注目度高まる北米グリーン市場、その最前線は EV市場動向
EV導入の環境整備が進む米国南東部(前編)

2023年9月27日

米国南東部は、バッテリーベルト(注1)を形成する地域であり、電気自動車(EV)関連製造工場の大型投資が相次ぎ注目を集めている。2022年8月に成立したインフレ削減法(IRA)以降、特にその傾向は顕著で、IRA成立からちょうど1年を迎えた8月16日、ジョー・バイデン大統領はその経済効果をアピールしている。一方で、EV市場として見た場合、普及状況やEV充電設備の整備状況はどうか。

前編では、南東部におけるEVの普及状況と各州政府のインセンティブやその他の取り組みを紹介する。後編では、バッテリー式電気自動車(BEV)関連製造工場への投資状況を整理するとともに、課題や誘致のためのインセンティブに対する住民の反応などを紹介する。

登録台数で全米平均を上回り、今後のEV普及に期待

2022年の米国におけるEVの販売台数は前年比57.2%増の74万3,998台で過去最高を記録した(図1参照)。州別では、2022年の販売台数上位3州は、カリフォルニア州(販売台数:26万8,281台、全米の36%)に次ぎ、南東部のフロリダ州(5万6,436台)、テキサス州(4万6,476台)が2位、3位を占めた。

フロリダ、ジョージア、ノースカロライナ、テネシー、サウスカロライナ、アラバマの南東部6州の2022年の販売台数は、合計で10万1,718台、前年比54.8%増だった。州別では、フロリダ州、ジョージア州(1万7,630台)、ノースカロライナ州(1万4,629台)と続いた。

図1:EV販売台数の推移
2013年のEV販売台数は全米で4万6,832台で2020年の25万893台まで緩やかに伸びたが、2021年、2022年で急速に伸びた。2021年のEV販売台数は全米で47万3,426台、内訳は、カリフォルニア州で16万6,582台、南東部6州で6万5,691台、その他の州で24万1,153台。2022年のEV販売台数は、全米で74万3,998台、内訳は、カリフォルニア州で26万8,281台、南東部6州で10万1,718台、その他の州で37万3,999台だった

出所:Alliance for Automotive Innovation (2023)のデータからジェトロ作成

2022年の全米におけるEV登録台数は244万2,270台で、前年比で67.9%増加し、1,000人当たりの登録台数は7.33台だった(表1参照)。州別では、カリフォルニア州(90万3,620台、前年比60.5%増、全米の37%)、フロリダ州(16万7,990台、同75.7%増)、テキサス州(14万9,000台、同84.2%増)が上位を占めた。カリフォルニア州は、1,000人当たりの登録台数が23.15台と突出している。

南東部6州の2022年の登録台数は31万7,960台で前年比77.5%増、全米の13%を占める。伸び率では、全米の平均(67.9%増)を上回った。

表1:南東部6州のEVの登録台数推移(単位:台、%)(-は値なし)
州名 2020年 2021年 2022年
台数 全米でのシェア 前年からの成長率 台数 全米でのシェア 前年からの成長率 台数 全米でのシェア 前年からの成長率 人口 1,000人当たりの登録台数
フロリダ 58,200 5.7 44.4 95,600 6.6 64.3 167,990 6.9 75.7 22,244,823 7.55
ジョージア 23,500 2.3 23.7 34,000 2.3 44.7 60,120 2.5 76.8 10,912,876 5.51
ノースカロライナ 16,200 1.6 39.7 25,200 1.7 55.6 45,590 1.9 80.9 10,698,973 4.26
テネシー 7,800 0.8 36.8 12,200 0.8 56.4 22,040 0.9 80.7 7,051,339 3.13
サウスカロライナ 4,400 0.4 46.7 7,400 0.5 68.2 13,490 0.6 82.3 5,282,634 2.55
アラバマ 2,900 0.3 45.0 4,700 0.3 62.1 8,730 0.4 85.7 5,074,296 1.72
南東部6州(合計・平均) 113,000 11.1 38.5 179,100 12.3 58.5 317,960 13.0 77.5 61,264,941 5.19
カリフォルニア 425,300 41.7 21.6 563,100 38.7 32.4 903,620 37.0 60.5 39,029,342 23.15
フロリダ 58,200 5.7 44.4 95,600 6.6 64.3 167,990 6.9 75.7 22,244,823 7.55
テキサス 52,200 5.1 35.9 80,900 5.6 55.0 149,000 6.1 84.2 30,029,572 4.96
上位3州(合計・平均) 535,700 52.6 25.0 739,600 50.9 38.1 1,220,610 50.0 65.0 91,303,737 13.37
全米(合計・平均) 1,018,900 30.0 1,454,400 42.7 2,442,270 67.9 333,287,557 7.33
カリフォルニア州以外(合計・平均) 593,600 58.3 36.8 891,300 61.3 50.2 1,538,650 63.0 72.6 294,258,215 5.23

注:人口は2022年7月時点のもの。
出所:米国エネルギー省データおよび米国統計局データからジェトロ作成

南東部6州の1,000人当たりの登録台数は、5.19台で、カリフォルニア州を除いた全米平均(5.23台)に近い値だ(図2参照)。ただし、州別では、フロリダ州(7.55台)、ジョージア州(5.51台)のみが、カリフォルニア州を除いた全米平均を上回り、その他のノースカロライナ州(4.26台)、テネシー州(3.13台)、サウスカロライナ州(2.55台)、アラバマ州(1.72台)は下回る。南東部の主要都市であるジョージア州アトランタにおける2023年1月の月間・新車登録台数に占めるEVの割合が9%近くに達し、2022年の1月の5.5%から上昇した、と報道されている(ビジネス情報サイト「アクシオス」2023年4月10日記事)。また、2022年末時点の登録台数では、フロリダ州が全米2位となるなど、両州での一層の普及が期待される半面、その他の州ではEVの普及が進んでないとみられている。

図2:1,000人当たりのEV登録台数(2022年)
全米平均は7.33台だった。カリフォルニア州は23.15台で突出しており、カリフォルニア州を除いた全米平均は5.23台だった。南東部6州は、5.19台で、カリフォルニア州を除いた全米平均と近い値だった。ただし、州ごとでは、フロリダ州の7.55台、ジョージア州の5.51台はカリフォルニア州を除いた全米平均を上回ったものの、ノースカロライナ州の4.26台、テネシー州の3.13台、サウスカロライナ州の2.55台、アラバマ州の1.72台と4州でカリフォルニア州を除く全米平均を下回った

出所:米国エネルギー省データおよび米国統計局データからジェトロ作成

充電ポート当たりのEV台数は全米平均より少ないものの、増加傾向

南東部の充電ポート設置数(2022年)は、1万8,463カ所で前年(1万6,635カ所)から11.0%増えたが、全米の11.9%増を下回った(表2参照)。充電ポート設置数の伸び率は全米(2020年:25.5%、2021年:20.3%)でも、南東部(同19.9%、同18.0%)でも鈍化している。

表2:南東部6州の充電ポート数の推移 (単位:カ所、台、%)
州名 2020年 2021年 2022年
充電ポート数 充電ポート当たりのEV台数 前年からの成長率 充電ポート数 充電ポート当たりのEV台数 前年からの成長率 充電ポート数 充電ポート当たりのEV台数 前年からの成長率
フロリダ 5,519 10.55 21.0 6,723 14.22 21.8 7,802 21.53 16.0
ジョージア 3,645 6.45 24.0 3,939 8.63 8.1 4,121 14.59 4.6
ノースカロライナ 2,267 7.15 19.1 2,784 9.05 22.8 3,031 15.04 8.9
テネシー 1,341 5.82 11.1 1,647 7.41 22.8 1,674 13.17 1.6
サウスカロライナ 727 6.05 13.1 862 8.58 18.6 987 13.67 14.5
アラバマ 596 4.87 17.8 680 6.91 14.1 848 10.29 24.7
南東部6州(合計・平均) 14,095 8.02 19.9 16,635 10.77 18.0 18,463 17.22 11.0
カリフォルニア 34,622 12.28 27.6 41,225 13.66 19.1 43,400 20.82 5.3
フロリダ 5,519 10.55 21.0 6,723 14.22 21.8 7,802 21.53 16.0
テキサス 4,802 10.87 19.8 5,486 14.75 14.2 6,313 23.60 15.1
全米合計 106,814 9.54 25.5 128,474 11.32 20.3 143,771 16.99 11.9

出所:米国エネルギー省データからジェトロ作成

2022年の充電ポート当たりのEV台数は全米平均が16.99台で、南東部6州は17.22台だった。南東部6州の中でも、EV登録台数の多いフロリダ州が21.53台で最も多かった。ジョージア州(14.59台)、ノースカロライナ州(15.04台)、テネシー州(13.17台)、サウスカロライナ州(13.67台)、アラバマ州(10.29台)といずれも全米平均を下回り、充電ポート当たりのEV台数は全米の中でも高くないことがわかる。一方で、充電ポート当たりEV台数を2021年と比較すると、全米では5.67台増加したのに対し、フロリダ州(7.31台増)、ジョージア州(5.96台増)、ノースカロライナ州(5.99台増)、テネシー州(5.76台増)は増加数が全米平均よりも多かった。全米と同様、南東部でも充電ポート当たりEV台数は増加し続けている(2020年:8.02台、2021年:10.77台、2022年:17.22台)。

ただし、2021年11月に成立したインフラ投資雇用法(IIJA)には、EV用充電器の設置に向けた75億ドルの予算が盛り込まれており、そのうち50億ドル分は「EV充電プログラム(NEVIプログラム)」として各州に予算が割り当てられ、充電ポートなどの整備が行われる(2022年2月16日付ビジネス短信参照)。

各州で充電設備整備を実施、NEVIプログラムに期待

連邦レベルでは、2022年に成立したIRAがEV購入のため、最大7,500ドルの税額控除を設けている(2023年4月18日付ビジネス短信参照)。州別でみると、イリノイ州など、州独自のインセンティブを設ける州も存在する(2022年10月25日付地域・分析レポート参照)。南東部各州でも、EV普及や充電ポートなどの整備に向けた取り組みが始まっている。

EV購入については、ジョージア州が2015年にEV購入のための税額控除を終了して以降、2023年8月時点でインセンティブを設定している州はないが、EV充電設備整備については、サウスカロライナ州を除いて、税額控除や補助金プログラムなどが設定されている(表3参照)。また、南東部6州全てで、各地域で営業する電力会社がリベートプログラムを提供し、EV充電設備整備を促進している。

表3:EV充電設備設置への各州におけるインセンティブ
州名 州によるもの 団体や民間によるもの
フロリダ EV Charging Station Financing Authorization 個々の電力会社によるリベートプログラムなど
ジョージア タックスクレジット
※設備関連費用の10%(上限2,500ドル)
個々の電力会社によるリベートプログラムなど
ノースカロライナ EV Charging Station Grant Program
※VW緩和信託(注2)による補助金
個々の電力会社によるリベートプログラムなど
テネシー Vehicle Emissions Reduction and EV Charging Station Project Funding
※VW緩和信託により一部賄われている
個々の電力会社によるリベートプログラムなど
サウスカロライナ なし 個々の電力会社によるリベートプログラムなど
アラバマ VW緩和信託による補助金
EV Infrastructure Grants
  • 州間高速道路22号線沿いの急速充電設備(DCFC):50万ドル上限
  • それ以外のDCFCもしくはLevel 2:25万ドル上限
個々の電力会社によるリベートプログラムなど

注1:2023年8月30日時点。
注2:ドイツのフォルクスワーゲン(VW)が大気浄化法違反の疑いで米国連邦政府に提訴され、2016年に合意した際の和解金を財源とする信託。
出所:米国エネルギー省データからジェトロ作成

IIJAのNEVIプログラムでは、2022年以降の5年間で50億ドルの助成金額が設定されている。フロリダ州の1億9,806万ドルを含め、南東部6州で6億7,970万ドルの助成金が投じられる予定だ。すでに、各州はEV用インフラ導入計画を米国運輸省に提出し、承認を受けており(2022年9月29日付ビジネス短信参照)、今後、整備が進められる。

州知事のリーダーシップで目標設定

EV普及に向けた最近の動きとして、ノースカロライナ州とジョージア州の例を紹介する。

ノースカロライナ州は、南東部6州の中でゼロ・エミッション車(ZEV)の登録台数目標と新車販売台数に占めるZEVの販売比率目標を持つ唯一の州だ。ロイ・クーパー州知事(民主党)率いる州政府がリーダーシップをとり、EVなど環境に配慮した自動車の普及に努めている。2022年1月には、州知事令246号により、同州において2030年までに125万台のZEVの登録および新車販売台数に占めるZEVの割合を50%にすることを目標に掲げた。この方針に基づき、同州運輸省は2023年4月、「N.C. クリーン・トランスポーテーション計画(NCCTP)」を策定した。同計画策定にあたっては、州や地方行政府、交通機関、有識者、公益事業者、民間企業などのメンバーから構成される5つの委員会(注2)が設置され、同月に計画書が公表された。NCCTPでは、インフラ整備、資金調達と財務、コミュニケーションと関与、ガバナンスの4つの重点分野を中心に、短期的な戦略と行動計画を明確化している。

また、2022年10月には州知事令271号を発令し、同州環境品質局に対して、利害関係者と協力して環境管理委員会に先進クリーントラックプログラムを提案し、州内でゼロ・エミッションのトラックやバスを購入しやすくするよう指示した。さらに、2023年7月にはスクールバスにEVを導入する試験的プログラムも開始された。

利害関係者が参画するイニシアティブ設立

ジョージア州は2021年7月に、ジョージア州電気モビリティ・イノベーション・アライアンス(EMIA)を設立した。EMIAは、同州経済開発局が主導し、政府、産業界、電気事業者、教育機関、非営利団体、その他関連する利害関係者の代表者が一堂に会する、州全体のイニシアティブだ。EMIAでは、同州におけるeモビリティ産業全体の成長を支援する方法を特定し、同産業にとってビジネスしやすい環境を整え、有利な公共政策を推進してイノベーションを促進することを目的としており、5つの重点分野でそれぞれ委員会が設置された(注3)。EMIAは2023年1月にレポートを発行し、各委員会で議論した内容を、同州がeモビリティのナショナルリーダーとなるための10の機会として発表した(参考参照)。

参考:EMIAから発表された10の機会

eモビリティでジョージア州がナショナルリーダーとなるための10の機会
  1. ジョージア州におけるeモビリティのリーダーシップとガバナンス
  2. 研究開発と商業化を通じたeモビリティの技術
  3. eモビリティメーカーとサプライヤー
  4. eモビリティの労働力
  5. 充電インフラの拡大
  6. 公共交通機関やスクールバスなどの政府主導の車両の電動化
  7. バッテリーのリサイクル/再利用のエコシステム
  8. ジョージア州の物流インフラ
  9. eモビリティに対する消費者への啓発
  10. eモビリティの成長のための政策的枠組み

出所:EMIA 2021-2022 ALLIANCE REPORT

例えば、「公共交通機関やスクールバスなどの政府主導の車両の電動化」では、検討すべき対策として、「公共交通機関、スクールバス、救急隊、廃棄物収集、一般管理車両を含む、政府主導の車両電化のためのパイロットプログラムなどの戦略的機会を特定する」と記載されている。2023年7月には、アトランタの公立学校がスクールバスをディーゼル車からEVに移行する、と報じられた(GPBニュース、 2023年7月13日)。アトランタの公立学校は、連邦政府および州政府の優遇措置、特に米国環境保護庁のクリーンスクールバスプログラムから987万5,000ドルの資金を獲得し、バス車両の入れ替えを行う予定だ。こうした電動スクールバスの需要の高まりを受け、同州に本社を有し、スクールバスを製造するブルーバードは2023年3月、電動スクールバスの組み立て工場を同州フォートバレーの同社工場敷地内に開設し、生産能力の向上を図っている。

2022年のEV登録台数の伸び率は南東部6州全てで全米平均を上回り、南東部でのEV普及が進みつつある。EV充電設備の導入はEV台数の伸びに追い付いていないが、今後、NEVIプログラムを活用して整備が加速する予定だ。また、ノースカロライナ州のZEVに関する目標設定とNCCTPの策定や、ジョージア州のEMIAによる提言の発表など、EV普及やインフラ整備に向けた州の取り組みも出てきた。これまで、南東部はEV関連製造施設の投資先として注目されてきたが、EV市場としても今後の拡大が期待される。


注1:
2021年以降、ミシガン州からジョージア州にかけて、15以上の新しいリチウムイオン電池のギガファクトリーや工場拡張が発表されている地域。
注2:
小型車のZEV化、中型・大型車のZEV化、商用車のZEV化もしくは排出削減、自動車走行距離削減、クリーン交通のためのインフラ整備の5つのワーキンググループが設置された。
注3:
インフラ整備、サプライチェーン、労働力、イノベーション、政策およびイニシアティブの5つの委員会が設置された。

EV導入の環境整備が進む米国南東部

執筆者紹介
ジェトロ・アトランタ事務所
檀野 浩規(だんの こうき)
2015年、ジェトロ入構。ジェトロ福岡、特許庁(出向)などを経て、2023年6月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・アトランタ事務所 リサーチャー
吉田 祥子(よしだ しょうこ)
IT企業勤務を経て、2022年7月からジェトロ・アトランタ勤務。

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