特集:中東・アフリカの新型コロナの影響と展望農業が成長を下支え、デジタル化に注力(エチオピア)

2020年7月31日

エチオピアでは、3月13日に国内初の感染者が確認された。それ以降、徐々に感染者数が増えた。7月13日時点での感染者数は7,560人となっている(Our World in Data)。

2019年10月時点で、IMFは同国の2020年の実質経済成長率を7.2%と予測していた。新型コロナウイルスの影響を受けてこれが下方修正され、現在は1.9%だ。引き下げられたとは言え、依然としてプラス成長が予測されていることになる。エチオピア政府も同様に、2019/2020年度(2019年7月8日~2020年7月7日)は3.8%、2020/2021年度は5~6%のプラス成長を見込む。

同国の銀行エコノミスト兼アナリスト2人に、新型コロナ感染症の拡大防止に努める国の政策や経済への見通しを聞いた。うち、A氏は中央銀行に、B氏は市中銀行に勤める(インタビュー日:2020年7月7~8日)。

質問:
新型コロナの経済への影響をどうみるか。この状況で、本当にプラス成長は可能なのか。
答え:
(中央銀行A氏)
まず指摘したいのは、前財政年度8カ月間(2019年7月8日~2020年3月8日)の経済が、海外直接投資流入、輸出、海外送金受領額のいずれをとっても極めて好調だったことだ。経済構造の特性も関係する。農業が占める割合が高いため、新型コロナの直接的な影響を受けにくい。他国と違って都市封鎖(ロックダウン)には踏み込まず、経済活動を完全に止めていない。製造業や中小零細企業の中には、ビジネスの目的を転換する動きもみられる。例えば、輸出から、国内で必要とされるマスクなどの個人防護具の生産に切り替えるというものだ。高めのプラス成長予測は、こうした動きを背景とする。
(市中銀行B氏)
経済成長率の見通しがどの程度適正なのかは分からない。一方で、サービス産業が大きく影響を受けていることは確かだ。こうした産業の経済成長への貢献は極めて限定的になるだろう。回復にも時間がかかるとみている。
質問:
政府の対応をどうみるか。経済政策への評価を聞かせてほしい。
答え:
(中央銀行A氏)
金融システムを通じて150億ブル(約454億円、1ブル=約3.03円)の流動性を提供した。これにより、影響を受けた企業は債務の繰り延べなどが可能になっている。貸出利率も引き下げられた。主要輸出産品の花卉(かき)産業では、最低価格が撤廃され、輸出競争力を高めることができている。政府はこうした手段で、経済への影響を緩和させている。
(市中銀行B氏)
政府が提供した各種手段とこれにかかる資金供給は、一時的な措置として評価できる。しかし、十分なものとはいえない。継続的な資金供給が必要だ。貸出利率の引き下げについては、評価している。ただし市中銀行の立場からは、貸す側への配慮もほしい。あわせて預金金利も引き下げられなければ、銀行業として利益もなく、持続可能でない。
質問:
新型コロナとの共生が迫られる企業や社会に新しい動きはみられるか。
答え:
(中央銀行A氏)
携帯端末を使った銀行取引の上限額を引き上げ、銀行の電子化や現金自動支払機(注)の設置が進む。以前よりは「非接触」が進展するだろう。中央銀行としても、電子技術を使った最新の金融環境を整えていく。
(市中銀行B氏)
オンラインモールと銀行決済手段の接続が進むとみている。それに伴い、消費者の意識も徐々に変わり、電子決済が拡大していくだろう。銀行としては、スタートアップや技術革新をもたらす企業との取引拡大にも注力していく。

注:
ATMは通常、「現金自動預払機」として機能する。しかし、エチオピアのATMは現金を預けることはできず引き出すのみが可能。このため、「現金自動支払機」とした。
執筆者紹介
ジェトロ・アディスアベバ事務所 リサーチマネージャー
メセレット・アベベ
エチオピア財務省を経て、ABEイニシアチブで来日し、国際大学にて修士号(国際開発)を取得。2019年から現職。

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