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特集:新型コロナによるアジア・ビジネスの変化を読み解くモバイルファイナンスサービスが社会インフラとして機能(バングラデシュ)

2021年6月23日

バングラデシュでは、モバイルファイナンスサービス(MFS)が以前から普及している。しかし、昨今の新型コロナ禍により、政府が国民への補助金支給にMFSを活用するなど、社会インフラとしての機能がより一層高まった。企業からの働きかけを受け、経済刺激策の実施でMFSを利用するなど政府も支援姿勢だ。

MFSのプラットフォームとしては、最大手のbKash外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(bキャッシュ)をはじめ、ロケット外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(Rocket)、ノゴド外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(Nagad)などがある。MFSの現在の主要な用途は送金や現金化などだ。しかし今後はモバイル決済への拡大余地が大きく、実現に向けて取り組みが必要な段階だ。

銀行以上の存在へ

バングラデシュ銀行が発表した統計PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(44.59KB)によると、MFSのアカウント発行数は2019年1月から2021年1月にかけて毎年、前年比で約2割の増加傾向にある(表1)。アカウント数は2019/2020年度に人口1億6,756万人の60%に達している。都市部と地方部での発行割合は4対6だ。世界銀行外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、バングラデシュの全人口に占める地方の人口比率(2019年)は62.6%で、アカウント数の都市部・地方部の比率とも一致する。

表1:モバイルファイナンスアカウント数(-は値なし)
年月 都市部 地方 合計 前年比(%)
2019年1月 26,066,498 41,221,935 67,288,433
2020年1月 30,362,199 50,553,328 80,915,527 20.3
2021年1月 37,988,707 62,565,124 100,553,831 24.3

出所:バングラデシュ銀行

2020年のMFSの取引数は、は31億7,175万6,371回。前年比22.5%増となっている(表2)。目的別には、携帯電話代チャージ(47.3%)、入金(15.9%)、出金(15.2%)、個人間送金(14.4%)が全体の92.8%を占める。日常生活での利用が多く、既に生活インフラとして根付いていることが見て取れる。

金額でみると、2020年は5兆6,139億5,900万タカ(約7兆2,981億円、1タカ=約1.3円)で、前年比29.3%増だった。目的別には、入金(30.3%)、出金(29.8%)、個人間送金(28.7%)で88.8%を占める。

MFSが利用できるキオスクのような店舗で、自身のアカウントへの入金や出金ができる。個人間の送金や受け入れ、国外出稼ぎ労働者による郷里送金の受け入れも可能だ。新型コロナ禍の中で特にこうした個人間の送金が急増。その取引金額は前年比81.1%増となった。

bKashの推計によると、バングラデシュでは、銀行サービスにアクセス可能な人が人口の15%に満たない。一方で、バングラデシュ通信規制委員会(BTRC)によると、2021年3月時点での携帯電話の契約者数外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは1億7,463万人で人口を上回った。また、インターネット契約者外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますも1億1,614万人(うち1億633万人が携帯電話によるアクセス)に達している。こうしてみると、MFSが拡大する基盤はできていると言えるだろう。

表2:目的別モバイルファイナンスサービス取引件数、取引額(単位:件、100万タカ、%)(△はマイナス値)
目的 2019年 2020年
取引件数 取引金額 取引件数 取引金額
件数 構成比 前年比 金額 構成比 前年比
入金 510,596,771 1,613,367 503,227,900 15.9 △1.4 1,701,635 30.3 5.5
出金 491,556,306 1,537,866 482,749,390 15.2 △ 1.8 1,670,964 29.8 8.7
個人間送金 270,751,973 890,090 457,526,634 14.4 69.0 1,612,013 28.7 81.1
給与支払い 21,018,052 101,890 36,973,838 1.2 75.9 227,186 4.0 123.0
水道光熱費支払い 29,098,023 50,686 65,757,291 2.1 126.0 84,863 1.5 67.4
携帯電話代チャージ 1,173,689,546 48,428 1,498,675,206 47.3 27.7 69,452 1.2 43.4
支払い取引 47,298,690 62,116 80,131,570 2.5 69.4 62,116 1.1 0.0
送金(政府→個人) 42,417,153 19,292 31,337,088 1.0 △ 26.1 30,186 0.5 56.5
その他 3,374,339 19,449 15,377,454 0.5 355.7 155,543 2.8 699.7
合計 2,589,800,853 4,343,184 3,171,756,371 100.0 22.5 5,613,959 100.0 29.3

出所:バングラデシュ銀行


bKashはスマホ以外でも利用できる(ジェトロ撮影)

MFS最大手bKash、政府と連携

MFS最大手のbKashは、ブラック(BRAC)が運営するブラック銀行の子会社として、2010年に設立された。設立に際しては複数の事業者から投資を受けている。なお、ブラックは、世界最大のNGOとも言われる(注1)。2013年には国際金融公社(IFC)が、2014年にビル&メリンダ・ゲイツ財団が、2018年にアリペイを運営するアリババグループが、それぞれ同社事業に参画した。同社のMFSを利用できるエージェントは20万に達し、有効アカウントは5,000万を超える。

2020年3月以降、新型コロナ感染拡大によるロックダウンが実施された際には、店舗閉鎖や銀行の営業時間短縮など経済活動が制限された。しかし、同社はMFSを社会生活に必須なものと、要路に働きかけ。全MFS事業者とエージェントの運営を可能とする承認を中央銀行から得るとともに、政府との連携を進めた。ロックダウン下で実施された政府の経済刺激策で、政府は輸出志向型企業に対し、工場に勤務するワーカーの給与3カ月分に相当する金額を運転資金として無利子で貸し出した。そうした状況下、給与は各企業のワーカーのMFSアカウントへの支払いを前提とした。bKashのシェイク・モニルル・イスラム渉外担当責任者は「ロックダウン期間中でも、100万人のワーカーがbKashを通じて給与を受け取ることができた。さらに、500万人の生活保護者向けの支援金や、135万人の中等教育学生向けの給付金などの支援策でもMFSが利用され、迅速な支払いが可能となった」と話す。

郷里送金でも利用できるように

バングラデシュでは、国外出稼ぎ労働者からの郷里送金が重要な外貨獲得源だ。送金受け入れ側にとっては、生計を立てる重要な資金源でもある。当初は、世界的な新型コロナ感染パンデミックから、出稼ぎ労働者が職を失って郷里送金が減少すると懸念されていた。しかし、その予想は外れ、郷里送金は2020年7月~2021年4月の累計で207億ドル。前年同期比39%増となった。

bKashは郷里送金の受け入れにも参入した。前出のイスラム氏によると、同社は国内10の商業銀行と提携し、郷里送金を銀行経由でbKashのアカウント保有者に送金できるようにした。政府は正規ルートでの自国送金を増やすため、銀行経由の郷里送金に2%のインセンティブ(注2)を付す取り組みを行った。こうした中、bKashは独自の取り組みとして、同社アカウントに送金した場合、追加で1%のインセンティブを付した。これにより、2020年には93カ国から1億3,800万ドルがbKashアカウントに送金された。また、同社はコロナ下で取引手数料などに総額2,200万ドル相当の手数料を割引き、実質的に補助した。国内では現在、従来の提携エージェントに加え、27の銀行と提携している。その結果、bKashアカウントと銀行間の送金が可能になり、非接触での取引の利便性を向上させている。

低所得者へのデジタル経済浸透に向けた取り組みも

bKashはコロナ下でも多くの取り組みを進め、社会基盤としての要素を一層高めている。その一方で、今後はさらなる進化を目指す。同社によると、bKashのユーザーは低所得者層が多い。そのため、給与をbKashアカウントで受け取ったとしても、買い物をする小規模店舗でMFSによりデジタル決済できるシステムがないことが多い。各店舗がbKashアカウントからの支払いを受け入れるようにするには、管轄自治体が発行する営業許可証や国家歳入庁が発行する税番号が必要となるが、小規模店舗の場合は、これらを保有していないことが一般的だからだ。そのため、関係当局と議論の上、営業許可証などを保有していなくてもbKash取扱店として登録できる「パーソナルリテールアカウント」という新たな種類のアカウントを発行する取り組みを進めている。これが実現できれば、低所得層利用者もbKashによるデジタル支払いで買い物でき、デジタル化のメリットを享受できる。

また、マイクロクレジット(少額融資)をアカウントで実施するデジタルローンの取り組みも進めている。通常、銀行から緊急で資金調達したくても、審査に時間を要し、結果として融資がかなわないこともある。現在、同社はバングラデシュ地場のシティー銀行(City Bank)と連携し、bKashのアカウント保有者を対象に、デジタルローンに関するパイロットプロジェクトを実施している。具体的には、悪天候のために農作物の収穫ができなかった農家や、急病で診療が必要になった患者、少額投資をする事業者などに対し、それまでのbKash上の取引記録から信用格付けを短時間で実施し、融資につなげるというものだ。イスラム氏は「パイロットプロジェクトが成功したため、今後は商業ベースに拡大したい。緊急の資金ニーズに対しても、デジタルローンという新たな取り組みが可能となり、今後はデジタル経済をより一層加速させていく」と話す。

将来的なデジタル銀行へ向け、官民連携サービス開始

ノゴドは郵便局とサードウェイブテクノロジー(Third Wave Technology)による官民連携のイニシアティブとして、2019年3月にMFSサービスを開始した。ノゴドのアミヌル・イスラム取締役への取材によると、バングラデシュには郵便局が全国に1万以上の拠点網を有している。国内60銀行の全支店数が1万程度ということからしても、郵便局ネットワークの広さがわかる。ノゴドはこのネットワークを利用し、サービス開始から20カ月の間に2,390万人の顧客を獲得し、全国約24万店舗で同サービスを提供できるまでに急速に拡大した。ノゴドのMFSにより、入出金、送金、支払い、携帯電話代チャージなど、日常生活に必要な取引が可能だ。

利用者拡大の背景には、企業との連携がある。例えば、ブリティッシュアメリカンタバコ(BAT)のバングラデシュ法人との連携により、BATは従業員に対しノゴドのMFSを通じて給与を支払っている。また、通信会社のグラミンフォン(Grameen Phone)やロビー・アジアタ(Robi Axiata)は利用者(それぞれ7,800万人、5,000万人)に対し、ノゴドのアカウント登録を提案。ノゴドは利便性を高めるべく、アカウントを利用できる対象や店舗の拡大を進めている。現在1万2,000の事業者と350のeコマースサイトで決済が可能になっている。このほか、光熱水道費、携帯電話代やインターネット料金についても決済できる。

コロナ下で、政府との連携にも積極的だ。20万人に及ぶ縫製工場ワーカーを対象にした社会厚生省による給付金事業では、5,000万ドルの給付金のうち1,700万ドルが同社のMFSを通じて支払われた(注3)。

ノゴドのイスラム取締役は「デジタル・バングラデシュの実現に向け、政府との連携を進めている。将来はデジタル銀行としての機能を備え、越境取引も目指したい」と話す。

日本企業との連携も歓迎

このように、バングラデシュでMFSは、既に日常生活の手段として利用が進んでいる。また、政府との連携や支援も活発だ。今後は、より高度なデジタル社会の実現のため、MFSで支払い・決済ができる対象や店舗を拡大するなどの余地は大きい。現在、ダッカ市内で建設が進む都市高速鉄道(MRT)の乗車運賃などはその1つだろう。また、小売市場の大部分を占める小規模店舗を決済対象に含めていくことも大きな機会と言える。

bKashの渉外担当責任者イスラム氏は「MFSが顧客にとってライフスタイル上のサービスになるよう、今後も取り組みを進めていきたい。モバイルペイメントというセグメントでローカルマーケットに付加価値をもたらしてくれるような日本企業からの提案を歓迎する」と話す。


注1:
BRACには、純粋なソーシャル部門とエンタープライズ部門がある。このうちエンタープライズ部門で、銀行、インターネットプロバイダー(KDDIと合弁)、雑貨ショップなどを経営している。
注2:
国外出稼ぎ労働者が正規ルートで自国送金することを促進するため、政府が送金額の2%相当の現金を送金者(出稼ぎ労働者)に付与する仕組み
注3:
当該ワーカーの給与支払いには、ノゴドのMFSが利用されている。
執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所 所長
安藤 裕二(あんどう ゆうじ)
2008年、ジェトロ入構。アジア経済研究所研究企画部、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、生活文化・サービス産業部、ジェトロ浜松などを経て、2019年3月から現職。著書に「知られざる工業国バングラデシュ」。

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