援を競う構図が強まっている。この産業政策のトレンド変化が特定分野への投資集中を促す一因になっていると考えられる(表2参照)。また、企業の投資判断が各国の支援策や規制に左右されやすくなることで、政策変更の影響を受けるリスクも高まる。

表2:産業政策のトレンド変化
項目 ~2010年代 2020年~
主な目的
  • 競争力強化
  • 気候変動対策
  • サプライチェーンの強靱化
  • 国家安全保障
  • 地政学的要因
主な手段 補助金が最多 補助金に加え、ローカライゼーション(現地化政策)、輸出入制限の増加
政策 比較優位のある分野を支援
  • 両用品や先端技術、重要鉱物が対象
  • 先進国を中心に、比較的競争力の低い、自国にとって新しい分野を支援
  • 先進国は自国が過去に支援した分野への支援も加速
  • 他国が産業政策を講じている分野・製品に対して、自国も産業政策を導入する傾向

出所:IMF“Industrial Policy Since the Great Financial Crisis”からジェトロ作成

2026年の世界のFDIを巡る環境は、不透明感が強い。UNCTADは2026年初時点では、主要国での資金調達環境の改善やクロスボーダーM&Aの活発化により、緩やかな増加の可能性を示していた(注5)。しかし、7月時点では、地政学的緊張や紛争に加え、高止まりする資金調達コストや通商政策の不確実性といった下振れリスクを抱えていると指摘する。

特に、戦略産業を巡る投資誘致競争は今後も強まる可能性が高い。各国政府が将来の成長産業や技術優位の確保を重視する中、FDIは一部の分野と国・地域に一段と集中する可能性がある。2026年以降の世界の直接投資を見る上では、投資額全体の増減だけでなく、投資がどの産業に集中し、どの国・地域が新たな生産ネットワークに組み込まれているのかを把握する視点が欠かせない。詳しくは2026年版ジェトロ世界貿易投資報告第Ⅱ章を参照されたい。


注1:
UNCTAD “World Investment Report 2026”(2026年7月7日)。 本文に戻る
注2:
同データベースで捕捉される案件情報は、投資企業によるプレス発表、新聞報道など。日付や投資額は、原則として実行ではなく発表ベース。期間は2003年以降。 本文に戻る
注3:
戦略産業の定義は、UNCTADに基づく。 本文に戻る
注4:
IMF “Industrial Policy Since the Great Financial Crisis”(2025年10月31日)。 本文に戻る
注5:
UNCTAD“Global Investment Trends Monitor, No. 50”(2026年1月20日)。 本文に戻る

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執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
馬場 安里紗(ばば ありさ)
2016年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課/途上国ビジネス開発課、ビジネス展開・人材支援部新興国ビジネス開発課、海外調査部中東アフリカ課、ジェトロ・ラゴス事務所を経て、2024年10月から現職。