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特集:新型コロナによるアジア・ビジネスの変化を読み解く成長産業としての農業、コロナ禍で期待集める(カンボジア)
国内外企業が課題解決に取り組む

2021年3月31日

新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の抑え込みに成功した一方、世界的な感染拡大による外国人観光客の減少などにより大きな打撃を受けたカンボジア経済。カンボジア政府は、コロナ禍からの景気回復戦略として、農業分野における海外からの投資の促進や、農作物の海外への輸出の拡大を定めている。同国の経済回復にとって、農業が重要な役割を果たすことが分かる。

本レポートでは、新型コロナによる同国経済への影響と、景気回復に向けた政府の政策を振り返りつつ、農業分野における地場・外資有力企業の取り組みを紹介する。また、続くレポートでは、農業分野に取り組む3社へのインタビュー結果を紹介する。

新型コロナで経済に打撃も輸出は前年比増

カンボジアにおける新型コロナ国内感染状況は、2021年3月16日時点で、感染者累計1,430人、死者1人(世界保健機構外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 参照)。諸外国に比べ、新型コロナの抑え込みに成功しているといえる。

しかし、カンボジアはGDPの12%を観光業が占め、外国人観光客の減少などが同国経済にもたす影響は大きい。観光省によると、2020年11月時点で閉鎖となった観光関連企業は、約3000社、失業者は約5万1,000人という。IMFによると、2020年のカンボジアの実質GDP成長率はマイナス2.8%と予測されている。

一方で、輸出は増加傾向にある。カンボジア商業省によると、2020 年の輸入額が前年比15.7%減であるのに対し、輸出額は6.4% 増だ。品目の内訳が公開されている1〜9月期の統計でみると、主要輸出品目の衣料品(構成比40.8%)は、新型コロナによる海外需要の減少により前年同期比12.4%減となっている。一方、構成比6.1%の農産物は34.7%増、同4.4%の電気部品は2.8倍に上る(表参照)。

表:カンボジアの主要輸出品目(1〜9月)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値、—は値なし)
品目 2019年
(1~9月)
2020年
(1~9月)
前年
同期比
2020年
構成比
総額 11221 13412 19.5%
階層レベル2の項目衣料品 6250 5473 △12.4% 40.8%
階層レベル2の項目その他繊維 977 962 △1.5% 7.2%
階層レベル2の項目履物 914 848 △7.2% 6.3%
階層レベル2の項目農産物 605 816 34.7% 6.1%
階層レベル2の項目電気部品 206 584 184.0% 4.4%
階層レベル2の項目自転車 300 385 28.4% 2.9%

出所:カンボジア国立銀行

コロナ禍でも好調な農産品の輸出は、2016年の5億3,000万ドルに対し、2019年は8億9,000万ドルと、ここ数年、コメやバナナを中心に拡大する傾向にある。同国で農産品の輸出が伸びている背景には、これまでカンボジア政府が農業を成長産業として後押ししてきたことがある。政府は2015年、成長戦略としてカンボジア産業開発政策を制定。2025年までの10年間における経済改革方針と具体的目標を定めた。農業分野では、輸出全体に占める農作物加工製品の比率を2013年の7.9%から、2025年までに12%まで引き上げるとしている。

政府は農業をコロナ禍で重要な産業と位置付け

また、カンボジア首相府の政策立案機関であり、国家の産業政策策定などを行う国家最高経済評議会(SNEC)は2020年11月、農業は、雇用を生み出し、人々を貧困から脱却させる可能性があるという観点から、コロナ禍で改めて重要な産業であると言及している。同評議会が作成した景気回復戦略によると、今後、近代的な農業に対する諸外国からの投資を呼び込み、また、主に中国とカンボジアの間で署名された自由貿易協定(FTA)を生かし、輸出を拡大していくという。加えて、コメと野菜の生産性や加工技術、サプライチェーン機能の向上についても触れている。これらのカンボジア政府の方針からわかるように、同国において農業はポテンシャルのある産業といえる。

農業分野に日系含めた外資の有力企業が参入

有力なカンボジアの地場農業企業の1つが、2009年に有機農業に参入したグリーン・オーガニック・ファーム(以下、GOF)だ(本特集「オーガニック野菜、コロナ禍での健康意識の高まりで需要拡大(カンボジア)」参照)。カンボジアはベトナムから多くの野菜を輸入する。しかし、過度に農薬が含まれ、健康に影響を及ぼす心配もあるといわれている。コロナ禍でカンボジア人の健康意識は一層高まっていることもあり、市民の間で不安が広がっている。こうした中、GOFは、コンポンスプー州の6つの村で約80人の地元農家と提携し、安全な有機野菜を育てている。近年、CSR(企業の社会的責任)やSDGs(持続可能な開発目標)など、企業においても持続可能な経営が求められている中、GOFは生育段階から環境への配慮、消費者の健康に配慮している。加えて、高級料理店や高級ホテルとも提携し有機野菜を卸しており、今後も成長が見込まれる。

また今後、農作物の生産性向上が重要になってくる。現状、カンボジアにおける農業は人力によるものが多く機械化が十分に進んでいないため、生産性に課題がある。その問題の解決に動く日本企業がある。

日本のスタートアップであるスカイマティックスは、ドローンにより上空から撮影した写真を基に、作物の生育状況を把握するための葉色解析を行うサービス「いろは」を展開する。同社は、日ASEANにおけるアジアDX促進事業(注)に採択。カンボジアの農業分野、特に同国の主要農作物である稲作農業に対し、葉色解析サービスの導入を行い、事業性の実証テスト・検証を実施している。カンボジアにおける農業の近代化という観点では、まだトラクターが導入され始めた段階だが、新しい技術に対する規制が緩やかなことから、先進国の技術発展を飛び越えて独自の発展を遂げる、リープフロッグ現象が起きやすい。同社のサービスを使い、生育状況を見ながら適切な場所に水や肥料などの散布ができれば、労働時間も減らしつつ収穫量増加が見込める。

また、農業分野では生産性を拡大させることに加え、輸出産業につなげていくことも重要だ。ヤマト・グリーンは、10社以上の日本企業などと連携しながら、カンボジアで有機野菜の生産・加工から販売・配送までを行う取り組む。いわゆる農業の6次産業化を進めている企業だ。既に同社はカンボジア農業省、観光省、商業省とMOU(覚書)を締結し、政府と協力し事業を推進している(2020年7月28日付ビジネス短信参照)。同社は提携企業と連携しながらコールドチェーンを活用し、新鮮な状態で消費者に農作物を届けることを可能にした。この点で、大きなインパクトを残している。現状、同社の事業は国内販売にとどまっている。しかし、今後、他国への輸出やASEAN各国への事業展開を計画しており、輸出産業への貢献も期待できる。同社と商業省とのMOU式典では、商業省のパン・ソラサック大臣自ら、カンボジアは今後、コメと野菜の生産拡大・輸出拡大をするために加工技術を身につける必要がある、と言及した。

輸出拡大に取り組む地場企業も

食品加工会社では、カンボジア産の農作物を使い、ライスクラッカーやスナック菓子の製造販売を行う現地企業であるリリー・フードが食品加工技術の技術移転・輸出拡大に貢献している(後日記事公開予定)。コロナ禍において、国内販売は伸び悩んだものの、海外向けの輸出は好調だという。今後も商品ラインナップの拡充や事業拡大も検討している、と言及した。また同社は、別会社として日本の亀田製菓と合弁会社リリー亀田を設立し、米菓の製造販売をしている。

コロナ禍においてカンボジア政府が重点を置く農業分野は、ビジネスチャンスがあるといえる。同時に、様々な課題を解決していく必要がある。そうした課題の1つが安全性だ。この懸念に対しては、グリーン・オーガニック・ファームやヤマト・グリーンが取り組み、生産性の低さに対しては、スカイマティクスやヤマト・グリーンのような企業がデジタル技術を用い解決を目指している。加えて、付加価値を高めた加工食品の輸出にあたっては、日本企業だけでなくリリー・フードといった大手現地企業が大きく貢献している。今後、様々な産業が連携し合い、生産段階から加工・流通・販売まで行う6次産業を促進していくことが、今後のカンボジアの農業の発展につながると考える。


注:
ジェトロの補助金事業の一つ。当該事業では、日本企業と現地企業との協働によるデジタル技術を活用した実証事業を通じて、ASEANにおける経済・社会課題を解決し、日ASEANが一体となってデジタルイノベーションの社会実装を進めることを目的としている。

変更履歴
表に誤りがありましたので、訂正いたしました。(2021年7月7日)
(訂正箇所)
  • 2019年(1~9月)、2020年(1~9月)の数値
  • 2020年の構成比(その他繊維・履物・農産物・電気部品・自転車)の数値
執筆者紹介
ジェトロ・プノンペン事務所
井上 良太(いのうえ りょうた)
人材コンサル会社での経験(2017年~2020年)を経て、2020年7月からジェトロ・プノンペン事務所勤務。

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