特集:中東・アフリカの新型コロナの影響と展望デジタルツールを有効活用し、輸出拡大を目指す(トルコ)

2020年7月31日

2018年のトルコ・ショック以来、低迷が続いてきたトルコ経済。2019年第4四半期に一度は回復の兆しを見せていた。しかし、想定外の新型コロナウイルス感染症拡大で、改めて冷水を浴びせられたかたちだ。

トルコの新型コロナウイルス感染者数は7月15日現在で、21万4,993人となっている(Our World in Data)。最初の感染者が確認された2020年3月10日以降、政府は外出制限や移動規制などの対策を矢継ぎ早に発表。ただし、「生産(製造業などの操業)の継続性」は確保するとして、ビジネスへの影響を最小限に抑える姿勢を示した。例えば、ロックダウンは週末に限定された。産業界は、貿易省などの政府機関との連携を密にしており、特に5月以降は、「バーチャル貿易プラットフォーム」の構築に意欲を示している。

こうした状況下、ジェトロは、エーゲ皮革製品輸出業者連合(EDDMIB)のエルカン・ザンダル(Erkan Zandar)会長に、新型コロナウイルス感染拡大による産業界への影響について聞いた(6月22日)。ザンダル会長は、エーゲ輸出組合(EIB)のメンバーでもある。トルコ輸出業者評議会(TIM)のオンライン展示会・貿易視察団委員会の委員長も務める。


エーゲ皮革・同製品輸出業者連合のエルカン・ザンダル会長(本人提供)

中国の代替調達先として今後に期待

質問:
経済・産業への短期的な影響は。
答え:
新型コロナウイルス感染症の影響は、3月上旬までは楽観的に捉えられていた。しかし、その後、トルコ経済も大きな影響を受けたのは周知の通りだ。例えば、革関連製品の輸出入は3月以降、70%も減少した。海外での需要減により、外国企業の発注キャンセルが多発した。ただ、5~6月には影響が沈静化しつつある。欧州の需要が復活しはじめ、トルコ企業への発注も増えはじめている。
欧州企業は、(中国を含む)東アジアからの調達に替えて、より近くの国での生産調達を検討しはじめている。この動きは、トルコに好影響をもたらすと思う(注)。
質問:
政府の各種支援策について。
答え:
トルコ政府は経済支援策として、企業の社会保険や諸税金について、納税やローン返済の延期を実施。さらに国営銀行3行を中心に、法人および消費者向けの新たな融資機会を提供した。また労働者支援として、3カ月間の従業員解雇の禁止(この措置はさらに1カ月間延長)、ビジネスが大きく減退した企業の従業員の給与の一部を、失業者基金を活用して支援する「短期雇用支援制度」などを提供した。特に短期雇用支援制度とローン返済の延期は効果的だった。これによって、企業は資金繰りに猶予を得られ、存続することができた。また、輸出企業と外貨を獲得するビジネスを対象に、トルコ輸出入銀行が提供した在庫金融支援(返済期限12カ月の融資を提供)は、発注キャンセルで打撃を受けていた企業にとって、極めて重要だった。

デジタルツールによって輸出促進を強化

質問:
ポスト・コロナに向けた新たな産業政策は。
答え:
貿易省は、オンライン上の展示会やビジネスミッションなどを積極的に支援している。また、大統領府は、トルコ企業の輸出を促進するために、eコマースのプラットフォームに参加するにあたって発生する会費やオンライン展示会などの参加費を支援する制度を導入した。eコマース会費については、2020年は80%分、2021年は60%を政府が負担する。バーチャル見本市、ビジネスミッションへの参加支出については、50%が支援される。ただし、貿易省が提示する条件を満たす必要がある。トルコの産業団体は、貿易省と常に協力している。
質問:
ビジネス再興に向けた動きや、現地企業による象徴的な取り組みについて。
答え:
世界経済が13~32%縮小すると予想されている中、輸出を通じて外貨をトルコにもたらすことが、これまで以上に重要になった。新型コロナウイルス感染症は、企業のビジネス手法にも影響を及ぼした。海外出張や国際的なイベント実施が不可能となったことで、多くの企業はデジタル化がいかに遅れているかに気付いたのだ。各企業はそれぞれのニーズに合わせて、急速にデジタル化を進めた。
こうした中、貿易省との協力で6月1~4日、「Shoedex(靴・革製品)」を開催した。トルコ初のオンライン展示会だ。当初は3日間の計画だったが、海外からの需要が多かったため、さらに1日延長された。本展示会ではトルコ企業31社が、世界50カ国から参加した250人以上のビジネスパーソンに自社商品を紹介した。オンライン展示会のプラットフォームでは、B2Bミーティングが223件、出展者と参加者のメッセージのやり取りが2,043件あった。出展企業は大成功を収めている。9月中旬には、2回目のShoedexを開催することも検討している。また、第2弾のオンライン展示会として6月22~26日、「AgriVirtual(農業機械)」を実施した。
また、オンラインでの貿易ミッションも企画された。5月にはウズベキスタン(13~15日)、6月には中南米(メキシコ18~19日、コロンビア24~26日、チリ29日~7月3日)、湾岸諸国〔UAE(アラブ首長国連邦)、カタール、クウェート、バーレーン、オマーン〕向けに(22~25日)、開催された。さらに、7月にはナイジェリア(13~17日)、パキスタン(20~24日)に向けて実施される予定だ。
このように貿易省は、オンラインを活用した事業で、産業団体と協力している。ルフサル・ペキジャン貿易相は、サプライチェーンへ新たに参入するため、トルコの産業界でデジタル化が急速に進みはじめていることを強調している。

注:
中国が新型コロナウイルスの影響を受けて生産を停止せざるを得なくなった時期、欧州企業のサプライチェーンの見直しでトルコが中国の代替調達先になり得るという期待が、当地産業界で高まった。欧州に距離的に近く、関税同盟があり、「少量多品種」の生産・供給でも実績があるからだ。実際、靴、テキスタイル、アパレル、雑貨などの軽工業で、企業の動きが報じられた。例えば、グローバルな大手アパレルメーカーInditex GroupやH&Mなどが、トルコへの注文を増やしたとされた。米国のウォルマートも、中国に替えて、雑貨やセラミック製品、ガラス製品などをトルコから初めて注文したとの報道があった。
しかし、新型コロナウイルス感染症が欧州に広がった。このことで、欧州域内の外出規制や自粛などで需要が大きく減少。一度は増やそうとしたトルコへの注文がキャンセルされたり、支払い延長が相次いだとの報道がみられるようになる。さらにその後は、トルコ国内でも感染者が増加した。欧州と同様に不要不急の買い物が減少し、大幅な需要減に至る。トルコの各企業も、自社の生き残りで手一杯となった。
結局、感染拡大に対応して、中国の代替調達先としてアピールする機会は得られなかったことになる。しかし、ザンダル会長はその後の欧州の需要回復も見越し、トルコ企業のビジネスチャンスに引き続き期待している。
執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所 調査担当ディレクター
中島 敏博(なかじま としひろ)
1995年関西大学大学院博士課程後期課程修了。1988~95年桃山学院高校で非常勤講師(世界史)。1995~99年カナダ・マギル大学(McGill University)イスラーム研究所PhD3単位修得後退学。2000年から現職。共著『イスタンブールに暮らす』JETRO出版、共著『早わかりトルコ・ビジネス』日刊工業刊、寄稿『トルコを知るための53章』明石書店刊、寄稿『NHKデータブック 世界の放送2009年~2016年、NHK放送文化研究所編』NHK出版刊

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