第2次トランプ政権下の新潮流を読み解く公約果たしたトランプ政権1年目、日本企業はニューノーマルに適応
2026年1月19日
2025年1月20日のドナルド・トランプ大統領の就任直後から矢継ぎ早に繰り出された関税措置を受け、2025年前半は米国発の「不確実性」の霧が世界中を覆い、米国のみならず世界の経済、通商、政治に著しい停滞をもたらすことが懸念された。しかし、振り返ってみれば、表面的には日米、また世界的にも景気の落ち込みは限定的で、米国に進出した日系企業の業績も過半が黒字を見込む1年となった。米国での事業拡大意欲を示す企業も引き続き多い。他方で、政策の揺り戻しに起因する不確実性、米国において適切な人材の確保が難しいといった課題は根強く残る。第2次トランプ政権下のビジネス環境を見極める慎重さは引き続き重要だ。
公約を守る大統領、再び
トランプ大統領は1月の政権発足から2025年12月末までに225本の大統領令、56本の覚書、116本の布告に署名した。大統領令だけ見ても、第1次政権(2017年1月~2021年1月)の4年間に署名した220本を既に上回る。うち半数以上が就任100日以内に発令されており、トランプ政権が「情報の洪水(flood the zone)」戦略(注1)で周囲を圧倒し、議論や検証を行う隙を与えずに政権運営にまい進した様子がうかがえる。
追加関税の発動や不法移民の国外退去処分など派手な政策に目を奪われがちだが、トランプ大統領は選挙期間中に掲げた公約を、政権1年目にして数多く実現にこぎつけている(表)。自動車の温室効果ガス(GHG)排出基準の緩和などにみられるバイデン前政権で強化された厳格な環境・エネルギー関連政策の巻き戻しや、自身の1期目の1年目に成立させたトランプ税制改革法(TCJA)に基づく法人税率の恒久化などの措置は、企業にとっては米国でのビジネス環境改善につながるものだ。
| 項目 | 大統領選期間中の共和党綱領、トランプ大統領発言 | 第2次トランプ政権1年目の実績 |
|---|---|---|
| 経済 | トランプ減税延長(法人税、富裕層所得税の引き下げ)、関税引き上げや社会保障見直しによる財政再建。貿易赤字解消の観点から、ドル安を志向。 | 2026会計年度予算「大きく美しい1つの法案(OBBBA)」を7月4日に署名し、2017年トランプ税制改革法(TCJA)を恒久化・拡大(個人所得税控除の拡大、法人税率引き下げの恒久化、設備投資額の即時償却など)。低所得層向けの公的医療保険(オバマケア)の要件厳格化で歳出削減。 |
| 通商 | 全世界からの輸入に一律10~20%の関税。トランプ互恵通商法の成立。失敗した協定の再交渉。中国とのPNTR〔最恵国待遇(MFN)〕の撤回。必要不可欠な中国製品の輸入を段階的に停止。対中追加関税を60%に引き上げ。中国による米国の不動産や企業の買収阻止。 | 1月20日に「米国第一の通商政策」大統領覚書を発表、対中PNTR見直しを指示。4月5日から、実質的に全ての国・地域から輸入されるほぼ全ての品目に一律10%のベースライン関税を適用。国・地域別の相互関税も交渉などを通じ確定。中国に対して一時145%の関税賦課。 |
|
エネルギー 気候変動 |
エネルギー生産に対する規制撤廃。グリーン・ニューディールの廃止。石油、天然ガス、石炭、原子力などあらゆるエネルギー源から生産し、エネルギー価格を引き下げ。 | 1月20日に「米国のエネルギーを解き放つ」大統領令に署名し、バイデン前政権時代のエネルギー関連政策の巻き戻しを指示。OBBBAで、インフレ削減法(IRA)に基づくクリーンエネルギー関連の税額控除の削減や前倒し終了を盛り込んだ。 |
| 自動車 | 自動車産業に対する有害な規制の撤回。EV購入義務などの取り消し。中国車の輸入阻止。 | 1月20日署名の大統領令で「EV購入の義務化」撤回を指示、6月に法制化。温室効果ガス(GHG)などの排出基準の緩和、大気浄化基準の順守延長を決定。 |
| 輸出管理/対内投資審査 | 米国の労働者、農民、産業を不公正な外国との競争から守る目的で、輸出管理規則を経済安保のツールとして厳格運用。日本製鉄のUSスチール買収には反対を表明。 | 「米国第一の通商政策」の指示に基づく調査結果概要を4月に発表。輸出管理はエンティティー・リスト(EL)追加やライセンス取得といった厳格化と、AI拡散規則の撤回計画などディールの交渉材料として既存規則の緩和を併用。日本製鉄のUSスチール買収について米国政府による黄金株取得などと引き換えに承認。 |
| 移民 | 国境封鎖、移民の侵入を阻止(国境の壁完成、移民法執行機関の拡大、国境監視強化、軍による南部国境警備など)。米国史上最大の強制送還作戦を実行。不法入国とビザ期限切れの不法滞在に対する罰則強化、入国審査強化、聖域都市への連邦資金の拠出停止。 | 1月20日に移民政策関連の6本の大統領令に署名し、国境の壁の建設、不法移民の強制送還、南部国境への軍派遣、移民法の執行強化などを指示。9月にはH-1Bビザ申請費用を10万ドルに引き上げる大統領令に署名。聖域都市への連邦資金拠出停止についても、4月に大統領令に署名。米国移民税関捜査局(ICE)の移民摘発捜査も実施。 |
出所:米国政府公開資料などを基にジェトロ作成
不確実性を超え、米国市場で稼ぐ日本企業
日本企業にとっては特に、相互関税が発動された4月、自動車・同部品に対する追加関税25%が発動された5月、そして鉄鋼・アルミに対する追加関税が段階的に引き上げられ50%になった9月と、波状攻撃のように繰り出される関税措置に都度不安は高まり、何度も事業計画の見直しを迫られた1年だった(注2)。7月末に日米関税協議が妥結し、対日相互関税率が15%に設定され、9月に合意文書が公開されたことで、ビジネス上の不確実性が一定程度払拭され、事業判断がしやすくなったとの声が多い。
ジェトロでは2025年に複数回、米国関税措置に関するアンケート調査を実施し、日本企業の対応や課題の把握に努めた。政権発足直前の1月に実施した調査(2025年1月17日付ビジネス短信参照)では、新政権の政策の影響について約半数が「現時点ではわからない」と回答し、先行きの不透明感から様子見の姿勢を取る傾向が色濃く現れた。「米国トランプ政権の追加関税に関するクイック・アンケート調査結果(4月調査)
(1.06MB)」の調査では、対応策として4割近くが価格転嫁を実施・検討すると回答したものの、「米国トランプ政権の追加関税に関するクイック・アンケート調査結果 第2弾(8月調査)
(1.08MB)」では半数が現状維持を選択した。日米関税合意が判断材料として大きく寄与したが、足下で続く円安局面を踏まえ、価格転嫁やサプライチェーンの組み替えといった変更をせずに追加関税分を自社で吸収し現状を維持する判断を下す企業が多かった実態を垣間見せた。
9月に実施した「海外進出日系企業実態調査(北米編)
(2.1MB)」では、2025年に「黒字」を見込む企業は6割台半ばと前年と同水準となり、政権交代によって危惧されたビジネスへの影響を跳ね除ける結果となった。旺盛な米国内需要、特に人工知能(AI)データセンターや半導体関連分野での需要の盛り上がりが、関税による市場の冷え込みを上回った。致命的な打撃を受けることが危惧された自動車等部品分野でも6割超の黒字見込みとなり、これは2024年時点より10ポイント多く、予想が外れる傾向が出た。
特筆すべき結果は、調達先を米国内に変更する予定があると回答した企業が2024年から倍増し、現地調達への関心の高まりが強く現れた点だ(図)。変更前の調達先は日本や中国が多い。4月の調査で、回答者の属性が異なるものの、米国国内での現地調達を増やすことを検討する割合が12%ほどだった傾向からの変化が目覚ましい。元々近年のアンケート調査で、半数近い企業が米国市場での事業拡大意欲を示す傾向が続いていた。トランプ政権による関税措置を回避する方策として現地調達が有力な選択肢となり、「地産地消」を一層後押しする環境となったといえる。
注:複数回答。
出所:2025年度 海外進出日系企業実態調査(北米編)
潮目の変化を見極め、慎重に対応
一連のアンケート調査を経て、極めて不確実性の高い状況下でも変化に応じて冷静に対処を続ける日本企業の姿が浮かび上がった。一方で、多くの企業が、バイデン前政権から大きく揺り戻しの方向に向かっている環境・エネルギー、自動車などの政策について、ビジネスに及ぼす影響を見極めようとする様子も伝わる。前政権の脱炭素化への取り組みを巻き戻す象徴的な動きとして、インフレ削減法(IRA)に基づく電気自動車(EV)購入に対する税額控除や、優遇措置の撤廃が挙げられる。政策変更の影響はEV販売台数の減少という目に見えるかたちで即時に現れ、EV市場の鈍化が確実視されている。ただ、底流に目を凝らせば、逆風の産業分野においては企業が一定の損失を飲み込みつつ、米国市場のシェアを維持しようという戦略が見える。短期的には、現政権の方針、目前の競争環境など、不利な条件で戦う必要があっても、中長期的にみて対米ビジネスで重要な「市場シェアの維持」を基準に経営判断がされているといえるだろう。
米国内で適切な人材確保が難しいことへの懸念は、いずれの政権を問わず、日本企業の間で根強く残る経営課題だ。ただ、この課題を供給側で同程度に深刻に捉える声は小さい。州政府の多くは、各州が提供する充実した労働力開発プログラムや、地元大学の工学部在学生、卒業生のエンジニア予備軍の多さを根拠として、十分な人材供給が可能であるという反応を示す。サウスカロライナ州のように長年、工場労働者を養成するプログラムを企業に提供し、製造業の集積・発展に成功している州もある。労働力開発は超党派で合意を得やすく、投資誘致のインセンティブとして州ごとに力を入れていることから、必要な人材がどこで育成・供給されるか見極めることが、企業の適切な人材獲得に必要となるだろう。
揺れ動く通商環境下でも米国の市場としての、また、ビジネス相手としての重要性は揺らがない。関税措置や急な政策変更といった不確実性が常在するビジネス環境をニューノーマルと捉え、対米ビジネスは腰を据えた中長期的な戦略で取り組むことが肝要だ。
- 注1:
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第1次トランプ政権で首席戦略官を務めたスティーブン・バノン氏が採用した戦略で、正誤入り混じった大量の情報や方針を発出して民主党やメディアを混乱させ、処理能力が追い付かず反撃する暇を与えないやり方。
- 注2:
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トランプ政権の関税措置詳細はジェトロ特集ページ「米国関税措置への対応」参照。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部米州課長
伊藤 実佐子(いとう みさこ) - 1999年、ジェトロ入構。海外調査部米州課、対日投資部(北米・大洋州担当)、サンフランシスコ事務所を経て2023年8月より現職。2010年5月、米国ペンシルベニア大学大学院修了、公共政策修士。共訳書に『米国通商関連法概説』(ジェトロ、2005年)。




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