統計で見る内陸各都市(中国)
国家人口減少下・不動産不況下でも消費が盛んに

2025年9月26日

中国政府は3月5日、第14期全国人民代表大会(全人代)で近年の経済状況について発表した。

GDPは、2024年に前年比5%増だったのに対し、2025年上半期は前年同期比5.3%増。2025年の経済成長率の目標(5.0%前後)をやや上回った。しかし、不動産をみると、2025年1~7月の不動産開発投資は前年同期比12.0%減(このうち住宅投資が、同10.9%減)だった。景気を下押しする要因になっている。

そのため政府は景気対策として、消費財の買い替え推進など、消費喚起策を取る。社会消費品小売総額(中国の消費動向を示す指標)は2025年7月、前年同月比3.7%増。1~7月では同4.8増だった。この結果を踏まえ政府は、買い替え推進政策の効果が表れているとしている(ビジネス短信特集「中国の設備更新と消費財買い替え推進政策の最新動向」参照)。

中国全体では2022年以降、人口減少局面を迎えている。それでも、約14億人を有し、引き続き世界最大規模の市場だ。常在人口1,000万人を超える都市が、18ある。上海市、北京市、広東省広州市など沿海部以外にも、内陸部の湖北省武漢市、湖南省長沙市、重慶市、四川省成都市なども同等の規模だ。都市ごとに経済指標をみると、勢いの差なども見えてくる。

本稿では、その中でも内陸部各都市の消費に注目し、概観する。

新一線都市魅力度ランキング、第一線都市では内陸部が上位

新一線都市研究所(中国の経済情報メディア、第一財経傘下)は、2016年から毎年「新一線都市魅力度ランキング」を発表している。約200のブランド、14のIT企業から提供されたビッグデータに基づく「商業施設の充実度」「都市のハブとしての機能性」「市民の活性度」「新経済の競争力」「将来の可能性」の5つの評価指標によって、中国の337都市を評価したものだ(2025年6月6日付ビジネス短信参照)。各都市を一線、新一線、二線、三線、四線、五線都市に分類するとともに、ランク付けしている。2016年から2025年までの上位2カテゴリーのランキングは以下のとおり(表1参照)。

表1:都市の商業的魅力ランキング(2016~2025年)

一線都市
順位 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年
1 北京 北京 上海 北京 北京 上海 上海 上海 上海 上海
2 上海 上海 北京 上海 上海 北京 北京 北京 北京 北京
3 広州 広州 深セン 広州 広州 深セン 広州 広州 深セン 深セン
4 深セン 深セン 広州 深セン 深セン 広州 深セン 深セン 広州 広州
新一線都市
順位 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年
1 成都 成都 成都 成都 成都 成都 成都 成都 成都 成都
2 杭州 杭州 杭州 杭州 重慶 杭州 重慶 重慶 杭州 杭州
3 武漢 武漢 重慶 重慶 杭州 重慶 杭州 杭州 重慶 重慶
4 天津 重慶 武漢 武漢 武漢 西安 西安 武漢 蘇州 武漢
5 南京 南京 蘇州 西安 西安 蘇州 武漢 蘇州 武漢 蘇州
6 重慶 天津 西安 蘇州 天津 武漢 蘇州 西安 西安 西安
7 西安 蘇州 天津 天津 蘇州 南京 鄭州 南京 南京 南京
8 長沙 西安 南京 南京 南京 天津 南京 長沙 長沙 長沙
9 青島 長沙 鄭州 長沙 鄭州 鄭州 天津 天津 天津 鄭州
10 瀋陽 瀋陽 長沙 鄭州 長沙 長沙 長沙 鄭州 鄭州 天津
11 大連 青島 瀋陽 東莞 東莞 東莞 東莞 東莞 東莞 合肥
12 アモイ 鄭州 青島 青島 瀋陽 仏山 寧波 青島 無錫 青島
13 蘇州 大連 寧波 瀋陽 青島 寧波 仏山 昆明 寧波 東莞
14 寧波 東莞 東莞 寧波 合肥 青島 合肥 寧波 青島 寧波
15 無錫 寧波 無錫 昆明 仏山 瀋陽 青島 合肥 合肥 仏山

出所:第一財経と新一線都市研究所の発表を基にジェトロ作成

上海市、北京市、深セン市、広州市は、一線都市として商業的魅力の高さを維持している。新一線都市には、毎年15都市を選出。2018年以降は、成都市、浙江省杭州市、重慶市がトップ3を維持してきた。武漢市、江蘇省蘇州市、陝西省西安市、江蘇省南京市、長沙市などがそれに次ぐ順位層で、10年間にわたってランクキング入りを維持している。

10位以下では、比較的頻繁にランキングへの入れ替わりがある。過去にランキングに入りながら2025年は圏外になった都市として、遼寧省瀋陽市、大連市、江蘇省無錫市、雲南省昆明市、福建省アモイ市などがある。

一方で、最近ランキング入りした都市として、安徽省合肥市、広東省仏山市などがある。新一線都市の地理的分布をみると、2016年は沿海部(海に面する省に属する市、直轄市)が10都市、内陸部5都市だった。それが、2017年に沿海9・内陸6、2025年沿海8・内陸7になった。内陸都市のランキング入りが増えたことがわかる。

内陸都市の人口・消費が増加傾向に

ここで、2025年の「新一線都市魅力度ランキング」から、新一線15都市のうち内陸部に所在する7市について見る。常在人口、社会消費品小売総額、都市住民の可処分所得について、2010年、2015年、2020年それぞれに対する2024年の増加率は、次のようになる(表2参照)。

表2:各都市の常在人口、社会商品小売総額、都市住民可処分所得

全国
項目 2010年 2015年 2020年 2024年 2024年/
2010年
2024年/
2015年
2024年/
2020年
常在人口
(万人)
134,091 138,826 141,212 140,828 1.05 1.01 1.00
社会消費品小売総額(億元) 152,083 286,588 390,514 483,345 3.18 1.69 1.24
都市住民可処分所得(元) 18,779 31,195 43,834 54,188 2.89 1.74 1.24
新一線都市
順位
(2025年)
都市名 項目 2010年 2015年 2020年 2024年 2024年/2010年 2024年/2015年 2024年/2020年
1 成都 常在人口 1,406 1,685 2,095 2,147 1.53 1.27 1.03
社会消費品小売総額 2,700 5,508 8,119 10,835 4.01 1.97 1.33
都市住民可処分所得 20,835 33,476 48,593 57,023 2.74 1.70 1.17
3 重慶 常在人口 2,885 3,070 3,209 3,190 1.11 1.04 0.99
社会消費品小売総額 3,515 7,668 11,787 15,677 4.46 2.04 1.33
都市住民可処分所得 16,032 27,239 40,006 49,778 3.10 1.83 1.24
4 武漢 常在人口 979 1,061 1,245 1,381 1.41 1.30 1.11
社会消費品小売総額 2,724 5,302 6,150 7,932 2.91 1.50 1.29
都市住民可処分所得 20,806 36,436 50,362 64,346 3.09 1.77 1.28
6 西安 常在人口 847 988 1,296 1,317 1.55 1.33 1.02
社会消費品小売総額 1,765 3,621 4,989 5,436 3.08 1.50 1.09
都市住民可処分所得 22,244 33,188 43,713 53,678 2.41 1.62 1.23
8 長沙 常在人口 704 828 1,006 1,062 1.51 1.28 1.06
社会消費品小売総額 1,622 3,150 4,470 5,525 3.41 1.75 1.24
都市住民可処分所得 23,347 33,961 57,971 69,658 2.98 2.05 1.20
9 鄭州 常在人口 866 1,069 1,262 1,309 1.51 1.22 1.04
社会消費品小売総額 1,678 3,295 5,076 5,885 3.51 1.79 1.16
都市住民可処分所得 18,897 31,099 42,887 50,494 2.67 1.62 1.18
11 合肥 常在人口 746 831 937 1,000 1.34 1.20 1.07
社会消費品小売総額 1,239 2,862 4,514 5,494 4.43 1.92 1.22
都市住民可処分所得 19,051 31,989 48,283 62,685 3.29 1.96 1.30

注1:右3欄は、2024年に対する2010年、2015年、2020年比の伸び率(倍率)。
注2:2024年に対する2010年、2015年、2020年比の伸びの欄の太字は、中国全体の増加率以上の増加率を示す。
出所:グローバル市場経済統計データベースのCEICのデータを基にジェトロ作成

人口について、重慶市(直轄市)は2020年比で、全国の減少率を上回って減少した。しかし、それ以外の都市では、2010年比、2015年比、2020年比のいずれも全国平均を上回った。中でも2020年比で5%以上増加した都市は、武漢市(11%増)、合肥市(7%増)、長沙市(6%増)だった。合肥市は2024年、常在人口が1,000万人を超えた。

社会消費品小売総額については、西安市が2015年比、2020年比で、鄭州市と合肥市が2020年比で中国全体の増加率を下回った。一方で、成都市、重慶市、長沙市は2010年比、2015年比、2020年比のいずれも中国全体の増加率を上回った。武漢市は、2010年比、2015年比で中国全体の増加率には及ばなかった。しかし、2020年比では29%増になり、都市封鎖など新型コロナウイルス禍の影響による消費落ち込みから力強い回復を見せている。

都市住民の可処分所得については、成都市、西安市、鄭州市が2010年比、2015年比、2020年比のいずれも、中国全体の増加率を下回った。長沙市は2020年比で中国全体の増加率を下回った。一方で、重慶市、武漢市、合肥市は2010年比、2015年比、2020年比のいずれも、中国全体の増加率以上に増加した。

日系企業の進出も

中国政府は、都市化を進めている。第14次5カ年(2021~2025年)規画期間中の経済社会発展目標として、常在人口の都市化率を2025年に65.0%にするとの目標を掲げる。そうした中、一線都市の人口増加は近年、勢いがみられない。しかし、内陸部新一線都市のうち武漢市、合肥市、長沙市では、最近も人口が増加している。

都市住民の可処分所得についても、内陸部の重慶市、武漢市、合肥市では、全国の増加率を上回って増加。常在人口増と相まって、社会消費品小売総額を押し上げているものとみられる。

消費については、重慶市や湖北省などで、消費財の買い替え推進政策として割り当てられた補助金を使い切るなど、消費財買い替え政策への高い参加意欲が見られる。これに対して地方政府は買い替え補助金のチケットを先着制にするなどの対応を行った(2025年6月26日付ビジネス短信参照)。

中国の中部地域には、このような消費の拡大に着目して店舗展開を進める日系企業もある。イオンモールは2025年8月までに武漢市に4店舗、長沙市に1店舗を展開している。さらに2025年末には、長沙市に2店舗目、2027年には武漢市に5店舗目の出店を予定。今後も店舗数を増やす方針を打ち出している(2025年5月8日付ビジネス短信参照)。飲食店関係では、2023年の開店以来、スシローが市内に3店舗を展開。夕食時には1時間以上の順番待ちが発生している(ジェトロ武漢事務所確認)。また、サイゼリヤも2025年7月に武漢市に100%子会社を設立し、武漢市内で店舗展開を進めていくとしている。

ただし、湖北省(武漢市を含む)の日系製造業は、厳しい環境にある。当地には、東風日産や東風ホンダ向けのサプライヤーが集積。こうした企業が、両社の自動車販売台数低迷などの影響を受けている。苦境は、2025年7月に実施した武漢日本商工会の景況感アンケートからも読み取れる。このアンケートには2025年上半期の景況感について、2024年下半期と比較した(1)売り上げと(2)営業利益の増減に関する設問がある。(1)については「低下(対前期比5%以上)」「やや低下(同5%以下)」合計の回答が61%、(2)が55%だった。いずれも、過半数に達したかたちだ。

中国は、日本の約26倍という広大な面積と、約11倍の多くの人口を有しており、省、直轄市、自治区の単位でも、中国以外の国レベルの面積と人口を有している。一線都市として、上海市、北京市、深セン市、広州市など沿海部の都市が注目されるが、内陸部にも1,000万人を超える大都市が複数ある。こうした内陸部の大都市では、人口の増加が続き、都市住民の可処分所得も上昇傾向にあり、消費の規模も大きいものがある。日系企業はこのような消費動向に着目しており、特にBtoC方面での進出が相次いでいる。今後中国経済をみる際には、沿岸部のみではなく、内陸部の都市についても、その動向に着目する必要がある。

執筆者紹介
ジェトロ・武漢事務所長
高橋 大輔(たかはし だいすけ)
1997年経済産業省入省、国際関係、エネルギー・環境関係部署、製造産業局自動車課(2016~2018年)を経て、2018年6月から2022年8月までジェトロ・上海事務所、2024年7月から武漢事務所に出向し現職。