特集:中東・アフリカの新型コロナの影響と展望ライフスタイルが変化、観光など産業復興にデジタル活用(コートジボワール)

2020年7月31日

7月26日時点で、コートジボワールの感染者数は1万5,494人だ(Our World in Data)。6月に入ってから、大アビジャン圏を中心に1日当たり平均200人を超える新規感染が続く。それでも、政府は経済の回復へかじを切りつつある。非常事態宣言が継続される中、感染を抑えながら活気ある社会に向けて、「コロナとの共存」という戦略に踏み出した。 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う全国的な封鎖措置や行動規制が5月初旬から段階的、地域別に緩和された。

一方、欧州諸国や中国を主要な貿易投資パートナーとするコートジボワールにとって、経済への打撃はなおも大きい。IMFは、コートジボワールの2020年実質GDP成長率を2.7%と4月時点より下方修正して予測する。

新型コロナ禍が経済と産業に及ぼすインパクト、政府の対策、企業の対応などについて、コートジボワール観光・余暇省のアンドレ・シエ・アニョロ安全対策部長にインタビューした(2020年6月25日)。


アンドレ・シエ・アニョロ観光・余暇省安全対策部長(本人提供)
質問:
新型コロナ感染拡大による経済や産業への影響は。
答え:
新型コロナウイルスの感染拡大によって、国内の多くの活動が停滞を余儀なくされている。今後も、コートジボワール経済に多大な影響を与えることが予想される。非常事態宣言の発令を受けた封鎖措置や行動規制を背景に、個人消費や投資が落ち込んでいる。また、世界的な需要減少やサプライチェーンの混乱を受けて、輸出が減少し、生産活動が停滞している。これらの結果として、政府は4月時点で、2020年の実質GDP成長率が3.6%と大きく下振れすることを予測している。 財政の悪化も予測する。成長率の鈍化に伴う税収減少のほか、新型コロナウイルス対策として実施している減税策や、960億CFAフラン(約173億円、1CFAフラン=約0.18円)にのぼる緊急コロナウイルス医療対策、3月末にゴン・クリバリ首相が発表した総額1兆7,000億CFAフラン(約3,060億円)の社会・経済支援策などがある。このため、2020年の財政赤字は当初予算案で発表したGDP比3.0%から、5.1%に拡大すると予測している。財源不足を補うため、政府は地域金融市場での国債発行やIMF、世界銀行をはじめとする国際社会から資金調達を進めている。
質問:
政府は、どのような企業支援策をとったのか。
答え:
大きく分けて、企業全般へのキャッシュフローに対する支援、生産設備と雇用維持を目的とした支援、主要輸出産品と食糧生産を中心とする農業分野への支援、の3本柱からなる。GDPの約5%に当たる総額1兆7,000億CFAフランが社会・経済支援策に投入される計画だ。具体的な企業支援策は次のとおり。
  1. 企業全般へのキャッシュフロー支援措置:法人税をはじめ企業活動に課される租税の減免、納税申告の3カ月間延期、社会保障負担の支払い猶予、税務監査の見送り、付加価値税(VAT)還付の迅速化、国内債務返済の優先などの措置。
  2. 企業全般への生産設備と雇用維持支援措置:2,500億CFAフランの民間分野向け支援基金(うち中小企業向け1,500億CFAフラン、大企業向け1,000億CFAフラン)、1,000億CFAフランのインフォーマル分野向け支援基金の設置。
  3. 農業分野への措置:総額3,000億CFAフランの農業分野支援。主な内訳は図および以下のとおり。カシューナッツ350億CFAフラン、綿花55億6,000万CFAフラン、天然ゴム249億8,000万CFAフラン、パーム油35億CFAフラン、果物105億CFAフラン、コメ120億CFAフラン、養鶏26億6,000万CFAフラン、食糧168億2,000万CFAフラン、養豚15億1,000万CFAフラン、小規模漁業・養魚25億6,000万CFAフラン、食糧サプライチェーン44億CFAフランなどの支援措置。
図:農業分野支援
コートジボワール観光・余暇省出所による、同国政府の3,000億CFAフランの農業分野支援の内訳。カシューナッツが最大で12%、次いで天然ゴム8%、食糧6%、コメ4%、果物3%などと続き、その他が60%を占める。

出所:コートジボワール観光・余暇省

これら経済支援策に加え、社会支援策も実施している。主に、1,700億CFAフランの緊急人道連帯支援基金、社会的脆弱(ぜいじゃく)者に対する食糧の配給、電気・給水サービス加入者に対する料金支払い猶予・小口加入者に対する無料化、コロナの影響に伴う失業手当の支給が見込まれている。
また、西アフリカ諸国中央銀行(BCEAO)は、流動性の促進と企業のキャッシュフローを支援する措置として、西アフリカ経済通貨同盟(UEMOA)8カ国の銀行やマイクロファイナンス機関に対して、事業者の既往債務について金利や手数料なしで最大6カ月の返済猶予を要請した。このほか、政策金利を引き下げ金融政策の緩和を図った。さらに、電子決済サービスを促進するため一部手数料を無料化している。
質問:
企業活動への影響と対応は。
答え:
景気縮小による企業への影響は甚大だ。コートジボワール総企業連盟(CGECI)、国立統計院・国連開発計画、中小企業庁がそれぞれ、6月に企業実態調査を実施した。いまだコロナ禍の収束見込みが立たない中でのことだ。これら全ての調査結果で、95%以上の企業が深刻な影響を受けたとした。半数以上の企業が売り上げ減少、休業・閉鎖、マーケット・顧客喪失、従業員解雇・レイオフに追い込まれていることが示された。中には、破産した企業もある。活動を維持する企業の多くも、今後3カ月にわたり収束の兆しが見えなければ、破綻に追い込まれることを危惧している。感染予防対応として、テレワークを実施する企業の割合は6割を超えており、今回のように人の移動が制限される事態に備え、柔軟な勤務体制へ即時シフトできる体制や、そのダメージを軽減できる手段を確保しておく必要性が認識された。
ほぼ全ての企業が資金繰りの悪化に直面している。資金調達の手段として約8割の企業が、政府保証による企業支援基金の活用に期待を寄せる。
コロナ危機で特に打撃を受けた分野には、観光、輸送、商業、建設などがある。特にGDPの7.3%を占める観光業が、感染の影響によりこの3カ月弱に4,000億CFAフランの損失を被った。2019年の観光客数は約400万人に達し、このうち約半数が海外からの観光客だった。ここからも、観光関連産業への影響が計り知れないことがわかる。深刻な打撃を受けた観光業界では、当面の資金調達だけではなく、中長期の投資も含めた資金需要への対応が必要だ。業界関係者からは「資金対策を始めているが、政府が導入した企業支援基金は、申請プロセスが複雑でアクセスが容易ではない。このため、資金繰りの見通しが立たない」との声が上がっている。早急に、運用面での是正を検討する必要がある。危機の中で、操業を支える資金支援策が優先されるのはよい。しかし、ポスト・コロナを見据えた産業・企業支援スキームの整備が待たれる。
観光・余暇省では、落ち込んだ観光消費の回復に向け、段階的な誘客の促進を計画している。コロナ禍の収束後に備えて、よりきめ細やかな施策を打ち出す方針だ。具体的には、観光地での特産物の販路拡大を目指すインターネット通販や、デジタル技術を活用した観光プロモーションを計画している。
国内感染が拡大する中で政府が予防策として奨励したこともあり、全般として在宅勤務などのテレワークや時差通勤の実施が広がっている。今後の労働形態に影響しそうだ。外出規制や移動制限により、在宅中心のライフスタイルへの急激な変化をもたらした。インターネット通販や宅配サービスを利用する機会も増えてきた。ここに来て、遠隔診療、遠隔教育、農林水産業のデジタル化とドローンを活用するスタートアップが注目されている。今後、さらにオンラインサービスが進化していくだろう。デジタル化に向けた人材育成も必要だ。UEMOA地域のハブとして機能するコートジボワールでは、コロナ危機が新たなライフスタイルに対応したビジネスモデルを構築する機会とみる向きも多い。
一方、これら成長市場を経済に取り込んでいくには、法制度環境の整備が欠かせない。政府は数年前から、行政のオンライン化、デジタルガバメントを推進している。今後、取り組みが加速されそうだ。また、過密なアビジャン市で感染症リスクが高まった。これを受け、大都市への一極集中の是正、地域経済の活性化を加速していく機会と捉える向きもある。併せて、地域の特性を生かした産業の振興や資源の育成、雇用の創出などに取り組んでいくことで、より良い効果をもたらすだろう。
執筆者紹介
ジェトロ・アビジャン事務所
渡辺 久美子(わたなべ くみこ)
1990年から、ジェトロ・アビジャン事務所勤務。主にフランス語圏アフリカの経済・産業調査に従事している。

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