高リスクが常態化する時代に、踏みとどまる自由貿易体制高まる重要鉱物の供給リスク(世界)
戦略的小規模鉱物への政策支援が今後のカギ
2026年8月6日
半導体、EV、蓄電池、防衛、宇宙などの戦略産業を支える重要鉱物を巡り、各国では供給網の強靱(きょうじん)化と産業基盤の構築に向けた取り組みが加速している。採掘の分散が進む一方で精錬・加工は特定国への集中が続いており、戦略的小規模鉱物への政策支援が供給源多様化の重要な手段として注目されている。本稿では、生産・精錬の動向や各国戦略、投資動向に加え、供給リスクの高い戦略的小規模鉱物の動向を整理する。
アフリカで目立つ鉱物採掘シェアの上昇
まず、重要鉱物の採掘シェアに焦点を当てて考察する。採掘シェアの変化を見ると、特定国への集中が一段と強まる鉱物がある一方、新興産地の勃興により採掘拠点の分散が進む鉱物もある。最大生産国の優位が一段と強まる一方、新興産地による供給拡大も同時に進んでいる。
表1に2020年から2025年にかけての採掘シェアを比較したものを示した。レアアース、ニッケル、コバルト、マンガン、ガリウムでは、もともとの最大生産国がさらにシェアを拡大し、既存の集中構造が一段と強まったと考えられる。特に、レアアースでは中国、ニッケルではインドネシアの存在感が増している。
一方、生産の分散の動きもみられる。リチウム、天然黒鉛、蛍石、銅、アンチモンでは、最大生産国のシェアが低下しており、生産地の分散が進む。その受け皿となった国・地域を見ると、リチウムでは中国やジンバブエ、天然黒鉛ではタンザニアやマダガスカル、蛍石ではモンゴルやメキシコ、銅ではコンゴ民主共和国やロシア、アンチモンではロシアやタジキスタンのシェア上昇が目立つ。
また、地域別に見るとアフリカ諸国の存在感が高まっている。アフリカで生産シェアが上昇した背景には、EVや蓄電池向け需要の拡大に加え、中国企業を中心とした資源開発投資の進展がある。コンゴ民主共和国では銅・コバルト、ジンバブエではリチウム、タンザニアやマダガスカルでは天然黒鉛など、それぞれシェアが上昇した。一方、資源国では採掘だけでなく、精錬・加工を国内に取り込み、付加価値を高めようとする政策も強まっており、詳細については後述する。
| 鉱物 | 最大生産国のシェア変化幅(pt)と生産シェア(%)/(ポイント,%) | 最大生産国以外でシェア上昇幅が大きい国・地域のシェア変化幅(pt)と生産シェア(%)/(ポイント,%) |
|---|---|---|
| レアアース |
中国 (+10.9pt, 69.2%) |
— |
| リチウム |
オーストラリア (△16.4pt, 31.7%) |
ジンバブエ(+9.1pt, 9.7%) 中国(+5.3pt, 21.4%) |
| ニッケル |
インドネシア (+36.3pt, 66.7%) |
— |
| コバルト |
コンゴ民主共和国 (+5.2pt, 74.2%) |
インドネシア(+13.4pt, 14.2%) |
| 天然黒鉛 |
中国 (△1.1pt, 77.8%) |
タンザニア(+4.2pt, 4.2%) マダガスカル(+2.3pt, 4.4%) |
| マンガン |
南アフリカ共和国 (+3.6pt, 38.0%) |
ガボン(+7.5pt, 25.0%) ガーナ(+6.6pt, 10.0%) |
| 蛍石 |
中国 (△5.5pt, 60.0%) |
モンゴル(+6.7pt, 15.0%) メキシコ(+3.9pt, 15.0%) |
| ガリウム |
中国 (+2.3pt, 99.0%) |
— |
| 銅 |
チリ (△4.8pt, 23.0%) |
コンゴ民主共和国(+6.1pt, 13.9%) ロシア(+1.7pt, 5.7%) |
| アンチモン |
中国 (△18.6pt, 36.4%) |
タジキスタン(+8.3pt, 20.0%) ロシア(+6.6pt, 29.1%) |
注1:カッコ内は、2020年から2025年にかけての世界生産シェア変化幅と、2025年時点の世界シェアを示す。
注2:太字は最大生産国のシェアが2020年から2025年にかけて増加した鉱物を示す。
注3:右列は2020年から2025年にかけてシェア上昇幅が大きかった国・地域を示す。カッコ内は、変化幅と2025年時点の生産シェア。
注4:「-」は最大生産国以外に顕著なシェア上昇がみられなかったことを示す。
出所:USGS, “Mineral Commodity Summaries 2022”, “Mineral Commodity Summaries 2026”を基にジェトロ作成
採掘の分散に対し、精錬・加工の集中は一段と進行
採掘段階では一部の鉱物で供給源の分散がみられる一方、精錬・加工段階では集中が続いている。IEAによると、レアアースを除く主要鉱物の最大精錬国の平均シェアは、2023年の70%から2025年には72%へ上昇した。また、2023年から2025年までの精錬済み供給の増加分の4分の3超を、ニッケルではインドネシア、その他の主要エネルギー鉱物では中国が占めた。さらに、マンガン、ニッケル、黒鉛では、供給増加のほぼ全量が最大供給国によるものだった(注1)。
レアアースは例外で、米国の新規案件やマレーシアでの増産により、2023年から2025年にかけて精錬段階の集中度がわずかに低下した。IEAは、この事例について、政策・投資支援が供給源の分散を可能にする役割を示すものと評価する。さらに、IEAが2035年までの公表済み案件を分析したところ、最大供給国以外では鉱山開発が増加する一方、精錬・加工や部素材の製造能力は採掘能力に追いついていない。レアアースでは、採掘案件が約5万トンの能力に達するのに対し、精錬・分離能力は4万トン未満、レアアース金属・合金・永久磁石の製造能力は合計約1万8,000トンにとどまる。リチウム、黒鉛、ニッケル、コバルトでも、同様に中流・下流工程の整備に遅れがみられる。
供給網の分散を目指し、各国で戦略策定の動き
中国による輸出管理の拡大や資源国による輸出管理措置の導入を受け、供給リスクは現実の経済安全保障上の課題へと変化しており、IEAは、供給集中に対する懸念が「理論上の脆弱(ぜいじゃく)性」から「現実の供給リスク」へ転換したと評価する。中国の輸出管理対象となる鉱物関連の関税品目数は2023年以降3倍に増えたほか、コンゴ民主共和国によるコバルトの輸出上限設定や、ジンバブエによるリチウム、モザンビークによる黒鉛の貿易制限など、自国内での付加価値創出を目的とした資源国による輸出規制も広がっている(表2)。アフリカにおける輸出管理と付加価値化の動きについては、2026年5月25日付地域・分析レポートを参照されたい。
| 品目 | 規制実施国 |
2025年 採掘シェア |
主な措置 |
|---|---|---|---|
| ボーキサイト | ギニア | 34% | ボーキサイト価格の下落を受け、価格下支えと国内投資促進を目的とした鉱山会社・プロジェクト別の輸出量管理を検討。 |
| コバルト | コンゴ民主共和国 | 66% | 2025年10月16日から企業別輸出割当制度へ移行。2026年の輸出上限を9万6,600トンに設定。 |
| 天然黒鉛 | モザンビーク | 4% |
政府は黒鉛の国内加工・付加価値化を推進し、2026年1月にニペペ黒鉛加工工場が稼働。 2026年6月の新鉱業法により、鉱物の国内加工を原則化し、未加工・半加工鉱物の輸出を大臣許可制とした。全鉱業案件には国の15%無償持分も求める。 |
| リチウム | ジンバブエ | 10% | 資源流出の防止と国内加工・付加価値化を目的とし、2026年2月、未加工鉱物の輸出を即時停止。 |
| マンガン | ガボン | 25% | 2029年1月1日から未加工マンガンの輸出を禁止。2028年末までを移行期間とし、鉱山事業者に国内設備の整備計画の提出を求める。 |
| ニッケル | フィリピン | 11% | 下院法案が未加工鉱石への段階的輸出税と2033年1月1日からの輸出禁止を提案中。 |
出所:各種報道、各国・地域政府資料、IEA“Global Critical Minerals Outlook 2026”からジェトロ作成
各国の戦略を比較すると、供給網強靱化の方向性は大きく4つに分類できる(表3)。第一に、オーストラリアやカナダなどの資源国では、採掘だけでなく精錬・加工能力を国内に整備し、鉱物資源の付加価値を国内に取り込むことを重視している。第二に、日本や韓国、ドイツなど資源輸入国では、調達先の多角化、リサイクル、備蓄などを通じて供給リスクの低減を図っている。第三に、同志国・友好国との国際連携を通じて、採掘から精錬・加工までを含むサプライチェーン全体を再構築する動きが強まっている。米国やEUが多国間の協力枠組みを主導する一方、二国間でも具体的な案件形成が進む。例えば、日本とフランスは2026年4月、「日仏重要鉱物協力ロードマップ」を策定し、レアアース分離・精製など重要鉱物分野での協力強化を打ち出した(注2)。また、両国はフランスのレアアース企業カレマグへの共同支援を進めており、フランス政府と日本のエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、岩谷産業が最大計2億1,600万ユーロを支援する。これにより、使用済み燃料電池などからレアアースを回収・リサイクルする工場が、フランス南西部で2027年初めに本格稼働する予定だ(注3)。第四に、インドやアフリカ資源国などでは、外資導入や加工能力整備を通じて供給国としての地位向上を目指している。
| 類型/国・地域例 | 戦略の重点 |
|---|---|
|
資源国・付加価値化型 オーストラリア、カナダ |
採掘に加え、精錬・加工、材料化まで国内に取り込み、資源から得られる付加価値を高める |
|
需要国・調達安定化型 英国、ドイツ、日本、韓国、EU |
域内での採掘・加工・リサイクル能力を数値目標で強化し、単一第三国依存を低減 |
|
同盟・友好国連携型 米国 |
国内供給網強化に加え、同盟国・友好国との投資、貿易、価格面での協調を重視 |
|
新興資源国・外資活用型 インド、アフリカ資源国など |
国内探査・開発、外資誘致、加工能力整備を通じて供給国としての地位向上を目指す |
注:一つの国・地域が複数の政策手段を組み合わせる場合がある。
出所:各国・地域政府資料、IEA“Critical Minerals Policy Tracker”からジェトロ作成
重要鉱物関連投資、中流・下流工程で大型案件
重要鉱物関連の代表的な大型投資案件を金額順に見ると、製錬・精錬、電池材料、EV向け素材など、採掘後の工程に関わる案件が上位に並ぶ(表4)。fDi Marketsに基づく2025年以降の発表案件では、最大案件は韓国の高麗亜鉛による米国での重要鉱物製錬・精錬案件で、投資額は74億ドルだった。同社がテネシー州クラークスビルに建設を予定する精錬所は、2029年に開業予定とされている(注4)。次いで、ノルウェーのビアノードによるカナダでの黒鉛系負極材案件、英国のベダンタ・リソーシズによるインドでの金属製造・EV向け素材案件が続く。
|
投資企業 (所在国) |
発表年月 | 投資先 |
金額 (億ドル) |
|---|---|---|---|
| 高麗亜鉛(韓国) | 2025年12月 | 米国(テネシー州) | 74.0 |
| ビアノード(ノルウェー) | 2025年11月 | カナダ(オンタリオ州) | 24.0 |
| ベダンタ・リソーシズ(英国) | 2025年9月 | インド | 14.2 |
注:2025年以降に発表された重要鉱物関連案件のうち、投資額上位3件を抜粋。
出所:fDi Markets(Financial Times)からジェトロ作成
戦略的小規模鉱物は市場が小さいが供給リスクは大
重要鉱物を巡る供給リスクは、EVや蓄電池に大量に使用される鉱物に限られない。IEAは、ガリウム、ゲルマニウム、アンチモン、インジウム、タングステンなど、世界市場規模が100億ドルを下回り、半導体、人工知能(AI)、航空宇宙、防衛などに不可欠な鉱物を「戦略的小規模鉱物」と位置付ける。IEAはこれらの鉱物について、供給国の集中度が高く、代替が困難なものも多いとし、ガリウム、磁石用のレアアース、イットリウム、黒鉛、タングステン、ゲルマニウムなどが特に高い供給リスクを抱えるとしている。
一方、多くは銅、亜鉛、鉛、アルミニウムなどの生産時に副産物として回収されるため、市場規模が比較的小さく、既存精錬所での回収率向上や少数の精錬案件への政策支援でも、供給源の分散に大きな効果をもたらす可能性がある。前述の高麗亜鉛が米国政府の支援を受けて計画する(表4)施設では、亜鉛(年産30万トン)や銅(同3万5,000トン)、鉛(同20万トン)、レアアース(同5,100トン)に加え、ガリウム(同54トン)、ゲルマニウム(同44トン)の生産を計画している(注5)。IEAは同施設について中国以外のゲルマニウム供給を約2倍、ガリウム供給を約5倍に拡大し得ると指摘している。
この分野では市場規模が小さく、価格変動も大きいことから、民間企業のみでは投資採算を確保しにくい特徴がある。一方、政策支援によって少数の案件を成立させれば、高麗亜鉛の事例のように比較的低コストで供給集中の緩和につながる可能性がある。今後、このような政策支援を伴う供給源多様化の取り組みが他地域にも広がるかが注目される。
- 注1:
-
IEA “Global Critical Minerals Outlook 2026
”(2026年7月16日付)。 - 注2:
-
経済産業省「赤澤経済産業大臣がフランス共和国のレスキュール経済・財務・産業主権・エネルギー主権・デジタル主権大臣と会談を行いました
」(2026年4月1日付)。 - 注3:
-
日本経済新聞「価格急騰のレアアース、日仏で2027年初めに生産開始 中国依存脱却へ
」(2026年6月22日付)。 - 注4:
-
ロイター「韓国の高麗亜鉛、米で74億ドルの精錬所建設へ トランプ氏が支援
」(2025年12月16日付)。 - 注5:
-
高麗亜鉛” U.S. Smelter Investment”
(1.63MB)(2026年1月付)。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部国際経済課
峯 裕一朗(みね ゆういちろう) - 2021年、ジェトロ入構。知的財産課、ジェトロ静岡などを経て、2025年4月から現職。





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