高リスクが常態化する時代に、踏みとどまる自由貿易体制宇宙産業は民間参入が主流に(世界)
強みを生かし参入を目指す各国と企業
2026年8月25日
宇宙分野は、政府主導から民間企業が製品やサービスを展開する成長市場へと変わりつつある。米国企業が市場を牽引する一方、各国や企業では、宇宙産業全体を自前で構築するのではなく、競争優位を持つ分野に特化し、国際的なサプライチェーンの中で役割を担おうとする動きが広がっている。本稿では、拡大する宇宙経済の全体像と各国の産業育成策を概観し、企業事例から日本企業の参入機会を探る。
宇宙経済は2035年には1.8兆ドル規模へ
ロケットや衛星などのハードウエアを中心とした従来型の宇宙開発に加え、通信、測位、地球観測、防災、農業、金融、安全保障など、地上の幅広い産業や社会インフラを支える基盤産業を含めた「宇宙」関連産業の経済(以下、宇宙経済)は、拡大傾向にある。世界経済フォーラム(WEF)と米マッキンゼーの共同レポートによれば、世界の宇宙経済は2023年の6,300億ドルから2035年には1兆8,000億ドルへ拡大し、年平均9%と世界の国内総生産(GDP)成長率の約2倍のペースで成長する見通しだ(注1)。
同レポートは宇宙経済を、ロケット、衛星、地上設備など、宇宙空間へのアクセスや宇宙システムの運用を直接支える「バックボーン」と、宇宙技術や衛星データを地上の産業・サービスに活用する「リーチ」に分類する。特にリーチ領域は、2023年の3,000億ドルから2035年には約3.5倍の1兆350億ドルへ拡大し、バックボーン領域を上回る成長が予測されている(図参照)。こうした宇宙経済の成長は、ロケットや衛星を製造する企業だけでなく、衛星通信や位置情報、地球観測データなどを既存事業に組み込む企業にも商機を広げることになるとされる。2035年までの成長を牽引する分野としては、サプライチェーン・輸送、食品・飲料、防衛、小売り・消費財、デジタル通信が挙げられている。
出所:世界経済フォーラム、マッキンゼー報告書からジェトロ作成
先行する米国企業の動向
市場が拡大する一方、その成長を支える打ち上げ需要や衛星配備では米国企業の存在感が際立っている。米宇宙産業調査会社ブライステックによれば、2025年の軌道打ち上げは世界全体で325回と、前年から約25%増加した。このうち米国の打ち上げ事業者によるものは193回と、世界全体の約59%を占めた。また、同年に打ち上げられた宇宙機(注2)は前年比約54%増の4,544機に達し、そのうち85%を米民間宇宙開発会社スペースXが軌道上へ輸送した(注3)。
宇宙機の用途では通信衛星が83%を占めており、多数の小型衛星を地球低軌道(LEO)に配置して一体的に運用する「メガコンステレーション」が、打ち上げ回数と宇宙機数の双方を押し上げている。スペースXは、再利用型ロケットによる高頻度の打ち上げと、衛星通信サービス「スターリンク」の大規模展開を組み合わせ、打ち上げから衛星製造、通信サービスまでを垂直的に統合しているのが特徴だ。
資金調達面でも米国企業への集中がみられる。スペースXは2026年6月に過去最大規模の新規株式公開(IPO)を実施し、857億ドルを調達した。また、英宇宙投資会社セラフィム・スペースによると、2026年第1四半期の世界の宇宙関連技術への投資額は約80億ドルと、同社の四半期統計上で過去最高を記録した。こうした中、2025年第1四半期から2026年第1四半期までの主要資金調達案件では、米国企業が上位を占めている(注4)(表参照)。
| 順位 | 企業名 | 国名 | 時期 | 事業内容 | ステージ |
調達金額 (億ドル) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | サロニック | 米国 | 2026年1~3月 | 衛星通信を利用した無人水上艇の開発 | シリーズD+ | 17.5 |
| 2 | ストークスペース | 米国 | 2025年10月~ 2026年3月 | 再利用可能なロケットの開発 | シリーズD+ | 8.6 |
| 3 |
星際栄耀 (iSpace) |
中国 | 2026年1~3月 | 再利用可能なロケットの開発 | シリーズD+ | 7.3 |
| 4 | シエラスペース | 米国 | 2026年1~3月 | 宇宙ステーション | シリーズC | 5.5 |
| 5 | アクシオムスペース | 米国 | 2026年1~3月 | 宇宙ステーション | シリーズD+ | 3.5 |
注1:2025年第1四半期~2026年第1四半期までに確認された宇宙関連企業の外部資金調達案件を対象とするランキングであり、企業規模や累計調達額の順位ではない。
注2:「ステージ」は資金調達ラウンドを示す。「シリーズC」「シリーズD」は、スタートアップが成長段階に応じて実施する資金調達の区分。「D+」はシリーズD以降の資金調達ラウンドを示す。
注3:ストークスペースの調達額は、複数回の資金調達を合算。
出所:Seraphim Space Index Q1 2025~Q1 2026、各種報道からジェトロ作成
各国は自国の強みを生かした宇宙産業育成を推進
こうした中、各国は米国と同様の宇宙産業を一から構築するのではなく、自国が競争力を持つ分野を選び参入しようとしている。英調査メディアfDi Intelligenceも、宇宙産業新興国にとっては、ロケット、衛星、地上設備、データ利用などを全て国内で整備するよりも、地理的条件、既存産業、人材、制度などの強みを生かせる分野を特定することが重要だと指摘する(注5)。こうした中、地理的条件を強みとする国の例として、エクアドルやニュージーランドが挙げられる。赤道に近いエクアドルは、地球の自転速度を利用して打ち上げ時の燃料消費を抑え、搭載量を増やせる可能性を生かし、2030年の運用開始を目指して宇宙港の整備を進めている。ニュージーランドは、人口密度が低く、空域の混雑が比較的少ないという条件に加え、打ち上げ実績や柔軟な規制環境を生かして、宇宙・先端航空分野の研究開発、飛行試験、打ち上げ、衛星データ利用を一体的に育成する方針を示している。同国政府は2030年までに宇宙・先端航空産業の規模を倍増させることを目標としている(注6)。
制度と投資誘致を軸に据える国もある。UAEは国内に複数の宇宙経済特区を設け、事業スペース、試験設備、資金調達、アクセラレーション・プログラムなどを組み合わせて、国内外のスタートアップや中小企業を誘致している(注7)。インド政府は2023年に策定した宇宙政策で、衛星製造、打ち上げ、宇宙輸送、データ利用など、宇宙経済のバリューチェーン全体で民間企業の活動を認める方針を明確にしている(注8)。外資規制の緩和やスタートアップ向け基金の設置も進めており、2026年7月18日にはインド企業スカイルート・エアロスペースが同国初の民間開発による軌道投入ロケットの打ち上げに成功した(2026年7月23日付ビジネス短信参照)。こうした市場開放の取り組みは、民間企業の具体的な事業成果につながり始めている。
既存の産業・制度基盤から先端分野への展開を図るのがルクセンブルクだ。同国は衛星通信企業を中心に形成してきた産業基盤に加え、企業による宇宙資源の探査・利用を支える法制度を整備し、宇宙資源利用や関連技術の研究開発で主導的な役割を目指している(注9)。
日本政府も、国内宇宙産業の市場規模を2030年に8兆円へ拡大し、2040年には日本企業による国内外での市場獲得額を少なくとも13兆円規模とする方針を示している。また、JAXAに設置した宇宙戦略基金を通じ、10年間で総額1兆円規模の支援を行い、民間企業や大学などによる技術開発、実証、商業化を後押しする方針だ(注10)。
このように、各国の取り組みは単に米国を「追う」のではなく、打ち上げ環境の利点、投資制度の整備、市場開放といった強みを生かした産業育成を進めている。各国とも宇宙産業全体を自国内で完結させるのではなく、国際的なサプライチェーンの中で競争優位を持つ分野に経営資源を集中する方向性が共通点だ。
宇宙デブリ化防止技術を強みに、海外の衛星サプライチェーンへの参入を目指す
こうした強みへの集中という考え方は、企業レベルでもみられる。BULL(栃木県宇都宮市)は、帝京大学宇都宮キャンパスの航空宇宙工学科の知見から生まれた大学発宇宙スタートアップだ。同社は「地球内外の惑星間の行き来を『当たり前に』」をビジョンに掲げ、役割を終えた人工衛星やロケット上段部の軌道離脱を促す宇宙デブリ化防止(PMD:Post-Mission Disposal)装置「HORN」を開発している。
同社の「HORN」は、衛星の運用寿命終了後にブーム(展開式の支柱)を使って大型の膜を展開し、スラスター(衛星の軌道を変更するための推進装置)を使用せずに軌道離脱を促す仕組みだ。低軌道衛星が増加していることに加え、米国では運用終了後5年以内の軌道離脱が原則化され(注11)、EUでもデブリ低減を含む共通ルールが提案されるなど(注12)、人工衛星の終末処理に関する要求は強まっている。軌道離脱のための推進剤を削減できるため、同社の装置は衛星運用の長寿命化や軌道離脱の確実な実施(バックアップ機能)を可能にし、、こうした制度・顧客双方の要請に対応するソリューションとして市場拡大の余地があるという。また、同社代表取締役の宇藤恭士氏は、デブリ対策で同様のアプローチを取る企業は世界的にもまだ数社程度だと語り、先行優位の利点を強調した。
同社は2026年6月、H3ロケット6号機で「HORN」の実証衛星を打ち上げ、膜の展開と衛星の軌道降下に成功した。また、既にブルガリアの小型衛星企業エンデューロサットとの協業も発表している(2026年7月28日付ビジネス短信参照)。エンデューロサットは既に多数の衛星の運用実績を持ち、ミッション策定から打ち上げ後の運用までのサービスを一貫して提供しているのが特徴だ。実証に成功し、BULLがエンデューロサットの認証サプライヤーとなれば、同社衛星を利用する世界各国の顧客に対する販路が開けるという。
日本企業にとって、ロケットや衛星の完成品だけが参入分野ではない。宇宙産業では高い信頼性・性能を持つ部品・素材が求められており、「HORN」のように特定の機能に特化した製品で他社と差別化し、国内外の衛星サプライチェーンへの参入を目指す方法が考えられる。宇藤氏は「一般的にソフトウエアよりもハードウエアの方がビジネスの参入障壁は高く、そういった競合が少ない分野で代替されにくい『不可欠性』を確立することが日本企業にとって重要になる」と語った。宇宙産業では衛星本体だけでなく、部品、ソフトウエア、運用サービスなど、宇宙サプライチェーンの各工程で専門技術を持つ企業にも参入機会が広がっている。BULLの取り組みは、ニッチ技術を海外企業の事業と組み合わせることが、日本企業の宇宙分野での海外展開を加速させる選択肢となることを示している。
- 注1:
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WEF、マッキンゼー “Space: The $1.8 Trillion Opportunity for Global Economic Growth”(2024年4月8日)
- 注2:
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地球の大気圏外(宇宙空間)で活動するために作られた人工物の総称。
- 注3:
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BRYCE TECH “Global Orbital Space Launches 2025 Year in Review”(2026年5月19日)
- 注4:
-
セラフィム・スペース “Seraphim space index Q1 2026(997 KB)”
- 注5:
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fDi Intelligence “The space economy isn’t just for superpowers”(2026年5月19日)
- 注6:
-
New Zealand Ministry of Business, Innovation & Employment “New Zealand Space and Advanced Aviation Strategy 2024–2030”
- 注7:
-
UAE SPACE AGENCY “Space Economic Zones”(2026年7月28日閲覧)
- 注8:
-
Indian Space Research Organisation “Indian Space Policy 2023(336 KB)”
- 注9:
-
Luxembourg Space Agency “Space Resources”
- 注10:
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内閣府「宇宙基本計画工程表改訂に向けた重点事項」(2026年6月12日)
- 注11:
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FCC “FCC Adopts New '5-Year Rule' for Deorbiting Satellites”(2022年9月30日)
- 注12:
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EU “EU Space Act”(2025年6月25日)
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部国際経済課
峯 裕一朗(みね ゆういちろう) - 2021年、ジェトロ入構。知的財産課、ジェトロ静岡などを経て、2025年4月から現職。





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