アフリカでのビジネス事例富士フイルム、住友商事、ROWADのアフリカビジネス
カギは第三国連携とイノベーション
2025年4月25日
2024年12月16日、日本政府の主導により、ジェトロとコートジボワール政府の共催で「第3回日アフリカ官民経済フォーラム」がコートジボワールのアビジャンで開催された(2024年12月19日付ビジネス短信参照)。フォーラムには、日本の大串正樹経済産業副大臣など政府関係者、アフリカ各国の閣僚級約40人、企業・団体約100社など、官民の参加者が1,200人以上集まった。
開会セッションでは、コートジボワールのロベール・ブグレ・マンベ首相やスレイマン・ディアラスバ商業・産業相などアフリカ閣僚が講演した。その後、本体セッションでは3つのテーマ((1)イノベーション、産業化、包括性、(2)グリーン、インフラ、金融ソリューション、(3)連結性、統合)について、官民の登壇者がパネルディスカッションを行った。
本稿では、セッション3に登壇した富士フイルム、住友商事、エジプト企業のROWAD Modern Engineeringのアフリカ事業の事例を紹介する。

富士フイルム
富士フイルムは、現在アフリカ地域では、南アフリカ共和国(南ア)とエジプトに現地法人を、モロッコ、チュニジア、エチオピア、ケニア、ナイジェリアにはサポートオフィスを構える。カメラや写真フィルムで有名なブランドであるが、アフリカではヘルスケアが主な事業だ。売り上げの約6割を同分野が占める。
アフリカのヘルスケア分野
結核
結核は世界三大疾病とされ、世界で年間130万人が死亡する。その4分の1がアフリカで発生している。結核とHIVの合併症はアフリカで特に多い。
そうした中、富士フイルムは世界保健機関(WHO)等と連携しながら、「Stop TB Partnership」の「TB Reach プログラム」に参画している。例えば、富士フイルムの携帯型X線撮影装置を活用することで、医療サービスへのアクセスが限られている地域に住む人々に結核検診の遠隔医療を届けている。これまで、ザンビア、ベトナム、アゼルバイジャンなどで本装置を活用した、結核検診の実証実験を実施した。
この携帯型X線撮影装置は、約3.5kgと軽量で持ち運びに優れ、電源がない環境でもフル充電で100ショットの撮影が可能。アフリカでの遠隔医療に適している。

また、富士フイルムとスイスの非営利組織FIND(Foundation for Innovative New Diagnostics)は、尿に排出される成分「LAM(リポアラピノマンナン)」に着目して、結核の「高感度・迅速診断キット」を開発した。アフリカでは、新規結核患者のHIV感染率が高いため、通常よりも早めの投薬治療が必要とされる。途上国で通常行われる、顕微鏡を使った喀痰の観察での診断に比べると、カートリッジに尿を載せるだけで診断が可能なこのキットでは、迅速に検査ができる。
乳がん
富士フイルムは、マンモグラフィーの整備や巡回検診車両の展開により、乳がんの早期発見に貢献している。
これまで、南アフリカ共和国(以下、南ア)、モロッコ、チュニジア、エチオピア等において、県立病院や乳がん検診を行う団体に対し、デジタル・マンモグラフィー整備の支援をしてきた。南アでは、現地法人の富士フイルムサウスアフリカが、マンモグラフィー周辺機器(レコーダー)の消耗品の支援、機材の使用・維持管理に関するノウハウの支援を行っている。
アフリカでは教育活動に尽力
富士フイルムは、中東・アフリカ地域においては、UAEのドバイ、南アのヨハネスブルク、エジプトのカイロにテクノロジーセンターを設置している(2023年3月29日付ビジネス短信参照)。テクノロジーセンターでは、富士フイルムの写真関連機器、医療機器、大型の印刷機器などを展示し、エンドユーザー向けにワークショップなどの実演も行っている。
2024年6月には富士フイルム中東アフリカが、エジプト統一調達・医療品・医療技術管理庁(UPA)と覚書(MOU)を締結した。エジプトの医療技術者の能力向上を図るトレーニングプログラム(最先端の画像解析と診断技術など)を提供することに同意している(2024年6月17日付ビジネス短信参照)。
住友商事
住友商事は、 世界の66の国・地域に131の拠点を有し、サブサハラアフリカでは、南ア(ヨハネスブルク)、エチオピア(アディスアベバ)、ケニア(ナイロビ)、タンザニア(ダルエスサラーム)、モザンビーク(マプート)、マダガスカル(アンタナナリボ)、ガーナ(アクラ)に拠点を構える。
同社はアフリカ地域でこれまで、主に資源分野や電力インフラ分野の実績を積み上げてきた。南アの鉱山持株会社AssoreやDorper風力発電事業(2011年12月8日付住友商事ニュースリリース参照
)、パンダクワ水力発電プロジェクト(モザンビーク)(2023年12月14日付住友商事ニュースリリース参照
)などがその例だ。
一方、パネルセッションに登壇した住友商事アフリカ支配人の新田臣平氏は、エチオピアでの総合通信事業やケニアでのアセットファイナンス事業への出資を機に、今後は非資源分野に注力する戦略を説明した。同時に、TICAD9へ向け、日本企業がアフリカ展開する上で、優良パートナーと提携する重要性を強調した。

出所:パネルセッションの資料
地場企業とデジタル:ボーダコム、サファリコム
近年の住友商事のアフリカ事業の代表例は通信・デジタルプラットフォーム事業だ。2020年に英国に本社を置く通信事業者で世界最大手のボーダフォングループとの戦略的提携パートナーシップの締結以降、産業化を見据え、アフリカでのデジタル化推進に着手した。
2021年にエチオピア政府からモバイルマネーライセンス(注1)の発行を受けたサファリコム・エチオピアは、ボーダフォングループ3社(ケニアのサファリコム、南アのボーダコム、英国のボーダフォン)、英国の政府系開発金融機関ブリティッシュ・インターナショナル・インベストメント(BII)、国際金融公社(IFC)と住友商事の合弁会社だ(2023年5月22日付ビジネス短信参照)。そのほか、住友商事はサファリコム(ケニア)、エムペサアフリカ(ケニア)の2社と共にスタートアップアクセラレータープログラム「Spark Accelerator」を立ち上げ、第一期としてアフリカのフィンテック系スタートアップを育成している。
ベルギー企業と建機ディストリビューション:BIAグループ
2024年、住友商事は在ベルギー建設機械代理店のBIAグループとの戦略的資本提携契約の締結を発表した。アフリカビジネスの知見を持った老舗欧州企業とのパートナーシップの新たな事例として注目される。
BIAグループは、1902年の創業以来、鉱山業、建設業界を中心にアフリカにおいては20以上の国で事業を展開している。収益の半分以上が鉱山業によるものであり、日本のコマツのアフリカ市場向け代理店でもある。
住友商事は、BIAグループとの提携により、両社の知見を持ち寄り、シナジー効果を最大化し、マーケット拡大や重要鉱物へのアクセスも見据えて、アフリカでの産業発展とインフラ開発へ直接間接に貢献していくとしている。アフリカを知る多様な優良パートナーと協働し、幅広く連携を深める中で新たなビジネスを創出していく方針だ。
ROWAD Modern Engineering
ROWAD Modern Engineering(RME)は、エジプト、アフリカ、中東全域にて大規模かつ複雑なプロジェクトを請け負うエジプトで最も評価の高いターン・キー・コントラクター(注2)の1つだ。エジプトの多国籍企業であるEl Sewedy Electricの傘下にあり、1998年の設立以来、様々な建設プロジェクトに携わってきた(RMEウェブサイト参照)。現在はグループ全体で15,000人以上の従業員を擁している。
セッション3に登壇したアフメッド・ハシェム(Ahmed Hashem)氏は、2016年にRMEのカイロ本社に入社以降、2021年からアビジャンに拠点を移し、RMEの子会社RMEコートジボワールの責任者を務める。RMEコートジボワールは、英語、スペイン語、アラビア語、フランス語を操るハシェム氏を筆頭に、コートジボワールやアルジェリアをはじめとしたフランス語圏アフリカでの事業を主に手がける。ハシェム氏によると、RMEへの高い評価は、優れた技術と官民の顧客との長期的な関係構築に起因する。

同社はこれまで、世界最大の複合火力発電所(注3)のBeni Suef 4800 CCPPや、エジプト南部アスワン近郊の世界最大級の太陽光発電設備であるベンバンソーラーパーク(Benban Photovoltaic Solar Park)、オリンピック・マルチスポーツ・ホールなどの建設で重要な役割を果たすなど、25年以上にわたり数多くのメガプロジェクトに主要プレーヤーとして参画してきた。
また、近年のRMEは、エジプトに加え、モザンビーク、ナイジェリア、コモロ、スーダン、リビア、チャド、コートジボワールのプロジェクトに参画している。
協働からの技術移転に期待
同社は、Siemensなどの国際企業から研修施設のターンキー建設契約を受注している。また、親会社であるEl Sewedy Electricの下請けとして、エジプトで容量4800MWの複合火力発電所や、Siemens Gamesa Renewable Energy(SGRE)と、エジプトでJICAが出資する風力発電所プロジェクトを手掛けている。
RMEは、TICAD9を目前に控え、第三国連携を通し、日本、インド、欧州からの技術や知見の共有に期待を寄せる。ハシェム氏は「日本とともに、インド、中東、欧州とのサプライチェーン構築を進めたい」としている。

TICAD9を見据えた第三国連携とイノベーション
日アフリカ官民経済フォーラムは、2016年の第6回アフリカ開発会議(TICAD6)で安倍晋三首相(当時)の開催表明以降、日本政府が主導し、アフリカ側開催国、ジェトロで共同開催している。第1回を2018年に南アで、第2回は2021年12月に分科会をオンラインで、2022年5月に全体会合をケニアで開催した。
第3回の本フォーラムでは、2025年8月に開催予定の第9回アフリカ開発会議(TICAD9)を目前に、第三国連携やスタートアップ(2025年2月12日付地域・分析レポート参照)を生かしたアフリカビジネスへの日本の参画について議論した。日本が地場や欧州などアフリカに精通したプレーヤーと協業し、医療や交通網など生活の礎となる分野で、イノベーションを生かして新たなビジネスを創出することや、技術やデジタルでアフリカの産業化を後押しすることが期待される。

パネルディスカッション(ジェトロ撮影)
- 注1:
- サファリコム・エチオピアは、エチオピアにおいて外資への初のライセンス供与案件であった。
- 注2:
- ターン・キー契約とは、工場や発電所などのプラント建設において、全体を一括して請け負って試運転まで行い、完全に稼働可能な状態にして引き渡す請負契約のこと。
- 注3:
- 複合サイクル発電とは、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた二重の発電方式のこと。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中東アフリカ課
吉川 菜穂(よしかわ なほ) - 2023年、ジェトロ入構。中東アフリカ課でアフリカ関係の調査を担当。