高リスクが常態化する時代に、踏みとどまる自由貿易体制財貿易の主役に躍り出るAI関連財(世界)

2026年8月6日

米中対立の長期化や中東情勢の緊迫化が下振れリスクとして強まる一方、世界貿易は底堅い拡大を続けた。牽引役となったのが人工知能(AI)関連財だ。2025年のAI関連財輸出は過去最高を更新し、世界貿易の伸びの約半分を支えた。AIブームはソフトウエア産業のみならず、半導体やサーバー、データセンター設備などの国際取引を通じて、アジアを中核に世界の財貿易構造にも影響を与えつつある。AI関連財は、その恩恵や生産能力が特定の地域や企業に集中する側面を持つ一方、世界のモノづくりや貿易の重心がどこへ移りつつあるのかを示す指標となりつつある。

貿易拡大を力強く支える牽引役へ

IMFは、2026年7月に公表した見通しの改定版で、世界経済の成長率を3.0%と予測した(IMFウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。中東紛争による影響から前回見通し(3.1%)をやや下方修正した一方、AI需要の増大が紛争の影響を部分的に相殺すると見込んだ。本特集記事「変貌する世界貿易、高リスク常態化が招く構造転換」で見たように、2026年第1四半期時点の世界貿易は2桁増と前年に引き続き好調で、その背景には、AI需要に後押しされたデジタル関連財の輸出拡大がある。

近年の生成AIブームは、チャットボットや画像生成サービスの発展が代表する急激な変化をもたらすだけではない。その背後では、膨大な演算処理を支えるデータセンターや半導体への投資も世界規模で進んでいる。WTOは、2025年9月に公表した報告書で、AIが財やサービスの生産・取引・消費の在り方を変革し、新たな成長時代の到来をもたらすものだと評価した(注1)。WTOは、AIのバリューチェーンが5つの要素から成ると整理し、それらを支える分野として、重要原材料、インターネット接続、エネルギーの3つを挙げた(図1参照)。さらに、各分野でAI開発や利用を支える約100品目を「AI利用を支える財(AI-enabling goods、以下、AI関連財)」と定義した。対象には、半導体、サーバー、コンピューター部品だけでなく、シリコンウエハーやシリカなど上流工程の化学材料も含まれる。

図1:AIのバリューチェーンと各要素を支える基盤

図1:PDF版を見るPDFファイル(271KB)

AIのバリューチェーンを左から右へ示す図。構成要素は①ハードウェア(GPU、ASIC、FPGAなどのマイクロプロセッサー)、②クラウド(Azure、AWSなどのクラウド基盤)、③学習データ(インターネット上のテキスト・動画・音声、Wikipedia、独自データ)、④基盤モデル(BERT、GPT、Claudeなどの大規模AIモデル)、⑤AIアプリケーション(ChatGPT、Gemini、FinGPTなど)。下段には共通基盤として、原材料、インターネット接続、エネルギーが全段階を支える要素として示されている。出所はWTO「World Trade Report 2025」。

出所:WTO“WORLD TRADE REPORT 2025:Making trade and AI work together to the benefit of all”(2025年9月17日)からジェトロ作成

WTOの品目定義に基づき、ジェトロが世界のAI関連財(注2)の輸出額を推計したところ、2025年には前年比22.8%増の4兆1,547億ドルまで拡大し、過去最高額を記録したことが分かった。世界の輸出総額の伸びに対する寄与率は45.1%に上り、貿易の伸びの半分近くをAI関連財が担った。AI関連財の輸出額はこの10年間で倍増しており、世界の貿易総額に占めるシェアも2025年には16.4%まで上昇した(図2参照)。わずか2年前の13.0%から大きく拡大したことからも、AI需要が世界貿易の新たな成長源となっていることが分かる。

図2:世界のAI関連財貿易額の推移(輸出額ベース)
ジェトロの推計によれば、2025年のAI関連財輸出額は前年比22.8%増の4兆1,547億ドルで過去最高に到達した。10年前と比較して輸出額は倍増した。これにより、AI関連財が世界の輸出総額に占めるシェアは16.4%に上った。世界の輸出総額の伸びに対する寄与率は45.1%に到達し、2025年の貿易拡大の約半分をAI関連財が支えたことになる。

出所:ジェトロ推計値(Global Trade Atlasから作成)からジェトロ作成

AI投資ブーム、処理装置や半導体の貿易に波及

AI向け投資は、半導体産業のみならず、電子部品、ネットワーク機器、サーバーなど幅広い分野の需要を刺激し、サプライチェーン全体に波及している。AI関連財貿易の品目構成を細かく見ると、生成AIの普及やデータセンター整備を背景に、サーバー本体や演算用半導体の取引が急増したことが分かる。詳細な品目別統計が取得可能な58カ国・地域の輸出に限定し、2025年の動向を整理したのが表1だ。

表1:AI関連財の輸出額上位10品目と主な輸出国・地域(2025年)(△はマイナス値)注1:HS6桁ベースの年次データが取得可能な58カ国・地域の輸出統計を集計。 注2:シェアおよび寄与度は、全商品の輸出総額ではなく「AI関連財」の総額を分母とした。 注3:主要輸出国・地域の太字はアジア。
品目名 輸出額
(億ドル)
シェア
(%)
前年比
(%)
寄与度
(%)
主要輸出国・地域
演算・制御用チップ(CPU・マイコンなど) 4,575 12.5 21.8 2.7 香港シンガポール中国マレーシア
その他の集積回路 4,209 11.5 15.5 1.9 台湾香港シンガポール中国
半導体メモリ(DRAM、NANDフラッシュメモリなど) 3,183 8.7 27.3 2.3 韓国中国香港台湾
コンピューターの処理装置・サーバー本体など 2,539 6.9 108.8 4.4 メキシコ、台湾、米国、シンガポール
コンピューター関連部品・周辺機器 2,285 6.2 56.6 2.7 香港、中国、米国、台湾
通信機器(ルーター、スイッチ、基地局機器など) 2,175 5.9 27.5 1.6 中国、香港、米国、オランダ
その他のコンピューター関連機器 1,808 4.9 73.4 2.5 台湾香港中国シンガポール
ノートパソコン 1,502 4.1 △ 2.6 △ 0.1 中国、オランダ、米国、ドイツ
電源装置・ACアダプター・充電器 959 2.6 6.6 0.2 中国、ドイツ、米国、オランダ
半導体製造装置 909 2.5 7.9 0.2 オランダ、シンガポール日本、米国

注1:HS6桁ベースの年次データが取得可能な58カ国・地域の輸出統計を集計。
注2:シェアおよび寄与度は、全商品の輸出総額ではなく「AI関連財」の総額を分母とした。
注3:主要輸出国・地域の太字はアジア。

出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

AI関連財の中で最もシェアが大きいのが、12.5%を占める演算・制御用チップだ。2025年のAI関連財輸出増に対する寄与度は2.7%に及ぶ。AI計算処理を実行するための半導体需要を反映し、前年比21.8%増に拡大した。例えば、エヌビディアのAI用GPUやインテルのCPUなどに代表されるプロセッサー類が該当すると考えられる。最大の輸出元は、再輸出機能を担う香港だが、次いでシンガポール(3割増)、中国(2割増)、マレーシア(3割増)など、半導体関連の生産機能を抱える国も軒並み輸出を伸ばした。

このほか、2025年のAI関連財輸出増加への寄与度が最大だった品目は、コンピューターの処理装置・サーバー本体などで、寄与度は4.4%、前年比は108.8%増に上った。AIサービス利用の拡大に伴い、世界各地のデータセンターでGPUや高性能プロセッサーを搭載したサーバーの増設競争が起きている。サーバーの大量導入が、貿易額の押し上げに表れたとみられる。メキシコや台湾からの輸出が5割増、米国も倍増した。

コンピューター関連部品・周辺機器の輸出も、前年比56.6%増へと大きく伸び、AI関連財の伸びに対する寄与度は2.7%に上った。AIサーバー向けの基板やメモリーモジュール、GPU搭載用部材といった周辺部材への需要増加を反映した。ここでも、ハブである香港が6割増へと顕著に伸びたほか、中国が3割増、米国が5割増、台湾が倍増など、上位国からの出荷が急増した。

なお、AI関連財に占めるシェアは小さいものの、半導体製造装置では日本も、オランダとシンガポールに次ぐ輸出の担い手だ。このようにAI投資の拡大は、生産設備から中間財に至る幅広い関連ハードウエアの需要を生み出し、世界貿易を押し上げている。特に、AI向けインフラ投資の急増を反映し、サーバーなどの完成品に加え、生産設備や中間財が直近の成長を主導していることが、貿易統計からは浮かび上がる(本特集記事「変貌する世界貿易、高リスク常態化が招く構造転換」参照)。このことは、現在のAIブームが、データセンター整備や生産能力増強を目的としたインフラ・設備投資局面にあることを示唆している。

アジアに集積するAIサプライチェーン、米中対立も作用

AI関連財はアジアでの集積が厚みを増している。2025年時点で、アジアは世界のAI関連財輸出の66.4%を占める(表2参照)。2019年と比較すると、アジアの対世界シェアは5.8ポイント、域内貿易の比率も2.1ポイント上昇しており、AIサプライチェーンの重心が一段とアジアに集中したことが分かる。半導体(特にロジック、メモリー、パッケージング)やサーバー関連機器など、AI関連財の中核を担う生産工程が細分化され、台湾やASEAN(シェア拡大幅の大きい順にベトナム、シンガポール、マレーシア)に分散して配置された結果、域内の相互依存が緊密化したとみられる。

特に存在感を高めたのが台湾だ。AIサーバー向け先端半導体の需要拡大を背景に、対世界輸出シェアは2019年時と比べると4.9ポイント上昇し11.5%まで拡大した。米国向け(シェア3.2ポイント増)のみならずアジア向け輸出も増加(1.2ポイント増)し、AI関連財サプライチェーンの中核的な供給拠点であることが分かる。ただ、製造工程は台湾のみに集中しているわけではなく、半導体後工程や電子機器の組み立てはASEAN各国に分散している。AI関連財の輸出総額のうち18.6%を占めるASEANは、対世界と域内の双方で存在感を高めた。例えばベトナムは、対世界で4.0ポイント、対米で1.7ポイント輸出シェアを伸ばした。シンガポールやマレーシアも広範に数値が上昇しており、後述するチャイナ+1の流れも受け、供給拠点としての重要性を増している。

AI関連財貿易においても、地政学的要因は無視できない。中国は依然として、電子機器や汎用(はんよう)部品で強みを有しているが、対米輸出の比重は低下した。その一方でASEANへのシフトが顕著だ。中国の対世界シェアが3.7ポイント減、対米シェアが2.2ポイント減に縮小する中、ASEAN向け輸出は0.7ポイント上昇した。部品・中間財をASEANへ供給し、そこから米国を含む最終需要地へ輸出するサプライチェーンが強まったと考えられる。 その米国は、最終需要地としての存在感を高めた。表2で、輸出元としてはシェアを縮小する一方、輸出先としては拡大させていることから、米国がAI投資の中心地でありながら、多くのハードウエアを海外から調達している様子が読み取れる。米国の強みはAIサービスやプラットフォームにある一方、製造面ではアジアへの依存が続いている。

AI関連財が映し出す貿易の新たな構図

世界半導体市場は、今後もAIデータセンター需要を背景に拡大が見込まれている。さらに各国がAI活用を競う中、サーバー、半導体、ネットワーク機器への投資は継続する公算が大きい。このため、AI関連財貿易の拡大は一時的な現象にとどまらず、中長期的な潮流として定着する可能性が高い。WTOは、AIの活用拡大により、2040年時点の世界の財・サービス貿易額が、AIが進展しないシナリオと比べて34~37%押し上げられると予測している。

もっとも、AIによる恩恵が均等に及ぶとは限らないことにも目配りが必要だ。例えばWTOは、AIが貿易コストの削減、生産性の向上、そして世界市場へのアクセスの拡大といった新たな機会をもたらす半面、AIを活用した貿易が包摂的な成長につながるかどうかは、貿易や関連政策の設計と実施のあり方に大きく左右されると指摘している。実際にAI活用を阻害する主な要因として、ブロードバンドへのアクセスやクラウドの計算能力、ハードウエアの信頼性といったデジタルインフラの格差が挙げられる。また、技術を持つ労働者の偏在やAIエコシステムの発展度合いの差も影響を与える。

AI関連財は、世界貿易の新たな成長エンジンであるのみならず、AI時代にどの国・地域が価値創出を担い、その恩恵を享受するのかを映し出す指標としての意味合いも強めている。製造能力で優位性を発揮するアジア、需要を牽引する米国、その間で進むサプライチェーン再編。AI関連財の流れを追うことは、今後の世界貿易の方向性や競争力の所在を読み解くことにもつながる。


注1:
WTO“WORLD TRADE REPORT 2025: Making trade and AI work together to the benefit of all外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます”(2025年9月17日)による。なお、OECDも“AI meets trade, Global linkages and the cross-country distribution of the gains from AI外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます”(2026年3月18日)で、AIの経済効果が国際貿易を通じて国境を越えて拡散する点を強調している。OECDによれば、AIは物流や在庫管理、需要予測、通関手続きなどの高度化を通じて、サプライチェーンの効率性と柔軟性を高めることから、貿易コストの低減や供給網の再構成を促し、貿易構造に影響を与える。 本文に戻る
注2:
貿易統計においては、HSコードによる分類の制約上、用途による切り分けが不可能なため、必ずしもAIに関係しない品目も含まれる。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課 課長代理
吾郷 伊都子(あごう いつこ)
2006年、ジェトロ入構。経済分析部、海外調査部、公益社団法人日本経済研究センター出向(2011~2012年)、ジェトロ・クアラルンプール事務所(2021~2025年)を経て、2025年12月から現職。共著『メイド・イン・チャイナへの欧米流対抗策』(ジェトロ)、共著『FTAガイドブック2014』(ジェトロ)、編著『FTAの基礎と実践-賢く活用するための手引き-』(白水社)など。