注目度高まる北米グリーン市場、その最前線はカリフォルニア州のZEV推進、2035年に向け環境整備が進む(米国)

2023年11月29日

米国カリフォルニア州は、全米の中でも、ゼロエミッション車(ZEV、注1)普及に力を入れていることで知られる。例えば、州内で販売する全ての新車(乗用車、小型トラックなど)について、2035年までにZEVにすることを義務付ける知事令が発令されている。そればかりか中型・大型トラックについても、ガソリンや軽油を燃料とする車種の販売を2036年までに終了する方針を打ち出した。

本稿では、州がZEV促進を気候変動対策の大きな柱に据えた経緯を踏まえ、最新のデータや事例などを基に動きを追う。

カリフォルニアで販売される乗用車の4台に1台がZEV

米国カリフォルニア州エネルギー委員会(CEC)は、ZEVの販売に関するデータ(CECウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を四半期ごとに更新している。当該データによると、2023年第2四半期(4~6月)の州内乗用車販売台数に占めるZEVの割合は25.4%に上った(2023年8月15日付ビジネス短信参照)。当年上半期全体では24.3%、ZEV販売台数が22万3,298台だった。当期までの州内のZEV累計販売台数は、162万3,211台に及んだ(図)。

メーカー・モデル別の売れ行きは、(1)テスラ「モデルY」(7万4,488台)が最大。テスラ「モデル3」(4万1,430台)、(2)ジープ「ラングラー」(7,341台)、(3)ゼネラルモーターズ(GM)「シボレー・ボルトEUV」(7,082台)、(4)フォルクスワーゲン(VW)「ID.4」(5,902台)、(5)フォード「マスタング・マッハE」(5,071台)、(6)テスラ「モデルX」(4,899台)、(7) BMW「i4」(4,598台)、メルセデス・ベンツ「EQS」(4,375台)、(8) GM「シボレー・ボルトEV」(4,210台)が続く。テスラのモデルが上位を占め、他のメーカーを大きく引き離していることが分かる。

州知事室は2023年4月、州内でのZEV販売台数が150万台を突破したと発表した(2023年4月27日付ビジネス短信参照)。ジェリー・ブラウン知事(当時)が「2025年までに150万台のZEVを販売」という目標を掲げ、知事令に署名したのは2012年のことだった。結局、その目標を2年以上早く達成したことになる。米エネルギー省によると、2022年、全米のZEV登録台数は974万6,500台。カリフォルニア州が、その36.9%を占めている。クリーンな自動車の普及で他州に先行していることが読み取れる。

図:カリフォルニア州の累計ZEV販売台数と乗用車販売台数に占めるZEV割合の推移
累計ZEV販売台数は2021年に100万台を超え、乗用車販売台数に占めるZEVの割合も同年に初めて10%を超えた。2022年は約140万台となり、その割合は18.4%まで上昇。2023年(第2四半期まで)については、乗用車販売台数に占めるZEVの割合は25.4%っと、さらに増加している。

注:乗用車販売台数に占めるZEV割合は、2011年以降に限って示す。
出所:カリフォルニア州エネルギー委員会資料からジェトロ作成

ZEV普及のために重要な充電インフラの拡充でも、カリフォルニア州は先行している。CECが発表している電気自動車(EV)充電設備に関するデータ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますCECウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、2023年9月時点で同州のZEV充電設備数(注2)は9万3,855台〔公共充電設備 4万1,384台と、共有されている私有充電設備5万2,471台の合計(注3)〕。このうち、レベル2の充電設備が8万3,597台、DC急速充電設備は1万258台だった(注4)。郡別では、ロサンゼルス郡(2万9,280台)、サンタクララ郡(1万8,116台)、サンディエゴ郡(8,077台)が特に多い。州内では、商業施設やアパート、ホテルの駐車場などに複数の充電設備が設置されている様子がみられる。

また、カリフォルニア公共政策研究所(PPIC)は2023年6月、同州住民を対象に、気候変動や環境政策に関してアンケート調査(PPICウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を実施した(注5)。その結果、州全域で「既にEVを1台持っている」と回答した割合は8%にとどまった。ただし、50%が「EVの購入を検討している」と回答。また、特にサンフランシスコ・ベイエリアでは、10%が既に保有、55%が「購入を検討している」と回答した。すなわち、同地域に限っては、住民の3分の2が所有に前向きということになる。

ZEV数値目標を積極的に設定

カリフォルニア州では、州政府による目標設定がZEV化を後押ししてきた。古くは2012年、ブラウン知事(当時)が累積販売台数に目標を設定した(既述)。その後も2020年9月には、ギャビン・ニューサム知事が知事令を発表。(1)ガソリン車の州内新車販売を2035年までに禁止する、(2)州内で販売する全ての新車(乗用車、小型トラックを含む)を、同年までにZEVにすることを義務付ける、とした(2020年10月2日付ビジネス短信参照)。加えて、カリフォルニア州大気資源委員会(CARB)が2022年8月、新規則を承認している。この規則の眼目は、州内で販売する全ての新車を2035年までに全てZEVにするところに置かれ、「Advanced Clean Cars II Rule」と題された(2022年9月1日付ビジネス短信参照)。その結果、新車販売に占めるZEVの割合は、2026年式モデルで35%、2030年式では68%と、段階的に引き上げられることになる。

充電設備の整備についても同様だ。やはりブラウン知事(当時)が2018年1月に公布した知事令が出発点になっている。ちなみに当該知事令では、2025年までに25万基の充電設備を設置するという目標などが盛り込まれていた。

ZEV支援策も充実

カリフォルニアでZEVがここまで普及した理由の1つが、豊富な支援策だ。米国エネルギー省のデータ(米国エネルギー省ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、当州には代替燃料や先進的車両に関するインセンティブが約110ある。表はその一部だ。ニューヨーク州(38)、イリノイ州(15)、テキサス州(24)など、法律やインセンティブの多い他州と比べても、充実していることがわかる。

表:カリフォルニア州のZEV関連のインセンティブ例
提供主体 支援策名 概要
Clean Vehicle Rebate Project カリフォルニア州大気資源委員会(CARB)の資金提供により、要件を満たすZEVの新車購入またはリースに対して、1,000ドルから7,500ドルの還付を提供する。
Clean Vehicle Assistance Program 総収入に関する要件を満たす個人を対象に、新車または中古車のZEV購入やリースについて、CARBが助成金を与える。例えば、EVやPEVは5,000ドルまで、ハイブリッド電気自動車(HEV)は2,500ドルまで、助成金を受けることが可能。また、レベル2のEV充電器の購入と設置で、2,500ドルまで助成を得ることもできる。
公的機関 Clean Cars for All ベイエリア大気質管理区(BAAQMD)の「Clean Cars for All」は、所得要件を満たす住民に対して、古くなった車両をEV、HEV、PHEV、FCEVへ置き換える際に9,500ドルまで助成金を供与。交換対象となる車両のモデルは、2005年以前でなければならない。助成金の受領者は、新車または中古のEV、HEV、PHEVを購入またはリースすることができる。助成金の額は、家計の所得や車種によって異なる。
公益・民間企業 Time-of-Use (TOU) Rate アラメダ市営電力は、EV所有者に対して、充電時間帯に応じた任意の料金プランを提供。このプランの目的は、顧客に電力需要の低い時間の電力使用を促すことにある。オフピークの時間帯でのEV 充電など一部の利用のシフトを通じて、利用者は安価な価格の恩恵を受けることができる。また電力事業者にしてみると、供給をコントロールしやすくなることになる。
公益・民間企業 Empower EV Program 電力会社PG&Eは、「Empower EV Program」を提供している。目的は、EVの充電支援。適格な世帯収入の対象者は、2,500ドルまで金銭的インセンティブを受けることができる。このプログラムは、申請前6カ月以内にEV購入やリースした単身世帯にも適用できる。
公益・民間企業 EV Fleet program 電力会社PG&Eの「EV Fleet program」は、充電インフラを簡単かつ費用面で効率的に設置することを支援。支援措置の1つとして、EV購入に対し一定額の還付を提供する。還付額は車種によって異なる。例えば、輸送バスやクラス8のEVは、1台当たり9,000ドルまで還付を受け取ることが可能。

出所:米国エネルギー省、各機関ウェブサイトから作成

表でみたように、支援プログラムの主体は、州や自治体だけではない。地域の電力会社といった公益企業なども担っている。提供されるのは、ZEVの購入やリース、ZEV充電設備設置に当たっての補助金や還付などのインセンティブなどだ。

例えば、CARBが資金提供するクリーンビークル・リベート・プロジェクト(CVRP)では、要件を満たすZEV新車の購入またはリースに対して、1,000ドルから7,500ドルを還付する。購入またはリースする時点でカリフォルニア州に在住する個人のほか、拠点を置く企業、非営利団体、政府機関なども対象になる。なお、個人の場合、受給には総収入に関する要件を満たす必要がある。

また、州は2022年9月、新たな気候変動対策の複数年度予算に、約540億ドルを拠出する(可決されていた法案に知事が署名)。その中で、ZEV関連に約100億ドルが充てられる予定になっている。ZEV推進が州の気候変動対策の核になっていることが、ここからも読み取れる。

ZEV関連スタートアップも登場

さらに、ZEVに関連するユニークなスタートアップ企業が次々と誕生している。これも、ZEV化の推進力になっていると言えるだろう。

例えば、EVセーフチャージ(本社:カリフォルニア州ロサンゼルス)はロボット充電設備「ジギー」の実用化に取り組んでいる。同社の充電設備は、本来の設置場所(ホームベースと呼ばれる)から利用者がEVを駐車するスペースまで、自動的に移動することができる(2022年6月16日付ビジネス短信、写真参照)。すなわち、充電ステーション設置時にスペースを確保する必要がないことになる。例えばの想定として、既存の駐車場(ショッピングモールやホテル、アパートなど)に置いておけば良い。同社はパイロットプロジェクトの一環として、ダラスフォートワース国際空港で実証実験を実施中だ。スペインのバルセロナでも、実証予定という。同社は現在、その実用化に向け製造パートナーを探している。

同社の創業者でもあるキャラドック・エーレンハルト最高経営責任者(CEO)は「EVの充電とジギーには、カリフォルニアを含む世界で大きな需要がある。そのため、できる限り早く実用化したい」と、同社サービスの展開可能性を訴えた。


ロボット充電器「ジギー」(セーフチャージ提供)

ガソリン・軽油燃料トラックは、2036年に販売終了

カリフォルニア州では、中型・大型トラックのZEV化も進められている。CARBによると、同州の全車に占めるトラックの割合は6%に過ぎない。しかし、その環境負荷は重大だ。州内の交通機関から排出される窒素酸化物の35%以上、温室効果ガス(GHG)の25%以上が、トラックに起因している(2023年5月10日付ビジネス短信参照)。

米国環境保護庁(EPA)は2023年3月、CARBが策定した大型車両のGHG排出削減を目的とした規制に関して、連邦の優先権を放棄したと発表した。これによりカリフォルニア州では、連邦よりも厳しいGHG排出基準が最終的に認められることになった(2023年4月6日付ビジネス短信参照)。翌4月には、CARBがアドバンスド・クリーン・フリート規則(Advanced Clean Fleets Rule:ACF)を承認した。これにより、ガソリンや軽油を燃料とする中型・大型トラックの州内販売が2036年に終了することになった(2023年5月10日付ビジネス短信参照)。前述のPPICのアンケート結果によると、この方針に56%が「支持する」と回答。「反対する」(43%)を上回っている。

加えて、当州では2045年までに、あらゆる中型・大型車両をZEV化するという目標が掲げられている(商用車やトラック、バスなど全て)。また、ゼロエミッショントラックとそのインフラの普及拡大のため、2025年までに30億ドルを投資する予定だ。 CARBは、ACF規則が実施された場合、(1)州民の健康被害が266億ドル相当分、減る、(2) 2050年までの移行期間中、運送事業者の総運用コストが480億ドル削減される、と試算した。

また、CARBは2023年7月、商用トラックのZEV開発推進を目的に、産業界と「クリーン・トラック・パートナーシップ」を締結したと発表した(2023年7月12日付ビジネス短信参照)。当該パートナーシップの締結相手は、(1)米国の主要トラックメーカーと(2)トラック・エンジン協会(EMA、本部:イリノイ州シカゴ)だ。EMAには、主要トラックメーカー〔カミンズ、ダイムラートラック、フォード、ゼネラルモーターズ(GM)、日野自動車、いすゞテクニカルセンターオブアメリカ、ボルボなど〕が加入する。CARBは「カリフォルニア州政府は、大気浄化法(注6)の下で厳しい排出基準を設定している。そうした州に対しいかなる団体が異議を唱えようとも、各メーカーは州の基準を満たそうとする。(パートナーシップは)そのコミットメントの表れ」とコメントした。

もっとも、CECのデータ(CECウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、2022年末時点で、ZEVの中型・大型トラックは272台しかない。トラックのZEV化施策は積極的に推し進められているものの、乗用車と比較するとまだ少ないのが現状だ。

ここまで見てきたように、カリフォルニア州では、ZEV 推進にかじを切っている。その対象は乗用車に限られず、トラックも含まれる(ただし現状では、特に乗用車で先行)。また、ZEV普及のカギとなるEV充電設備数も増加し、ジギーのようなユニークなEV充電設備も実用に近づいてきた。さらに、同州では、ZEV・充電器の普及を促進するインセンティブも豊富だ。

引き続き、カリフォルニア州のZEV化に注目していくべきだろう。


注1:
CECによると、ZEVにはバッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)、燃料電池電気自動車(FCEV)が含まれる。
注2:
CECによると、充電設備の数は、同時に充電できる車両の数を表す。
例えば、同時に2台の車両を充電できる2つのコネクターを備えたレベル2の充電設備は2台としてカウント。これに対し、1度に1台の車両を充電できる2つのコネクターを備えた直流急速充電設備(DCFC)は、1台としてカウントする。
注3:
充電設備の想定利用者別の定義は、以下の通り。
  • 公共充電設備:一般人が利用できるよう、不動産の所有者または賃貸者が指定した駐車スペースに設置された設備。
  • 共有の私有充電設備:従業員、テナント、訪問者、居住者が利用できるよう(または利用しやすいよう)、不動産の所有者または賃借人が指定した駐車スペースに設置された設備。
注4:
充電設備の性能種別の定義は、以下の通り。
  • レベル2充電設備:BEVについては4~10 時間で、PHEVは1~2時間で、バッテリー容量の80%まで充電できる。
  • 直流急速充電設備(DCFC): 20分~1時間で、BEVをバッテリー容量の80%まで充電できる。なお、市販されているほとんどのPHEVは、急速充電に対応していない。
注5:
PPIPが年1回実施する「PPIC全州調査」の一部を抜粋した結果。カリフォルニア在住の成人1,724人を対象に、2023年6月7~29日に実施。
注6:
1970年に制定されたGHG排出基準の根拠法。原則的に全米に適用される(州や自治体が独自に自動車排出ガス規制を制定することを禁じる明示的規定まで盛り込まれている)。 一方、同法209条では、州の規制が連邦基準より厳しく、かつ必要不可欠で特別な事情がある場合、連邦基準の適用免除を認めている。カリフォルニアはこの適用免除を受けている。
執筆者紹介
ジェトロデジタルマーケティング部ECビジネス課
石橋 裕貴(いしばし ゆうき)
2011年、ジェトロ入構。海外調査部、ジェトロ沖縄、ジェトロ・サンフランシスコ事務所を経て2023年9月から現職。

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