高リスクが常態化する時代に、踏みとどまる自由貿易体制AI向け半導体の「主役」に迫る(世界)
AI時代の半導体産業(1)

2026年8月6日

生成AI(人工知能)の急速な普及を背景に、半導体産業はかつてない活況を迎えている。AIモデルの学習や推論に不可欠な画像処理装置(GPU)や、高速データ処理を可能にする高帯域幅メモリー(HBM)の需要が急増し、これらを供給する企業が世界の半導体市場を牽引している。GPUの設計を手掛ける米国エヌビディアの急成長に加え、GPU・HBMの製造を手掛ける企業による大規模投資が相次ぎ、「AI時代の主役はGPUとHBM」とも見て取れる。しかし、AIインフラの競争力はこれらだけで決まるものではない。通信や電源、冷却、監視・管理などの担う幅広い半導体技術も、AIシステムを支える上で重要な役割を果たしている。今後、AIの利用がデータセンターから端末や現実世界へ広がるにつれ、求められる半導体の種類や重要性も変化していく可能性がある。本連載では、その変化を見据えながら、AI時代の半導体産業の構造を考察する。まず本稿では、現在のAI需要を支えるデータセンター向け市場の構造を整理する。

AIが変えた半導体産業の重心

生成AIの急速な普及は、半導体産業の需要構造を大きく変えつつある。従来はスマホやPCが市場を牽引してきたが、現在はAIデータセンター向け投資が成長の中心となっている(注1)。従来のデータセンター向け半導体は、中央演算処理装置(CPU)が中心だった。しかし、大規模言語モデル(LLM)の学習には膨大な並列演算能力が必要となることから、多数の演算処理を同時に実行できるGPUが中核を担うようになった。

もっとも、AI処理の性能は演算能力だけで決まるわけではない。生成AIの学習や推論では、膨大なデータをメモリーから演算装置へ絶えず供給する必要があり、データ転送速度が不足するとGPUが十分に稼働できなくなる。このため、大量のデータを高速でやり取りできるHBMへの需要が急速に拡大した。

また、GPUとHBMの間で大量のデータを高速かつ低消費電力でやり取りするためには、両者をできるだけ近接して実装する必要がある。図1の左上は、GPUの周囲を複数のHBMが取り囲む構成イメージを示している。厳密には、GPUの中で実際に演算を行うコア部分(ロジックダイ)と複数のHBMが基板上に実装され、単一のパッケージとして統合されるかたちだ。複数のダイとメモリーを高密度に接続する「先端パッケージング」技術は、単一のダイをパッケージに実装するだけの従来の手法とは区別される。GPUとHBMの高密度な接続を実現する先端パッケージング技術の1つが、TSMCの「CoWoS(Chip on Wafer on Substrate)」だ。先端パッケージングにはさまざまな種類があるが、CoWoSはAI向け半導体で広く採用されている代表例といえる。図1の右側で、CoWoSの中でもパッケージング基板との接続にシリコンインターポーザーを介する「CoWoS-S」の例を示している。

図1:CoWoS-S技術を用いたGPUとHBMの構造(概略図)

図1:PDF版を見るPDFファイル(293KB)

CoWoS-S技術を用いたAIアクセラレーターの構造を示す概略図である。上から見た図では、中央のGPUロジックダイの周囲を複数のHBMが取り囲み、全体がCoWoS-Sパッケージ上に実装されている。横から見た断面図では、GPUロジックダイとHBMがシリコンインターポーザー上に配置され、HBM内部ではシリコン貫通電極(TSV)によって複数のDRAMダイが積層接続されていることを示す。パッケージ基板の上にシリコンインターポーザー、その上にGPUロジックダイとHBMを搭載する先端パッケージング構造を表している。

注:「ダイ」とは、半導体ウエハーを切り出して得られる個々のチップ(半導体素子)のこと。パッケージに実装される前の状態を指す。
出所:TSMCウェブサイト、各種情報からジェトロ作成

このような構成は、AIの処理を高速化するために開発された「AIアクセラレーター」の代表例だ。GPUを用いる方式のほか、特定用途向け集積回路(ASIC)や、電子回路を製造後に再構成できるFPGA(Field Programmable Gate Array)を用いる方式もあるが、現在のデータセンター市場ではGPUベースの製品が主流となっている。国際データセンター機関(IDCA)によると、データセンター向けAIアクセラレーターの台数シェアは、エヌビディアが90%を占め、続く米AMD(6%)を大きく引き離している(注3)

こうした主力製品に搭載されるGPUの製造はファウンドリーが請け負うが、中でもTSMCの存在感は極めて大きい。ロジックダイの製造にTSMCの先端ロジックプロセスが活用されるほか、前述したCoWoSを含む先端パッケージング技術も有しており、前工程から後工程まで幅広い技術基盤を有することが同社の強みだ。HBMに関しても、複数のDRAM(短期記憶用のメモリー)ダイを積層し、TSV(Through Silicon Via)と呼ばれる貫通電極で接続する高度な製造技術が求められる。現在、HBMの量産で十分な供給能力を有するのは、韓国のSKハイニックスおよびサムスン電子(以下、サムスン)、米国のマイクロン・テクノロジー(以下、マイクロン)の3社だ。2026年第1四半期の売上高シェアは、SKハイニックスが58%、サムスンとマイクロンがそれぞれ21%だった(注4)

このように、GPUは限られた企業しか設計・製造できないことから、その供給はTSMCを中心とする先端ロジック・パッケージング能力と、HBM大手3社の供給能力に大きく左右される。こうした供給制約は、生成AI市場全体のボトルネックにもなり得る。そこで、各社は世界各地で製造拠点を新設・増強している。2026年6月から7月にかけて、巨額投資の発表が相次いだ(表1参照)。TSMCは台湾を最先端のロジック量産およびパッケージング拠点として維持・拡大しつつ、米国アリゾナ州にもその機能を振り向けつつある。SKハイニックスとサムスンは韓国内での地方への拠点分散、マイクロンは米国内のエコシステム強化を投資の中核に置く。もっとも、現在のAIデータセンター向け市場ではGPUとHBMが注目されるが、それだけでAIインフラが成立するわけではない。通信や電源、冷却などを支える半導体技術も不可欠であり、次節でその構成を整理する。

表1:2026年6~7月に発表された半導体関連の大型投資案件
企業 内容 発表日
SKハイニックス/サムスン 韓国南西部に4つのメモリーファブ(サムスンが2つ、SKハイニックスが2つ)を建設し、協力企業や人材を含むエコシステムを形成する。総投資額は800兆ウォン(5,000億ドル超)に達する見込み。また、中部地域には81兆ウォン(500億ドル超)を投じ、先端パッケージング拠点を整備する。 6月29日
マイクロン 2025年までに発表していた米国内への投資総額(2,000億ドル)を引き上げ、2035年までに2,500億ドル超を投資するとした。投資の中核はニューヨーク州に建設中のDRAMファブで、DRAM製造の40%を米国で行うことを目指す。さらに、米国内の半導体エコシステム強化に30億ドルを投じ、うち5億ドルで台湾グローバルウェーハズのテキサス州拠点拡張を支援する。 7月9日
TSMC 2025年までに1,650億ドルの投資を発表していた米国アリゾナ州の拠点について、1,000億ドルの追加投資を行う。既に建設中または計画中の8つの施設に加え、さらに4つの施設(先端ファブおよびパッケージング施設)を建設する見通し。 7月16日

出所:韓国政府発表資料、マイクロンのプレス発表、ジェトロビジネス短信、各種報道からジェトロ作成

AIデータセンターを支える幅広い半導体

米国半導体工業会(SIA)とデロイトのレポートによると、AIデータセンターのサーバーラック1台につき、半導体価値(コスト)の約74%をAIアクセラレーターが占める。並列演算というサーバーの中核的機能を担うことに加え、前述のとおり高度な設計・製造プロセスを必要とするため、コストが集中する。その意味で、現在のAIデータセンターにおける半導体の「主役」はGPUとHBMを中核とするAIアクセラレーターといえる。もっとも、AIサーバーには演算以外にも、通信、電源供給、データ保存、監視・管理など多様な機能が求められ、AIアクセラレーターだけでは動かない。標準的な産業向けAIサーバーの構成要素(コンポーネント)は多岐にわたり、それぞれが計算・記憶・通信・電力供給・監視といった異なる役割を担っている(表2参照)。

表2:AIサーバーラックの構成要素注:小数点以下の処理の関係で、半導体価値シェアを合計しても100%とならない。
構成要素(コンポーネント) 主な機能 AIサーバーラック1台に占める半導体価値シェア
AIアクセラレーター AI学習や推論の膨大な行列演算 74%
CPU サーバー全体の制御、タスク管理 8%
揮発性メモリー CPUやDPUが利用するメインメモリー(短期記憶) 5%
通信・接続コンポーネント サーバー間やAIアクセラレーター間の高速通信 5%
電源・冷却コンポーネント 電力供給、熱管理 3%
DPU(データ処理ユニット) ネットワーク通信、ストレージアクセス、セキュリティ処理など 2%
不揮発性ストレージ 学習データやAIモデルの長期間保存(ストレージ) 1%
システム統合・管理 サーバー監視・管理・セキュリティ 1%未満

注:小数点以下の処理の関係で、半導体価値シェアを合計しても100%とならない。

出所:SIA, Deloitte “Powering AI: The Semiconductor Ecosystem at the Foundation of Data Centers”

各構成要素のさらに内部を見ると、使用される半導体技術の種類はさまざまだ(図2参照)。AIアクセラレーターではロジック半導体(70%)およびメモリー(20%)で9割を占めるが、そのほとんどがGPUとHBMで構成されるとみられる。また、CPUではロジック半導体、揮発性メモリーや不揮発性ストレージではDRAMやNAND(長期記憶用)などのメモリーが半導体価値の大半を占める。全体として、ロジック半導体とメモリーを合わせると、AIサーバーラックにおける半導体価値の85%以上に達する。

一方、通信・接続コンポーネントでは、PHY(通信信号を送受信する回路)やSerDes(高速通信用の信号変換回路)などの信号系半導体が大きな割合を占めており、AIアクセラレーターやサーバー間で大量のデータを高速にやり取りする役割を担う。また、電源・冷却コンポーネントでは、電源管理集積回路(PMIC)や電圧レギュレータ、窒化ガリウム(GaN)・炭化ケイ素(SiC)パワー半導体などの電源系半導体に加え、温度や電流を監視するセンサーも重要な役割を果たしている。これらの半導体は個々の単価こそ低いものの、特にメガワット級の電力密度を持つ高密度実装ラックでは、電圧安定性や信号品質(シグナルインテグリティ)、熱制御を維持する上で欠かせない。

図2:AIサーバーラックの構成要素別半導体技術の価値シェア
AIサーバーラックを構成する要素ごとに、半導体技術分野別の価値シェアを示した図である。各構成要素の内訳は以下のとおり。AIアクセラレーターはロジック70%、メモリー20%、信号3%、部品・パッケージ7%。CPUはロジック90%、部品・パッケージ10%。揮発性メモリーはメモリー85%、電源6%、信号7%、センサー2%。通信・接続コンポーネントはロジック44%、メモリー4%、電源7%、信号39%、部品・パッケージ6%。電源・冷却コンポーネントはロジック8%、電源33%、信号2%、センサー14%、部品・パッケージ43%。DPUはロジック66%、メモリー16%、電源6%、信号8%、部品・パッケージ3%。不揮発性ストレージはロジック15%、メモリー81%、電源2%、部品・パッケージ2%。システム統合・管理はロジック57%、メモリー11%、電源11%、信号10%、センサー3%、部品・パッケージ8%。

注1:AIサーバーラックの構成要素の詳細は表2参照。
注2:各構成要素における半導体技術別の価値シェアを表す。
注3:「部品・パッケージ」は半導体そのものではないが、チップを実装・接続・動作させるために必要な部材や実装技術を指す。
出所:SIA, Deloitte “Powering AI: The Semiconductor Ecosystem at the Foundation of Data Centers”

このように、AIデータセンターにかかる半導体コストの大半はロジック半導体とメモリーに集中しており、その中核はGPUとHBMだ。これらがAI需要を牽引する「主役」といえる一方、その性能を支えるためには通信、電源、冷却、監視・管理など幅広い半導体技術が不可欠だ。なお、図2の分類は半導体の機能別であり、一般的な製品分類に基づくと、通信や電源の領域にはアナログ半導体やSiC・GaNパワー半導体を含むディスクリート半導体、センシングの領域にはオプトエレクトロニクスやMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)などが幅広く利用される(注5)。総じて、AIインフラの競争力は特定の先端チップだけで決まるものではなく、多様な半導体が相互に補完しながら機能している。

もっとも、本稿は現在のAI需要の中心であるデータセンター向けを前提に分析してきた。今後、AIの利用が端末側や現実世界へ広がれば、求められる半導体の種類や重要性も変化する可能性がある。連載2本目では、各国・地域の半導体投資や製造能力の動向を踏まえながら、AIの社会実装が進むことで半導体産業はどう変化するのかを考察する。


注1:
ジェトロ世界貿易投資報告 2026年版」第2章第2節(2)「世界の半導体関連投資・産業動向」参照。 本文に戻る
注2:
高性能品では、演算用ロジックとHBMなどの高速メモリーを高密度に接続した構成が広く採用されている。 本文に戻る
注3:
IDCA “Global Artificial Intelligence Report(2025)”(2025年6月2日)。 本文に戻る
注4:
Counterpoint Research “Global DRAM and HBM Market Share: Quarterly外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます”(2026年6月9日付)。 本文に戻る
注5:
それぞれの機能と製品分野は以下のとおり。
  • アナログ半導体:電圧や電流など連続的に変化する信号を処理する半導体。増幅器(アンプ)や電源制御・センサー制御用集積回路などに用いられる。
  • ディスクリート半導体:電流や電力を制御するための個別半導体部品。ダイオードやパワー半導体などが含まれ、自動車や電源機器で広く利用される。
  • オプトエレクトロニクス:光と電気の相互変換や制御を行う技術・デバイス分野。LED、レーザーダイオード、フォトダイオード、光センサーなどが含まれる。
  • MEMS:半導体製造技術を用いて作られる微小な機械構造と電子回路を一体化したデバイス。加速度センサー、ジャイロセンサー、マイクロフォンなどに利用される。本文に戻る

AI時代の半導体産業

執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
宮島 菫(みやじま すみれ)
2022年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2023年6月から現職。