特集:中東・アフリカの新型コロナの影響と展望欧州市場低迷で打撃も、生産拠点化目指す(チュニジア)

2020年7月31日

チュニジアの新型コロナウイルス感染者数は7月26日時点で、1,443人(Our World in Data)。チュニジアでは、対策として3月21日に全面的外出禁止令を発令。早期に国境を封鎖した。6月23日時点で新規感染者ゼロが続くなど、感染対策が功を奏した形となっている。このため政府は、5月4日から3段階に分けた外出禁止令の解除に踏み切った。6月15日以降、社会生活はほぼ通常に近い状況だ。

一方、欧州諸国を最大のパートナーとするチュニジア経済への打撃は大きい。世界銀行によると、チュニジアの2020年のGDP成長率はマイナス4%と予想されている。新型コロナ危機が経済と産業にもたらすインパクト、政府の対策、企業の対応などについて、チュニジア外国投資促進庁(FIPA)のアブデルバセット・ガムニ長官にインタビューした(2020年6月16日)。


アブデルバセット・ガムニ・チュニジア外国投資促進庁長官(本人提供)
質問:
新型コロナ感染拡大による経済や産業への影響は。
答え:
政府は、国民の健康を最優先課題として3つの決定を下していた。3月21日の完全外出禁止令発令、感染クラスターの徹底的な追跡、国境封鎖だ。早期決定が功を奏し、感染による人的被害は最小限に抑えられた。
一方で、チュニジア経済は、世界経済への依存度が高い。このため、大きな打撃を受けた。中でも、最大の経済パートナーである欧州諸国の経済低迷は、直接的な影響をもたらした。とくに打撃が大きかったのは、電気・電子、機械、鉄鋼、繊維、衣料・靴の各部門だ。機械と電気・電子は、自動車や航空機の部品製造に関連し、外国直接投資が最も多い(2015~2018年の外国直接投資のうち、66%を占める)。それだけに、新型コロナ危機による影響が最も大きかった。
質問:
政府の企業支援策としてどのような措置をとったのか。
答え:
大きく分けて、(1)企業全般への支援措置、(2)完全輸出型企業への措置、(3)新型コロナ危機で大きな打撃を受けた企業への措置、の3本柱からなる。合計で20億ディナール(約760億円、1ディナール=約38円)を支援措置にあてた。これは、GDPの1.8%に当たる。詳細は次のとおりだ。
  1. 企業全般への支援措置: 3億ディナールの中小企業支援基金設立(大量失業者の発生を防ぐための従業員の給与支払いへの融資)。企業税務申告を5月末まで2カ月間延期。税務監査の見送りなどの税務上の優遇措置。
  2. 完全輸出型企業に対する措置:食品と医療品の製造業に対して、2020年末まで全ての商品を国内市場で販売することを許可。その他の完全輸出型企業は、2020年末まで30~50%まで国内販売が可能。
  3. 新型コロナ危機の打撃が特に大きかった企業に対する措置:最も打撃の大きかった企業(注1)への支援のため政府内に特別委員会を設置。税金の未払い分について、7年の納入猶予を受けられるなどの税制優遇措置(注2)。
一方で、新型コロナ危機は、新しいビジネス機会をもたらす側面も持ち合わせている。政府は、世界経済の中で戦略的地位を勝ち取るチャンスでもあると捉えている。一例として、国の優先産業セクターの見直しがある。従来は、自動車・航空機部品産業、農業・食品加工、デジタル産業が優先されていた。これを、農業・食品加工、医薬、繊維、デジタル、ハイテク・高付加価値技術部門に、優先順位を見直した。新型コロナ危機の状況下で必要とされる産業を優先的に位置付けたということだ。片や、自動車・航空機部品産業は需要が低迷している。このため、優先産業から外された。また、中国などへの生産拠点の集中を問題視する議論がフランスで行われるなど、国際サプライチェーンをめぐる課題が大きくクローズアップされている。欧州から地理的に近いチュニジアは、欧州の生産拠点としてサプライチェーンに組み込まれる新たなチャンスと捉えている。投資環境を一層充実させ(投資優遇システムの再考など)、アフリカ大陸でチュニジアの地位をどう確立するのか、などが検討されている。
質問:
企業活動への影響と対応は。
答え:
外出禁止令が解除され、生活はほとんど通常に近い状態に戻っている。一方で、海外諸国の多くは現在も国境封鎖を続ける。原材料・半製品などのサプライチェーンはまだ正常には機能していない。チュニジアに進出する多くの外国企業は、外的な圧力(サプライチェーンの状況悪化)という要因に加え、人材管理(需要の減少による人材確保の難しさ)、さらには衛生管理などといった内的要因からの困難も強いられている。
しかし、(既述の)政府支援措置は、外資系企業も国内企業と同様に対象になる。外出禁止令が発令されていた時期、チュニジア投資庁は、チュニジア進出外国企業向け新型コロナ対策受付窓口を設けた。外出禁止令が発令されている時期にも営業を認められていたいくつかのセクター(食品、医薬、保健・衛生)について、衛生規制などの具体的相談にのった。また、政府の企業支援措置を紹介し利用を促すなど、サポートを重ねてきた。
新型コロナ危機のインパクトが非常に大きいセクターに観光がある。国境封鎖のため、航空産業がまずは第1の被害者だ。それに続き、観光、航空機産業などへ連鎖的に影響が出た。チュニジアは、6月27日に国境封鎖の解除を予定している(注3)。観光業界はすでに衛生規制に基づいた対応を完了して、観光客受け入れに向け準備万端だ。しかし、欧州諸国の空路開放への足並みがそろわない。欧州からの観光客が大半を占めるチュニジアにとっては、今年の観光シーズンは非常に難しい状況だ。このため、国内観光客、近隣諸国からの観光客をターゲットにする動きが見られる。
企業は営業活動の継続のため、テレワークやビデオ会議など新しい働き方に移行している。今後の労働形態に大きく影響しそうだ。消費形態も変化し、eコマースが躍進した。医療分野でビデオ診察などが導入されるなど、イノベーション分野が新型コロナ危機対策に大きな役割を果たしている。これは、チュニジアのイノベーション力を発揮する機会にもなった。
なおも、新型コロナウイルスがもたらした厳しい状況下にある。しかし、チュニジアへの進出や既存工場の拡大計画を決めた外資系企業が現に存在する。このことは、チュニジアの競争力の証しとして大きな意味を持つ。

注1:
2020年2月以前に倒産しておらず、会社更生法の対象になっていない企業で、新型コロナ危機の直接の影響により2020年3月の売り上げが前年同月比で25%以上、4月は40%以上減少した企業。
注2:
2020年4月1日~6月30日に納税義務のあるすべての税について、滞納で発生する罰金を免除する。5億ディナールの経営管理ローンが設けられ、2020年3月1日~12月31日の期間内で同ローンを受けることが可能。その場合の返済期間は、2年の猶予期間を経て7年になる。
注3:
インタビュー時点では、まだ予定の段階だったが、その後、解除された。
執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
渡辺レスパード智子(わたなべ・レスパード・ともこ)
ジェトロ・パリ事務所に2000年から勤務。アフリカデスク調査担当としてフランス及びフランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種調査・情報発信を行う。

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