特集:新型コロナによるアジア・ビジネスの変化を読み解く新型コロナ禍で需要増、商品配送サービスで新興企業が成長(インドネシア)
長引く社会制限でEC利用者の嗜好に変化も

2021年4月26日

新型コロナウイルス感染拡大によって、日系企業はじめ、各産業・各企業が苦戦を強いられるインドネシア。その中でeコマース(EC)は、ユーザー数、取引額ともに高成長を続けている。インドネシアEC市場の実態を把握すべく、ECプラットフォームを運営する企業(X社)と、EC産業の周辺産業としてとりわけ重要な物流企業(Y社)に、新型コロナ禍によるビジネスへの影響と今後の見通しについてインタビューを実施した(実施日:X社2021年2月19日、Y社2月25日)。

EC需要に変化、新型コロナは追い風

X社は、近年設立された中国系ECプラットフォームだ。独自の物流サービスに強みを持ち、インドネシア全土に信頼性の高い配送サービスを提供することを可能としている。販売商品は多岐にわたる。中でも電化製品には競争力がある。

質問:
新型コロナは貴社のビジネスにどのような影響を与えたか。
答え:
(X社):
顧客の需要が生鮮食品や食料品、家電製品にシフトした。例えば、毎朝の通勤時間が必要なくなったことや外出がより制限されたことで、多くの人々が家での自由時間が増えた。そのため、消費者は新たな趣味や嗜好(しこう)を持ち始めたといえる。
これらの業種は現在、当社の収益の柱の1つとなっている。新規出店者・販売者も生鮮食品や食料品、家電製品といった分野で増加した。
質問:
顧客の嗜好変化が業界全体にどのような影響を及ぼしたか。
答え:
より小規模な事業者やサプライヤーに事業機会が開かれたのではないだろうか。配車・配送サービスの大手ゴジェック(Gojek)やグラブ(Grab)では、レストランなどから食事を消費者に配送するサービスのゴーフード(Go Food)やグラブフード(Grab Food)の需要が大きく増えた。その一方で、需要が減ったマッサージや清掃サービス派遣部門の事業の一部サービスを終了したと聞いている。ゴジェックやグラブが閉鎖に踏み切ったこれらの分野で小規模サプライヤーへの機会が開かれ、新たなアプリが誕生した。ゴジェックやグラブ上でビジネスを行うほどの規模ではない企業がこのような小規模サービスを利用している。われわれのプラットフォーム上でも中小規模の事業者の出店を奨励している。
質問:
新型コロナの影響で、貴社のビジネスモデルや戦略に変化は。
答え:
従来型のビジネスプレーヤーと違い、当社はECプラットフォームとして基本的にはオンラインでビジネス活動を行ってきた。そのため、根本的な戦略やビジネスモデルの変更はない。
一方で、ECへの需要が地方都市により移行するのではと予測。地方に所在する中小企業の出店を奨励している。コロナ禍になる前、ジャカルタなど都市部での交通渋滞の常態化がECへの需要が高まった要因の1つとして挙げられていた。対照的に、従来、地方の小規模都市では渋滞を心配する必要がなく、居住地の近くで必要なものを購入することができた。しかし、新型コロナ感染拡大によって外出制限が敷かれ、ECを活用せざるを得なくなった消費者も多い。
加えて、従業員の働き方にも変化があった。多くの産業では、新型コロナ拡大によって、これまでオフラインで行っていた一部業務をオンラインに移行せざるを得なくなった。これには、総じて特に問題なく移行できたとみている。それまでは、より多くのお金を稼ぎ、より多くの機会にアクセスするにはジャカルタにいる必要があったが、コロナ禍によってジャカルタ以外の都市にいてもオンラインで問題なく働くことができると証明された。この流れはコロナ収束後も継続するのではないかと思う。われわれのビジネスにとっては地方都市での需要が増加すると予測している。

需要の変化はコロナ後も継続する見込み

質問:
事業計画の観点から今後2、3年の見通しはどうか。
答え:
それぞれの商品カテゴリーに対する需要と、それに対するわれわれの販売目標は変わっていくだろう。今後どのカテゴリーが成長するかについては非常に不確実だ。だとしても、コロナ禍で需要が増加したカテゴリーはしばらく高成長を続けるのではないか。
質問:
今後のビジネス上の課題はどのようなものか。例えば、物流面でさらに投資していかなければいけないなどの意識はあるか。
答え:
インドネシア国内での物流は問題ないと考えている。当社で全てのエリアを担当できているわけではないが、さまざまな配送業者と連携しながら業務を行っている。また、物流に取り組む数多くの新興企業がある。そうした企業と連携して技術を活用できることはわれわれにとって大きな利点だ。
インドネシア最大のタクシー会社のブルーバードは人の輸送から商品の輸送にシフトしようとしている。こういった動きもわれわれにとって連携先を増やしていくという点で有益だろう。

新型コロナで物流業の注文量と売り上げが増加

Y社は、近年設立された物流企業だ。インドネシア国内に数百拠点を有し、約1万人の従業員を抱える。業界最大手ではないものの、新規サービスを次々と打ち出してきた。物流業界の新興企業として注目される。新型コロナ禍でも業績は好調だ。

質問:
新型コロナは貴社ビジネスにどのような影響を与えたか。
答え:
(Y社):
われわれが行っているラストワンマイル配送サービスにとって、2020年は非常に好調が続いた。1月から4月までの注文は、1日当たり平均100万件程度だった。その後、5月から12月は、1日当たり100万~150万件と、徐々に増えた。特にEC経由の注文が好調で、4月には1日当たり45万2,000件だった出荷量が、9月には76万1,000件に増加した。当社の顧客は、EC、ソーシャルコマース、企業間取引、ウォークインカスタマー(店舗やカウンターで荷物配送を直接依頼する顧客)の4つのセグメントに分かれている。現在の収益の70%はEC経由の注文から成っている。EC経由の注文量が増えたため、大手ECサイトのトコペディア(Tokopedia)やショッピー(Shopee)と連携して、配送費無料やキャッシュバックなどのプロモーションを実施して、さらに市場を獲得しようとしているところだ。
質問:
注文量の増加に伴って人材も必要となってくるかと思うが、どう対応したか。
答え:
グループ会社の1つが、注文量・需要に合わせて日単位で人的資源を管理している。人材を多く抱え過ぎると財務が逼迫するため、必要以上に組織が膨張しないよう注意を払っている。それにしても、最適化の余地はまだ残っていると考えている。今はすぐに解決する必要のある大きな問題がある場合は、サードパーティベンダーに依頼している。

コロナ禍での需要増を背景に、市場シェアトップを目指す

質問:
事業計画の観点から今後2~3年の見通しはどうか。
答え:
2021年~2023年の目標として、インドネシアのラストワンマイル配送サービスで首位の企業になることを掲げている。シェアを獲得するため、最終的には各島に1つずつメガハブ(大型拠点)を設置したい考えだ。手始めに2021年にジャワ島にメガハブを設置する予定だ。エリアとしてはスラウェシなどの東インドネシアに注力していきたい。また、フィンテック業界やフードデリバリー業界のビジネスにも進出したいと思っている。
質問:
今後のビジネス上の課題はどのようなものか。
答え:
コスト構造の最適化が目下の課題だ。現在、われわれは毎年6%の成長に満足してはいる。同時により高い成長率を達成するため、原価構造の最適化を進めたい。ラストワンマイル配送サービスでは、運転手の給与が最大のコストになる。注文量やその変動などに関係なく、安全余裕度(注)を維持することが最も重要だ。
質問:
コールドチェーン物流に今後投資していく予定はあるか。
答え:
コールドチェーン物流については、グループ内のビジネスユニットで実施。倉庫管理のサービスを提供している。2018年以降、このビジネスユニットが損失を被ってきた。2021年、2022年とコールドチェーン物流を強化していく段階にあり、どうビジネスを成長させていくか検討している。
コールドチェーンの分野では日本企業とコラボレーションする余地があると思う。市場の育成という観点で、長期的なプロジェクトを連携して実施していきたい。

注:
売上高が損益分岐点売上高をどの程度上回っているかを示す指標。企業経営の安全度合いを示す指標の1つ。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
尾崎 航(おざき こう)
2014年、ジェトロ入構。生活文化産業企画課、サービス産業課、商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部 EC・流通ビジネス課を経て、2020年9月から現職。

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