特集:中東・アフリカの新型コロナの影響と展望感染拡大と経済再開のはざまで揺れるアフリカ

2020年7月31日

感染が加速度的に拡大、地域全体でマイナス成長の見通し

アフリカでの新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の累計感染者数は、7月19日時点で72万1,879人だ。現状では、世界的に見て多いとは言えない。しかし、2月14日にアフリカ初の感染者がエジプトで確認された後、大陸全体の感染者数が10万人を超えるのに99日間、30万人を超えるのにそれから30日間、50万人を超えるのに16日間、70万人を超えるのに11日間だ。感染が加速度的に拡大している。

特に南アフリカ共和国(以下、南ア)は、7月19日時点で35万879人だ。アフリカ全体の約半数を占める。世界的にも、米国の377万人、ブラジル210万人、インド112万人、ロシア77万1,546人に続く世界5位の感染国となっている。1日当たりの新規感染者数が1万人を超え、まさに感染爆発ともいえる状況だ。

表1:新型コロナウイルスの国別感染者数・検査数(単位:人)(―は値なし)
国名 1日あたりの新規感染者数(7月16日時点) 累計感染者数
(7月16日時点)
累計検査数
南アフリカ共和国 12,757 311,049 2,278,127(7月15日)
エジプト 913 84,843
ナイジェリア 643 34,259 202,097(7月16日)
ガーナ 442 25,430 334,101(7月11日)
アルジェリア 554 20,770
モロッコ 165 16,262 934,048(7月15日)
コートジボワール 366 13,403
ケニア 461 11,252 221,234(7月14日)
エチオピア 212 8,181 250,604(6月20日)
モザンビーク 62 1,330
チュニジア 13 1,319 68,104(6月22日)

注:タンザニアは5月7日に29人の新規感染者が確認されて以降、感染に係る情報提供がなく、実態がつかめていない。
出所:Our World in Data

新型コロナの感染拡大を受け、アフリカ開発銀行(AfDB)は7月7日に発表した経済見通しで、2020年の大陸全体の経済成長率を1月の発表から5.6ポイント下方修正。マイナス1.7%と予測した。(ベースライン・シナリオ)

国別では、景気悪化による市場縮小や資源価格の下落により、全てのアフリカ諸国について見通しを大幅に下方修正した。特に南ア(マイナス6.3%)、ナイジェリア(マイナス4.4%)といった主要国が落ち込み、地域経済に大きく影を落としている。

表2:実質GDP成長率 (単位:%)(△はマイナス値)
国名 推計値 新型コロナ発生前 新型コロナ発生後
(ベースライン・シナリオ)
新型コロナ発生後
(ワーストケース・シナリオ)
2019年 2020年 2021年 2020年 2021年 2020年 2021年
エチオピア 9.0 7.2 7.1 3.6 5.5 2.6 3.1
コートジボワール 6.9 7.2 7.1 3.0 6.6 1.5 5.0
エジプト 5.6 5.8 6.0 2.2 2.7 0.8 2.1
ガーナ 6.1 5.8 4.8 2.1 5.6 1.2 4.8
モザンビーク 2.2 5.8 4.0 1.5 4.9 △ 2.0 5.0
ケニア 5.7 6.0 6.2 1.4 6.1 0.6 5.7
モロッコ 2.5 3.7 3.9 △ 3.3 4.3 △ 4.6 4.1
チュニジア 1.0 2.1 2.6 △ 3.4 △ 0.5 △ 4.0 △ 0.7
アルジェリア 0.7 2.2 1.8 △ 4.4 4.8 △ 5.4 5.2
ナイジェリア 2.3 2.9 3.3 △ 4.4 0.7 △ 7.2 0.1
南アフリカ共和国 0.2 1.1 1.8 △ 6.3 2.8 △ 7.5 1.3

注:2019年は推計値、2020、2021年は予測値。
出所:African Economic Outlook 2020, AfDB

感染拡大にもかかわらず経済再開にかじ

アフリカでは、南アなど一部の国を除けば、医療水準の低い国が多い。これまでも、HIV/AIDSやエボラ出血熱などの感染症リスクにさらされてきた。それだけに、各国の新型コロナ感染予防への対応は比較的早かった。感染確認者数が少ない初期の段階から、国境封鎖や都市封鎖、夜間外出規制などを敷いた。しかし、新型コロナの流行は、世界的に長期化する。活動制限の長期化により、社会不安をもたらす懸念が他地域以上に強く出るのがこの地域だ。例えば、都市部で日銭を稼いで生活する層が困窮することで、失業増加と貧困拡大を生む。このため、各国政府はトレードオフのはざまに立たされながら、4月下旬以降、徐々に経済活動の再開に向けてかじを切りつつある。

南アでは、3月27日にロックダウンを開始した当初、市民に外出制限を課した。食料品や医薬品など「必要不可欠」とされる商品販売、一部の分野のビジネス活動だけが許可されていた。しかしその後、ロックダウンのレベルを段階的に引き下げた。6月以降は製造業や鉱業、建設、金融、小売りなどが完全再開、夜間外出禁止が解除された。このように、市民生活が平常に戻りつつある。その一方で、感染者数が加速度的に増加する。結果として、前述のように感染爆発ともいえる状況に陥ったわけだ。

エジプトも、3月19日からいち早く全空港を閉鎖。集団行動や夜間外出の禁止などを実施した。しかし、5月中旬以降、稼働率の制限を設けつつホテルの営業を許可した。このほか、国内の経済活動を段階的に緩和してきた。6月27日には夜間外出禁止と地下鉄運行制限を解除。経済再開に合わせるように感染が大きく拡大しているにもかかわらず、政府は7月1日からさらに、国際線運航の再開を決定。観光客の受け入れを開始した。

その他の諸国でも、コートジボワールは7月1日から国際線の運航を再開、ケニアは8月1日から再開予定だ。このように感染者の拡大傾向に歯止めがかからないまま、経済再開に向けてかじを切る国が相次いでいる。


ヨハネスブルク市内のスーパーマーケットの様子(6月)(ジェトロ撮影)

新型コロナで見えてきた商機も

新型コロナにより苦境に立たされるアフリカ各国。しかし、政府や企業が生き残りをかけ、新たな商機を見いだそうという動きも見えてきた。

チュニジアでは、政府が欧州の生産拠点としてサプライチェーンに組み込まれるきっかけになるとみる。そこで、農業や食品加工、デジタル、医薬、繊維、ハイテク・高付加価値技術産業に重点を置くよう、戦略を見直した。

東アフリカなどでは、天候不順やバッタの大量発生により食糧生産に大きな影響が出ている。この状況を捉え、農業を強みにアフリカ域内での農産物の輸出拡大を目指す国もある。農産物の輸出を通じて、コロナ禍の中で成長を図ろうという考えだ。エジプトは、政府が灌漑や新たな農地開拓に120億ドルの投資を表明した。また、コートジボワールは、総額3,000億CFAフラン(約570億円、1CFAフラン=約0.19円)の農業分野支援策を掲げる。エチオピアも、主要産品の花卉(かき)産業で国際競争力を高めるため、最低価格を撤廃した。モロッコは、アフリカ域内への輸出拡大のみならず、アフリカ、ひいては世界の農業と食料供給のハブになることを目指し、研究を進めている。

新型コロナに直結する医療関連産業では、モロッコが人工呼吸器や外科および保護用マスクなどの100%国内生産実現を達成し、周辺諸国に輸出・提供できるほどに成功している。南アでは、自動車部品メーカーなどが医療機器の不足を補うため、人工呼吸器の国内生産を開始する動きがある。ガーナでも、政府が企業に個人防護具製造を促し、主な材料は指定のガーナ企業から調達するように要請。国内産業保護を図ると同時に、工業化促進につなげたい考えだ。

世界の潮流にたがわず、アフリカでもコロナ禍でデジタル化加速の動きがみられる。ガーナやエチオピアでは、政府が新型コロナ感染者を追跡、あるいはソーシャルディスタンシングを確保できるアプリを開発・導入した。このほか、ケニアは、新型コロナ拡大予防策として、現金決済を減らすために非接触型の決済であるモバイル決済利用を推進。エチオピアでは、オンラインモールと銀行決済手段の接続により電子決済が拡大する。ロックダウンが続いた南アでは、大手小売りのウールワース(Woolworths)や、ピックンペイ(Pick n Pay)を通じた注文が急増した。ナイジェリアでは、高級ホテルやレストランが配達や持ち帰りに注力。スーパーマーケットチェーンも配達サービスに参入し、民間企業が新たなチャネルを開拓している。コートジボワールでも、特産物のネット通販やデジタル技術による観光PRに政府が注力する。

日系企業も対応に苦しむ

以上のように、アフリカで新型コロナ感染拡大はなおも続く。この状況を受け、日本の外務省は3月31日、アフリカから日本への帰国を促す広域情報を発令した。これを受けて、日系企業関係者の多くが商用便やチャーター便で一時退避し、業務を遠隔で継続する。対して、南アやエジプトでは、国内にとどまって操業を続ける日系企業もある。工場がある場合は交代勤務やシフト変更、オフィスでは交代勤務や在宅勤務などの措置を講じて営業を継続している。日系製造業の進出が見られる南アでは、工場稼働に当たり、感染拡大防止を徹底するマニュアル化などの対応に時間を要す例がある。距離を示すマーキングや動線などを勘案すると、従業員を十分に空間に入れることができなくなる。その結果、現実的に作業できないなど課題が多く浮かび上がってきた。このように厳しい制限下、新型コロナ感染対策を実施しつつ生産を軌道に乗せるという難題に取り組んでいる。

南アは7月19日現在、国境封鎖を続ける。もっとも、他のアフリカ諸国では、国際線再開の動きがある。今後、一時退避した日本人駐在員が任地へ復帰する動きも出てくるだろう。しかし、しばしば現地の医療態勢に不安を覚えるという。アフリカビジネスは積極的に展開したい、しかし感染リスクにおびえながら慎重に展開せざるを得ない。ジレンマはなおも続く。

こうした中、ジェトロは7月9日、「新型コロナウイルスをめぐるアフリカの現状と企業の対応」について、ウェブセミナーを開催。日本企業関係者ら600人超が参加した。その後7月16日、日本政府は、2022年の第8回アフリカ開発会議(TICAD8)をチュニジアで開催すると発表している。当面はコロナ禍で苦戦が強いられるにせよ、日本企業のアフリカビジネスへの関心は衰えていない。現地に出張できなくとも、デジタルツールを駆使するなどして、アフリカとのつながりを続けることはできる。来るべきポスト・コロナの時代に備えて、ビジネスの種を着実に育てていく粘り強い姿勢が求められよう。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
堀田 萌乃(ほった もえの)
金融機関、外務省、在ザンビア日本国大使館(専門調査員)を経て、2014年4月にジェトロ入構。海外調査部中東アフリカ課、企画部海外地域戦略班(アフリカ担当)を経て、2020年5月から現職。

この特集の記事