特集:中東・アフリカの新型コロナの影響と展望医療やインフラ分野で財政支出を予定(イスラエル)
スタートアップの資金調達は減少見込み

2020年7月31日

イスラエルは、新型コロナウイルスの感染拡大に、世界でいち早く独自の対策を導入し、世界の注目を集めてきた。2月下旬から段階的に導入した外国人の入国禁止措置、感染者追跡のための携帯電話位置情報の利用・監視、厳しい外出制限措置などが行われた。一方で、こうした措置も緩和が進んでいたが(2020年5月8日付ビジネス短信参照)、感染拡大により再び各種制限が強化された。イスラエルの新型コロナウイルス感染者数は7月15日時点で、4万2,360人となっている(Our World in Data)。

多くの製造業は継続して稼働

ジェトロはイスラエル製造者協会(MAI)のダン・カタリバス国際部長に、短期的な経済・産業への影響、再興に向けた動き、現地企業の状況について聞いた(6月11日)。

質問:
イスラエル経済への影響は。
答え:
フランスやスペイン、イタリアなど他の国と比較して、イスラエル経済の落ち込みは大きなものではない。イスラエルでは、外出制限の期間中でも必要不可欠とされる業種ではビジネス活動は停止しなかった。製薬、防衛、ハイテク分野、輸出関連企業を含め、およそ80%の工場が生産活動を継続できた。
イスラエル経済の状況を見ると、消費と輸出が大きく減少している。大きな問題は供給側ではなく需要側にある。そのため、2020年第1四半期の産業分野での生産高は大きく落ち込まなかった。しかし、3~4月の2カ月間の輸出は前年同期比で27%減、4~5月の期間では前年同期比で6%減になった。
ホテルやレストランなどは営業できなかったため、ビジネス面で大きなダメージが生じた。しかし、製造業は他の産業分野と比べると影響が小さかった。特に資本集約的な製造業では新型コロナの影響が軽微だった。事例を挙げると、インテルやイスラエル・ケミカルズなどの生産工程が自動化されている企業では、大きな落ち込みはなかった。労働者に頼る割合が低いため、事業を継続することができたからだ。また、多くの人々が自宅で長い時間を過ごした影響で食品産業では需要が伸び、ホテルやレストランでの落ち込みをカバーした。食品関連でも、トゥヌバ(TNUVA)やシュトラウス(Strauss)など業績が良い企業がある。

政府は失業者対策と医療・インフラ投資に注力

質問:
失業者対策は。
答え:
雇用を見ると、第二次産業(製造業、建設業、電気・ガス業など)では、無給休暇になる人の割合が他の産業と比べて少なかった。他のセクターでは経済活動は減速した。無給休暇の取得者には、企業に代わって政府が給与を支払う対応をとった。なお、事業者支援としては、企業に融資を提供する方法をとった。これに対し、事業者は返済しなくてもよい補助金の支給を求めている。
一時期、失業率が25%に達したが、実際には再び雇用される人が大半だ。大事なポイントは、無給休暇を取得したこれらの労働者が、どれぐらい早い時期に職場に復帰するかという点にある。今後どうやってこれらの被雇用者を職場に戻すことができるのかについて、政府は特別プログラムを実施する予定だ。具体的には、失業者数を減らす方策として、労働者が職場に復帰する際、雇用者に7,500シェケル(約23万2,500円、1シェケル=約31円)の補助金が支給される。無給休暇を取得した労働者を企業が再び雇用すれば補助金が支給される仕組みを導入し、労働者の職場復帰を支援する。
もっとも、労働時間を短縮したにもかかわらず、非フルタイム労働者に対して給与を全額支給した企業もある。しかし、労働者に無給休暇を適用せず時間短縮などの方法で対応したこのような企業には補助金が支給されない。このようなケースについても補助金が支給されるよう、製造者協会は財務省と協議をしている。
質問:
経済再興に向けた政府による施策は。
答え:
国内外の需要が減少し、それぞれ民間消費と輸出が落ち込んでいる。国内需要を喚起するため、政府は2つの柱を立て、多くの財政支出を行う予定だ。ひとつ目は、医療分野での病院建設や医療従事者の雇用増加策。ふたつ目はインフラ投資で、道路、鉄道、発電所の改修、海水淡水化脱塩プラントなどの建設計画がある。ただ、これらの施策はすぐに効果が出るわけではない。
これらを実施するためには、公的部門の支出が増える。マクロ経済を見ると、財政収支赤字(GDP 比)で10~11%、公的債務残高(GDP比)は80%以上になるだろう。イスラエル中央銀行は流動性供給のため、500億シェケル規模の債券を購入するだろう。
質問:
ハイテク分野への影響は。
答え:
2020~2021年にかけて、スタートアップの資金調達は減少するだろう。資金の多くは米国から供給されるが、これが大きく減少する見込みだ。ハイテク分野への資金供給が減る状況下で、別の国から資金を調達する方法、例えば中国から資金を調達することができるのか、そうすべきなのかなど、米中貿易戦争や米中テック戦争の状況を踏まえ、よく考える必要がある。政治面では、2021年の予算成立の時期が遅れる可能性がある。これを理由に内閣不信任案が議会を通過すると、2021年に総選挙が行われる可能性も否定できない。

スタートアップの資金調達状況に変化

また、在イスラエル日系企業に現在の事業環境についてヒアリングを行ったところ、スタートアップの状況に関していくつかの変化が見られた。現地で活動する日系ベンチャーキャピタル(以下、VC)関係者からは、「リード投資家との交渉の結果、新規投資を受ける企業がバリュエーション(投資の価値計算や事業の経済性評価)を下げるケースが出ている。VCが(新規投資ではなく)既存投資先の支援に集中したり、海外投資家からの投資が減ったりすることで、以前に比べて投資を受けにくい状況になっていることがその理由。当社は、元々売り上げがない研究開発型の企業に対する投資が多い。この結果として、新型コロナの影響で売り上げが減少し、キャッシュフローが悪化するケースはほとんどない。ただし、大手企業との協業などの話が減速する動きはある」との見方が示された。

一方、イスラエルで技術探索を行う日系企業からは、「従来はコンタクトが難しかったスタートアップでも、最近はオンラインで面談することが以前よりも容易になった」と、前向きな意見も出ている状況だ。

執筆者紹介
ジェトロビジネス展開・人材支援部国際ビジネス人材課
余田 知弘(よでん ともひろ)
1999年、ジェトロ入構。貿易開発部、海外調査部、ジェトロ・ブカレスト事務所、大阪本部、ジェトロ・テルアビブ事務所を経て、2020年7月から現職。

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