特集:新型コロナによるアジア・ビジネスの変化を読み解く農村小売店向けECなど新たなデジタル活用も(ミャンマー)
コロナ禍で動き出すデジタル関連ビジネス(2)

2021年4月28日

世界的な新型コロナウイルス禍という逆境下にあって、ミャンマーでは、今後の成長が大きく見込まれるデジタル関連ビジネスが加速している。本特集では、とりわけその動きが顕著に出ているEC(電子商取引)およびモバイルマネー企業について、インタビューを踏まえて事例を紹介したい。ここでは、農村小売店と卸売業者を結び、配送モバイルプラットフォームを提供するA社、東南アジアでモバイルネットワークを構築したB社、モバイル金融サービスC社を取り上げる。

ただし、各インタビューは2020年12月~2021年1月の間に実施されたため、2021年2月1日に発生した国軍による権力掌握以前の情報を基に記載しており、その後の影響は反映されていない。

農村小売店と卸売業者を結ぶ配送モバイルプラットフォーム【A社】

同社は近年、農村小売店向けに設立されたECスタートアップで、農村小売店と卸売業者を結び、小売店が注文した商品を翌日には配達することができるモバイルプラットフォームを提供する。ヤンゴンを拠点とするベンチャーキャピタルから、モバイルソリューションが農村小売店の商取引に革命をもたらすと評価され、資金調達を果たしている。

同社によると、ミャンマーの人口の約6割が農村部であり、各村に小売店が存在するため、国内には数多くの地方小売店が存在する。これら大部分の小売店は農家であり、仕入れのために月に数回、仕事を休んで遠方の町へ出向き、複数の卸売業者を訪問する必要があるため、これが相当な負担になっていた。そうした状況の中で、同社のサービスが、この問題解決に貢献し、ミャンマーの農村小売店の商取引の効率化に伴う、生活改善の向上につながっているという。

同社のサービスは、ラザダのような通常のB to Cモデルではなく、農村小売店をターゲットにモバイルアプリを活用した配達サービスを提供するB to Bで、ミャンマー初のビジネスモデルである。主に日用品とモバイルトップアップカードなどの生活必需品に注力し、現在、最大都市ヤンゴン隣のバゴーを拠点に約17の郡(タウンシップ)をカバーし、すでに2,000を超える小売店と取引を行っている。

新型コロナウイルスの感染拡大により、厳格な移動制限が課されたために、地域間の配達ができなくなったことで、サプライチェーン全体に支障をきたし、ビジネスへの影響が生じたという。現在は、移動制限やロックダウンも解除され、これらの問題はある程度改善され、事業拡大に取り組んでいる。まずは、第2の都市であるマンダレーへ拡大し、最終的にはミャンマー国内全てをカバーし、最大の市場シェアを目指す。さらには、他のデジタルサービスとの統合を目指し、金融機関と提携して小売業者への融資(マイクロファイナンス)や、モバイルマネー事業の拡大、データ利活用によるサービスの機能向上などを検討している。

ミャンマーの大手卸・小売企業は特に都市部に焦点を当てており、地方の農村部はカバーしていない。この市場はブルー・オーシャンであり、大きなポテンシャルがあるという。同社は、日本や他国とパートナーシップを組むことができれば、資金調達などの観点からも素晴らしい機会になると期待しつつ、独自に有するロジスティクス・インフラなどを生かしたさらなる成長を目指している。

東南アジア複数の国でモバイルネットワークを構築したフィンテック企業【B社】

同社は、タイに本社を有し、東南アジア複数の国で利用可能なネットワークを通じて、各種モバイル金融サービスを提供する。ユーザーはこれらの国の間での送金が可能であり、ミャンマーでは2010年代半ばにサービスを開始した。

同社の使命は、銀行口座を保有しない人々に低コストで手頃な金融サービスを提供し、全ての人が金融サービスを利用できるように、金融包摂を向上させることだという。同社によると、タイでの就労と居住が許可されている外国人は約240万人であり、その大部分は近隣諸国のカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムからの移民労働者である。さらに、移民労働者の半数以上は通常、信頼性・利便性・柔軟性などの観点から、銀行や送金オペレーターなどの金融機関や、送金エージェントなどを利用し、本国へ送金している。しかし、ユーザーは送金手数料の負担感や送金金額を失うリスクなどの課題に直面しているという。

このような課題を解決するため、同社は、タイの外国人ユーザーと移民労働者向けの電子ウォレットを導入し、キャッシュレス決済や送金サービスなどを提供する。タイにいる移民労働者の多くがミャンマー人であることから、最近、同社のアプリに既に利用可能なタイ語と英語に加え、ミャンマー語を追加し、安全で便利な国際送金を可能にした。コロナ禍においても、移民労働者による家族への送金ニーズは変わらず、タイにいるミャンマー人労働者は積極的に同社のサービスを活用したため、ビジネスへの大きな影響は生じなかったという。

以前は、タイの本社が中央集権的にミャンマー事業も運営していたが、現在はミャンマーにチームが存在し、同国向けの戦略に沿って独自の事業運営を行っている。タイとミャンマーは文化的に多くの類似点があるが、少なくとも消費者行動の観点から市場は異なっているので、ビジネス上は独立して、ミャンマーで多くの意思決定行うことが可能な体制になっている。

日本を含む他国企業とのパートナーシップにも前向きだ。今後どのような形での連携があり得るのか、新規事業や今後の戦略によってその形は異なるものの、中核事業である送金および決済に関連するものであれば、常にオープンだという。ミャンマーにおけるモバイル金融サービスはこれまで以上に競争が激しくなっていく中、同社は国際送金サービスに注力し、コロナ禍においても積極的に新たなサービスを立ち上げるなど、今後のさらなる事業拡大が期待される。

大手通信キャリアが提供するモバイル金融サービス【C社】

2010年代後半に、モバイル金融サービスを開始した。高い携帯電話普及率や整備されたITネットワーク網を背景に、新型コロナウイルスの感染拡大以前からモバイルマネービジネスは急拡大していたが、コロナ禍においても、その大きな成長可能性は変わらず、さらなる成長を続けているという。

コロナ禍においては、従来のビジネスの多くがオンラインまたはECに移行したために、モバイルマネーの需要も急速に高まった。そのため、コロナ禍において同社は、顧客に対して多くのマーケティングキャンペーンを実施するなど、モバイルマネーへの移行を促すエコシステムの構築に積極的に取り組んでいる。

政府においても、コロナ以前は、社会福祉などの財政支援については、妊婦でさえ最寄りの事務所にわざわざ赴いて対面で受領する必要があるなど、伝統的な手法に依存していた。しかし、コロナ禍を契機として、その処理手順を大幅に見直し、現在、政府の多くの財政支援プロジェクトはモバイルマネーによって実施されている。このため、新型コロナの感染拡大は、モバイルマネーが、高齢者を含めてより多くの人々に幅広く認知される大きな機会となったという。

人々がまだ手元に現金を保有することを好むのか、モバイルマネーを利用することを好むのか、現時点では、同社は明確に判断できないというが、将来的には、従来の銀行システムよりもモバイルマネーを使用する人は確実に増加すると予想する。

同社は、今後の事業拡大の検討にあたって、移民労働者の国際送金および保険分野に注目している。特に、ミャンマーで普及していない保険について、保険の適用範囲や負担などの考え方に関する教育が普及していけば、将来的には、生命保険や損害保険を選択するようになると考えており、外国企業との協力も視野に入れながら、事業拡大の方策を模索している。

執筆者紹介
ジェトロ・ヤンゴン事務所
細沼 慶介(ほそぬま けいすけ)
2001年、経済産業省入省。2019年からジェトロ・ヤンゴン事務所勤務(出向)。

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