特集:中東・アフリカの新型コロナの影響と展望原油価格下落で債務負担増も、底堅い需要に幅広い投資機会(ナイジェリア)

2020年7月31日

ナイジェリアの新型コロナウイルス感染者数は7月26日時点で、3万9,977人だ(Our World in Data)。新型コロナウイルスは、1960年10月のナイジェリア独立以来、最も深刻な経済的打撃をもたらしている。外貨収入の大半を原油に依存するため、原油価格下落が公的債務の返済に重くのしかかる。中央銀行はインフレ抑制と通貨防衛のため、金融引き締め方針を継続する。一方、人口2億人の需要は底堅い。農業、情報通信技術(ICT)、医療、ソーラー、道路、住宅など、政府が支援する分野への投資が期待される。ビジネス・政策シニアコンサルタントのビンセント・ンワニ・カビンド(Kavind)氏に聞いた(6月23日)。カビンド氏は、ラゴス商工会議所や、ファーストバンクなどで民間セクターの開発を担当してきた経歴を持つ。

質問:
ナイジェリアの対外債務の状況は。
答え:
ナイジェリアの対内外債務総額は、840億ドルを超えている。このうち対外債務は270億ドル超。内外債務の返済額は、2019年の政府歳入の約55%を占める。利払いや元本返済能力に懸念が生じている。対外債務は、2015年の126億ドルから2019年末には2倍以上の274億ドルに増加した。2020年に入って、さらに117億5,300万ドルの借り入れが、国会で可決された(表1参照)。
表1:2020年3月~6月に国会で可決された借り入れ
借り入れ先 金額(億ドル)
IMF 34
国際復興開発銀行(IBRD) 25
アフリカ開発銀行(AfDB) 10
IBRD 15
イスラム開発銀行(IsDB) 1.13
対内債務 債券発行 23
対内債務 スクーク(イスラム債券) 9.4
合計 117.5

出所: ナイジェリア国会資料

債務総額のGDP比は、約20%と低い。このため、新規借り入れを国会で納得させることは簡単だ。しかし問題は、債務返済額の歳入比が45〜65%と高すぎることにある。
債務の目的であるインフラが完成していないことも、大きな問題だ。電力、道路、農業、鉄道などの物理的インフラも、学校、病院、司法施設などの社会インフラも、依然として貧弱なままだ。融資資金の透明性も、欠如する。資金が、公務員の人件費など経常資金に流用されてしまう。融資を特定の開発プロジェクトに結び付け、適切に利用されるよう監視する必要がある。
質問:
中国からの債務状況は。
答え:
中国は近年、アフリカ最大の債権国の1つだ。道路、鉄道、港湾建設などに、多額を融資する。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際学部の研究プログラム「中国アフリカ調査イニシアティブ」によると、中国が2000年~2018年にアフリカ諸国向けに署名した融資は、1,520億ドル相当に上る。中国の融資モデルで特徴的なのは、アフリカの経済成長に直結する物理的インフラや公共財などに融資して、中国の経済的・政治的・文化的影響力を強めようという戦略を持っていることだ。中国は、借り手に有利な条件で融資を行う。その一方で中国が権益を得やすいよう、案件の仕様を中国のものに指定するなどしている。
ナイジェリアの対外債務約270億ドルのうち、31%が中国からの借り入れだ。ナイジェリアの内外債務合計における割合は10%になる。西側諸国は、借り手にとても厳しい融資条件を設定する。その代替が中国であることは、ナイジェリア政府内でも浸透しつつある。二国間融資の貸し手として中国は、アフリカ開発銀行 (AfDB)、欧州委員会、欧州投資銀行、国際金融公社、世界銀行、G8諸国のいずれよりも多い。
債務額は、ナイジェリア政府が定める債務持続性フレームワークの基準に収まってはいるが、海外投資家は、ナイジェリアの中国以外からの借り入れの返済能力に懸念を抱いている。返済原資を石油収入に頼りすぎているからだ。
一方、中国からの借り入れによって実施されるプロジェクトが、実際に地元企業の商機や雇用の拡大に貢献しているかが見えていない。借り手に有利な条件は魅力的だが、リスク選好、経済への貢献度、収益性、返済能力に合致するフレームワークを設定することが不可欠だ。
質問:
ナイジェリア中央銀行(CBN)はコロナ禍でも金融引き締めを続けるのか。
答え:
CBNのゴッドウィン・エメフィール総裁は5年間の在任中、新型コロナウイルス感染が2020年3月にパンデミックを迎えるまで、一貫して金融引き締め策を実施してきた。政策金利(MPR)は、一貫して2桁(12~14%)に据え置かれた。このため、現在の預金準備率(CRR)は27.5%、預貸率(LDR)60%と、高いままだ。CRRの27.5%はサブサハラ諸国で最も高い。南アフリカ共和国の10倍以上、東アフリカ諸国の約5倍だ。高いLDRにより、商業銀行は民間セクターにより多くの融資を供給しなければならない。CBNは、LDRが60%に達していない銀行から、罰則として過去9カ月間に預金合計2兆5,300億ナイラ(約7,084億円、1ナイラ=約0.28円)を預金準備金として預け入れさせた。
CRRとLDRを高く設定することで金融市場の流動性を低め、ナイラをドルに容易に交換できないようにし、外貨流出とナイラ下落を防ぐ。それが、CBNの狙いと金融市場はみている。しかし、そのような金融引き締めは、ポストコロナの経済回復を遅らせる懸念がある。
もっともCBNは、国内の企業に対する資金供給策を以下の通り実施し、流動性を高める工夫をしている。
  • 医療インフラを整備し輸入代替を進めるため、製薬会社など国内製造業向けに1兆1,000億ナイラのCBNファンドを設立した。
  • 2020年3月から、CBNの全介入資金の返済を1年繰り延べ。この間の融資金利を9%から5%に引き下げた。
  • パンデミックの影響が深刻な世帯および中小企業向けに、NIRSALマイクロファイナンス銀行を通じた500億ナイラの融資枠を設定した。
  • パンデミックの影響が深刻な中小企業向けに、1,000億ナイラの特定目的融資枠(target credit facility)を設定した。
このように、CBNは資金供給策も実施してはいる。とはいえ基本的には、インフレとナイラ安を抑止するため、金融引き締め策を維持することだろう。
質問:
GDPとインフレの今後の見通しは。
答え:
世界銀行は、2020年のGDP成長率をマイナス3.2%と予測している。過去40年間で最悪だ。原油価格暴落の結果と言える。2019年第4四半期は2.23%、2020年第1四半期は1.87%と減速傾向にあり、第2四半期はさらに減速するだろう。
特に、2019年9月にナイジェリアが隣国との陸路国境の物流を封鎖してから、インフレが進行している。ナイジェリア国家統計局(NBS)によると、消費者物価指数は、2019年9月の11.24%から2020年5月に12.26%へと上昇した。9カ月連続で指数が上昇している。ロックダウンにより農業のバリューチェーンが混乱したほか、ナイラ安や、付加価値税(VAT)が2020年に5%から7.5%へ増税された影響もある(2020年2月12日付ビジネス短信参照)。今後数カ月は消費者物価、特に食料品の価格に上昇圧力がかかると考えている。
表2:2020年の経済指標予測概要(―は値なし)
項目 2020年
1月
2020年
6月
2020/12/1(予測) 予測される変化
GDP成長率 (%) 2.37 1.87 -1.7 悪化
失業率 (%)(注1) 23.1 33.6 悪化
外貨準備高(10億ドル) 38.1 35.7 30.1 悪化
対内・対外債務計(10億ドル) 84.1 89.5超 悪化
為替レート(ナイラ/ドル)(注2) 360.1 385 410 悪化
物価上昇率(前年同期比)(%) 11.2 12.34 13.8 悪化
原油価格(ドル/バレル) 64.5 38.5 49 改善
ナイジェリア証券取引所全株価指数(NSE All Share Index) 28,464 24.972 28,000超 改善
世界銀行の「ビジネスの容易さ」ランキング(World Bank Ease of Doing Businessの順位) 146
(2019年版)
131
(2020年版)
127
(カビンド氏の2021年版予測)
改善

注1:失業率は、NBSが2018年7月を最後に更新していない。このため、「2020年1月」の欄には、2018年7月のデータを記載した。
注2:輸入者輸出者窓口(I&E Window)での交換比率、NAFEXレート。
出所: ナイジェリア国家統計局(NBS)、ナイジェリア証券取引所(NSE)、ナイジェリア債務管理局(DMO)、ナイジェリア中央銀行(CBN)、世界銀行の資料からカビンド氏作成

質問:
今後、どのような産業に成長が見込めるか。
答え:
新型コロナがもたらした経済危機は、ナイジェリアの中でも、とりわけヘルスケア、農業、食品、製造、ICTといった分野にチャンスをもたらしている。政府は、「ナイジェリア経済持続可能性計画2020(NESP2020)」を取りまとめた。この計画の下、働き方、生産手法、学習方法、公衆衛生の管理について、新しい方法の確立を目指している。またこの計画は、「巻き返し(Bouncing Back)」とも題される。産業としては、航空、教育、ヘルスケア、治安、鉱業、ICT、インフラ、電力、水資源などが対象となっている。
ナイジェリアで農業は、GDPの23%、労働力全体の3分の2を占める。最大の経済セクターだ。しかし、国連食糧農業機関(FAO)によると、この20年間、1人当たりの付加価値増加率は年率1%にも満たない。生産量が減少している品目もある。輸出機会損失は、年間100億ドルに上ると見積もられる。食料生産が人口増加に追い付いていない。このため、食料自給率が低下している。
NESP2020では、新規の開墾計画が盛り込まれている。連邦全州(36州およびFCT連邦首都圏)で、それぞれ2万~10万ヘクタールほどだ。前述した陸路国境封鎖措置と、食品や農産品の輸入決済にかかる外為の禁止(手元のナイラをドルに両替できない)により輸入が抑制される。その裏返しとして、国内生産に商機が広がっている。
ICTの成長率は、原油安だった2017年のマイナス1%を最後に、プラスに転じた。2020年第1四半期は9.7%。最も成長率の高いセクターだった。GDPに占めるシェアも14.01%と、農業に次いで大きい。GSM携帯電話の加入件数は、1億7,600万件超だ。普及率は89%であり、アフリカおよび中東諸国の中でも高い。インターネットにアクセスした人口は、2019年末で1億1,800万人超だった。人口の約60%に上ったことになる。教育セクターのデジタル化や医療の全国展開など、さまざまな分野で、デジタル革命を迎えようとしている。NESP2020では、多様なテクノロジーを開発し、テクノロジーハブの促進、コールセンター、政府や民間企業での業務プロセスのアウトソーシングなど、ICT関連雇用を創出することがうたわれている。
電力不足は、家計にはもちろん、中小企業にとって最大のビジネス阻害要因であり続けている。電力網に接続できない家庭は4,500万戸、ホームソーラーシステムの市場は約1,500万戸とみられている。ソーラー機器メーカーが国内生産設備を整え、家庭・企業への設置、アフターサービス、集金など手掛けることによって、多くの雇用創出が期待される。
住宅の不足数は、1,700万戸と推定される。中流層向け住宅の供給量は年間わずか10万戸で、需給ギャップを埋めるためには、これから10年間、150万戸ずつ供給していかなければならない。このうち500万戸は、ラゴス州で必要だ。
1戸当たり400万〜600万ナイラの低コスト住宅を供給できる能力があれば、大きなチャンスが見込める。NESP2020では、この分野の民間企業を全面的に支援することを約束している。若い人材と手頃な労働力が後押しになるだろう。
国は道路建設のためにビチューメン(アスファルト)を輸入する余裕がない。このため、石灰岩、セメント、花こう岩など国内で産出される資材で道路建設を進めている。官民パートナーシップ(PPP)を活用した開発が、政府から求められている。
個人用保護具(PPE)などの医療関連製品を、一定の品質で国内生産する中小企業が歓迎される。PPEとは、例えば、フェイスシールド、フェイスマスク、手指消毒剤、靴カバー、せっけん、洗剤などだ。
質問:
日本企業のビジネスチャンスは。
答え:
ナイジェリアには、若くかつ増加する人口が盛り上げる需要、ICTセクターの急速な成長、豊富な農耕地や天然資源がある。経済の中長期的なファンダメンタルは、引き続き堅調だ。日本企業を含む投資家は、既述のとおりヘルスケア、住宅、道路、農業、食品のバリューチェーン、製造業、ICT、電力、道路インフラ、大規模住宅供給など、幅広い分野でビジネス機会を追求すべきだ。農業なら、精米施設、食品加工、生鮮果実包装と輸出への投資を検討してほしい。日本企業の専門性が生かせるだろう。
また、ナイジェリア獣医研究所が民営化される予定だ。これは、投資機会を提供するものでもある。家禽(かきん)ワクチン製造プラント設備、原材料輸入に免税措置が受けられる。所得税が優遇されるパイオニアステータスなども用意されている。こうしたインセンティブを、日本企業にも活用してほしい。
執筆者紹介
ジェトロ・ラゴス事務所
西澤 成世(にしざわ しげよ)
2003年、ジェトロ入構。海外投資課、輸出促進課、ジェトロ・広州事務所、麗水博覧会チーム、環境・エネルギー課、イノベーション促進課、ジェトロ福井などを経て、2018年4月から現職。

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