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特集:新型コロナによるアジア・ビジネスの変化を読み解くフードデリバリーECを拡大し、配達車電動化にも取り組む(バングラデシュ)
地場系大手「ハングリーナキー」CEOに聞く

2021年5月24日

新型コロナウイルスの感染拡大により、バングラデシュでは2020年3月26日以降、約2カ月間にわたり対策措置が講じられた。例えば、各種店舗の営業停止(2020年3月27日付ビジネス短信参照)や営業時間の短縮(2020年4月14日付ビジネス短信参照)、夜間外出の禁止(2020年8月5日付ビジネス短信参照)などだ。さらに2021年4月5日以降も、新型コロナ感染拡大の第2波を受け、ロックダウンが実施されている。

その間、外出規制により、eコマース(EC)がライフラインの1つとしての役割を担った。その市場規模(2020年8月時点)は、2016年比で約30倍の1,660億タカ(約2,158億円、1タカ=約1.3円)にまで拡大したという調査もある。また、レストランやスーパーマーケットの閉鎖・営業短縮により、フードデリバリー市場も拡大。2021年3月の現地報道によると、同市場の規模は約120億タカ(約156億円)に達し、1日当たりの配達件数が11万件にのぼっている。

ジェトロは2021年2月14日、「ハングリーナキー」のADアフメド最高経営責任者(CEO)にインタビュー。コロナ禍下の状況や取り組み、今後の展望について聞いた。なおハングリーナキーは、フードデリバリーを扱うオンライン・プラットフォームとして当地初の存在だ。アフメドCEOは、当社を2013年に立ち上げた。

夜遅くまでの勤務時の空腹が立ち上げの契機に

質問:
フードデリバリー事業を始めた経緯は。
答え:
自身は、アメリカンインターナショナル大学バングラデシュで電気工学を専攻。同大学を卒業後、友人のサジド・ラーマン氏、弟のトシフ・アフメド氏とともに小売りやファッション分野のECの立ち上げを目的に、当社を設立した。創業メンバーで日々夜遅くまで、消費者に提供するサービスに関して議論を重ねた。その最中、空腹に耐えきれないことがよくあった。そこで自身のドライバーを利用し、近くのレストランから食事を調達していたある日、「当地にはこうしたフードデリバリーの潜在ニーズがあり、事業として成立するのでは」と思い立った。2013年7月に法人を設立し、事業開始に向けた準備をはじめた。
発足当初は、最低限必要な事業立案のスタッフ数人とITエンジニア3人を採用。自社のウェブサイト、モバイルアプリ、ビジネスモデルの構築を同時並行で進めた。同年10月1日にはサービス開始にこぎつけた。しかし、配達員は1人だけ。対象エリアも、ダッカ市内中心部の商業地区であるボナニ、オフィス街のグルシャンに限った。このように、小さな事業規模でスタートした。
質問:
サービスの概要、特徴は。
答え:
サービス名の「ナキ」は、ベンガル語で「~じゃない?」を意味する。すなわち、ハングリーナキーは「おなか、すいてるよね?」ということになる。「消費者に好きなレストランのメニューをいつでも提供する」「長時間の渋滞や店頭での長蛇の列、悪天候の影響などによる外出のストレスを与えない」といったコンセプトの下で創業した。
利用者はウェブサイトまたはモバイルアプリから注文し、45タカ程度(約58.5円)の配送料を支払うことで、配達員から自宅の玄関前で食事を受け取れる。また、ショートメッセージや電話で配達状況などについて確認可能。支払い方法は、クレジットカード、電子マネー、現金から選択できる。さらに、配達にかかった時間や料理の味などに関するユーザー評価をウェブサイトやアプリで確認できるページを設けるなど、利用者の利便性向上に努めている。
当社は2021年2月現在、ダッカ、チョットグラム、シレット、コックスバザール、ナラヤンゴンジといった主要都市に約50万人のユーザーを有する。提携先レストランは4,000を超えている。また、500人ほどの配達員を正規雇用し、1日当たり1万~2万件程度のオーダーに対応している。当地最大手の事業者は、ドイツのスタートアップ、フードパンダだ。同社では約3,000人の配達員が1日当たり4万~5万件程度のオーダーに対応している。しかし、配達員の多くは非正規雇用のため、配達員の質や配送の適切性は当社が勝るのではと考えている。

環境対応含めた新サービスでコロナ禍を乗り越える

質問:
コロナ禍における市場の動向、貴社の取り組みは。
答え:
当社を含め、積極的な特別オファーや値下げを各社が進めた。しかし、バングラデシュのフードデリバリー市場は、昨年のロックダウンからほどなくして、急激な市場の縮小にさらされた。市場全体の40~50%程度のレストランが閉店したためだ。フードデリバリー全体の注文数が70~80%程度減少した時期もあったと言われている。
そうした中、フードパンダ、ショホズ、当社などのフードデリバリー事業者は、すべての配達料を無料とするキャンペーンを打ち出し、さらに薬、食料品、その他日用品といった生活必需品のデリバリーを新たに始めた(2020年4月17日付ビジネス短信参照)。厳しい状況はしばらく続いたが、8月ごろから徐々にフードデリバリー消費が回復。11月にはコロナ前の水準まで戻り、現在、市場は拡大傾向にある。実際、当社は直近3カ月で、ユーザー数が200%増加している。
質問:
現在、注力している取り組みは。
答え:
地場系電動車メーカーのアドバンスト・ダイナミクスとの提携により、配達員が利用するオートバイや自転車の電動化や太陽光発電による充電ステーションの設置を進めている。現在利用しているオートバイ(ガソリン車)では、市場の拡大に伴い、二酸化炭素(CO2)排出量が年々増加することが見込まれる。そのような中、当社は「自社で排出する二酸化炭素排出量ゼロ」を目標に掲げ、オートバイの電動化はそのための方策と位置付けている。現時点で約200台の電動車を用意。今後新たに500台程度のオートバイの電動化を予定している。すでに、バングラデシュの複数都市の様々なルートでテスト走行。ダッカ市内数カ所の配達エリアでは、実際に電動オートバイの導入を開始している状況だ。当社のような環境配慮の取り組みは、当地フードデリバリー業界で他に類を見ない。

同社では配達員が利用する自転車も電動化を進めている(ハングリーナキー提供)

他国への展開も視野に

質問:
今後の展望は。
答え:
中国のアリババは、傘下の地場系EC事業者ダラズを通じて、当社の株式を100%取得する予定だ(3月4日付で同社からプレスリリース)。これまで地域が限定されていた当社の配達網が、ダラズのネットワークにより、バングラデシュの国中に広がることを期待している。具体的には100以上の都市への事業拡大やクラウドキッチンの設置・運営、レストラン向けの在庫管理サービスなどについて、検討されている。核となるテクノロジーやビジネスモデルは、当社に蓄積がある。アリババおよびダラズはそれらを最大限活用し、国内にとどまらず、パキスタンやネパールといった周辺のアジア諸国への展開まで視野に入れている。
当地では近年、外国企業による地場系フードデリバリー事業者への投資事例が複数みられた。例えば、ドイツ大手のデリバリーヒーローは、当地でフードパンダの展開を強力に進めている。シンガポールのベンチャーキャピタル、ゴールデン・ゲート・ベンチャーズは、ショホズへの投資を進めていた。こうした中、今回のパンデミックは結果としてバングラデシュのEC市場をさらに拡大させ、消費者の購買意欲を押し上げたと言えるだろう。フードデリバリー市場もその例外でない。外国企業にとって有望な投資先の1つになったと考えている。
質問:
アリババによる買収の背景は。
答え:
アリババは2018年、当地の大手モバイルファイナンス事業者bKashとダラズに資本参画。両企業の有する国内ネットワークおよび物流網を取り込み、事業を拡大させてきた。さらには、アジア大洋州地域のフードデリバリー市場への参入を目指して2020年4月、食配サービスを手掛ける中国大手ウーラマ(Ele.me)を95億ドルで買収した。この買収で、アリババは中国で第2位のフードデリバリー事業者になった。これらは、バングラデシュでの当該市場参入に向けたものでもあったと言えるだろう。
今回の買収により、当社の経営陣は刷新される予定だ。自身は、既に別会社を立ち上げた。ガソリン中古車を電気自動車に作り替える事業や、アジアおよびアフリカ市場に向けたリチウムイオン電池の再利用に係る技術開発にも携わっている。当地において自動車市場は急速に発展している。今後の10年間で同市場は、ガソリン車から電気自動車に置き換わるとみている。その現実的なプロセスとして、既存のガソリン車の電動化に着目している。また、この点において日本企業との協働に期待している。
感染拡大を見せるバングラデシュで、フードデリバリーは生活インフラの一部になった。政府もロックダウン下での操業を可能としている。フードデリバリーは競争環境が激しいものの、既に優勝劣敗が進んでいる。今後は、新たなサービスや対象地域の拡大などで、差別化が期待される。

創業者のアフメドCEO(左)とモヒウディン副CEO(ハングリーナキー提供)
執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所
山田 和則(やまだ かずのり)
2011年、ジェトロ入構。総務部広報課(2011~14年)、ジェトロ岐阜(2014~16年)、サービス産業部サービス産業課(2016~19年)、お客様サポート部海外展開支援課を経て、2019年9月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所 所長
安藤 裕二(あんどう ゆうじ)
2008年、ジェトロ入構。アジア経済研究所研究企画部、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、生活文化・サービス産業部、ジェトロ浜松などを経て、2019年3月から現職。著書に「知られざる工業国バングラデシュ」。

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