特集:新型コロナによるアジア・ビジネスの変化を読み解く在印有力食品・医薬品企業に聞く、コロナ禍のEコマース(後編)(インド)

2021年4月19日

インドでは、2020年3月末から5月末まで新型コロナウイルス感染拡大防止のため、全土でロックダウン措置が取られた。新型コロナ禍を経て、人との接触や密な空間を避けようとする消費者心理の変化から、Eコマースの需要が拡大した。本レポートの前編では、新型コロナの概況と拡大が見込まれるEコマース市場、特に食料雑貨と医薬品のオンライン販売の概況をみた。後編は、インドにおける食料雑貨や医薬品販売企業3社へのインタビューを通じて、各社の新型コロナ禍における具体的な取り組みを報告する。

B2BからB2Cに、ビジネスチャンスがシフト

1.米国大手食品製造・流通会社A社

野菜やフルーツなどの缶製品、ベジタリアン向けの菜食製品、ケチャップ、トマト製品などを幅広く手掛けるグローバル企業(インタビュー日:2021年2月3日)。

質問:
貴社の概要は。
答え:
当社の国際ブランドをインドで取り扱っている。ブランドは、インドではイタリア料理に使うオリーブやオイル、パスタ、パスタソース、ジュースなどに加えて、フルーツや野菜、豆の缶製品を取り扱っている。
質問:
新型コロナ禍による事業計画の変化は。
答え:
2019年度第4四半期(2020年1~3月)は、年度計画の最終期として20~25%の売り上げ増を見込んでいた。しかし、3月から厳格なロックダウン措置が行われることとなり、状況が一変した。工場での製造停止などもあり、年度計画を修正せざるを得なかった。特に、B2B市場がロックダウンで完全に停止したため、売り上げが見込めない上、売掛金回収のめどを立てるのにも苦労した。一方、B2Cの売り上げ状況は悪くなかった。人々は特に何もすることがないまま家にいるようになり、外で使っていたお金を家の中で使うようになった。家の中での消費に目が向き、特にオンラインビジネスが活況を呈した。人々はEコマース・プラットフォームの使い方に慣れていき、どうすれば安価な製品を検索できるか、どのようにこのプラットフォームを活用できるかといったことを考え始めるようになった。そうした状況は、当社にとっても大きなチャンスと捉えている。当社がもともと持つ自前の流通網では、(人口100万~400万人未満の)ティア2都市にはアクセスできなかったが、Eコマースがあれば、どこからでも当社製品を購入してもらうことができる。オンラインマーケットに商品をリストアップするだけで良く、消費者が自身で製品を見つけてくれる。

コロナ禍に合わせて製品ラインナップを刷新

質問:
製品ラインナップに変化はあったか。
答え:
コロナ禍における消費者の行動変化に合わせ、投入製品も変化させ工夫した。例えば、健康食材のチアシードやフラックスシードなどB2C向けの製品として、新たな商品を幾つか展開した。また、クランベリーのパックは、これまでよりも大容量の500ミリグラム入りのバルクパックを用意した。消費者がスムージーなどを家で楽しむようになり、クランベリーなどの製品への需要が高まったからだ。一方、マヨネーズはもともと家族向けの大容量パックを用意していたが、これまで外に出ていた勤労世代がロックダウンによって在宅が続くようになると、弁当や軽食向けに作っていたサンドイッチなどのマヨネーズを利用する機会が減り、消費が限られてきた。そのため、こちらは逆に、35ルピー(約53円、1ルピー=約1.5円)や50ルピーといった小容量パックのラインアップを準備した。さらに、消費者が家に居ながらこれまでレストランなどで経験していたような味を楽しめるよう、スパイスやローストガーリックなど各種の味付きマヨネーズも投入した。
質問:
今後2,3年のビジネスの見通しと期待、目標は。
答え:
当社はこれまでB2Bセグメントに重点を置いていたが、B2B市場はロックダウン解除後も正常化へ向けてはビジネスがまだ厳しい状況だ。新型コロナ禍以前の状況に戻るまでは、まだ半年以上はかかるとみている。そこで、当社はB2Cセグメントに着目し始めた。消費者にさらなる商品や購入場所や便利さなどを提供することにフォーカスしている。B2Bはブランドや品質よりも価格が重視されるが、B2C向けではブランド構築やブランドイメージの向上が重要になってくるので、こうしたところに注力していきたい。現在、B2B向けが60%、B2C向けが40%となっているが、B2C向けを80%にまで持っていきたいと考えている。

コロナ禍で1回当たりの平均注文額が上昇

2.地場食料品オンライン販売会社B社

食料品を中心に幅広い製品のオンライン販売を手掛ける(インタビュー日:2021年2月25日)。

質問:
新型コロナ禍におけるビジネスにどのような変化があったか。
答え:
新型コロナ禍は、消費の減退を通じて食料品ビジネスに大きな影響を与えた。ロックダウンなどによって人々は家に閉じ込められ、全体的に消費が減退した。当社ビジネスでは、購入の頻度は落ちたものの、1回当たりの平均注文額は高くなった。概算でいうと、当社サイトの平均注文額はだいたい1,300ルピーだったが、新型コロナ禍を受けて2,100ルピーまで上昇し、需要に供給が一時追い付かなくなるほどだった。2021年2月現在、ほぼ全ての活動制限は解除されているが、平均注文額は1,800ルピーと、引き続き新型コロナ前の水準よりは高い。
消費行動の変容としては、消費者の必需品を買いだめするスタイルが挙げられる。ロックダウンを受けて、人々は米や小麦、油などの製品を多く購入して備蓄するようになった。ロックダウンが長期化してくると、家で消費するスナック菓子の需要も高まった。

ラストマイルの配達はバイクからミニバンへ

質問:
一時は供給が間に合わなかったとのことだが、サプライチェーンや物流にはどういった変化があったか。
答え:
当社はもともと、主要都市に在庫管理のための中央倉庫を幾つか持っている。ティア2都市でのオぺレーションはこうした中央倉庫から行われる。倉庫で製品をパッケージして運ぶわけだが、平均的な注文額と量が増えたことで、消費者へのラストマイルの配達をバイクで行うことが困難になった。そのため、代わりにバンやミニバンを導入し、コストを削減しつつ高い需要に応えられるようにした。また、消費者が新型コロナを恐れることから、梱包(こんぽう)をさらに丁寧に行うようになった。

巨大企業も参入、激化する食料品Eコマース市場

質問:
将来のビジネスの予測や目標は。
答え:
新型コロナ禍やロックダウンを経て、私たちを取り巻く状況はドラスティックに変化した。これまで食料品のオンライン販売ではそれほど多くの競合はいなかったが、現在はアマゾンやウォルマートといった巨大企業も参入した。こうした巨大企業と同じ土俵で戦う上で自身のブランドをどう差別化するかというアイデアが重要だ。消費者にどういった体験を提供できるかがカギとなる。当社のビジネスを取り巻く状況は非常に良い方向に向かっており、展開する都市も拡大していきたいと考えている。

新型コロナ禍で注文は通常の3倍に

3.地場医薬品ネット販売会社C社

2010年代に設立。医薬品販売など薬局機能をオンラインプラットフォーム上で提供している(インタビュー日:2021年2月19日)。

質問:
新型コロナ禍による貴社ビジネスへの影響は。
答え:
ロックダウンが政府から発表された時、消費者もビジネス界も大きな戸惑いに直面した。当社では、まずビジネス継続計画(BCP)の見直しに取り掛かった。パンデミックやロックダウンは、これまでの計画では予想していない未知の事態だった。ただ、ヘルスケア産業の需要は大きいことはわかっていたので、当社では、消費者の需要に応えられるかどうかを把握したかった。まずは従業員の安全確保と顧客への情報提供に取り掛かり、その後すぐに政府当局と掛け合って必要な操業許認可を得た。何とか短期間で最低限の運営をすることはできたが、そうすると次に直面したのは、予想をはるかに超える注文の増加だった。マーケティングやプロモーションを行ったわけでもないのに、注文は通常時の3倍にもなった。なぜなら、地元の薬局は閉店してしまい、病院も開いておらず、人々は医者にも行くことができなかったからだ。そのため、医薬品の配達だけでなく、コンサルテーションサービスの需要も高まった。
ロックダウンはサプライチェーンに甚大な影響を及ぼしたため、当初は在庫管理や輸送に大きな困難が伴ったが、通常の薬局と比較した時の当社の強みはサプライチェーンだ。全国各地にある在庫状況を瞬時に把握し、数日のうちにサプライチェーンを再構築した。

インドの薬局の様子(ジェトロ撮影)

新規顧客が35%から65%に急増

質問:
ロックダウン後の需要はどのように変化しているか。
答え:
新型コロナが落ち着いた後も、需要は継続すると思われる。マーケティングや広告費をかけずとも堅調な需要があることは、当社ビジネスにとって非常にポジティブだ。新型コロナ禍の中では、新規顧客の開拓も進んだ。当社は2020年3~6月間の利用者の65%が新規顧客だと推計している。以前は月間利用客のうち75%がリピーター、35%が新規顧客だった。こうしたことからも、多くの消費者が新型コロナ禍を契機に、医薬品の購入に際し、オンラインを新規に利用し始めたのかがわかる。
質問:
今後2、3年のビジネスの見通しと期待、目標は。
答え:
購入方法がオンラインに移行したという点で、新型コロナ禍は非常に大きな変化をもたらした。今後は、より短い時間とより良い品質で手頃な価格の薬を消費者に届けられるようにしていきたい。パンデミック収束後も、一度変容した人々の行動様式は継続し、消費者のEコマースプラットフォームの利用は継続するだろう。
  1. 新型コロナ禍で成長する食料品、医薬品Eコマース(前編)(インド)
  2. 在印有力食品・医薬品企業に聞く、コロナ禍のEコマース(後編)(インド)
執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所(執筆時)
磯崎 静香(いそざき しずか)
2014年、ジェトロ入構。企画部企画課、ジェトロ・チェンナイ事務所海外実習、ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課を経て、2019年から2021年3月までジェトロ・ニューデリー事務所勤務。

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