特集:新型コロナによるアジア・ビジネスの変化を読み解く物流倉庫の自動化や分析機能の強化で需要増に対応(オーストラリア)
新型コロナ禍でオンラインショッピングの利用急拡大

2021年4月9日

オーストラリアでは、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、外出制限などの厳格な制限措置が課されたことから、オンラインショッピングの利用が急拡大した。そのため、多くの企業がオンライン販売への移行や関連事業への投資を拡大している。本稿では、新型コロナ禍の影響やオンラインショッピングに関する取り組みなどについて、オーストラリアの物流企業A社、小売企業B社に話を聞いた(インタビュー実施日:A社2021年1月21日、B社2021年2月19日)。

配送量が急増、物流倉庫の自動化で感染リスク低減

質問:
新型コロナウイルス感染拡大は、A社のビジネスにどのような影響を与えたか。
答え:
オーストラリアは新型コロナ禍の前に、2019年末の大規模な山火事によって既に大きな影響を受けていた。われわれのビジネスも打撃を受け、物流ネットワークの混乱や建物への被害があったほか、山火事の被害を直接受けた従業員もいた。その後、山火事の被害を受けた地域への支援と将来の災害に備え、ビジネスの回復を計画していたところに、新型コロナウイルス感染が拡大した。オフィスで働く全ての従業員は在宅勤務を強いられた。また、航空輸送に大きく依存していたため、商用便の減便によって配送能力が大幅に制限された。一方で、オンラインショッピングの習慣が急速に広まったことから、2019/2020年度(2019年7月~2020年6月)には過去最大の配送量を記録した。オンラインショッピングによる配送量の増加は、ブラックフライデー(注)やクリスマスなどの季節的な要因にとどまらず、8カ月以上継続して見られた。コロナ禍での経験は、災害や非常時に備えたネットワークの構築、柔軟性や安全性の確保、効率化などの重要性をより高めることとなった。
質問:
それらの影響や課題について、A社はどのように対処したか。
答え:
在宅勤務の要請によってオフィスが事実上閉鎖されただけでなく、物流倉庫に対しても、社会的距離確保の観点から人数制限が課された。そのため、物流倉庫では、手の消毒やマスク着用だけでなく、作業時に手で触れるタッチポイントを削減した。小包や荷物の移動経路を再設計し、自動化を進めることによって、物流倉庫6拠点で1日当たり約50万カ所のタッチポイントを削減することができた。これによって、感染リスクが低減するだけでなく、より安全で効率的に作業できるようになった。われわれは以前から、ネットワークの自動化を計画し、ブリスベンで新たな施設を開設するなど、3億オーストラリア・ドル(約252億円、豪ドル、1豪ドル=約84円)以上の投資を行ってきた。今後も自動化の展開を加速する必要があると考える。
質問:
配送需要が増加した背景をどのように分析しているか。
答え:
都市部、地方部ともに配送需要は大きく増加したが、メルボルンでは外出制限が100日以上続くなど、都市部では制限措置の影響によって需要が増加したとみている。一方、地方部では、オンラインショッピングの利用が拡大するなど、習慣の変化によって需要が増加したと考えている。われわれの配送のほとんどはBtoCで、取引先企業による小売り販売の増加によって配送需要も拡大した。競合他社が十分な配送サービスを提供できなくなったことなども影響し、これまで取引を行っていた企業からの需要が増加しただけでなく、新たに契約を締結した企業も増えた。コロナ禍によって、オーストラリアの人々が買い物する方法は急速に変化し、今後もその習慣は継続するとみている。
質問:
今後の見通しや、A社にとっての最優先事項は。
答え:
2025年までに年間7億個を配送でき、年商100億豪ドル規模の企業となることを目指している。そのためには、多額の投資と成長が必要で、既存のネットワークの優位性や過去数年間の巨額の投資を生かし、自社の競争力を高めていく。

分析機能の強化やデジタル化の取り組み加速化

質問:
新型コロナウイルス感染拡大は、B社のビジネスにどのような影響を与えたか。
答え:
外出制限に伴って発生したパニック買いや、在宅勤務の影響によって食品・酒類の売上高が大幅に増加した。ステイホームの間に料理など何か新しいことを始める人々が増えたことも、売り上げ増加に貢献した。店舗販売による売り上げも増加したが、外出制限や店舗内の人数制限、感染防止の観点などから、オンラインショッピングの需要が高まったため、ECでの売り上げが最も大きく伸びた。2019/2020年度(2019年7月~2020年6月)のグループ全体の売上高が前年度比8.1%増だったのに対して、EC売上高は41.8%増を記録した。
質問:
それらの影響や課題について、B社はどのように対処したか。
答え:
消費者の行動変化に対応できるよう、在庫の管理や確保を強化した。コロナ禍の前から分析ツールを導入していたことも功を奏した。グループ内では部門ごとに独自の分析チームを有しているほか、分析を専門とする部門も設けており、コロナ禍に発生した事例を検証することができた。
質問:
今後の見通しや、B社にとっての最優先事項は。
答え:
ECやクリック・アンド・コレクト(オンラインで購入した商品を店舗などで受け取ること)のサービスは従来から提供しており、分析機能の強化やデジタル化は進めていたが、コロナ禍はその取り組みを拡大・加速することにつながった。これらの機能を倍増させることが当面の目標で、そのために大規模な投資を計画している。オンラインショッピングでの競争力を高めるには、個々の顧客により合わせてカスタマイズしたサービスの提供が必要になる。最大の課題はコストだ。個別のニーズに応じた商品は大量に調達できない可能性が高く、そのサプライチェーンにかかるコストも増加することが見込まれる。
質問:
今後、日本企業などとの連携の可能性はあるか。
答え:
デジタルの面では、米大手グーグルや米ソフトウエア企業タブローが提供する分析ツールを活用しているほか、アプリケーションの開発などではインドのIT企業タタ・コンサルタンシー・サービシズとも提携している。おおよそ必要な機能は既に有していると思うが、何か非常に特殊な機能が必要になった場合や、日本企業がユニークな技術を有している場合などには、適切なパートナーシップを結ぶことにはオープンだ。
A社概略
国内に数千規模の拠点を有し、配送事業のほか、小売り、金融、保険、旅行サービスなども手掛ける。オーストラリア以外では、香港や英国、シンガポールなどでも事業を展開する。
B社概略
国内外に数千規模の店舗を有し、食品、酒類、雑貨などの小売り販売のほか、ホテル事業も手掛ける。オーストラリア以外では、ニュージーランドで事業を展開している。

注:
11月第4木曜日の翌日。小売店などで大規模な安売りが開催される。
執筆者紹介
ジェトロ・シドニー事務所
住 裕美(すみ ひろみ)
2006年経済産業省入省。2019年よりジェトロ・シドニー事務所勤務(出向) 。

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