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特集:中東・アフリカの新型コロナの影響と展望航空・観光産業に影響大も、政府の経済支援策を評価(アラブ首長国連邦)

2020年7月31日

新型コロナウイルス感染症は、アラブ首長国連邦(UAE)においても拡大。UAEの新型コロナウイルス感染者数は7月15日時点で、5万5,573人となっている(Our World in Data)。一時期は、1日当たりの新規感染者数が最多で1,000人に近づいた。このため、UAE政府は3月下旬から、国際旅客便の運航停止、商業施設などの営業規制、夜間外出禁止措置(ドバイ首長国では4月の大半にわたり24時間の外出禁止措置を実施)を敷くなど、厳しい制限を課してきた。6月に入り、これらの規制は徐々に緩和傾向にある。ドバイでは7月7日から海外からの観光客受け入れを再開している(2020年6月25日付ビジネス短信参照)。それでも、ヒト・モノの移動ハブとなっているUAEへの経済的ダメージは大きい。IMFは2020年の実質GDP成長率を3.5%のマイナス成長と予測する。

UAEの経済見通しや政府の対策、産業への影響などについて、在ドバイの経済アナリスト、トレバー・マクファーレイン(Trevor McFarlane)氏(EMIR社の創業者、最高経営責任者)にインタビューした(6月23日)。


EMIR社・創業者兼最高経営責任者のトレバー・マクファーレイン氏(本人提供)

レイオフによる外国人労働者離れに懸念

質問:
UAEの経済状況と見通しについて。
答え:
世界経済にとって2020年が困難な年になることは、自明だ。UAEの主要産業は、エネルギー、貿易、観光、運輸、金融、小売りなど、海外との結びつきが強いものが極めて多い。すなわち、国際間のヒトとモノの動きに依存する。全世界的な動きに影響を受け、UAEも同じく不況に苦しむことは、定量的なデータがなくとも容易に予想がつく。
2020年のUAEのGDP成長率は、多くの機関が4%前後のマイナス成長を予測する。それに異論を唱える者はいない。しかし、議論の中心は「いつ」不況から脱するかだ。仮に私が日系企業としてビジネスに取り組んでいるとすれば、ドバイを含む中東地域に「いつ」資源を再投入するかが検討課題と考える。もちろん、それを正確に把握することは誰にもできない。いずれにせよ、新型コロナウイルス感染拡大の「第2波」をいかに抑えるかが、非常に重要となることは間違いないだろう。
また、第2波が来る可能性も否定できないが、問題はやはり、いつ頃、どのようなかたちでやってくるのかだ。新型コロナウイルスは、MERS(中東呼吸器症候群)やSARS(重症急性呼吸器症候群)のような伝染病よりも、インフルエンザと伝染性が似ている。従って、経済への影響を分析するためには、過去のインフルエンザ流行時の動向を見ることが有効だ。歴史上のインフルエンザの流行を見ると、いずれも季節性はない。他方で、どのケースも第1波のおよそ6カ月後に第2波が到来している。そして第2波は18カ月から24カ月ほど続く。
ヒトとモノの動きに依存するUAE経済は、第2波がいつまで続くかに大きく左右される。そして、第2波が長引くほどダメージを受けるのが中小企業だ。多くの中小企業は、急場をしのげるキャッシュフローの余裕や資産がない。このため、ダメージが深刻化すれば、「レイオフ(一時解雇)の第2波」が懸念される。これは、UAEのような国にとっては重大な問題だ。日本のように住民の大半が自国民という国なら、仮にレイオフしても解雇された従業員の多くは国内にとどまる。経済が回復基調となれば、すぐに再雇用され、経済回復を加速させる要素にもなる。しかし、国内の労働力の大半を外国人が占めるUAEでは、大規模なレイオフを敢行すれば、職を失った従業員はUAEから離れてしまう。一度失った労働力を元に戻すのは容易でない。政府として対策を打ちにくくなる。
とはいえ、中東地域内の他国と比べてUAEが優れているのは、今回の不況をコントロールし、財政面・社会基盤制度面で打開できるだけの十分な能力を持っていることだ。イラク、シリア、リビア、イエメン、レバノンなど近隣諸国の中には、すでに危機に直面しつつあるところもある。日系企業にとって、UAEが中東での地域的な拠点、他国との結節点としての地位にあることは変わらないだろう。
原油価格はある程度戻ってきた。とはいえ、まだ中東産油国の財政均衡をもたらす価格には程遠い。コロナ禍の第2波の到来も考慮すると、産油国が満足できる価格まで戻るにはかなりの時間を要するだろう。ただ、UAEの財政には余裕がある。ドバイの財政を懸念する向きもあるが、財政は「連邦」として見るべきものなので、アブダビの潤沢な資金を鑑みれば、憂慮には及ばないだろう。

産業別には、航空・観光産業に最大の被害

質問:
UAEで、経済的影響を強く受けた産業と、影響を免れている産業は。
答え:
当社は、UAEに拠点を置く800社以上の経営幹部に対してアンケート調査を実施し、「操業への影響」と「2020年の売り上げ減少の度合いの見込み」について尋ねた。この2つの観点からの影響が大きい企業ほど、受けるダメージも大きいということになる。
ここで、UAEのGDP構成で寄与度が比較的高い産業をみていく。最もダメージを受けたのは航空と観光だ。操業にあたっての制約が極めて高いため、50~60%の売り上げ減少が見込まれる。コロナ禍最大の「被害者」で、これら産業の回復には2~3年かかると思われる。次に、エネルギー産業、農業、化学、鉱業。同様に高い操業の制約があり、35%程度の売り上げ減少が見込まれる。重工業や建設業では、操業への影響は中程度といえる。それでも、35%程度の売り上げ減少が見込まれる。教育産業も、20%程度の売り上げ減少が見込まれる上、操業への影響も大きく受けている。
一方、コロナ禍の中で比較的ダメージが小さかったと思われる産業は、医療、製薬業、情報通信技術(ICT)産業、専門士業(professional business)、金融業だ。これらの産業は相対的に見て操業上の制約も少なく、売り上げの減少も少なかったのではないか。

政府の感染症対策を高く評価

質問:
UAE政府のコロナ感染拡大防止策について。
答え:
UAE政府の対処は、高く評価している。決断力があり、行動も早かった。とりわけ、検査実施の面では、世界的にトップレベルの対応だ。仮に第2波が生じたとして、多少の影響は出るにせよ、感染拡大は第1波のときより抑えられるだろう。すでに第1波への対処から学んだことが多くあるためだ。ドバイ政府はすでに多くの制限を解除しているが、他国の状況をよく見て判断していると思う。経済への影響を考えれば、1年も2年も国を閉じてはいられない。
質問:
UAE政府の経済刺激策と、その産業別の活用状況は。
答え:
中東地域内でみれば、UAE中央銀行の経済支援策は最も評価できる。素早く無担保ローンの提供を開始し、金融機関の資金流動性規制を緩和することによって、700億ドル以上の潤沢な資金を生み出した。政府や中央銀行は積極的に動いている。
こうした支援策を、どの産業の関連企業が効果的に活用できているのか。当社のアンケート調査によると、まず、金融機関が中小企業を支援するための支援策を積極的に活用している。このほか、政府から直接支援を受けている航空産業、さらに観光や小売産業なども、積極的に活用している。これらは全てUAE国内のGDP寄与度が高い産業でもある。UAEの経済支援策の妥当性をうかがわせる結果となっている。
とはいえ、どんな国にとっても現状の課題を完璧に解決することは難しい。一定のダメージが避けられないのも事実だ。とりわけ中小企業の支援は難しい。今後も、事業継続が困難になる企業が出るだろう。また、とりわけドバイのような外国人が多く集まる場所では、一時的にせよ人口減となる懸念は明確だ。そうなると、不動産、ホテル業、小売り、FMCG(日用消費財)などの産業はいずれも影響を受けることになる。それらの産業に関係する日系企業も、影響からは逃れられないだろう。

ビジネス集積地として地位を保つ努力を

質問:
日系企業を含む外資企業にとって、リスクや対処法は。
答え:
企業目線でみれば、増加するリスクは従来の不況と同様に、売り上げの減少と売上債権回転日数(注)の増加だ。取引先の経営状態が悪化し、代金回収に支障が出てくることもあるだろう。
UAEに限らず言えることだが、コロナ禍は消費者や雇用者、バイヤーの行動形態を大きく変える可能性がある。在宅ワークの加速などで、消費形態はすでに変化している。不動産が従来ほど必要でなくなる可能性も高い。政府支出についても、「増える支出」(対策が必要な分野)と「減る支出」(不要不急な部分)に大きく分かれていくことも予想できる。それを企業として見極めることも重要だ。われわれが今まで持っていた前提を、全て変える時がきていると言えるのかもしれない。
好景気・不景気の経済サイクルは必ずやってくる。過去の事象は再現される。これは、自分自身、年齢を重ねるごとに実感している。日系企業を含め、外資は、今は耐える時と認識すべきだ。すなわち、業務の効率化に取り組み、コストを削減することだ。数年後には、必ず再び成長フェーズが戻ってくると信じている。そのときに備え、UAEは、外国人ビジネスパーソンの集積地として、中東地域の希望の地としての地位を保つ努力を続けていくだろう。

注:
売上債権回転日数(DSO:Days Sales Outstanding)とは、商品販売に伴い発生した売上債権が現金化(回収)されるまでの日数のこと。会社の資金効率を計る経営指標の1つ。
執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
山村 千晴(やまむら ちはる)
2013年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ岡山、ジェトロ・ラゴス事務所を経て、2019年12月から現職。執筆書籍に「飛躍するアフリカ!-イノベーションとスタートアップの最新動向」(部分執筆、ジェトロ、2020年)。

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