注目度高まる北米グリーン市場、その最前線は脱炭素政策とともに注目度増す、北米グリーン市場(総論)

2023年9月27日

各国で気候変動対策が進んでいる。北米も例外ではない。米国のジョー・バイデン大統領は、2020年大統領選挙時から「2050年までのカーボンニュートラルの実現」を公約の1つに掲げ、大統領選挙の勝利宣言直後に発表された4つの優先政策課題の1つにも気候変動対策を含めた(注1)。2021年の大統領就任後は、パリ協定への復帰や気候変動対策に資する法律の制定など、公約を実現すべく行動に移している。カナダでも、ジャスティン・トルドー首相が2021年に、2030年までに二酸化炭素(CO2)排出量を2005年比で40~45%まで削減することを発表するなど、積極的に政策を展開している。

カーボンニュートラルの実現に向けた政策の後押しが強まるにつれ、北米において電気自動車(EV)の普及が加速し、再生可能エネルギー(再エネ)を積極的に導入する州がみられ、クリーンテックの発展を促すエコシステムが形成されるなど、伝統的なエネルギー産業には必ずしもとらわれない「グリーン市場」が拡大している。本特集では、政策の後押しを受け注目度が高まる、北米グリーン市場の最前線を追う。

積極的な政策を展開するバイデン大統領

バイデン大統領は、就任初日である2021年1月20日に、温室効果ガス(GHG)排出削減などのための国際枠組みであるパリ協定への復帰を決定した。同年4月には、日本、中国、EUなど主要国の首脳が参加する気候サミットを主催し、「2030年までにGHG排出量を2005年比50~52%減」を掲げた。11月には、米国が2050年までにGHG排出量をネットゼロにするための長期戦略を公表し、その約2週間後には、EV充電施設の整備など脱炭素関連の予算措置も含むインフラ投資雇用法(IIJA)を成立させた。2022年8月には、気候変動対策・クリーンエネルギー関連予算として、10年間で3,690億ドルの予算措置を含むインフレ削減法(IRA)を成立させた。2023年6月には、クリーンなエネルギー源として活用が期待される水素に関して、米国史上初の「国家クリーン水素戦略とロードマップ」を発表している。

これらの中でも、大型の経済政策として特に注目を集めるIRAについては、2023年8月に、バイデン大統領が1周年を記念して、その成果を強調する声明を発表した。声明の中で、気候変動対策に関しては、(1)EVのサプライチェーンや太陽光発電製造を含め、民間部門が1,100億ドル以上のクリーンエネルギー関連投資計画を発表したこと、(2)クリーンエネルギーや気候変動対策関連の投資が17万人以上の雇用を創出したこと、(3)800以上のクリーンエネルギー発電プロジェクトに1,220億ドル相当の投資を計画していること、(4)家庭向けの税額控除として、エネルギー効率の高い冷暖房用電気ヒートポンプの設置に最大2,000ドル、住宅のエネルギー効率改善に対する取り組みに年間最大1,200ドル、クリーンビークル(注2)購入に最大7,500ドル、屋上への太陽光発電装置や蓄電池の設置費用の最大30%などを導入したこと、(5)低所得者向け集合住宅のエネルギー効率や気候変動の影響からの回復力の改善に向けた8億3,700万ドル規模の補助金や40億ドル規模の融資を導入したこと、などを成果に挙げた。

太陽光発電製品輸入にみるバイデン大統領の本気度

バイデン大統領が気候変動対策に注力している姿勢は、太陽光発電製品の輸入を巡る一連の措置に端的に表れている。バイデン大統領は2022年6月、太陽光発電製品の供給不足に関する緊急事態を宣言し、東南アジア4カ国(注3)からの輸入に対して、2年間を上限に、アンチダンピング税(AD)や相殺関税(CVD)などの免除を指示する大統領布告を発表した。太陽光発電製品の供給の多くを輸入に頼っている現状で、米国内での生産体制が整うまで、海外からこれら製品を安定して確保する狙いがある(注4)。

他方で、東南アジアからの太陽光発電製品の輸入については、中国へ賦課しているADやCVDを避ける迂回輸入であるとの指摘が根強い。現に米商務省は、大統領布告発表から半年後の12月に、東南アジア4カ国からの一部の太陽光発電製品の輸入は中国からの迂回輸入であるとの予備判定を出した(注5)。また議会は、2023年4~5月に、東南アジア4カ国からの太陽光発電関連製品輸入への関税免除措置を撤廃する両院共同決議を採択した。共和党だけでなく、バイデン大統領と同じ民主党の議員の一部も賛成した(注6)。これに対しバイデン大統領は、太陽光発電関連製品の供給を中国に依存してきた状況を認めつつも、IRAをはじめとする政権の取り組みで増強されている国内製造能力が十分に稼働するには猶予が必要として、両院共同決議に対して拒否権を発動した(注7)。通商上の不公正な慣行のみならず、国家安全保障や経済安全保障の観点から中国に対して強硬な姿勢が続く中で、ともすれば中国を利するような拒否権の発動は、議会を中心に大きな反発を招くことを容易に想像できたはずだ。それでも、実際に拒否権を発動させた点に、バイデン大統領の強い意志をみることができる(注8)。

米国でEVは主流になるか?

そのバイデン大統領が、カーボンニュートラルの実現に向けて注力する具体的な分野の1つがEVの普及だ。バイデン大統領は2021年8月、新車の50%以上を2030年までにEV、燃料電池自動車(FCV)とする大統領令を出した。米国環境保護庁(EPA)によると、米国における経済部門別のGHG排出量(2021年)の割合は、交通・運輸が28%と最大だ(図参照)。そのため、まずは同部門での脱炭素化が重要となる。IRAでは、EVなどのクリーンビークル購入時の税額控除のほか、バッテリー生産者に対する税額控除(バッテリーセル容量1キロワット時当たり35ドルなど)も定められた。2022年9月には米運輸省が、IIJAに基づくEV充電プログラムであるNEVIフォーミュラプログラムの下、全米50州と首都ワシントン、プエルトリコを対象にEV用インフラ導入計画を承認した。NEVIフォーミュラプログラムは、2022~2026年度の5年間で州間高速道路を中心に充電施設を設置することを目的とした総額50億ドルの助成金プログラムだ。

図:経済部門別GHG排出量(2021年)
交通・運輸部門のGHG排出量が28%と最大で、発電所の25%、産業の23%、商業・住宅の13%、農業の10%と続く。

出所:米国環境保護庁(EPA)

環境規制の面では、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)が2023年7月に、2027年から2032年モデルの乗用車および小型トラック、2030年から2035年モデルの大型ピックアップトラックおよびバンについて、新たな企業別平均燃費基準(CAFE)値を含む規制案を発表した。CAFE規制案は、乗用車と小型トラックの2032年モデルの燃費基準値について、1ガロン当たり57.8マイル(1ガロン=約3.8リットル、1マイル=約1.6キロ)と定めた。NHTSAは、このCAFE規制案を、2032年までに2026年比56%の削減を要求するEPAの排ガス規制案を補完するものとしている。

こうした政策の後押しもあってか、米国の新車販売に占めるEV比率(注9)は2020年以降急増し、2020年の2.3%から、2022年には7.2%へと拡大した。ただし、EVの更なる普及には、充電設備の拡充など依然として課題もある。そこで本特集では、連邦政府のEV普及政策の成果と課題について詳説するほか、米国の中でEV普及を牽引するカリフォルニア州の最新動向、EVやバッテリーの生産地として、近年、欧州企業や韓国企業などからも注目される南東部への投資状況について解説する。

再エネ・水素発電は定着するか?

交通・運輸部門に続いてGHG排出量が多いのは、図の通り発電所だ。IRAは、クリーンエネルギー生産設備投資に対する税額控除など、企業のクリーンエネルギー投資を資金面で大きく後押しする内容となっている。この連邦政府の施策に、州政府独自の補助を組み合わせることで、再生可能エネルギー投資に対するハードルの低減が期待されている。例えば、ニューヨーク州では、2019年7月に成立した気候リーダーシップおよびコミュニティー保護法(CLCPA法)で、2030年に電力の70%を再生可能エネルギー電源由来にすること、州のGHG排出量を1990年比で40%削減すること、2040年までに電力部門の100%ゼロエミッション化を実現すること、などが掲げられている。こうした目標の達成を見据えて、太陽光設備設置に対して最大25%の税額控除が可能な、州独自の支援制度「ニューヨーク・サン・プログラム」などを実施している。またニュージャージー州では、2035年までにエネルギー源を100%クリーンエネルギーにすることを掲げており、この目標達成に向けた再生可能エネルギーに対する投資が活発に行われている。本特集では、積極的な取り組みを進める、これら2州について紹介する。

クリーンなエネルギー源という観点からは、水素の活用も今後、重要となる。米国は水素戦略の中で、「クリーン水素」(注10)の年間生産を2030年までに1,000万トン、2050年までに5,000万トンへ拡大する目標を掲げた。米国では水素の生産においても、半導体やバッテリー、重要鉱物などの戦略物資と同様に、自国中心のサプライチェーン構築を目指す。ただし、実現には製造コストの低下などが求められ、現時点では容易ではない。一方、カナダは、米国よりも早く、2020年時点で水素の製造や利活用推進方針をまとめた「カナダのための水素戦略」を公表している。カナダの水素生産量は年間推定300万トンと、世界トップ10に入る。本特集では、近年、注目度が増している水素の利活用について、米国については水素戦略における目標と課題を整理し、カナダについては連邦政府の戦略および各州での水素プロジェクトについて紹介する。

なお、再生可能エネルギーから生産されるCO2を一切排出しない「グリーン水素」の実用化には、時間がかかると指摘されているため、現時点では水素製造工程で排出されるCO2を地中に埋めて削減するなど、CCUS(回収・有効利用・貯留)を活用することが重要だ。CCUSを実行するためには、CO2を運搬するパイプラインが必要となる。本特集では、中西部の大規模なCO2パイプライン建設プロジェクトの現状と課題についても報告する。

「世界のエネルギー首都」は脱炭素化できるか?

ヒューストンは、石油ガス産業の集積から「世界のエネルギー首都」と呼ばれる。石油とガスの生産量はそれぞれ全米1位で、製油能力は全米の31%を占める。だが、世界的に気候変動対策が進む中で、「これからの25年は、過去25年のような形で伝統的な石油ガス産業がヒューストンの成長のエンジンになることはない」との危機感がある。2020年4月には、同市のシルベスター・ターナー市長の下で、2050年までのカーボンニュートラル実現などを掲げる気候変動計画が策定された。

この目標を達成するため、ヒューストンでクリーンテックが集まるエコシステムの形成が進む。ヒューストンの脱炭素関連スタートアップなどの2022年の資金調達額は、前年比61.9%の61億ドルだった。中には、地元ライス大学で開発された光触媒を用いてアンモニアを分解し水素を製造する技術を有する、投資家の注目を集めるスタートアップも生まれている。エネルギー・トランジションを後押しするイノベーション拠点の整備も進む。2021年には、マサチューセッツ州発祥の北米最大気候変動テック専門インキュベータ、グリーンタウン・ラブズのヒューストン拠点がオープンした。

マサチューセッツ州は、バイオテックの集積地として知られているが、近年は、マサチューセッツ工科大学(MIT)のように世界トップクラスの大学・研究機関などを中心とするエコシステムの下、クリーンテックにおいてもその存在感が増している。本特集では、こうしたクリーンテックの発展を後押しする特徴的な州のエコシステムについても報告する。

建築物の電化に日本企業の商機はあるか?

商業・住宅施設のGHG排出量は、図の通り、交通・運輸や発電所と比べて高くない。しかし、GHG排出量をエネルギー最終需要者別でみると、商業・住宅施設が30%で産業業(30%)と並び、29%の交通・運輸を上回る。そこで、これら商業・住宅施設、つまりは建築物における脱炭素化もカーボンニュートラル実現には重要となる。その解決策として、かねてから重要性が指摘されているのが「建築物の電化」だ。現在、米国では、IRAの補助を受け、住宅・商業施設向けの太陽光発電設備(PV)や蓄電池の設置のほか、ガスや石油による暖房や給湯に代えて、エネルギー効率の高いヒートポンプの普及を目指す動きが出てきている。日系メーカーは、これまでの製品開発の実績を生かし高性能な製品の投入が可能なことから、ヒートポンプの需要増加は、日系メーカーに有利に働くとみられている。本特集では、IRA成立前からも独自に取り組みを進めてきた、カリフォルニア州の建築物の電化の現状について報告する。

その他、航空業界において注目される持続可能な航空燃料(SAF)に関する米国連邦政府や州政府の支援策のほか、SAFの利用に対する航空会社の動向についてもまとめた。新型コロナウイルス禍が落ち着き、旅行などのサービス消費が米国経済を牽引する中、航空業界の脱炭素化の動きも、今後ますます注目度が上がっていくと考えられる。

重要鉱物供給元として注目度増すカナダの気候変動対策は?

前述の水素の利活用で見られたように、カナダも気候変動対策に積極的だ。2015年12月に採択されたパリ協定の下で、カナダは2030年のCO2削減目標として2005年比で30%削減を発表した。この目標はその後、2005年比40~45%削減へと引き上げられている。2016年3月には、連邦政府と州、準州政府が連携し気候変動対策を実施していく「バンクーバー宣言」が発表された。同年12月には、クリーンな成長とさらなる気候変動に対応した「汎(はん)カナダ枠組み」が発表され、炭素価格(カーボンプライシング)の導入や革新的な低炭素技術や雇用への投資など、4つの重要な政策が明らかにされた。

近年、EVの普及に伴い、主要部品であるバッテリーの主要材料となる重要鉱物の安定供給に、各国、各企業が熱心になっている。カナダはこの重要鉱物の主要生産国でもあるため、当該分野では、日本企業を含めた多くの企業による対カナダ投資が、今後、活発になると予測される。企業活動が拡大すれば、カナダでの気候変動対策を順守しなければならない企業も増えてくるだろう。その観点から、カナダの動向についてアンテナを張っておくことは、今後、ますます重要になると考えられる。本特集では、世界トップクラスともよばれる、カナダのGHG排出量削減規制についても概説する。

大型投資には中長期的な視野を

このように、積極的な気候変動対策の下で、北米のグリーン市場では、新たなビジネス領域が誕生したり、これまでは市場規模が小さかった分野が拡大したりしている。他方で、気候変動対策は、時の政権によっても対応が分かれることがある点には留意が必要だ。前述の通り、バイデン政権は気候変動対策を積極的に進めているが、直前のトランプ政権ではパリ協定から離脱したほか、環境規制緩和を前提に石炭を含む化石燃料の活用が促進されるなど、気候変動対策は停滞した。米国では2024年に大統領選挙が行われる。共和党の候補者指名争いでは、トランプ前大統領がトップを独走している。カナダでも、トルドー政権はカーボンニュートラルを積極的に進めているが、総選挙の結果次第では、政権が変わる可能性も否定できない。カナダでは、次の総選挙は2025年10月までに実施されなければならないが、前回は、任期満了の2023年10月を待たずに、2年早い2021年9月に実施された。今後も、必ずしも任期まで待つという保証はない。エネルギー関連の投資は大規模になりやすいため、投資を検討している企業は、こうした政局も見極める必要がある。

とはいえ、短期的には、カーボンニュートラル実現に向けたスピードが緩くなることがあるとしても、長期的には、米国やカナダを含め、世界全体としてカーボンニュートラルの実現に向けて進んでいくこと自体は変わらないと考えられる。従い、グリーン市場は今後も着実に成長する市場の1つと捉えてもよいだろう。本特集が、日本企業による、北米グリーン市場への参入、事業拡大の一助になれば幸いである。


注1:
その他の3つは、新型コロナ、経済対策、人種的公平性と公民権。
注2:
IRA上で定められたバッテリー式EV(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)の総称。
注3:
カンボジア、マレーシア、タイ、ベトナムの4カ国。
注4:
米国の太陽光発電製品の生産体制や輸入状況は、ジェトロの地域・分析レポート「再エネ推進を追い風に導入加速(2023年3月31日付)」および「中国製品に対する輸入規制が向かい風に(2023年4月3日付)」を参照。なお、米国は2012年以降、中国の太陽光発電製品にAD・CVDを賦課している。2018年にはこれら品目に対してセーフガードを発動し、2022年には2年間の延長を発表した。さらに、一部の太陽光発電製品には1974年通商法301条に基づく追加関税も賦課している。
注5:
米商務省はその後2023年8月に、迂回輸入であるとの最終決定を下した。
注6:
下院で賛成221・反対202、上院で賛成56・反対41と、民主党議員も一定数が賛成に回った。
注7:
米国では大統領が拒否権を発動した場合でも、上下両院で3分の2以上の賛成によって拒否権を覆し、大統領の署名なしで法律を制定できる。大統領による拒否権発動後、下院では拒否権を覆すための投票が行われたが、否決されている(賛成214、反対205)。
注8:
必ずしもバイデン大統領が、気候変動対策を対中政策よりも優先させているという意図ではない。
注9:
BEVとPHEVを合わせた台数の構成比。FCVは含まない。
注10:
クリーン水素の世界統一的な定義はないが、米国の水素戦略においてクリーン水素は、生産量1キロ当たり、生産地で発生するCO2換算で2キロ以下の炭素強度を持つ水素、と定義されている。この定義内である限り、原料の種類は問わないとしており、例えば、CO2の回収・貯留(CCS)を活用した水素もクリーン水素として扱う。
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課 課長代理
赤平 大寿(あかひら ひろひさ)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部国際経済課、戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員、海外調査部米州課、企画部海外地域戦略班(北米・大洋州)を経て2022年8月から現職。

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