特集:新型コロナによるアジア・ビジネスの変化を読み解く日本品質のカンボジア産菓子を製造、輸出拡大にも貢献(カンボジア)
リリー・フードインダストリー代表に聞く

2021年4月6日

カンボジアでは、国民の3割以上が農業に従事し、重要な産業として位置付けられている。一方で、農作物の付加価値を高めて輸出できていないことが課題だ。今回は、カンボジア産の農作物を使った菓子類を国内外に販売しているリリー・フードインダストリー(LY LY FOOD INDUSTRY)代表、イング・チブリー(ING CHHIVLY)氏に、カンボジアの食品加工事業についてインタビューした(2020年12月16日)。


イング・チブリー氏(本人提供)

日本の食品安全管理規格に準拠したカンボジア産の菓子を製造

質問:
貴社事業の概要について。
答え:
私たちはヘルシーなライスクラッカーやスナック菓子の製造・販売をしている。カンボジアは菓子類を含めて食料品の輸入量が多い。特に、スナック菓子に関しては大量の添加物が入っているものも多く、健康に悪影響を及ぼす危険性があるため、状況を変えたかった。そこで、諸外国、特に日本の食品安全管理規格に準拠し、より健康的でおいしいおやつを作ることで、社会に貢献しようと考えた。 加えて、雇用創出は社会貢献の最も大事な1つだと考えている。現在、約260人の社員がいるが、私たちは貧困層や目の不自由な人、孤児、障害者に雇用機会を提供すると同時に、トウモロコシとコメを供給する地元の農家の収入を増やすことを意識している。こうした取り組みは、貧困の削減と近隣諸国の輸入品を減少させたいカンボジア政府の考えと合致している。
質問:
ターゲットについて。
答え:
低所得者層から中所得者層を想定している。低所得者層向けには、1パック1ドル以下の商品を多くそろえており、スーパーマーケットなどの近代的な市場(モダンマーケット)よりも、街の小さな店に商品を多く流通させている。中所得者層には、利益率の高いドライフルーツやドライ野菜などの付加価値をつけた商品をモダンマーケットで販売している。今後は商品をカテゴライズし、モダンマーケット向けの商品と小さい商店向けの商品とを明確に分けていきたいと考えている。

モダンマーケット向けに開発したドライ野菜(同社提供)
質問:
国内と国外の売上比率は。
答え:
売上比率は、国内が70%、国外が30%。国外では、米国やミャンマー、ベトナム、カナダ、韓国、オーストラリア、マレーシア、イタリア、中国、タイ、インドネシア、モーリシャスに商品を卸している。輸出先の選定は基本的に市場の大きさを考慮し決めている。現在は、オーストラリア向けの輸出が好調だ。
質問:
品質基準は日本に準拠していると言うが、なぜか。
答え:
日本の商品は、品質が非常に高く、カンボジア人も安心している。弊社と亀田製菓が合弁会社を設立したのも、日本の品質の高さを信頼しているため(注)。2013年10月には、国際協力機構(JICA)から、カンボジアの発展に寄与する中小企業のリーディングカンパニーとして表彰された。将来は日本への輸出も検討したい。
質問:
競合で意識している会社はあるか。
答え:
中国や韓国の企業で廉価な価格帯で開発している会社は多くあり、競争相手だと考えている。安い商品を作る会社はたくさんあってきりがないが、私たちの商品は多くの国や機関から認定・支援を受け、安全であることが強みだ。新型コロナウイルス禍で人々の健康意識が高まったと同時に、所得が増えると健康への意識も高まるため、将来を見据えると、私たちの戦略が社会のニーズに合致すると考えている。ベトナムから原材料を仕入れた方が安い場合もあるが、カンボジアの生産者をサポートしたいため、できるだけ国内で原料を調達している。

新型コロナで国内需要は減少も、海外需要は拡大

質問:
新型コロナウイルスが事業に及ぼした影響は。
答え:
原材料価格が高騰しただけでなく、原材料の調達に通常時より時間がかかったため、価格を上げざるを得ない状況になった。国内外の景気も悪化しているので、卸先からの受注が減少した。特に、国内マーケットの縮小が大きく影響し、私たちも他の企業と同様に打撃を受けた。一方で、国外マーケットに関しては、ここ3カ月間伸びている。国外マーケットについては、取引先の理解もあり、そこまで販売量を落とす必要がなかった。
質問:
今後の事業戦略について。
答え:
今後は製品のラインナップを増やし、国内外の販売先を増やしたい。飲料事業への参入も視野に入れている。また、デジタル技術を活用し、作業の効率化を行っていきたい。顧客とのやり取りをSNSやメールでしていたが、誤りを減らすためにシステムで一元管理をするようにしている。

注:
同社は別会社として日本の亀田製菓との合弁会社リリー亀田を設立し、オーストラリア向けに米菓の製造販売をしている。
執筆者紹介
ジェトロ・プノンペン事務所
井上 良太(いのうえ りょうた)
人材コンサル会社での経験(2017年~2020年)を経て、2020年7月からジェトロ・プノンペン事務所勤務。

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