特集:中東・アフリカの新型コロナの影響と展望官民でコロナ禍に対応、消費者と企業をつなぐプラットフォームを推進(エジプト)
2020年7月31日
エジプトの新型コロナウイルスの感染者数は、7月26日時点で9万1,583人だ(Our World in Data)。
世界保健機関(WHO)が1月30日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」宣言を発した後の2月14日、エジプト国内で初の感染が判明した(外国籍1人)。それ以降、現在に至るまで新規感染者数が増加してきた。累計感染者は、アフリカで南アフリカ共和国に次ぐ2位、世界第25位だ。エジプト政府は3月14日に最初の措置となるコロナ対策を緊急発表し、国際航空便の運航停止や学校閉鎖などを決定した。その約1週間後に、政府は各種制限措置を強化。金曜礼拝の一時中止とモスクの閉鎖、ホテルの営業停止、公務員の出勤制限、夜間外出禁止令、博物館や遺跡の閉鎖、一部の村でのロックダウンなど、より幅広い感染対策を講じた。
これまで多くの感染者数が確認され、官民で活動自粛を行ってきた。エジプトのこれまでの取り組みについて、政府系機関と現地企業に聞いた。
インタビュー1(聴取日:7月8日)
- 聴取先:アラブ工業化機構(Arab Organization for Industrialization:AOI) 日本代表 ハーリッド・ゼド氏。AOIは、エジプト政府が出資する政府系機関。
- 質問:
- 新型コロナウイルスに対するエジプト政府の主な取り組みは。
- 答え:
- まずは感染対策が重要だ。併せて、新しいビジネスコンセプトやライフスタイルを考える必要がある。在宅勤務やオンライン教育のため、インターネット割引料金の設定などについて政府が援助している。エルシーシ大統領の政策は政府や政府系機関が民間企業と連携することを目指す。これまでの新型コロナ対策で、GDPの大幅な減少を防ぐことができる見込みだ。また、失業率悪化を防ぐため、公共事業などで労働者の雇用を維持している。
- 地方部や海外からの観光客が少ない地域では、新型コロナの感染率が低い。全国的にみて死亡率も低い。確かに、初期のパンデミック時には大きな影響を受けた。しかし、治療に必要な機器と設備を準備し、都市病院には別館を建設して合計3,000床を追加した。今後、感染者数の増加は抑えられていくだろう。政府の対策は大統領府の公式サイト で確認できる。
- 質問:
- 経済的な影響は。
- 答え:
- 観光や航空、貿易など経済全般に打撃があった。しかし、世界的には影響は少ない方だろう。
- 世界全体に向けた貿易量は減少した。ただし、欧州やアラブ諸国へは、果物・野菜など食品について輸出は増加している。一部の品目では、(世界各国全体で)貿易が増加する可能性もある。また、エジプトには幅広い産業がある。農業に限らず、中東・アフリカや欧州の需要に応じて他の分野でも輸出が増える可能性がある。
- 新型コロナ危機以降もエジプトへの官民の投資は止まらないだろう。石油・天然ガス分野に190億ドル、155の情報通信技術(ICT)プロジェクトに30億ドルが国家予算から投資されている。無料インターネットを32都市に提供するなど、デジタル化推進のため130億ドルが投資される予定だ。また、灌漑や新たな農業用地の開拓に120億ドルが投資されている。再生可能エネルギーや高速列車、鉄道、地下鉄などの交通関連や観光施設建設といった投資も計画されている。
- 質問:
- 新型コロナに関するアラブ工業化機構(AOI)の取り組みは。
- 答え:
- AOIは、エジプト全土に15の工場を擁する半官半民の組織だ。従業員は2万6,000人。エジプト政府や国営企業に加え、サウジアラビア王家やアラブ首長国連邦(UAE)の首長家も主な株主だ。大統領からの案件を指揮することもあり、外資系企業とも関係が深い。
- 新型コロナ対策では、病院用ベッド2,000床と体温計、マスクなどを製造している。その他、新型コロナ対策ための車両やロボット、鉄道、道路、校舎、水・水処理、最新の電気自動車製造も重要なプロジェクトだ。5月には高速インターネット用の光ファイバー工場の設置を決定した。今後もエジプトに必要なプロジェクトを実行していく。日本との協業も積極的に展開していきたい。
インタビュー2(聴取日:6月28日)
- 聴取先:エルアラビーグループのイブラヒム・エル・アラビー副会長。エルアラビーグループは、中東アフリカ地域を代表する大手家電メーカー。本社カイロ、従業員約2万人。アラビー副会長は、エジプト商工会議所連盟会頭も務める。
- 質問:
- エジプトで新型コロナウイルス感染が発生した際の初期対応は。
- 答え:
- 感染が公表された当日(2月14日)から対策を取った。保健・人口省の勧告に沿った予防策をベースにした。予防を万全とするため、本社や工場など各地に医療専門家が管理する危機チームを編成した。取締役会のメンバーが連日会合し、必要な措置を講じている。初期の段階で全ての施設を消毒し、強力な予防システムを導入している。
- 質問:
- 従業員の管理は。
- 答え:
- 工場で働く全従業員に対しては、3月29日~4月10日の2週間の有給休暇を取得させた。さらに、全従業員の健康状態を確認するために、電子申請でアンケートを毎日実行した。このデータを基に、健康状態を監視している。複数の感染者が出ている。しかし、感染した従業員とは毎日連絡を取って健康状態をチェック。保健・人口省と連携して、医療サポートを徹底している。
- 広報部門が管理する「El Araby Live(内部コミュニケーションチャネルの1つ)」では、メッセージとビデオを日々流している。従業員の給与を前倒しで支給することや毎月の控除の3カ月延期、さらには、特別な助成金の支給による生活面のサポートも行っている。
- 質問:
- ビジネス上の影響や戦略はどうか。
- 答え:
- 自粛による量販店の閉店など、販売機会の減少で多少の生産調整があった。とはいえ、インターネットを活用した販促や配送代の無償化などで、顧客サービスへの向上を図ってきた。自社ブランドのほか、ソニーや東芝、シャープと連携した製品製造を展開。国内およびアフリカ全土へのマーケット戦略を推進している。
- 質問:
- カイロ商工会議所連盟会頭の立場から、経済団体としての支援はどうか。
- 答え:
- コロナ禍の中、人々の生活とビジネスの形態が変化を遂げている。商工会議所連盟としても、消費者と企業をつなぐプラットフォームを推進。「Stay Home Egypt 」を立ち上げている。このサイトを通じて、日用品や高級品の調達から、医療、教育、交通機関、クリーニング、ペットなど幅広い分野に関する各種注文が可能だ。コロナ禍での生活支援と経済維持への工夫がなされている。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・カイロ事務所長
常味 高志(つねみ たかし) - 1993年ジェトロ入構。東京本部では、農水産部、展示部、技術交流部、海外調査部、企画部に所属。2007年から4年間、一般財団法人中東協力センター(日本サウジアラビア産業協力タスクフォース事務局)に出向。地方では、ジェトロ徳島、海外では、ジェトロ・カラチ事務所、ジェトロ・リヤド事務所の勤務経験を有し、2018年1月よりジェトロ・カイロ事務所長として赴任(現職)。