特集:中東・アフリカの新型コロナの影響と展望自然災害も相まって経済に打撃、現地人材活用で立て直しを(ケニア)

2020年7月31日

ケニアの新型コロナウイルス感染者数は7月13日時点で、1万105人だ(Our World in Data)。感染は拡大傾向にある。加えて2019年末から天候不順が続き、サバクトビバッタの大量発生や洪水による農業などへの被害も懸念されている。ケニア政府は、税法改正や経済刺激策を相次いで発表した。こうした施策で、経済の立て直しと雇用の確保を進めているところだ。新型コロナウイルスをはじめさまざまな課題に直面するケニアの経済・産業について、元駐日ケニア大使でトヨタ・ケニア会長のデニス・アオリ氏に聞いた(2020年6月24日)。


トヨタ・ケニアのデニス・アオリ会長(本人提供)
質問:
ケニアにおいて、新型コロナウイルスは短期的に、経済や産業へどのような影響を及ぼしているか。
答え:
農業は打撃を受けた。国際市場の価格下落を受けて、主要輸出産品である茶やコーヒーの輸出額が落ち込んだ。切り花の輸出も滞った。確かに、欧州の需要は早期に回復した。しかし国際定期便の運航停止が続き、航空輸送能力が限定的だ。2019年から続く天候不順やサバクトビバッタの大量発生などの課題も重なる。このため、野菜や穀物などの生産が振るわない。ケニアで、農業はGDPの30%以上を占める基幹産業だ。従事者も多く、経済や家計に与えるインパクトが大きい。
また、観光・ホスピタリティ業は、外貨獲得手段として重要な産業だ。ケニアで新型コロナウイルスの感染が拡大を始めた時期は、観光の閑散期だった。例年、営業やハイシーズンに向けた準備に時間を割く頃だ。新型コロナウイルスの影響で多くの活動が中止となり、準備も滞っている。観光客の戻りが2021年以降とすると、中長期的に厳しい状況が続く見込みだ。国内向けのホスピタリティ業も売り上げが減った。ホテル、レストラン、バーは、一時営業停止となり、現在も条件付きの営業だけが認められている。ケニア民間セクター連合(KEPSA)の調査では、観光・ホスピタリティ関連企業の96%がマイナスの影響を受けた。
製造業への影響も甚大だ。KEPSAによると、原材料が多くを占める中国からの輸入は2020年3月、中国側の供給遅滞を受け前年同月比で35%減少。生産ラインに遅れが生じた。打撃を受けた製造業者は67%にのぼる。
消費材などの供給遅延に対する不安も広がった。夜間外出禁止令などが相次ぎ出された3月末~4月上旬には、消費者の貯蓄志向が高まった。その後、すぐに電子市場が整備され、消費財は簡単に購入可能になる。多くのケニア人が外出を控え、代わりにeコマースを活用するようになった。
一方で、スーパーマーケットは厳しい局面だ。外出自粛に伴い、客足が伸び悩む。加えて生活コスト削減のため、高級品や嗜好(しこう)品が買い控えられる。
自動車販売も同様に厳しい。5月の販売市場は、前年同月比40%程度縮小したとみられる。外出自粛が継続していて、自動車やバイクの需要は2020年末にかけて中期的に弱まる傾向だ。ちなみに、2019年から、中古車輸入規制の変更を含む自動車政策の改正が検討されていた。しかし、その動きは鈍化するだろう。経済の回復が第1だ。
金融分野では、ノン・パフォーミング・ローン(返済が滞っている貸し付け)が過去に類を見ないほど拡大中だ。農業や観光業の縮小で経済の流動性が弱まり、中小零細企業を中心に融資止めが発生した。
質問:
政府はどのように対応してきたか。
答え:
ケニア政府は、4月下旬に経済刺激策を発表した。税法を改正し、低所得者を中心に所得税の減免、法人税の減税を実施した。ケニア中央銀行の貸付金利は、7%まで引き下げられた。また、商業銀行に追加の流動資金を供給するため、支払準備率を5.25%から4.24%に引き下げた。付加価値税(VAT)還付の早期支払いや、VAT還付額と納税額の相殺にも同意した。
これら経済刺激策の発表から、2カ月ほどが経過したところだ。今後、効果が判明するだろう。
質問:
在ケニア日本商工会が6月初旬に行ったアンケート調査では、約64%の進出日系企業がケニアでのビジネスモデルを変更する必要があると回答した。ポスト・コロナのケニアでは、何が外資企業の脅威、あるいはビジネスチャンスとなりえるか。
答え:
新型コロナウイルスは、世界的な脅威だ。外資企業がケニアでもビジネスモデルの変更を迫られる状況そのものには、驚かない。市場の動きを迅速に察知するには、現地人材の活用が必要だろう。これからケニアは、新しい規範(norm)の中で仕事を立て直す必要がある。柔軟性に富んだ若者の登用を提案したい。サブサハラ・アフリカ地域では、ケニアに人材の優位性があると考えている。また、分析や計画にたけている日本企業には、十分な商機があると考える。
日本企業に限らず、外資企業の駐在員の多くは本国に帰り、リモートでの操業も目立つ。ケニアは7~8月に冬を迎え、感染の拡大が見込まれる。このため、ケニアへの再渡航は9月以降になるだろう。一方、ビジネスは6月までが底だろう。7月以降、回復に向かうと考える。
ケニア政府は現在、郡政府と協力し、地方の医療環境拡充を進めている。世界銀行やIMF、日本政府や欧州政府はじめ国際機関の支援もある。課題は、感染拡大防止の社会的距離(ソーシャルディスタンス)だ。ケニアの都市部には、密集地域がある。社会的距離の維持を浸透させるには、時間がかかる。本格的な経済の再開に向けて、手順(プロトコル)づくりを進めなければならないだろう。
執筆者紹介
ジェトロ・ナイロビ事務所 調査・事業担当ディレクター
久保 唯香(くぼ ゆいか)
2014年4月、ジェトロ入構。進出企業支援課、ビジネス展開支援課、ジェトロ福井を経て現職。2017年通関士資格取得。

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