特集:中東・アフリカの新型コロナの影響と展望財政悪化で国際社会に支援要請、天然ガス開発に期待(モザンビーク)

2020年7月31日

モザンビークの新型コロナウイルス感染者数は、7月13日時点で1,157人だ(Our World in Data)。新型コロナの感染拡大を受け、世界銀行は6月に、モザンビークの2020年の実質GDP成長率見通しを3.7%から1.3%に下方修正した。米国エクソンモービルが主導する大規模な天然ガス開発の最終投資決定(FID)が延期される(2020年4月17日付ビジネス短信参照)など、経済全般への影響が懸念される。ジェトロは、新型コロナによる同国への影響と、ポスト・コロナに向けた見通しなどについて、スタンダードバンク・モザンビーク・チーフエコノミストのファウジオ・ムッサ氏にインタビューした(6月5日)

質問:
2020年のモザンビーク経済をどのように予測するか。
答え:
貿易と人の流動性が回復傾向に転じる時期について、世界的な原油価格の予測に応じて、楽観、ベース、悲観の3つのシナリオを想定している。
まず、楽観シナリオでは、モザンビークの2020年の経済成長率を1.1%と予測する。6月末以降に、世界経済が緩やかに回復する想定だ。他の2シナリオと比べて、原油価格の高値を見込む。ベースシナリオでは、実質GDP成長率マイナス0.9%だ。9月以降の世界経済回復を想定する。悲観シナリオでは、マイナス2.5%。2021年上半期の世界経済の景気回復を想定する。原油価格は、楽観シナリオ、ベースシナリオ、悲観シナリオの順で高くなると予想する。
GDP成長率は産業全体の平均だ。観光業と飲食業、インフォーマルセクターにはよりネガティブな影響が出るだろう。また、2020年の輸出額は、対前年比約30%減の約38億ドルと予測する。すなわち、輸出業者にも影響が出る。加えて、世界的な資源価格の下落により、輸出作物を生産する農家にも影響が及ぶ。
為替は2017年以降、1ドル=65メティカルを超えずに安定推移していた。しかし、3月以降、約70メティカルと通貨安となった。2020年末には、1ドル=75.3メティカルまで下落すると予測している。モザンビークは国際競争力のある輸出製品に乏しく、生活雑貨をはじめ輸入品に頼っている。メティカルの下落は、社会に広範な影響を及ぼすだろう。
質問:
政府は民間セクターにどのような支援を実施しているか、また一連の支援策についてどう評価するか。
答え:
政府は3月、新型コロナ感染症対策のため、7億ドルの支援が必要と国際社会にアピールした。その結果、5月末時点でIMFから約3億ドルのラピッド・クレジット・ファシリティー(RCF)を受け取るなど調達が進んでいる。モザンビーク経済は規模が小さく、経済成長は外国直接投資(FDI)に依存する。液化天然ガス(LNG)プロジェクトの遅延により、FDIが大きく増加しなかった近年、実質GDP成長率は2~3%台で推移してきた。その間、政府は金融引き締めによるインフレの抑制や、中央銀行の監視強化による為替レートの安定推移など、マクロ経済の安定化に努めた。2020年も同様にFDIの増加は見込めない。輸出の減少により、経常収支の赤字は前年比25.6%増の約39億ドルに拡大すると予測される。政府はこの見通しの下、国際社会へ支援を求めた。マクロ経済の安定を維持しながら民間セクターに支援を実施するには、自国の財務的リソースは十分ではないと認識した上でのことだ。すなわち、経常収支赤字による財政圧迫を緩和するためのバッファーを確保したと言える。加えて、2019年に米資源大手アナダルコがモザンビーク北部エリア1ガス田の資産をフランス資源大手トタルに売却した際のキャピタルゲイン税(総額で約8億4,000万ドル)の一部も、新型コロナ対策に充当するとしている。これにより、政府は歳出の増加による財政への悪影響を最小限にとどめながら、民間セクターへの支援を実施することができる。
政府は国内産業の保護策として、産業向け電気料金の10%削減や、砂糖とせっけん、食用油への付加価値税の免除を実施した。また、輸出産品である綿の生産農家を保護するため、買い取り価格に補助金を導入することを決定した。
一方で民間セクターからは、より思い切った支援を求める声が上がっている。例えば、モザンビーク経済団体連合会(CTA)は、産業向け電気料金の削減を50%まで引き上げるよう政府に求めた。政府と民間セクター間での対話は、現在進行中だ。
質問:
民間セクターは難局を乗り越え再興に向かうために、どのような動きを取っているか。
答え:
残念ながら、多くの企業は労働力を削減せざるを得ない。キャッシュフローへの悪影響を軽減するためだ。多国籍企業や地場でも大企業なら、株主からの資本注入や銀行からの借り入れで対応できる。しかし、全ての中小企業が同様の対策を講じるのは無理だ。既に労働省と社会保険庁は、企業からの解雇報告を受け取ったと認めている。加えて、これから廃業に追い込まれる企業も出てくるだろう。
最近、米国のエクソンモービルが、エリア4天然ガス田開発のFIDを先延ばしにした。とはいえ将来的には、天然ガス開発投資が経済成長を加速させる見通しを持っている。
執筆者紹介
ジェトロ・マプト事務所
松永 篤(まつなが あつし)
2015年からモザンビークで農業、BOPビジネスなどの事業に携わる。2019年からジェトロ・マプト事務所業務に従事。

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