高リスクが常態化する時代に、踏みとどまる自由貿易体制中東情勢下で見直されるエネルギー供給源
世界の脱炭素化動向(2)

2026年8月6日

中東情勢悪化によるホルムズ海峡封鎖や原油価格の高騰により、EVや再生可能エネルギー(再エネ)を含めたエネルギー分野でも、各国は戦略の見直しを迫られている。本稿では、中東情勢の悪化を受け、エネルギー安全保障への懸念が高まる中、供給源の多角化が図られる各国・地域のエネルギー投資戦略・政策動向を見ていく。

再エネ発電容量は増加傾向、太陽光が牽引

IEAのRenewables2025外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、世界の再エネの発電容量(累積)は2030年に約9,530GWに達する見込みだ(図1参照)。発電容量は増加傾向にあるものの、2025年から2030年にかけての発電容量の増加予測は、中国における固定価格制(FIT)から競争入札(オークション)制への移行や、米国の再エネ政策縮小などにより、前年の予測から5%下方修正されている。国・地域別では、中国が世界の容量増加の約6割を占め、欧州、アジア太平洋(中国除く)が続く。電源別では、太陽光発電が世界の再エネ発電容量の増加を牽引している。また、IEAのGlobal Energy Review 2026外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、2025年の世界のエネルギー供給増加において、太陽光発電は増加分の25%以上を占め、次点では天然ガスが17%を占めた。再エネが世界のエネルギー需要増加において最大のシェアを占めたのは、記録上初めてだという。

図1:世界の再エネ発電容量(累積)
2015年から2030年までの発電設備容量(GW)の推移を示す積み上げ棒グラフ。電源別の内訳は、太陽光、陸上風力、水力、洋上風力、バイオマス、その他。総設備容量は2015年の約2,000GWから一貫して増加し、2030年には約9,500GWに達する。増加の大部分は太陽光発電によるもので、特に2023年以降に大きく拡大する。陸上風力も着実に増加するが、規模は太陽光より小さい。水力は全期間を通じて比較的安定して推移し、洋上風力とバイオマスは小さい割合ながら徐々に増加する。

出所:IEA “Renewables 2025”からジェトロ作成

再エネ発電容量や関連投資は、近年の急拡大を経て、増加のペースには落ち着きもみられる(世界貿易投資報告(2026年版)第II章第2節(4)を参照)。発電部門全体に占める再エネへの投資の割合は大きいが、再エネ発電への投資額は、2024年以降は年々縮小傾向にある(図2参照)。太陽光パネルを中心とした技術コストの低下や、米中における政策変更が減少の一因となっている。

一方、発電容量の拡大に伴い、効率的な電力活用のため、投資における重要性が高まっているのが送電網や蓄電池だ。過去10年間成長が停滞していた送電網への投資は近年加速しており、2025年には約4,500億ドル、2026年には約5,400億ドルに達すると予想されている。

送電網への投資は、欧州、米国、中国のシェアが大きい。投資額の増加は、変圧器やケーブル、架空送電線などの設備に対するコスト圧力も一因となっている。また、再エネプロジェクトやデータセンターなどで、送電網の接続待ちという問題も発生している。こうした状態を解消するため、「ノンファーム型接続(注1)」や、発電プロジェクトの実現可能性や成熟度に基づいて電力系統への接続の優先順位を決める“first-ready, first-served”(注2)の導入などの対策も図られている。

蓄電池への投資額についても、2025年の約780億ドルから、2026年には1,000億ドルを超えると見込まれる。国別では、中国や米国、オーストラリアが成長を牽引している。特に米国では、中国からの非EVバッテリー輸入に高関税を課しているため、韓国メーカーへの依存度が高まっている。蓄電池の設置によって、太陽光発電や風力発電の余剰時(価格が低い時間帯)にエネルギーを貯蔵し、需要ピーク時に放電することで、電力価格と天然ガス価格の連動を切り離すことができる。このため、中東での不安定な情勢が続く中、エネルギー安全保障の観点から重要性が高まっている。

図2:世界の発電部門における投資額推移
2016年から2026年までの世界の電力分野への投資額の推移を示した図。再生可能エネルギーへの投資は2016年の3,540億ドルから2024年に6,980億ドルまで増加し、その後も高水準で推移している。送電網投資も3,220億ドルから2026年には5,410億ドルへ拡大する見込みである。蓄電池投資は同期間に10億ドルから1,060億ドルへ急増している。一方、化石燃料関連投資は減少傾向の後、2024年以降やや増加している。電力分野全体の投資額は2016年の9,050億ドルから2026年には1兆5,860億ドルに達する見通しである。

注:2026年の数値はIEAによる予測値。
出所:IEA “World Energy Investment 2026”からジェトロ作成

中東情勢下で供給源の多角化が進む

2026年以降のエネルギー危機を受け、再エネの導入拡大に加え、エネルギー供給源の多角化も進むと見込まれる。IEAの世界エネルギー投資報告2026年版外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによれば、世界のエネルギー投資は2026年に3兆4,000億ドル(予測値)に達する見通しだ。うち約2兆2,000億ドルはクリーンエネルギー技術(注3)に、残りの約1兆2,000億ドルは化石燃料(注4)に投じられるとの予測だ。エネルギー投資総額のうち、電力部門への投資は1兆5,000億ドルに上り、このうち再エネ発電への投資額が約6,650億ドルを占めると予想される。再エネ発電のうち半分以上が太陽光発電に投じられる見込みだ。

化石燃料では、石油投資は3年連続の減少が見込まれるのに対し、天然ガス投資は過去10年間で最高水準の3,300億ドルに達するとみられる。米国でのLNGプロジェクト増加が主因となっている。また、石炭への投資は1,800億ドルと予測され、2012年以来の最高水準が見込まれる。うち約70%を中国が占め、インドが続く。IEAは中東情勢を受け、アジアでは既存の石炭火力発電所の稼働期間を延長するため、石炭関連支出が加速する可能性があると指摘している。

こうした供給源多様化の動きは、各国の政策にも表れている。例えば米国では、再エネ市場への逆風が吹く一方で、一部の化石燃料への回帰もみられる。2025年7月に成立した「大きく美しい1つの法(OBBBA)」は、建設中の太陽光・風力発電施設への補助に制限を課した。具体的には、法案成立から12カ月以内の2026年7月までに建設を開始し、2027年12月末までに稼働する施設のみが補助の対象となる(2025年7月10日付ビジネス短信参照)。一方、人工知能(AI)やデータセンターの電力需要拡大により、ガス火力発電への投資も増加している。IEAによると、2025年の新規天然ガス火力発電所の受注は130GWとなり、25年ぶりの高水準を記録した。

2026年に入り、中東での紛争を受けて各国のエネルギー投資戦略には変化の動きもみられる(表参照)。例えば、燃料調達リスクが懸念されるインドネシアでは、ディーゼル発電の代替として、太陽光発電やBESS(Battery Energy Storage System:バッテリーエネルギー貯蔵システム)への転換を加速させている。エネルギー消費の6割を輸入化石燃料に依存しているフランスでも、石油やガスへの依存からの脱却を図るため、電気自動車の利用促進や家庭へのヒートポンプ導入を含む電化への公的支援額を、2030年まで年間100億ユーロへと倍増させた。

表:中東紛争を受けてエネルギー投資戦略を転換した例
国・地域 概要
インドネシア ディーゼル発電の代替として、太陽光発電とBESS(バッテリーエネルギー貯蔵システム)への転換を加速。
ベトナム 民間企業が計画中のLNG火力発電所建設を断念。代わりに太陽光・風力発電・蓄電池の関連プロジェクトを政府に提案。
フランス 石油・ガスへの依存脱却を目指し、電気自動車の普及促進や家庭向けヒートポンプ導入支援を含む2030年までの電化への公的支援を、年間100億ユーロへ倍増。
タイ 中東危機によるエネルギー価格高騰への対応として、総額122億ドル(4,000億バーツ)の緊急対策を実施。資金の半分を生活支援などの短期対策へ、残り半分をエネルギー転換(クリーンエネルギー・脱化石燃料)加速のために投入。

出所:IEA “World Energy Investment 2026”、報道などからジェトロ作成

今回のエネルギー危機以前には、パキスタンで2022年以降のLNG価格高騰や停電を受け、消費者主導で太陽光発電の導入が進められた例がある。その結果、2025年度のLNG火力発電量は2022年比で約40%低下した。これにより2026年2月までに、パキスタンは国内需要を満たすために必要な120億ドル以上の石油・ガス輸入を回避できたと試算されている(注5)

IEA外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが公開している政策データベースによると、各国・地域による今回のエネルギー危機への対応は、エネルギー節減やEV優遇などのエネルギー転換から、燃料税軽減などの消費者向け政策まで広範に及ぶ。供給リスクが顕在化する中、2022年のロシアによるウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機時と同様、こうしたエネルギー戦略の見直しが各国で進む可能性がある(各国・地域の最新動向は特集「エネルギー安全保障の確保にむけた世界各国・地域の動向」も参照されたい)。

中国が原子力発電導入もリード

エネルギー安全保障の要請が強まる中、供給源多様化を巡り、安定した低炭素電源の1つとして、一部の国では原子力発電を見直す動きもある。IEAによると、2026年の原子力発電への投資額は約800億ドルと見込まれる。IEAによれば、40カ国・地域以上が既に原子力発電の導入を支援する政策を策定している。

国際原子力機関(IAEA)(注6)によると、2026年5月26日時点で、世界で415基の原子力発電炉が稼働している(運転停止中を含む)。再エネだけでなく、原子力発電の導入でも中国が先行している。米国が94基を有し世界最多だが、新規建設中の原発は中国が最多の35基で、計画中の建設が完了すれば、中国は原発基数、発電容量とも世界トップの米国に並ぶ見込みだ(図3参照)。2026年7月に発表された中国の「第15次5カ年カーボンピークアウトアクションプラン」では、非化石エネルギーの開発に注力するとされ、原子力発電の稼働設備容量を約1億1,000万キロワットに引き上げることが盛り込まれている(2026年7月15日付ビジネス短信参照)。

図3:各国の原子力発電の稼働基数および新規建設基数
各国の原子力発電所の稼働基数、建設中の基数を示した表。世界全体では稼働中の原子炉が415基、建設中が73基となっている。中国は稼働中60基、建設中35基の計95基で世界最大の建設計画を有している。米国は稼働中94基で世界最多の運転中原子炉を保有する。フランス、ロシア、インド、韓国なども大規模な原子力発電設備を有している。日本は稼働中14基、建設中2基となっている。

注:2026年5月26日時点のデータ。稼働中の基数には、運転停止中の基数も含まれる。
出所:IAEA “The Database on Nuclear Power Reactors”からジェトロ作成

また、米国も2025年5月、原子力産業の活性化に向けた4本の大統領令を発表し、同国の原子力発電容量を2050年までに現在の約100GWから400GWまで拡大させる方針を打ち出した(2025年5月28日付ビジネス短信参照)。2026年6月には、米国エネルギー省(DOE)が、商用原子力サプライチェーン再構築に必要な長納期品の調達に向け、総額175億ドルを融資する計画を発表している。2030年までに10基の新規大型原子炉導入を目指すトランプ政権の原子力政策を支援する目的がある(2026年6月29日付ビジネス短信参照)。

従来の大型原子炉だけでなく、原子力の中でも関心が高まっているのが、小型モジュール炉(Small Modular Reactor:SMR)だ。小型化、モジュール化により、従来の大型原発に比べて建設期間やコストの削減が期待され、電力需要が大きいデータセンターへの併設も可能というメリットがある。

IEAによると、中国は既に陸上設置型SMRを稼働させ、ロシアも海洋型SMRを稼働させており、両国は商用SMRをもう1基ずつ建設している。このほか、米国、アルゼンチン、カナダでもSMRを建設しているほか、ウズベキスタンでも建設計画が進められている(注7)。IEAは、適切な政策の支援があれば、SMRが2040年までに世界の原子力発電容量全体の10%を占める可能性があると分析している。

EUでも、域内のSMR開発に注力する方針だ。2026年3月にエネルギー政策パッケージの一環として、SMRの開発と展開を支援する戦略を発表し、2030年代初頭までにSMRの実用化を目指している(2026年3月18日付ビジネス短信参照)。

エネルギー供給リスクが顕在化する中、中東地域以外でのエネルギー供給の強化や、再エネを含めたエネルギー転換など、供給国・需要国双方がリソースに応じた戦略の練り直しを進めている。エネルギー安全保障の観点から、今回の紛争を機に、エネルギー供給源や調達ルートの多様化が進んでいく可能性がある。


注1:
系統容量を完全には保証しない接続方式。混雑時は出力制御を受けるが、代わりに早期に接続を行うことができる。 本文に戻る
注2:
従来の申請の先着順(first-come, first-served)では、用地確保や資金手当てなど、プロジェクト自体の実現可能性まで考慮されておらず、接続待ち案件の停滞が問題となっていた(三菱総合研究所「海外における大規模需要の系統接続規律に関する動向PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(3.4MB)」より)。こうした問題を解消し、接続を効率化するため、欧州委員会は2025年に「効率的かつタイムリーな電力網接続に関するガイダンス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表し、成熟度の高いプロジェクトを優先的に接続するよう加盟国に推奨している。 本文に戻る
注3:
送電網、蓄電、低排出燃料、原子力、再生可能エネルギー、エネルギー効率化、電化を含む。 本文に戻る
注4:
石油、天然ガス、石炭を含む。 本文に戻る
注5:
Centre for Research on Energy and Clean Air(CREA) “The hedge that paid off: How Pakistan’s solar boom is shielding it from the Hormuz crisis外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます” (2026年3月17日)。 本文に戻る
注6:
IAEA “Power Reactor Information System(PRIS)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます”(2026年5月26日時点のデータに基づく)。 本文に戻る
注7:
日本原子力産業協会「世界の主なSMR建設・計画・検討状況PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.09MB)」(2026年5月)。 本文に戻る

世界の脱炭素化動向

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