特集:中東・アフリカの新型コロナの影響と展望新型コロナ禍の下、投資優遇措置などを強化(エジプト)
投資・フリーゾーン庁長官顧問に聞く
2020年11月30日
エジプトでは2020年7月以降、新型コロナウイルスに関する移動制限等を緩和させ、経済活動が再開し、日常生活が戻りつつある。こうした状況を踏まえ、IMFは2020年10月時点の報告で、2020年のエジプトの経済成長率を3.5%のプラス成長と予測した(2020年10月16日付ビジネス短信参照)。もっともエジプト政府は、今冬の「第2波」到来を懸念する。
今後も同国が継続的な経済成長を達成していくために、政府はどのような取り組みを行っているのか。投資・フリーゾーン庁(GAFI、対エジプト投資を監督・規制する政府機関)のアムル・ヌール・エルディン長官顧問に聞いた(2020年11月11日)。
コロナ禍でも投資促進策を強化
- 質問:
- 新型コロナ禍を受けたGAFIの取り組みは。
- 答え:
-
政府による感染防止のための制限があった中でも、経済的な影響を抑え込み、持続可能な開発を行うために、GAFIは次のような投資促進の強化策を実施した。
- 事業継続や投資の拡大について国内外企業と協議し、ニーズを把握。
- フリーゾーンでの外資の優遇措置の強化。
- フリーゾーンで生産された製品の国内販売額上限は通常20%だが、期限付きで50%まで引き上げ(注1)。
- 民間企業が優遇措置を受けられる3つの投資ゾーンを新しく設置。
- 投資関連手続きの段階的な電子サービスへの移行。
- 輸入代替産業を活性化するため、現地生産拡大の政府イニシアティブを設立。
- オンラインでの株主総会開催の追認(法律上は可能だったが、改めて周知した)。
- 質問:
- エジプトでどのような投資機会があるのか。
- 答え:
- 情報通信技術、ヘルスケア、農業、教育の分野などで可能性がある。 また、新行政首都、アラメイン市、ガララ市など、多くの都市開発の企画がある。これに伴い、電気・上下水道・ガス、交通関連などのインフラプロジェクト、公共施設や民間施設の建設プロジェクトが実施・計画されている。加えて、スエズ運河経済特区(SCZone)においても、開発と投資のチャンスがある(注2)。
- これらは、エジプト政府が実施する数多くのプロジェクトのほんの一例だ。GAFIのウェブサイトには投資マップを掲載し、プロジェクトを適宜更新している。ここで、投資の奨励分野や地域ごとのプロジェクトが紹介される。
- インフラなどのメガプロジェクトの実施にあたっては、民間企業の投資を増やすことにも熱心に取り組んでいる(注3)。政府は、民間企業の投資が経済成長や雇用機会の提供という重要な役割を果たしているという認識だ。その認識に立って、投資を呼び掛けている。
- 質問:
- 外国企業の投資への支援策は。
- 答え:
- 前述の投資マップを通じて投資機会を紹介し、投資家サービスセンター(ISC)で会社設立を支援する仕組みがある。また、設立後にGAFIに相談があれば継続的に支援する。GAFIでは新たな投資への優遇措置を適切に実行し、投資プロジェクトでは、投資家が直面する課題を取り除くために尽力したい。日本からの投資を歓迎している。(注4)
日本企業からは、さらなるビジネス環境改善を求める声も
これまで見た通り、エジプト政府は積極的に対内投資を呼びかけている。また、ジェトロの「2019年度アフリカ進出日系企業実態調査」でも、エジプト進出日系企業の89.7%が投資の魅力として「市場規模と成長性」を指摘した。
その一方で、世界銀行によるビジネス環境に関する報告書「Doing Business 2020 」の投資環境ランキングで、エジプトは190カ国中114位と必ずしも高くない。ジェトロの実態調査でも、回答企業の86.2%が「規制・法令の整備、運用面」を課題として挙げた。日本企業視点でも、さらなる投資環境整備に課題を残した一面もあることがわかる。
- 注1:
- フリーゾーンでは輸出向けの製造業などに対して、免税などの優遇措置が認められる。免税措置が取られる場合、あらゆる税種が含まれる。
- 注2:
- 地域・分析レポート「物流の要衝スエズ運河が開通150周年、経済特区の開発で投資誘致」参照
- 注3:
- エジプトでは、これまで国営企業や軍関連企業の参画が多かった。
- 注4:
- ジェトロのウェブサイト(エジプト:外資に関する奨励)を参照。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ・カイロ事務所
井澤 壌士(いざわ じょうじ) - 2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課(2010年~2013年)、ジェトロ北海道(2013~2017年)を経て現職。貿易投資促進事業、調査・情報提供を担当。