トルコの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2024年のGDP成長率は3.2%と前年から鈍化。消費者物価上昇率は44.4%と依然高止まり。
  • 貿易は輸出が2.4%増、輸入が5.0%減で、赤字幅はさらに縮小。
  • 対内、対外直接投資ともに前年比2桁増と好調。EU加盟国からの投資が回復。
  • 日本からの直接投資はアジア首位から後退、対日直接投資も大幅減。

公開日:2025年7月23日

マクロ経済 
景気は回復傾向も、国内外情勢には依然不透明さ残る

トルコ統計機構(TUIK)の発表(2025年2月28日付)によると、2024年のトルコ経済は、前年より鈍化したものの、堅調な内需に支えられ、実質GDP成長率は前年比3.2%の成長となった。各種メディアからも厳しい物価上昇に直面する市民の声が聞かれるものの、GDPの約6割を占める最大の需要項目である民間最終消費支出は前年比6.5%増となった。トルコ消費者の行動特性である、物価高騰とトルコ・リラ(以下、リラ)の下落を見込んだ購買意欲の高まりも要因の一つと考えられる。2024年の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年比44.4%と2022年の64.3%、2023年の64.8%からは抑制された。2023年6月に就任したメフメト・シムシェキ国庫・財務相が実施する金融引き締め政策が一定の効果をもたらしていると考えられる。外需は輸出が第2四半期以降に減速した一方、輸入が4.1%減と輸出の0.9%増を大きく下回ったことで、純輸出の増加に寄与した。生産部門別では、2023年に発生したトルコ南部での震災の復興需要もあり建設が9.3%増となったほか、金融・保険業も4.9%増と成長を牽引した。シムシェキ国庫・財務相は、内需が2.1ポイント、純外需が1.1ポイント成長に寄与し、経常赤字のGDP比も0.8%に低下したと評価した。

トルコ中央銀行(以下、中銀)は、政策金利(1週間物レポ金利)を2024年3月の50%から、インフレの低下を背景に2025年3月、42.5%まで引き下げたが、4月には再び46%に引き上げた。前月の市場の混乱や外貨準備の減少(後述)が背景とされている。この間、為替市場でのリラの下落は続き、2024年末は対ドルで前年末比約20%の減価となった。

内政安定、インフレ・リラ安抑制、外需の維持が2025年の焦点

物価上昇を織り込み、トルコ政府は2025年1月、最低賃金の月額グロス額を前年比30%増の2万6,005.5リラ(約11万7,000円、2025年1月5日付換算レートで1リラ=約4.5円)に引き上げた。

こうした中、2025年3月、最大野党の共和人民党(CHP)に所属し、2028年までに実施される次期トルコ大統領選挙でエルドアン大統領の最大の競合候補とみなされていたイスタンブール大都市広域市市長のエクレム・イマムオール氏が、テロリズムや汚職などの容疑で拘留・逮捕された。一連の流れにより、一時リラが急落したことなどを受け、トルコ国内では数百億ドル規模の外貨売却によるリラ防衛の動きがあったとも報じられている。他方で、4月に発表された米国の相互関税政策において、トルコは他国に比べ低い追加関税率(10%)に抑えられたことや、5月のクルド労働者党(PKK)の解散発表など、トルコの投資環境にとって追い風となる動きも見られた。

中銀総裁は2025年5月、2025年末のインフレ率を24%と予想した。これに先立ち、OECDは4月、2025年のGDP成長率の予想を前回(2024年12月)発表から0.2ポイント引き下げて3.1%、インフレ率を0.7ポイント上方修正し、31.4%と予想しており、目にみえるインフレ抑制の実現には引き続き厳しい見方を示している。格付け会社S&P、フィッチはそれぞれ、トルコの信用格付けを「BB-」に据え置き、S&Pは5月、2025年末のGDP成長率を2.7%、インフレ率33%、対米ドル為替レートを1ドル 43リラとするなど、OECDよりさらに厳しい予想を発表している。

表1 トルコの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2022年 2023年 2024年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 5.3 5.1 3.2 5.6 2.5 2.0 3.1
階層レベル2の項目民間最終消費支出 17.0 27.4 6.5 10.3 3.8 5.5 6.9
階層レベル2の項目政府最終消費支出 4.3 2.5 0.8 2.6 △ 0.1 △ 0.7 1.5
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 1.3 8.4 3.9 9.1 0.8 △ 0.1 6.1
階層レベル2の項目財・サービスの輸出 9.9 △ 2.8 0.9 5.1 0.8 0.7 △ 2.0
階層レベル2の項目財・サービスの輸入 8.6 11.8 △ 4.1 △ 3.2 △ 5.9 △ 9.6 1.6

〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。
〔出所〕トルコ統計機構(TUIK)

貿易 
輸出は前年比2.4%増、輸入は5.0%減。貿易赤字は減少傾向

2024年(1~12月)のトルコの対外貿易は、輸出額が前年比2.4%増の2,617億8,200万ドル、輸入額が5.0%減の3,440億1,200万ドルで、貿易赤字は22.7%減の822億3,000万ドルとなった。

2024年の輸出を品目別にみると、最大の輸出品目の自動車・同部品は前年比5.2%増で輸出の伸びを牽引した。次いで寄与が大きかったのは鉄鋼で14.9%増、電気機器も6.4%増と好調だった。他方、非ニット衣類(前年比8.1%減)とニット衣類(1.7%減)は、前年から欧州向け需要が冷え込んでおり、低迷が続く。前年に急増した貴金属類は第4四半期に低迷し、通年では4.5%減だった。

国・地域別の輸出では、輸出全体の41.4%を占めるEUが前年比4.0%増で首位だった。EU向けでは、国別で首位のドイツ(3.1%減)や6位のフランス(2.4%減)がやや低調だった一方、イタリア(4.6%増)やオランダ(9.0%増)は増加した。2位以下をみると、米国(9.9%増)、英国(22.7%増)、イラク(1.9%増)は好調だった。他方、欧米の制裁対象国となっているロシアは21.5%減となった。

2024年の輸入を品目別にみると、首位の鉱物性燃料が前年比5.1%減だった。前年に急増した貴金属類は26.7%減で、最大の押し下げ要因となった。また、一般機械(3.4%減)、自動車・同部品(1.8%減)、電気機器(2.6%減)、鉄鋼(2.1%減)、プラスチック製品(3.6%減)など、主要品目で軒並み減少している。

国・地域別の輸入では、金額の多い中国(前年比0.3%減)をはじめ、ロシア(3.5%減)、ドイツ(5.6%減)がともに落ち込んだ。また、金の国内需要が落ちついたことで、貴金属を中心としたスイスからの輸入が43.9%減と、最大のマイナス寄与となった。EU諸国をみると、イタリア(28.8%増)、フランス(8.2%増)などが伸びたが、域内首位のドイツの減少が響き、EU全体では同4.1%増にとどまった。なお、電子商取引(EC)を含む個人輸入の規制も厳しくなり、免税限度額を150ユーロから30ユーロ(医薬品は1,500ユーロ)に引き下げるとともに、関税も発送地がEUの場合は30%、その他の国は60%に引き上げられた。個人輸送品にもこの規則が適用され、廃棄、返送されるケースも出ている(2024年9月18日ビジネス短信参照)。

表2-1 トルコの主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
自動車・同部品 30,829 32,438 12.4 5.2
一般機械 25,262 25,553 9.8 1.2
鉱物性燃料 16,389 16,552 6.3 1.0
電気機器 15,454 16,448 6.3 6.4
貴金属類 13,647 13,030 5.0 △ 4.5
プラスチック製品 10,572 10,920 4.2 3.3
鉄鋼 8,860 10,182 3.9 14.9
ニット衣類 10,278 10,106 3.9 △ 1.7
鉄鋼製品 10,051 9,812 3.7 △ 2.4
非ニット衣類 8,037 7,384 2.8 △ 8.1
果実・ナッツ類・豆類 5,369 6,295 2.4 17.2
アルミニウム・同製品 5,317 5,225 2.0 △ 1.7
家具 5,149 5,072 1.9 △ 1.5
ゴム・同製品 3,818 3,775 1.4 △ 1.1
合計(その他含む) 255,627 261,782 100.0 2.4

〔出所〕TUIK

表2-2 トルコの主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性燃料 69,114 65,590 19.1 △ 5.1
一般機械 40,967 39,558 11.5 △ 3.4
自動車・同部品 32,261 31,670 9.2 △ 1.8
電気機器 27,948 27,223 7.9 △ 2.6
貴金属類 33,912 24,873 7.2 △ 26.7
鉄鋼 24,160 23,659 6.9 △ 2.1
プラスチック製品 16,215 15,626 4.5 △ 3.6
有機化学品 9,181 9,453 2.7 3.0
光学・精密機器 6,452 6,789 2.0 5.2
アルミニウム・同製品 6,293 6,113 1.8 △ 2.9
銅鉱・同製品 5,652 6,013 1.7 6.4
医療用品 4,986 5,429 1.6 8.9
航空機器・同部品 4,283 4,403 1.3 2.8
鉄鋼製品 3,994 4,162 1.2 4.2
合計(その他含む) 361,967 344,012 100.0 △ 5.0

〔出所〕TUIK

表3-1 トルコの国・地域別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
EU 104,284 108,503 41.4 4.0
階層レベル2の項目ドイツ 21,083 20,431 7.8 △ 3.1
階層レベル2の項目イタリア 12,373 12,947 4.9 4.6
階層レベル2の項目フランス 10,288 10,044 3.8 △ 2.4
階層レベル2の項目スペイン 9,784 9,782 3.7 △ 0.0
階層レベル2の項目オランダ 7,857 8,567 3.3 9.0
階層レベル2の項目ルーマニア 6,952 7,780 3.0 11.9
階層レベル2の項目ポーランド 5,955 6,262 2.4 5.2
階層レベル2の項目ブルガリア 4,227 5,150 2.0 21.8
階層レベル2の項目ギリシャ 4,172 4,817 1.8 15.5
階層レベル2の項目ベルギー 4,366 4,362 1.7 △ 0.1
米国 14,880 16,351 6.2 9.9
英国 12,463 15,289 5.8 22.7
イラク 12,759 13,002 5.0 1.9
ロシア 10,907 8,562 3.3 △ 21.5
アラブ首長国連邦(UAE) 8,573 8,295 3.2 △ 3.2
エジプト 3,353 4,176 1.6 24.5
サウジアラビア 2,621 3,985 1.5 52.0
ウクライナ 3,444 3,538 1.4 2.7
モロッコ 3,060 3,441 1.3 12.5
中国 3,306 3,388 1.3 2.5
合計(その他含む) 255,627 261,782 100.0 2.4

〔出所〕TUIK

表3-2 トルコの国・地域別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
EU 106,050 110,399 32.1 4.1
階層レベル2の項目ドイツ 28,688 27,084 7.9 △ 5.6
階層レベル2の項目イタリア 14,994 19,311 5.6 28.8
階層レベル2の項目フランス 11,548 12,500 3.6 8.2
階層レベル2の項目スペイン 9,507 9,363 2.7 △ 1.5
階層レベル2の項目ポーランド 5,074 5,575 1.6 9.9
階層レベル2の項目オランダ 4,420 5,021 1.5 13.6
階層レベル2の項目ルーマニア 3,686 3,985 1.2 8.1
階層レベル2の項目ベルギー 4,302 3,874 1.1 △ 9.9
中国 45,048 44,928 13.1 △ 0.3
ロシア 45,600 44,019 12.8 △ 3.5
米国 15,780 16,226 4.7 2.8
スイス 19,905 11,174 3.2 △ 43.9
韓国 9,488 9,246 2.7 △ 2.6
アラブ首長国連邦(UAE) 11,530 7,363 2.1 △ 36.1
インド 7,932 7,021 2.0 △ 11.5
英国 6,523 6,846 2.0 5.0
日本 5,467 4,737 1.4 △ 13.4
マレーシア 4,139 4,668 1.4 12.8
エジプト 3,647 4,411 1.3 20.9
ブラジル 4,140 3,864 1.1 △ 6.7
合計(その他含む) 361,967 344,012 100.0 △ 5.0

〔出所〕TUIK

対内・対外直接投資 
前年不調の対内直接投資は2桁増、対外直接投資も好調

中銀の発表によると、2024年の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は14.1%増の66億9, 200万ドルとなった。地域別では、全体の54.7%を占めるEU(キプロスを除く)からの投資額が25.5%増、北アフリカからが2.4倍、アジアからが21.1%増だった。

国別の投資額では、2023年に続きオランダが首位で前年比35.6%増(15億8,200万ドル)、次いでドイツが51.1%増(7億7,200万ドル)だった。米国は、投資ファンドのジェネラル・アトランティック(General Atlantic)によるマーケティング支援プラットフォーム、インサイダー(Insider)への5億ドルの投資案件などにより、3.3倍(6億8,800万ドル)と急伸し、3位に浮上した。また、カザフスタンは、EC最大手Kaspi.kzによるトルコEC大手ヘプシブラダ(Hepsiburada)の約11億2,700万ドルの買収(2024年10月24日短信ビジネス短信参照)により前年から3倍増となった。他方、前年好調だったアラブ首長国連邦(UAE)は47.3%減、ロシアが95.7%減、前年にアジア最大だった日本が70.5%減(3,300万ドル)と大きく後退した。

表4 トルコの国・地域別対内・対外直接投資 [国際収支ベース、ネット、フロー](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 対内直接投資 対外直接投資
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
EU 2,917 3,661 54.7 25.5 2,658 2,810 42.7 5.7
階層レベル2の項目オランダ 1,167 1,582 23.6 35.6 1,395 969 14.7 △ 30.5
階層レベル2の項目ドイツ 511 772 11.5 51.1 355 448 6.8 26.2
階層レベル2の項目イタリア 68 87 1.3 27.9 112 196 3.0 75.0
階層レベル2の項目フランス 403 241 3.6 △ 40.2 55 156 2.4 183.6
階層レベル2の項目ルクセンブルク 108 97 1.4 △ 10.2 35 111 1.7 217.1
階層レベル2の項目アイルランド 272 484 7.2 77.9 9 5 0.1 △ 44.4
英国 325 372 5.6 14.5 513 733 11.1 42.9
スイス 215 399 6.0 85.6 117 103 1.6 △ 12.0
ロシア 370 16 0.2 △ 95.7 7 68 1.0 871.4
米国 206 688 10.3 234.0 1,321 1,333 20.2 0.9
北アフリカ 5 12 0.2 140.0 82 219 3.3 167.1
階層レベル2の項目アルジェリア 0 0 0.0 5 151 2.3 2920.0
階層レベル2の項目エジプト 5 7 0.1 40.0 69 37 0.6 △ 46.4
UAE 583 307 4.6 △ 47.3 459 577 8.8 25.7
イスラエル 6 57 0.9 850.0 1 1 0.0 0.0
アゼルバイジャン 375 416 6.2 10.9 29 37 0.6 27.6
アジア 370 448 6.7 21.1 215 267 4.1 24.2
階層レベル2の項目カザフスタン 8 24 0.4 200.0 31 67 1.0 116.1
階層レベル2の項目中国 40 47 0.7 17.5 17 28 0.4 64.7
階層レベル2の項目香港 49 81 1.2 65.3 15 17 0.3 13.3
階層レベル2の項目韓国 33 62 0.9 87.9 5 7 0.1 40.0
階層レベル2の項目日本 112 33 0.5 △ 70.5 4 1 0.0 △ 75.0
階層レベル2の項目シンガポール 53 80 1.2 50.9 11 1 0.0 △ 90.9
階層レベル2の項目台湾 56 109 1.6 94.6 0 0 0.0
合計(その他含む) 5,863 6,692 100.0 14.1 5,669 6,585 100.0 16.2

〔注〕EUは、EU27カ国からキプロスを除く26カ国
〔出所〕トルコ中央銀行

業種別では、例年通りサービス部門のシェアが高く、全体の58.7%を占め、前年比14.8%増だった。サービス部門の半数近くを占める卸・小売業が66.6%増と急伸した。また、産業部門(38.7%、7.2%増)の製造業においては、コンピューター、電気・電子製品、光学製品が全体の9. 8%(50.2%増)、化学品・基礎医薬品が8.9 %(98.7%増)を占め、次いで7.2%を占める運輸・倉庫業が倍増した。一方、昨年まで高い伸びを示していた電力・ガス供給は80.3%の大幅減となった。第一次産業の農林水産業は、規模は1億7,800万ドル(2.7%)と限定的ながら、6.4倍と著増した。

2024年のM&A案件についてみると、英国のACGメタルズ(ACG Metals)がポリメタル鉱業(Polimetal Madencilik)を2億9,000万ドルで買収、トルコのゲディクテペ鉱山を取得し、銅・亜鉛を生産予定である。また、デンマーク資本のDFDSがトルコ物流大手のエコル・ロジスティクス(Ekol Logistics)を2億5,510万ドルで、またUAEの政府系投資会社ムバダラ・インベストメント(Mubadala Investment)はトルコ宅配サービスの最大手ゲティル(Getir)を2億5,000万ドルでそれぞれ買収した。ゲティルは2023年にも同ファンドから5億ドルの投資を受けている。アジアからは、台湾セメント(TCC Group Holdings)がオヤク財閥子会社のオヤク・チメント・ファブリカラル(OYAK Cimento Fabrikalari)を傘下に収め、最大株主となった。米国のクエクスコ・インコーポレイテッド(Quexco Incorporated)は、トルコの自動車バッテリー製造会社のムトゥル・アキュ(Mutlu Aku)を1億1,000万ドルで買収した。このほか、フランスの放射線医療関連企業キュリウム(Curium)が欧州・中東・アフリカ(EMEA)地域への市場拡大を目指し、大手医療製薬会社の傘下で癌などの放射線治療企業エジザージュバシュ・モンロル(Eczacıbaşı-Monrol Nukleer Urunler)を買収した。

対外直接投資先はEUが最大も、2024年は北アフリカ向けが著増

トルコの対外直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は、前年比16.2%増の65億8,500万ドルだった。地域別では、全体の42.7%を占めるEU(キプロスを除く)への投資額が5.7%増、北アフリカが2.7倍、アジアが24.2%増だった。

国別の投資額では、米国向けが前年比0.9%増(13億3,300万ドル)で首位、次いで前年首位だったオランダが30.5%減(9億6,900万ドル)、英国が42.9%増(7億3,300万ドル)だった。そのほか、スイスが12.0%減、ロシアが9.7倍、UAEが25.7%増となった。北アフリカではアルジェリアが30.2倍と急伸したほか、アジアではカザフスタンが2.2倍の6,700万ドルで最大、次いで、中国が64.7%増の2,800万ドルだった。一方、日本は、対内投資と同様に減退(75.0%減)し、シンガポールも90.9%減となった。

また、トルコでは資産防衛のため家や車などの実物資産への投資を好む傾向があるが、近年、リラの下落と高インフレの影響によりその傾向が高まっている。国内の物件価格の高騰や収益率の低下、規制変更の懸念から、国内から海外不動産市場に移行する動きや、高い失業率や景気の不安定さなど国内の経済状況への懸念からトルコ市民の間で海外志向が強まる動きがあり、こうした背景のもと、海外不動産を購入してゴールデン・ビザ(一定額の投資で永住権などが得られる制度)を取得し、将来的な移住や在留許可取得をしようとする動きが加速している。例えば、同ビザを取得できるギリシャへは投資額が前年比170.0%増だった一方、これまで投資先として人気があったものの、2023年10月の法改正で不動産投資を対象外としたポルトガルは同89.9%減となっている。 投資額を業種別にみても、サービス部門(構成比73.6%)のうち不動産業が38.2%を占め、前年比20.5%増と前年同様高伸した。なお、その他の部門では、金融・保険業が前年に続き減少(25.3%減)し、産業部門では、鉱業および採石業が15.1%(3.4%増)を占めた。

投資環境・外資誘致政策 
FTA拡大と投資優遇措置の拡充が進む

トルコは最大の貿易相手国であるEUとの間で1996年に関税同盟を、欧州自由貿易連合(EFTA)をはじめ、英国、イスラエル、パレスチナ、韓国など23カ国・地域と自由貿易協定(FTA)を発効している。対EU関税同盟については現在改定に向けた動きもみられる。2024年は、8月1日にマレーシアとのFTAが更新されたほか、同月には2022年2月にキーウで署名されていたウクライナとのFTAをトルコ側が批准した。そのほか、署名済、発効待ちの国としてレバノン、スーダン、カタールがある。2025年1月には、2011年に停止していたシリアとのFTA交渉を再開した(2025年2月4日ビジネス短信参照)。トルコがシリア復興に重要な役割を果たすと予想される中、農産物、工業製品、中継貿易、物流、建設などを対象とした経済・貿易分野での二国間協力にも言及されている。日本との経済連携協定(EPA)は、2012年以降、現在も交渉中である。

トルコ政府の投資優遇措置は、地域間格差是正と国内産業の高付加価値化を目的としており、一般投資、地域別投資、戦略投資、プロジェクトベース投資を4本柱とした投資優遇措置や、技術開発分野での優遇措置などを各種設けている。それぞれの投資区分ごとに設定された条件を充たすことで、付加価値税免除、輸入関税免除、法人税低減、社会保険料補助、被雇用者所得税補助、工業用地無償供与、支払利息補助などの各種インセンティブが与えられる。一方、近年、国内産業保護政策が進んでおり、トルコ政府は2024年7月、年間総収入が7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業に対し15%の法人税最低税率を導入した(2024年8月15日ビジネス短信参照)。こうした中、中国の比亜迪(BYD)による生産工場やモビリティー技術開発センターを設立する約10億ドルの投資案件(2024年7月16日ビジネス短信参照)やSWM〔斯威汽車、鑫源集团(Shineray Group)傘下〕のトルコ法人が自動車生産を開始した案件(2025年5月21日ビジネス短信参照)など、中国企業の進出計画が相次いで発表された。また、米国が2025年4月に発表した相互関税については、トルコは最低税率10%が適用されており、高税率が課せられる他国と比較して優位性があることから、トルコへの投資や第三国との経済連携の進展を期待し、閣僚や経済界からはポジティブな反応が多くみられた(2025年4月9日ビジネス短信参照)。

対日関係 
輸出入、直接投資ともに減少

日本の財務省「貿易統計(通関ベース)」でトルコとの貿易をみると、2024年は日本の輸出が34億6,000万ドル(前年比13.4%減)、輸入が9億9,100万ドル(10.7%減)だった。この結果、日本の貿易黒字は14.4%減の24億6,900万ドルとなった。

日本のトルコ向け輸出は、主要品目である生産財、資本財ともに大きく減少した。建設需要が強く、建設用・鉱山用機械が前年比12.1%増となるなど、一部の品目で増加したが、前年に25.2%増の伸びを見せた鉄鋼は72.5%減、同じく98.9%増だった自動車は2.9%減となった。これは、トルコの国内産業保護政策による日本を含む外国の鉄鋼製品に対するアンチダンピング措置(2024年10月17日ビジネス短信参照)や、最高追加関税率が適用される中国産をはじめとする、輸入自動車への追加関税措置(2024年6月11日ビジネス短信参照)が影響しているとみられる。2025年1月に新たに追加関税の引き上げ対象となった品目もあることから、2025年も引き続き影響が続く可能性がある。(2025年1月14日ビジネス短信参照)。

日本のトルコからの輸入では、トラウトやマグロを主力とする魚介類が前年比14.1%減と2年連続で伸び悩み、最大の構成比(37.2%)を占める食料品は全体で15.8%減だった。また、全体の13.4%を占める衣類・同付属品は同1.1%増と横ばい、前年に最大の輸出押上げ品目となった液化天然ガス(LNG)は実績無しとなり、鉄鋼などの原料品も減少した。他方、乾燥果実を主力とする果実、パスタを主力とする穀物類は前年から増加し、原動機などの一般機械も2桁増となった。

表5-1 日本の対トルコ主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
一般機械 1,032 888 25.7 △ 13.9
階層レベル2の項目建設用・鉱山用機械 290 326 9.4 12.1
階層レベル2の項目金属加工機械 136 130 3.8 △ 4.1
階層レベル2の項目原動機 155 119 3.4 △ 23.0
階層レベル2の項目繊維機械 113 51 1.5 △ 55.4
階層レベル2の項目ポンプ・遠心分離機 60 53 1.5 △ 12.1
輸送用機器 926 859 24.8 △ 7.2
階層レベル2の項目自動車 542 527 15.2 △ 2.9
階層レベル2の項目自動車の部分品 338 284 8.2 △ 16.0
原料別製品 788 338 9.8 △ 57.1
階層レベル2の項目鉄鋼 603 166 4.8 △ 72.5
階層レベル2の項目金属製品 72 70 2.0 △ 2.4
階層レベル2の項目非鉄金属 62 50 1.4 △ 19.0
電気機器 734 766 22.1 4.4
階層レベル2の項目電池 198 263 7.6 32.6
階層レベル2の項目重電機器 212 129 3.7 △ 39.1
階層レベル2の項目電気計測機器 92 124 3.6 34.7
化学製品 208 197 5.7 △ 5.3
階層レベル2の項目プラスチック 82 67 1.9 △ 19.2
合計(その他含む) 3,993 3,460 100 △ 13.4

〔出所〕 財務省「貿易統計(通関ベース)」をドル換算

表5-2 日本の対トルコ主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
食料品 438 369 37.2 △ 15.8
階層レベル2の項目魚介類 154 133 13.4 △ 14.1
階層レベル2の項目果実 80 87 8.8 9.0
階層レベル2の項目穀物類 71 74 7.4 4.3
階層レベル2の項目野菜 39 39 3.9 △ 0.9
その他 180 176 17.8 △ 2.2
階層レベル2の項目衣類・同付属品 131 133 13.4 1.1
階層レベル2の項目バッグ類 18 16 1.6 △ 13.4
原料別製品 112 109 11.0 △ 3.2
階層レベル2の項目鉄鋼 54 40 4.0 △ 26.2
階層レベル2の項目織物用糸・繊維製品 33 31 3.2 △ 3.7
一般機械 102 119 12.1 17.5
階層レベル2の項目原動機 54 61 6.1 13.4
原料品 77 73 7.4 △ 5.9
化学製品 67 68 6.8 1.6
階層レベル2の項目医薬品 32 30 3.0 △ 6.7
輸送用機器 65 47 4.7 △ 27.7
階層レベル2の項目自動車 34 10 1.0 △ 71.5
階層レベル2の項目自動車の部分品 19 22 2.2 14.4
合計(その他含む) 1,110 991 100 △ 10.7

〔出所〕 財務省「貿易統計(通関ベース)」をドル換算

トルコの国際収支統計で日本のトルコ向け直接投資 (株主資本インフロー)をみると、前年比70.5%減の3,300万ドルと大きく減少した。トルコの日本向け直接投資も75.0%減の100万ドルだった。

日本企業の主な動きとしては、2024年9月、トヨタ紡織がTBソーテックトルコと、再生エネルギーによる自社電力確保のための太陽光発電所をメルスィンに建設した。2月には、山善がEMEA(欧州・中東・アフリカ)市場でのネットワーク拡充のためイスタンブール支店を開設、全日本空輸が、羽田空港とイスタンブール間の直行便を週3便開設した。日系航空会社のトルコ直行定期便就航は初となる。当初2020年に就航予定だったが、新型コロナ禍の影響で約5年遅れの路線開設となった。コンテンツ分野では2月にTBSが海外ドラマリメイク作品の実績があるトルコの制作会社と、ドラマ「美しい人」のトルコにおける作品開発契約を締結したと発表した。トルコでは日本テレビ系ドラマ「マザー」や「ウーマン」のリメイク作品がヒットした経緯がある。学研トルコも2月、現地企業と、2027年にトルコ西部のマニサ工業団地で産業人材育成を目的としたトレーニングセンター設立に関する協力覚書を締結した。一方、3月には大王製紙がトルコの連結子会社エリエール・インターナショナル・ターキー(Elleair International Turkey)の株式をトルコの衛生用品製造販売企業へ売却した。5月には三浦工業がトルコに船舶事業のメンテナンス拠点を、アイシンが国内に太陽光発電所をそれぞれ開設した。化学メーカーのアーティエンス(artience)グループのトルコ現地法人がトルコ西部のマニサ工業団地に7,000万ドルを投資し新工場を設立、サカタのタネはアンタルヤに研究拠点を開設した。

なお、2024年は日本とトルコの外交樹立100周年にあたり、様々なイベントが開催された。日本貿易保険とトルコ海外経済関係評議会(DEIK)は5月、「日本・トルコ海外ビジネス連携ワークショップ」をイスタンブールで開催した。10月には、「日本トルコ合同経済委員会」および第1回「日本トルコ・エネルギーフォーラム」が東京で、また、同月には国土交通省とトルコ貿易省による第7回「日本・トルコ建設産業会議」がイスタンブールで開催された。11月にはトルコ大統領府投資局、国連工業開発機関(UNIDO)、ジェトロが「トルコ・日本投資フォーラム」を東京で共催した。一連の経済交流イベントを通じ、今後の二国間ビジネスのさらなる活性化が期待される。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2022年 2023年 2024年
実質GDP成長率 (%) 5.3 5.1 3.2
1人当たりGDP (米ドル) 10,659 13,244 15,463
消費者物価上昇率 (%) 64.3 64.8 44.4
失業率 (%) 10.5 9.4 8.7
貿易収支 (100万米ドル) △ 109,541 △ 106,339 △ 82,213
経常収支 (100万米ドル) △ 46,283 △ 39,877 △ 10,074
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 82,888 92,703 90,859
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 448,739 490,623 515,495
為替レート (1米ドルにつき、トルコリラ、期中平均) 16.55 23.74 32.81


貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率、貿易収支:トルコ統計機構(TUIK)
経常収支、対外債務残高(グロス):トルコ中央銀行
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF