特集:中東・アフリカの新型コロナの影響と展望財政悪化の中、規制緩和で外資誘致促進を狙う(アルジェリア)

2020年7月31日

アルジェリアの新型コロナウイルス感染者数は、7月26日時点で2万6,764人、死亡者は1,146人となっている(Our World in Data)。政府は3月18日に外出禁止令を発出し、早期に国境封鎖を行った。一方で、6月7日から2段階に分けた外出禁止令の解除に踏み切った。新規感染者が引き続き増加するなど、状況がまだ不安定な中での措置だった。アルジェリアでは、輸出額の約90%を占める炭化水素の価格変動が国内経済を大きく左右する。コロナ危機と原油価格の急落が、経済に大きく影響していた。IMFは、アルジェリアの2020年のGDP成長率をマイナス5.2%と予想している。

コロナ危機に伴う経済と産業への影響、政府の対策や企業の対応などについて、ヒュミリス・ファイナンス(Humilis Finance)創設者のリーズ・ケラール氏に聞いた(6月22日)。ケラール氏は、国連工業開発機関(UNIDO)の在アルジェリア・アドバイザーも務める。このほか、製薬企業のBiopharm、投資ファンドのMed Investment Holding、バイオテック企業など、複数企業の取締役を兼ねる。カナダやアルジェリアで、財務・投資アドバイザーとしても長年の経験を持つ。


リーズ・ケラール氏(本人提供)
質問:
新型コロナウイルス危機はアルジェリア経済と産業にどのような影響を及ぼしたのか。
答え:
アルジェリア経済の主要部門である炭化水素部門と公共投資は、2014年以降低迷している。2019年の経済成長率も、0.8%にとどまった。2.6%の政府予測を大きく下回ったかたちだ。
表1:2014年~2019年GDP成長率
項目 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年
GDP成長率 (%) 3.8 3.7 3.2 1.3 1.4 0.8
非炭化水素部門GDP成長率 (%) 5.6 5.0 2.2 2.1 3.3 2.4

出所 : 国立統計局(ONS)

経済成長の減速により、財政赤字も悪化した。2016年以降、財政赤字額はGDP比で12~15%を占める。外貨準備高も、2014年末の1,790億ドルから、2019年末には620億ドルにまで縮小した。政府の構造改革は、まだ進んでいない。そこに、3月以降の原油価格急落と新型コロナという2つの打撃を受けた。
政府は、2020年のGDP成長率予測をマイナス2.6%に下方修正した。2019年末に11.4%だった失業率はさらに悪化すると見込まれる。投資減速の影響で、若年層の失業率(2019年27.0%)は、状況がもともと悪かった。これがさらに悪化してしまうことが懸念される。
また、通貨アルジェリア・ディナール(DA)も下落傾向にある(5月末の段階で1月上旬に比べてマイナス8%)。安定していたインフレ率が、上昇する可能性がある。
マクロレベルでは、2020年の財政赤字は2兆9,200億DA(約2兆3,360億円、1DA=約0.8円)で、GDP比14.8%に達すると予測される。国際収支も悪化傾向にある。現時点での予測は、180億ドルの赤字だ。
質問:
政府は企業支援策としてどのような措置をとっているか。
答え:
他の国々に比べ、アルジェリア政府の支援措置は今のところ少ない。事業運営が困難な企業を対象とした資金繰り支援として、社会保険料や法人税など各種税・保険料の納付期限を延期する措置にとどまっている。
中央銀行は国内銀行に対し、リース・銀行ローン返済期限を手数料・罰則なしで延長するように要請した。しかし、政府による保証の仕組みがなかったため、効果は少なかったと思われる。また中央銀行は、国内金融機関の最低自己資本比率、債権処理などプルデンシャル規制に関する緩和策を複数導入した。通貨の流通促進を目指すためだ。
6月4日に発表した2020年補正財政法では、原油設定価格や国際収支予測などを見直した。しかし、企業を対象とする減税措置は導入しなかった。景気低迷で2020年の税収財源が減少すると予測され、新型コロナのパンデミックに対応する予算的余裕がなかった。
質問:
企業の状況と対応は。
答え:
政府は公共部門と民間企業に対して、給与を維持しながら従業員の半数を一時帰休にするよう指示。あわせて、従業員の出勤にあたっては、ソーシャル・ディスタンシング規制を導入するよう求めた。もっとも、公共部門は指示に対応したが、民間部門でどこまで対応できたかは不明だ。ロックダウン解除後も、ソーシャル・ディスタンシング規制は引き続き維持している。
パンデミックで最も打撃を受けた部門は、交通や観光、外食、小売り、手工業、製造業だ。資金面では、政府が特別の支援枠を導入しない限り、大手企業だけが銀行から金融支援を受けることになるだろう。
パンデミックで良い影響を受けているのは唯一、Eコマースだろう。国民の移動規制に伴い、ロックダウン期間中にインターネット上で商品やサービスの売買を行う電子商取引が急激に拡大した。Eコマースは、もともと成長しつつあるビジネスだった。パンデミックにより、その展開が今後さらに速くなると予想できる。
質問:
政府が望んでいる経済の多様化など、今後の動きは。
答え:
これまで、経済の構造改革に進展がなかった。農業や製造業、サービス業などの産業について、多様化を促す政策に十分に予算を充ててこなかった。
そのため、製造業などが十分に発達せず、炭化水素部門の低迷を補えていない。政府は財政支出を削減せざるを得ない状況に陥った。公共部門は、アルジェリアの成長を牽引する側面も持つ。このため、支出削減は経済成長の鈍化につながった。新型コロナ危機は、この構造的な欠点を明らかにしたのだ。
この問題を解くカギは、海外直接投資を積極的に誘致する政策にあるだろう。2020年補正財政法では、外資の出資比率を最高49%に制限する「51/49措置」が廃止された。こうした外資出資規制の緩和は、まさにその第1歩だ。
表2:北アフリカ諸国のGDPと対内直接投資残高(2019年)
国名 GDP
(単位:10億ドル)
対内直接投資残高
(単位:10億ドル)
GDPに占める
対内直接投資残高
アルジェリア 169.0 32.0 18.9%
エジプト 349.9 126.6 36.2%
モロッコ 118.6 66.5 56.1%
チュニジア 38.8 29.5 76.0%

出所: UNCTAD統計、IMF Mena Outlook June 2020統計を基に作成

アルジェリア経済では、海外直接投資がGDPに占める割合は地域内の主要国に比べ、顕著に低い(表2参照)。この比率を増加させるには、相当の時間がかかる。しかし、直接投資を順調に受け入れることができるようになれば、非炭化水素部門の成長を刺激する効果が期待できる。
執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
ピエリック・グルニエ
ジェトロ・パリ事務所に2009年から勤務。アフリカデスク事業担当として、フランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種事業、調査・情報発信を行う。

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