高リスクが常態化する時代に、踏みとどまる自由貿易体制AIの社会実装で活躍広がる半導体(世界)
AI時代の半導体産業(2)
2026年8月6日
生成AI(人工知能)の普及により、画像処理装置(GPU)や高帯域幅メモリー(HBM)への注目が集まっている。しかし、AIデータセンターを支える半導体はGPU・HBMを含むロジック半導体やメモリーだけではないことを連載1本目で確認した。実際に、各国・地域はそれぞれ強みを持つ半導体分野への投資も進めており、AI時代においても国際分業体制の重要性がうかがえる。さらに、AIの利用がデータセンターから端末やロボット、自動車などへ広がれば、求められる半導体の種類も変化する可能性がある。本稿では、各国・地域の製造能力や投資動向を整理するとともに、AIの社会実装が半導体産業にもたらす変化について考察する。
半導体製造はAI時代も国際分業体制が重要
AI需要はロジック半導体やメモリーへの投資を押し上げている。一方で、国・地域によって投資の比重は異なり、AI時代でも国際分業体制が維持されている。 2025年第4四半期時点のウエハー製造能力をファブ(工場)の所在国・地域別に見ると、ロジック半導体・メモリーは東アジアへの偏りが大きい(図1参照)。4カ国・地域(中国・台湾・韓国・日本)の製造能力はロジック半導体で77.8%、メモリーで93.9%に上る。中でも、ロジック半導体は台湾、メモリーは韓国がそれぞれ約4割のシェアを占める。一方、その他の半導体では4割を占める中国の製造能力が目立つが、米州、欧州・中東も含め比較的製造能力が分散している。その他の内訳については以下のとおり。
- ディスクリート半導体:炭化ケイ素(SiC)・窒化ガリウム(GaN)パワー半導体やトランジスタ、ダイオードなど、主に電力の変換・制御を担う単機能の半導体。中国が5割近いシェアを誇るが、日本(16.6%)や欧州・中東(14.9%)もそれぞれ15%前後のシェアを持つ。
- アナログ半導体:オペアンプやデータコンバーターなど、信号処理向けのアナログIC(集積回路)に加え、電源管理IC(PMIC)やドライバーIC、電圧レギュレータなどのパワーマネジメント分野も含まれる。最も製造能力シェアが広く分散している。
- オプトエレクトロニクス:CMOSイメージセンサーやLED、レーザーダイオードなど、光を利用して情報の取得・送受信を行う半導体。中国(44.8%)と日本(24.3%)で7割弱を占める。
- MEMS(Micro Electro Mechanical Systems):加速度センサー、ジャイロセンサー、圧力センサー、MEMSマイクなど、微小な機械構造を半導体上に形成したセンサー・デバイス。米州(30.5%)と日本(23.9%)で5割を超える。
注1:SEMIの2026年第2四半期時点の予測データに基づく。
注2:製品タイプの分類はSEMIの「Product Type 2」による。「その他」にはディスクリート、アナログ、オプトエレクトロニクス、MEMSに分類されない製品もあるが、世界全体での製造能力が限られるため掲載していない。
注3:200mm(ミリメートル)ウエハー換算の月産製造能力。2025年第4四半期時点。
出所:SEMI(World Fab Forecast, 2Q26 Update)のデータを基にジェトロ作成
これを踏まえ、国・地域別の設備投資動向(前工程)に着目する。ファブは建設から量産まで数年を要するため、現在の設備投資は各国・地域や企業が数年先の需要をどう見通しているかを映す先行指標ともいえる。
2025~2027年の設備投資額について製品タイプ別に見ると、世界全体では77.8%がロジック半導体とメモリー向けとなる予測だ(図2参照)。台湾・韓国ではこれらに対する設備投資が95%超を占め、AIデータセンター向けGPU・HBM需要の急増を反映しているとみられる。台湾ではロジック半導体、韓国ではメモリーを引き続き重点領域に置いていることがうかがえる。
他方、中国や日本、欧州・中東などでは、ロジック半導体やメモリー以外の領域にも一定規模の投資が行われている。中国はアナログ半導体(22.3%)、ディスクリート半導体(8.9%)、オプトエレクトロニクス(5.7%)など、幅広い半導体に投資している。
日本もロジック半導体・メモリーが中心である一方、ディスクリート半導体(11.0%)やオプトエレクトロニクス(10.5%)のシェアがそれぞれ1割を超える見込みだ。ロームや三菱電機などによるSiCパワー半導体の生産能力増強に加え、ソニーセミコンダクタソリューションズによるCMOSイメージセンサーの増産投資などが進んでいる。
欧州・中東やその他アジア・太平洋では、アナログ半導体のシェアが3~4割台に上る。最大級の案件は、ドイツのインフィニオン・テクノロジーズ(インフィニオン)によるドイツ国内への投資だ。インフィニオンは50億ユーロをかけてドレスデンに「スマート・パワー・ファブ」を新設した(2026年7月16日付ビジネス短信参照)。パワー半導体およびアナログ/ミックスドシグナル技術(注1)を組み合わせ、AIデータセンターや自動車分野、再生可能エネルギー設備などに使用される半導体を製造する。
アジアでは、シンガポールでVSMC(注2)やグローバルファウンドリーズがアナログ/ミックスドシグナル向けファブへの投資を進めている。インドでも、タタ・エレクトロニクスがアナログ・ロジック半導体の生産に対応するファブを建設している。 なお、米州ではロジック半導体が6割強と最大だ。これは主に、米国で進行している大手ファウンドリー/IDM(注3)による大型投資案件を反映しているとみられる。米国ではCHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)に基づく巨額の助成金を受け、ロジック半導体分野ではサムスンやインテル、TSMCがファブの新設・増強を進めてきた。他方、足元ではSiCパワー半導体やパワーモジュール、光通信用フォトニクスデバイスなどの製造・研究開発を手掛ける企業に対するCHIPSプラス法による助成の発表が相次いでおり(注4)、より幅広い分野に投資が拡大する可能性がある。
注1:SEMIの2026年第2四半期時点の予測データに基づく。
注2:製品タイプの分類はSEMIの「Product Type 2」による。
出所:SEMI(World Fab Forecast, 2Q26 Update)のデータを基にジェトロ作成
このように、AI需要の拡大を背景に、世界の半導体投資はロジック半導体やメモリーを中心に拡大している。しかし、製造能力や設備投資の内訳を見ると、各国・地域は必ずしも競合しているわけではない。台湾はロジック半導体、韓国はメモリー、欧州はアナログ半導体やパワーマネジメント分野、日本はディスクリート半導体やオプトエレクトロニクスなど、それぞれが強みを持つ分野を軸に投資を進めている。こうした構造は、AI時代においても半導体産業が高度な国際分業体制の上に成り立っていることをあらためて示している(注5)。
本連載(1)で見たとおり、AIアクセラレーター(注6)だけではAIシステムは成立せず、通信、センシング、電力制御など多様な技術が不可欠だ。また、それらの技術や製造能力は特定の国・地域に集中しているのではなく、それぞれ異なる強みとして世界各地に分散している。AIの普及は特定分野への集中を促す一方、多様な半導体技術への依存も強めており、各国・地域の相互補完関係は今後も重要であり続けると考えられる。
「エッジAI」で拡張する半導体産業
現在のAI需要は主としてデータセンター向けだが、AIの利用が端末側や現実世界へ広がれば、求められる半導体の種類も変化する可能性がある。昨今、生成AIを組み込んだソフトウエアやAIエージェント(注7)、自動運転支援、産業用ロボットなど、AIを活用した製品・サービスが増加している。これらの分野では、スマホやパソコン、自動車、監視カメラ、産業ロボットなど、利用者や機器の近くに配置された端末やサーバー側でAI処理を行う「エッジAI」が主流となる。
これに伴い、AIモデルの学習だけでなく、学習済みAIモデルを利用して新たなデータの予測・判断を行う「推論」処理の重要性が高まっている。学習や大規模な推論処理の多くは引き続きデータセンターで実行される一方、エッジAIでは学習済みモデルを端末側で実行し、利用者の要求や周囲の状況に応じてリアルタイムに回答や判断を行う必要がある。こうした推論処理はスマホや自動車、ロボットなどの端末・機器上で継続的に実行されることが多く、学習以上に低消費電力・低コスト・低遅延が重視される。
そのため、学習や大規模推論を支えるGPUに対する需要増は継続するとみられるが、AI機能がさまざまな製品へ組み込まれることで、推論に特化した専用AIアクセラレーター(ASIC)や電源・センシング関連の半導体に対する需要も拡大すると考えられる。既に、グーグルのTPU、アマゾンのトレニアム(Trainium)、メタのMTIAといった、独自開発のAI向けASICが登場している。
背景には、GPUが学習から推論まで幅広いAI処理に対応できる汎用(はんよう)性を持つ一方、特定用途の推論処理では、消費電力やコストの面で必ずしも最適とは限らないという事情がある。ASICはGPUを完全に置き換えるものではないが、特定用途ではGPUよりも高い電力効率やコスト競争力を発揮する場合がある。AIの用途が多様化するほど、半導体メーカーだけでなく、クラウド事業者や自動車メーカーなどのアプリケーション企業側が独自チップを開発する動きが強まるとみられる。
多様な半導体がAIと物理世界をつなぐ
AI市場の次の成長段階として注目されるのが、「フィジカルAI」だ。フィジカルAIとは物理的な環境と相互作用しながら動作するAIを指し、ロボットや自動運転車など、幅広い領域への実装が見込まれる。フィジカルAIでは、AIが「考える」だけでなく、現実の物理空間を自律的に認識し、行動することが求められる。そのため、「見る」「感じる」「動かす」といった機能・役割を持つ半導体の重要性が一段と高まる。具体的には、画像センサーやLiDAR(注8)、モーター制御用パワー半導体などが挙げられる。ロジック・メモリー以外の半導体にも活躍の機会が広がるといえ、日本をはじめ、センサーやパワー半導体などに強みを持つ企業・地域の戦略的重要性が高まる可能性がある。
また、フィジカルAIには多様な半導体技術だけでなく、それらを統合するエコシステムの構築も重要となる。ロボットや自動運転車は、センサーで周囲の環境を認識し、AIアクセラレーターで推論を行い、その結果をモーターや機械制御に反映する必要がある。このため、半導体メーカーだけでなく、自動車メーカーやロボットメーカー、産業機器メーカー、ソフトウエア企業など、幅広い企業の連携が求められる。
エコシステム形成を積極的に進めている企業の1つがエヌビディアだ。同社はGPU設計企業の枠を超え、日本企業を含む幅広い自動車メーカーや産業機器メーカー、ソフトウエア企業との協業・連携を拡大している。半導体の供給にとどまらず、AIモデルの学習・推論、シミュレーション環境、ロボット制御、デジタルツインまでを包含する、フィジカルAI向けの包括的な開発・運用基盤の構築を目指しているとみられる。
AI時代の競争力を左右する産業エコシステム
本連載で見てきたように、AI需要の拡大はGPUやHBMへの投資を加速させている。しかし、AIの利用がデータセンターから端末、ロボット、自動車などへ広がるにつれ、求められる半導体も多様化していく可能性が高い。今後は特定の先端半導体だけではなく、センシングや電力制御、通信などを支える幅広い半導体技術の重要性も高まるだろう。AI時代においても半導体産業は一国や一企業のみで完結するものではなく、多様な技術と地域が支える国際分業構造の重要性はむしろ高まると考えられる。
また、エッジAIやフィジカルAIの普及が進めば、競争の焦点は半導体単体の性能や製造能力だけでなく、それを活用する産業との結び付きにも広がる可能性がある。ロボットや自動車などの分野では、AI、半導体、ソフトウエア、最終製品を一体的に開発・実装できるエコシステムが競争力を左右すると考えられる。その意味で、AI時代の競争力は半導体産業単独では測れず、関連産業を含めた幅広い産業基盤によって規定される側面が強まるだろう。
- 注1:
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アナログ/ミックスドシグナル技術とは、電圧や電流などのアナログ信号とデジタル信号を処理する半導体技術。電源管理ICやセンサーインターフェース、自動車・産業機器向け制御回路などに広く用いられる。
- 注2:
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VSMC(ビジョンパワー・セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)は、台湾の世界先進積体電路(バンガード・インターナショナル・セミコンダクター、VIS)とオランダの半導体製造会社NXPセミコンダクターズの合弁会社。
- 注3:
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垂直統合型デバイスメーカー。半導体の開発・設計から製造、販売までの全工程を自社で一貫して行う。
- 注4:
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2026年6月9日付、6月19日付、7月16日付ビジネス短信参照。
- 注5:
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半導体産業の国際分業体制については2026年5月20日付地域・分析レポート参照。
- 注6:
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AIの処理を高速化するために開発された専用ハードウエアを一般に「AIアクセラレーター」と呼ぶ。GPUベースのものやASICを用いるものなどがあり、高性能品では演算用ロジックとHBMなどの高速メモリーを単一パッケージ内で高密度に接続する構成が主流となっている。
- 注7:
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AIエージェントとは、ユーザーの指示に基づいて情報収集や分析、ソフトウエア操作などのタスクを自律的に実行するAIシステム。
- 注8:
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LiDAR(Light Detection and Ranging)は、レーザー光を照射して対象物までの距離や形状を測定するセンサー。自動運転車やロボットの周辺環境認識に利用される。
AI時代の半導体産業
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- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部国際経済課
宮島 菫(みやじま すみれ) - 2022年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2023年6月から現職。





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