特集:新型コロナによるアジア・ビジネスの変化を読み解くオーガニック野菜、コロナ禍での健康意識の高まりで需要拡大(カンボジア)
グリーン・オーガニック・ファーム

2021年3月31日

カンボジアでは、新型コロナウイルスにより国民の健康に対する意識が高まっている。この意識は、オーガニック農業を後押しする要因になる。

同国でオーガニック野菜を生産するグリーン・オーガニック・ファーム(Green Organic Farm)代表のチャウ・ロン・モリカ(Chau Lon Molika)氏に、ウィズコロナ・アフターコロナ期における農業の可能性についてインタビューした(2020年11月26日)。


チャウ・ロン・モリカ氏(本人提供)

約5年前から国民にオーガニックの意識が芽生える

質問:
まず貴社の事業概要について。
答え:
私たち、グリーン・オーガニック・ファームは、人々の健康を守るために、化学薬品を使用しないオーガニック野菜や果物を栽培し販売している。2012年1月1日に会社を設立、活動拠点をプノンペン南部に位置するコンポンスプー州に置いている。現在、コンポンスプー州にある6つの村の地元農家と提携し事業を展開する。
現在の取扱商品は1,000種類以上。野菜と果物以外にも、皿や消毒液などの料理に必要なキッチン用品もそろえている。卸先は320以上のホテル、レストラン、シェフスクール、カフェ、小売店、教育機関など。今では日本人を含め健康への意識が高い外国人が利用するレストランに多く卸している。卸しているだけではなく、顧客向けには、実店舗も構えている。来店して直接購入いただかなくても、電話やフェイスブック経由で購入いただくこともできる。

グリーン・オーガニック・ファームの実店舗
(グリーン・オーガニック・ファーム提供)
質問:
オーガニックの普及状況について。
答え:
カンボジア国民にオーガニックの意識が出てきたのは約5年前。近隣諸国から輸入する安価な野菜に過剰な農薬が入っていると懸念が出てきたことが背景の1つ。一方で、価格が高いことから購買層は限られてしまっている。また、消費者は少し形が崩れてしまった農作物は品質が悪いと感じてしまうため、手に取ってもらうハードルが高いこともある。カンボジアにはオーガニック協会があり、オーガニックの農作物を認証しているが、まだ普及しているとは言えない。そのためオーガニックとうたいながら農薬を多く使っている生産者もいる。
質問:
製品の特長と他社との差別化について。
答え:
自社だけでなく、提携農家や提携企業、卸先、消費者の最大利益を考えていること。弊社と同じく安全なオーガニック野菜を生産・販売している会社もあるが、その多くはフランチャイズ契約をしている。フランチャイズ契約は、加盟金や商標や経営ノウハウの使用料など追加コストがかかることが多い。しかし、弊社では、より農家が自立し収入を稼ぐことができるようパートナーシップを結んでおり不要なコストを取らないようにしている。
加えて、環境保護の点から、なるべくプラスチックを使用しないようにしていきたいと思っている。現在、衛生上の問題や安全性の面からプラスチック包装をしている商品が多い。しかし当社では、卵やその他一部商品では紙製のパッケージを使用している。今後も生産から販売まで、環境に負荷のかけないような取り組みをしていきたい。

コロナ禍で健康意識が変化、売り上げは前年比17%増

質問:
新型コロナ禍の影響はあるか。
答え:
卸先のレストランの売り上げ減少や、健康意識の高い外国人が帰国したことに伴い、私たちも多少影響を受けた。もっとも、基本的に大きな影響はない。それ以上にコロナ禍で健康を意識するようになったため、国内市場が好調で、昨年に比べ17%売り上げが増加した。
質問:
今後、事業拡大にあたり何か考えていることは。
答え:
主に直近では3つ考えている。1つ目は、提携農家をさらに増やし、雇用を創造すること。2つ目は弱みであるデリバリーサービスの強化をしていくこと。フード・パンダなどのデリバリープラットフォームとパートナーシップを組むのもよいが、広告料や配送料などのコストの負担条件によっては不利になる。そのため、現在、自社のITチームがeコマース専用のWebサイトを制作中。そして、3つ目は、人々が忙しくても健康的な食事をとることできるよう、料理キットを作り販売しようと思っている。
質問:
カンボジアでの今後の農業の可能性についてどう思うか。
答え:
カンボジアでは、国民の3割以上が農業に従事していると言われている。政府は、農業を成長戦略として位置付けており、これからも農業が主要産業であることに変わりない。より多くの農作物を国内外に流通させるには、安心安全が1つの鍵だと考えている。当社の事業はその戦略に即している。将来のカンボジアを担う子供たちが健康でいられるよう、オーガニック野菜をカンボジア人に認知してもらい、流通させていきたい。
執筆者紹介
ジェトロ・プノンペン事務所
井上 良太(いのうえ りょうた)
人材コンサル会社での経験(2017年~2020年)を経て、2020年7月からジェトロ・プノンペン事務所勤務。

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