特集:新型コロナによるアジア・ビジネスの変化を読み解くECセクターの機会と課題、業界団体に聞く(バングラデシュ)

2021年6月25日

新型コロナウイルス感染拡大により、バングラデシュでは、Eコマース(EC)やフェイスブックを利用したFコマース(FC)が急成長している。新型コロナ禍の中でのEC市場や今後の展望について、バングラデシュEコマース協会(e-CAB)ゼネラルマネジャーのジャハンギル・アラム・ショボン氏に聞いた(ヒアリング日:5月22日)。


e-CABのジャハンギル・アラム・ショボン氏(e-CAB提供)

パラダイムシフトの足掛かりに

質問:
e-CABの概要は。
答え:
バングラデシュでは、2008年ごろからECビジネスがスタートしたが、当初は各社が独自に活動していた。そのため、業界としての取り組みや政府と議論する業界団体として、2015年に協会を立ち上げた。現在は1,500社以上の会員が在籍しているが、2020年当初は1,000社だったことからすると、1年で50%増加したことになる。うち、EC事業者が75%、FC事業者が25%となっている。
質問:
コロナ禍におけるEC市場の動向は。
答え:
2015年から2019年はEC市場は年間25%の成長を遂げていたが、コロナ禍によってEC利用者が増加し、2020年は50%の成長を遂げた。今後も同様の成長が期待される。コロナ禍での分野別の売上高成長率は、コロナ前の2019年との比較では、食料雑貨品は300%、フードデリバリー200%、衣料品60%、医薬品200%と推測している。また、ラマダン明けの休暇〔Eid-ul-Fitr(イード・ウル・フィトル)〕にはオーダーが増加し、ラマダン休暇前の2倍となった。
コロナ禍とひとくくりに言っても、2020年と2021年では事業運営におけるフェーズが異なる。2020年はコロナ禍の中でのデリバリーやサービス展開そのものが課題だったが、2021年は売上増を背景に、商品供給やストック確保などが課題になっており、追加投資が必要な状況だ。
質問:
EC利用者の購買行動の傾向は。
答え:
消費者の購買傾向としては、価格志向型が多いが、最近は消費者のマインドセットが進んでいると感じている。通常、イード休暇前には新しい服を購入するなど、事業者は1年のうちの3割はイードでの売り上げが占めると言われるほど、この時期は購買活動が活発になる。これまでの価格志向型と異なり、2021年のイードでは、高価格帯やブランド品の売り上げが非常に好調だった。特に、外国製品に対しては良い印象を持つ傾向にあり、特に日本製品には信頼を寄せている。

商業上のライセンスやインフラ整備が急務に

質問:
FCの概要、特徴は。
答え:
FCはフェイスブックを利用したオンラインビジネスで、国内に50万の事業者がおり、70万人が利用していると言われている。いずれも小規模事業者で、6割に相当する30万人が女性、また、そのうち半分の15万人は主婦や学生が運営しているとされている。しかし、FCは商品のサプライチェーンが脆弱(ぜいじゃく)なことに加え、フェイスブックというプラットフォームでの運用のため、フェイスブックの運用ポリシーに依存し、商業ライセンスなどの課題などもあり、ビジネスの持続可能性が欠如していると言わざるを得ない。

Fコマースの一例
(出所)Facebook
質問:
ECビジネスの地方への拡大の可能性は。
答え:
現在、EC市場は小売市場の3%程度とみており、ECの利用構成は都市部が87%、地方が13%を占める。アクセスできる地方都市は全体の20~30%と推計しており、ビジネス拡大のためには地方への展開が必要だが、2つの課題が存在する。
1つ目はインフラ整備だ。商品デリバリーを行うには、道路インフラやネットワーク構築を改善する必要があり、政府による支援が期待される。ローカル市場などの伝統的なサプライチェーンを取り込むことができれば、デリバリー網を確保でき、ネットワーク拡大につながると考えており、地方に拠点を有する郵便局や商業省とも議論をしている。
2つ目の課題は、サービス利用を可能とするための電力網やインターネットなどの通信網の拡大だ。サービスの前提となる社会インフラの拡大のためにも、ICT省(情報通信技術省)との間でも議論をしているところだ。

システム・制度構築が必要に

質問:
ECビジネスの構造的な課題は。
答え:
ECビジネスは拡大フェーズにあり、成長を支えるシステム、制度が必要だ。課題は3点ある。1つ目の課題は、資金調達手段の欠如だ。銀行からの融資が受けられず、特に中小企業は資金ニーズを満たすことができない。金融機関にオンラインビジネスの理解を深めてもらう必要があるとともに、資金調達の機会を増やす必要がある。2つ目は、人材育成だ。FC事業者も含め、専門性が欠如しており、ECに関するワークショップや研修などが必要と考えている。3つ目は、政府によるEC政策の改定だ。2018年に政府は「デジタルコマース政策2018」を策定したが、2021年にはこの政策が改正される予定だ。そこでは、新たな論点として、デリバリーや顧客サービスの項目、EC事業者に関するレビューや評価、商品品質、競争法に関する項目なども政策に入れるよう、商業省と議論している。
質問:
ECビジネスで今後取り組むべき点は。
答え:
現在、消費者の93%はキャッシュ・オン・デリバリー(代金引き換え払い)を利用している。さらには、ECにもかかわらず、電話でのオーダーも多く、デジタルで完結できていない状況だ。モバイル決済やカード決済には手数料が発生するため、キャッシュ・オン・デリバリーが多く利用されているが、今後はモバイル・ファイナンス・サービス事業者やクレジットカード事業者、政府、バングラデシュ銀行とも連携し、オンライン決済を増加させる取り組みを進めたい。
今後、模倣品や粗悪品も課題になると思われるため、EC事業者や商品への評価に関して「デジタルコマース政策」に反映するよう、政府に提案している。
質問:
ECにおける日本企業との連携の可能性は。
答え:
日本は古くからの友人であり、バングラデシュの経済発展に大きく貢献してくれた。日本企業との連携は非常に期待するところで、連携の可能性は4点あると考えている。1つ目は、日本企業の商品をEC上に供給することだ。日本製品への信頼は非常に高いため、EC販売で連携が可能と考えている。2つ目は、日本のECシステムやビジネスアイデアなどを提供してもらうことだ。バングラデシュはビジネス機会が多いため、ビジネスの場として事業を進めてほしい。3つ目は、既存企業への投資だ。既に多くの企業がEC事業を展開しており、資金調達ニーズが高いため、日本企業からの投資を歓迎する。4つ目は、企業や人材への技術支援だ。日本企業が有する高い基準の技術を提供してもらうことで、ECビジネスの発展に寄与すると考える。今後、日本企業との連携について、業界団体として活発に議論していきたい。
執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所 所長
安藤 裕二(あんどう ゆうじ)
2008年、ジェトロ入構。アジア経済研究所研究企画部、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、生活文化・サービス産業部、ジェトロ浜松などを経て、2019年3月から現職。著書に「知られざる工業国バングラデシュ」。

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