アフリカでのビジネス事例島津製作所、現地有力大学と協業しビジネス展開(南ア)
2025年9月8日
近年、日本企業のアフリカ進出が増加基調にある。投資やビジネスにも関心が高まっていると言えそうだ(2024年12月4日付地域・分析レポート「日本企業のアフリカへの進出動向、拠点数は増加傾向」参照)。8月20~22日に横浜市で第9回アフリカ開発会議(TICAD9)が開催したこともあり、機運がさらに高まっている。
こうした中、島津製作所(本社:京都市中京区)は、アフリカ南部で製薬や食品、大学市場、自動車など向けに、分析・計測機器提供などのビジネスを展開している。南アフリカ共和国(南ア)では、ヨハネスブルク大学と協働でイノベーションセンターを設立。南ア周辺国に対しても、顧客の需要にできる限りの製品とサポートを届けるよう、果敢にチャレンジしている。
同社のアフリカ南部事業展開について、島津製作所・南アフリカ社長の宇野勇一氏、ジェネラルマネジャーのダリル・ハリス氏に聞いた(取材日:2025年7月31日)

- 質問:
- 中東・アフリカ地域で貴社の活動は。
- 答え:
- 中東・アフリカ地域では、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ、トルコ、南アに現地拠点を有する。南ア拠点はドバイ拠点の子会社に当たる。南ア拠点は、アフリカ南部19カ国を担当している。
- 島津製作所は、分析・計測機器や医療用機器などを取り扱う。ただし当地では、後者を南アの現地代理店が担当。島津製作所の南ア拠点では、前者の販売・サービスを担っている。
- ヘルスケア、GX(グリーントランスフォーメーション)、マテリアル、製造業など、さまざまな産業で、企業が当社の分析・計測機器を利用している。製造業だけでも、例えば、薬品の開発・品質管理、食品の成分分析、自動車材料の物性試験機器などの取り扱いがある。
- 質問:
- 分析・計測機器での貴社の強みは。
- 答え:
- グローバル企業を含めた他社と比較して、わが社は多種多様な商品を扱っているのが特徴だ。数万円規模の分析てんびんから、高額な質量分析計まで幅広い。
- ソフトウエアの開発にも力を入れている。そのため、1つのプラットフォームで多種多様な機器を扱うことができる。ユーザーの皆さまから「さまざまな機器を同じ使い勝手で操作できるので、ありがたい」という声をいただいている。
-
島津製作所ブースには、創業150周年記念のロゴデザインを設置した(同社提供)
同社製品:液体クロマトグラフi-Series
(同社提供)
同社製品:液体クロマトグラフ質量分析計
LCMS-TQ RXシリーズ(同社提供) - 質問:
- 南ア拠点の業績はどうか。
- 答え:
- 2012年の設立以降、徐々に業績が上がってきていた。一方でこれまで、新型コロナウイルス禍などで大変な時期も経験した。ここ数年は安定している。
- 分析・計測機器の販売先としては、製薬、食品、自動車、鉱業、大学などがある。民需と官需、約半々ずつになっている。
- 2025年7月には、南ア開催の分析機器展示会「analytica Lab Africa」にも参加した。
- 質問:
- ここ最近の新たな取り組みは。
- 答え:
- ヨハネスブルク大学に2022年、イノベーションセンターを設立。当社の機器を設置したラボを、同大学とともに構築した。ヨハネスブルク大学との協業連携を通じて、当社として当地でイノベーションを促進したいと思っている。
- 同センターを設けたわれわれの狙いは、次のようなところにある。
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- 学生に当社製品を使ってもらい、なじみをつくる。それにより将来的に顧客になってくれれば、なおさらありがたい。
- 同大学の優秀な人材を確保する。
- 同大学やその研究者などと、パイプを太くする。
- 顧客などに、同センターまで足を運んでいただく機会になる。その際、当地で名高いヨハネスブルグ大学との協業・連携を実見してもらう。その結果、信頼度が高まり得る。
- 当社が大事にしている「Excellence in Science」「Best for Our Customers」の精神を体現する施設として、ブランド戦略にもつながっていくことを期待している。また、ヨハネスブルク大だけでなく、他学とも今後中長期的な視点で課題解決に取り組んでいきたい。
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イノベーションセンター(同社提供)
- 質問:
- 代理店をうまく活用しているイメージがある。どのようにしているか。また、日本企業へのアドバイスなどあれば。
- 答え:
- 代理店とは、長年にわたって良好な関係が構築できている。
- 日本企業にとっては、コンプライアンスが重要だ。そうした概念を代理店がよく理解してくれるかどうかが、重要なポイントと思う。
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また、入札に参加する場合、代理店は重要な存在になる。要件として黒人経済力強化政策(B-BBEE)
(597KB)に基づくスコアが必要になるためだ。これは、当社だけでは対応が難しい。
- 質問:
- 人材を育成する取り組みは。
- 答え:
- 親会社に当たるドバイや日本の本社などで、教育トレーニングプログラムを実行している。また、代理店などに対しては、ドバイの地域本社主催でサービスエンジニアリングに関する会議や意見交換会などを実施。サービスの質の向上・均一化に努めている。
- 質問:
- 南ア以外の周辺国についてはどうか。
- 答え:
- ザンビアはファイナンスの問題があったり、ボツワナは支払いリスクがあったりする。ジンバブエの方が、まだ見込みがありそうだ。また、モザンビークでも、さまざまな問題がある。
- それでも、南ア以外の売り上げが伸びてきている。ここ最近は南アが60%で、それ以外があわせて40%まで伸びた。2012年当初は、南ア90%、他国10%だった。各国にはそれぞれ、いろいろな課題がある。われわれは、それらに向き合っていく。そのため南ア周辺国にもチャレンジし、プレゼンスを高めているところだ。
- 質問:
- 今後期待する業種は。
- 答え:
- 南アでは、食品市場に期待していきたい。中間層の消費者が育ち、食品の中身に興味を示すようになってきた。そのため、当地の食品会社が内容表示に対して関心を高めている。そうした状況から、わが社の分析機器が当地の食品分野でさらに貢献できると考えている。
- また昨今、日本企業の進出関心が高まっている。こうした中で、やはり日本企業との関係構築は重要だ。自動車など日本の製造企業と、関係をさらに強化していきたい。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
多崎 央(たさき おう) - 2001年、ジェトロ入構。ジェトロ・カラチ事務所、対日投資部、経済産業省出向、ジェトロ・ニューヨーク事務所、ビジネス展開支援部、イノベーション部などを経て、2025年7月から現職。