特集:エネルギー安全保障の強化に挑む欧州ロシア産エネルギーからの独立と脱炭素化に取り組む(ポーランド)

2022年9月6日

ポーランドでは、石炭が豊富に採れることから、欧州の中でも石炭へのエネルギー依存度が高い。ロシアによるウクライナ侵攻(2022年2月)の開始後、欧州の中でもいち早くウクライナへの全面的な支援を表明してきた。同時に、早ければ2022年中にロシア産エネルギー依存から脱却することも表明している。本レポートでは、ロシア産エネルギーからの独立や欧州グリーン・ディールで掲げられた脱炭素化の目標達成といった課題の解決を模索し、大きなエネルギー転換期を迎えている、ポーランドの現状を紹介する。なお、本レポートの内容は、2022年8月17日時点の情報に基づく。

発電量の約8割を石炭に依存、脱炭素化への政策を策定

ポーランドでは、石炭が豊富に採れることから石炭へのエネルギー依存度が高い。2021年では、電源構成の約8割が石炭(注1)であり(表1参照)、石炭・褐炭火力発電所の数も多い(図参照)。

表1:ポーランドにおける電源別の発電量(輸入を含まない)(単位:GWh、%)
電源 発電量 構成比
2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2021年
化石エネルギー 天然ガス 7,172 9,590 12,099 13,924 13,366 7.7
石炭・褐炭 131,851 131,447 119,692 109,515 138,403 79.7
水力 2,767 2,197 2,454 2,698 2,830 1.6
再生可能エネルギー 太陽光 14,005 11,958 14,344 16,372 18,984 10.9
風力
その他
その他(注) 10,057 10,022 10,178 9,799 N/A
合計 165,852 165,214 158,767 152,308 173,583 100.0

注:産業用の自家発電など。
出所:ポーランド送電会社PSEの「2021年 年間報告書」、「2019年 年間報告書」を基にジェトロ作成

図:ポーランドの主な発電所
瀝青炭火力発電所は、ドルナ・オドラ、カロリン、オストロウェンカ、コジェニツェ、オポーレ、ワギシャ、リブニク、ワジスカ、ヤボジノ、シエルシャ、ポワニエッツの11カ所です。褐炭火力発電所は、バウォツワベック、ポントノフ、ベウハトゥフ、トゥルフの4カ所です。天然ガス火力発電所は、プウォツク、ジェラン、スタロバ・ボラの3カ所です。水力発電所は、ジャルノビェッツ、ジドボ、ディホゥフ、ポンロブカ・ジャル、ソリナの5か所です。

出所:The Exchange Information Platform (GPI)からジェトロ作成

ポーランド政府は2021年2月、「2040年までのエネルギー政策(PEP2040)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(859KB)」を策定した(2021年2月16日付ビジネス短信参照)。PEP2040は、自国のエネルギー資源の最適化を図りながら、エネルギーの安定供給、経済競争力の確保とエネルギー消費効率の改善、環境保全を同時に達成するために、2040年までにエネルギー転換をどのように行っていくべきかの枠組みを示したもの。エネルギー転換は、(1)公正な移行の実現、(2)ゼロ・エミッションエネルギーへの移行、(3)大気汚染の改善、の3本の柱に基づいて進めるとされた。具体的には、石炭が発電量に占める割合を2030年に56%まで削減し、最終エネルギー消費全体に占める再生可能エネルギーの割合を少なくとも23%まで引き上げることなどが掲げられている。また、石炭利用の削減に関連して、政府は2021年5月、炭鉱労働組合と2049年までに石炭生産を段階的に廃止することで合意している。

ウクライナ侵攻以前からロシアへのエネルギー依存度低下に取り組む

ポーランドのエネルギー自給率は、EU統計局(ユーロスタット)によると、2020年は57.2%(EU27カ国平均は42.5%)であった。一方、国内の豊富な石炭資源により、1995年には自給率が100%を超えていた。2004年のEU加盟を契機に、エネルギーの多様化を進め、石炭生産量を段階的に減らしてきたことから、エネルギー輸入依存度が徐々に高まった。2020年の燃料別の輸入依存度は、原油が97%、天然ガスが87%、石炭が21%。輸入先としては、いずれもロシアが多くを占めているが、ロシアに対する依存度は、調達先を多様化させることによって年々低下している。天然ガスは、2010年には輸入量全体の89.6%がロシアからであったのに対し、2020年には54.8%になった。原油および石油製品については、2010年には輸入量全体の78.6%がロシアからであったのに対し、2020年には67.5%と、やはりロシアからの輸入が占める割合は低下している(表2参照)。

表2:燃料別の主な輸入先割合(2020年)
種類 主な輸入先(カッコ内は構成比)
原油および石油製品 ロシア(67.5%)、サウジアラビア(12.7%)、ナイジェリア(4.3%)、ドイツ(4.1%)、カザフスタン(2.1%)
天然ガス ロシア(54.8%)、ドイツ(20.6%)、カタール(13.4%)、米国(5.8%)、ノルウェー(2.0%)
石炭(注) ロシア(73.6%)、オーストラリア(8.3%)、コロンビア(7.1%)、カザフスタン(6.6%)、米国(2.1%)

注:褐炭は含まない。
出所:EU統計局のデータを基にジェトロ作成

2022年末までにロシアのエネルギー資源から完全に独立へ、政策を更新

ポーランド政府は、ロシアのウクライナ侵攻を受け、2022年4月、先に述べたPEP2040を更新し、第4の柱として「エネルギーの主権」を追加したことを発表した(2022年4月12日付ビジネス短信参照)。特にロシア産化石燃料からの独立が強調され、具体的には、再生可能エネルギーのさらなる開発、原子力の導入、エネルギー効率の改善など、国内資源をベースにした技術の多様化と発電設備容量の拡大を図るとしている。また、エネルギー供給元のさらなる多様化と、石油・ガスに代わるエネルギー源の確保、および、電力網とエネルギー貯蔵の強化が掲げられている。

PEP2040の更新を発表した際に、ポーランド政府は、早ければ2022年末までに、ロシアのエネルギー資源から完全に独立するとした。同時に、ドイツと国境を接するポーランド西部シフィノウイシチェ港の液化天然ガス(LNG)ターミナルや、「バルティック・パイプ・プロジェクト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(北海ガス資源をデンマーク経由で輸送)など、ガスインフラへの投資も強化し、2023年からはロシアからのガス輸入は行わない方針も表明した。実際に、政府は2022年5月、国営ガス・石油大手のPGNiGが4月にルーブル建てでの支払いに応じなかったため、ガスの供給を停止されていたことを受け、ロシア政府とのヤマルパイプライン経由のガスの供給協定を終了すると発表した。

エネルギー供給のさらなる多様化に向けては、PGNiGは2022年5月、米国エネルギー企業センプラの子会社センプラ・インフラストラクチャーとLNGの長期供給を受けることで合意したと発表。供給は2027年に開始される予定で、毎年300万トンのLNGが20年間供給される。LNGは、ポーランド北部グダンスク沖に建設予定の浮体式液化天然ガス貯蔵再ガス化設備(FSRU)や、リトアニアのクライペダ港に運ばれる。クライペダ港からは、2022年5月に稼働の、ポーランドとリトアニアを結ぶ新ガスパイプライン「ガス・インターコネクション・ポーランド・リトアニア(GIPL)」を経由して、ポーランド国内に供給される予定だ。なお、ガスパイプライン事業者で、先に述べたグダンスクのFSRUを建設しているガス・システムは、当初2027年までに建設完了予定だった同FSRUの建設速度を早め、2025年までに完了させることを、ポーランド政府に提案した、と報じられている。

国内資源の開発についても、PGNiGは2022年6月、北西部ルビャトゥフとデンブノにある油田とガス田の拡張に、今後4年間で7億ズロチ(約205億8,000万円、1ズロチ=約29.4円)を投資すると発表した。生産能力の増強により、ルビャトゥフでのガス生産量は年間1億立方メートルとなり、現在から2倍に拡大する見通し。一方、デンブノでは、採掘場3カ所で年間約8,000立方メートルのガス生産が可能となり、隣接する鉱床で44万トンの原油の追加生産も見込めるとしている。

原子力発電所の建設も推進

ほかにもポーランド政府は、2043年までに2サイトで3基ずつ原子炉を建設する予定だ。2021年12月には、ポーランド初の原子力発電所の建設地として、バルト海に面した北部ポモージェ県内のルビアトボ-コパリノ地区を選定したと発表した。小型モジュール炉(SMR)の導入についても、積極的な動きがある。ポーランド鉱業大手のKGHMポルスカ・ミエッジは2022年2月、米国のニュースケール・パワーとSMRの契約を締結したと発表した(2022年2月22日付ビジネス短信参照)。最大12基のSMR(設置容量約1ギガワット)の開発と建設が可能になる。最初の発電所は、2029年までに稼働する計画だ。KGHMは、SMRによって生産したクリーンエネルギーを、同社の生産部門に電力として供給する予定だ。2022年3月には、ポーランドエネルギー大手のPKNオルレンも、シントス・グリーン・エナジーと合弁会社を設立し、マイクロモジュール原子炉(MMR)とSMRに投資することを発表している。

エネルギー価格高騰にはインフレ防止策、今冬に向け家計補助も

ポーランドでは、新型コロナウイルス感染拡大の影響などによるロジスティックスの混乱、世界的な食料・エネルギーの高騰により、インフレが加速している。2021年12月からインフレの影響を緩和するための施策「インフレ防止シールド」を導入した(2021年12月6日付ビジネス短信参照)。2022年2月には、ロシアによるウクライナ侵攻によってエネルギー価格がさらに高騰するとして、追加のインフレ緩和策を施行した(2022年2月3日付ビジネス短信参照)。同年6月には一部の施策の延長を決定している(2022年6月7日付ビジネス短信参照)。

エネルギーに関連する主なインフレ防止策は以下のとおり。

  • 燃料の付加価値税(VAT)の税率を23%から8%に引き下げ
  • 電気に対する物品税の撤廃とVATの税率を23%から5%に引き下げ
  • 地域熱供給(注2)にかかる費用のVATの税率を23%から5%に引き下げることによる家賃の軽減
  • ガスのVATの税率を8%から0%に引き下げ
  • 電力と特定のエンジン燃料[ディーゼル、バイオ燃料成分、エンジン用ガソリン、LPG(液化石油ガス)]に対する物品税率の引き下げ
  • 家庭で使用される電力に対する物品税の免除
  • 前述の特定のエンジン燃料を販売する際の小売消費税の免除

このほかにも、ポーランド政府は2022年6月、冬の暖房需要などに対応するため、個人消費用の石炭の保証価格を導入する法律を成立させた。8月には、石炭を燃料とする暖房用ボイラーや台所のレンジ・オーブンなどの熱源がある家庭に、一度限りで3,000ズロチを補助する法律を成立させた。気候・環境省は、バイオマスや石油、LPGなどを熱源とする家庭にも補助金を支給する法案を準備中だ。

気候変動対策にEU基金を活用、脱炭素化を促進

EUからの補助金については、2022年6月に、欧州委員会がポーランドの復興レジリエンス計画の審査を完了した(2022年6月10日付ビジネス短信参照)。同国の復興計画は239億ユーロの補助金と115億ユーロの融資からなり、EUの復興基金の中核予算「復興レジリエンス・ファシリティー(RRF)」から拠出される。補助金総額の42.7%が気候変動対策を支援するための施策に使用される。ポーランドのエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を高めること、経済におけるエネルギー効率向上、エネルギー供給の自立性を高めることにより、ポーランド経済の脱炭素化に大きく貢献することが期待されている。


注1:
歴青炭・褐炭を含む。
注2:
地域ごとに熱供給のパイプランがあり、それに接続することで住宅に暖気が送られる。家賃に暖房費が含まれる場合には、地域熱供給にかかる費用のVATの税率を引き下げると、家賃も下がることになる。
執筆者紹介
ジェトロ金沢
今西 遼香(いまにし はるか)
2018年、ジェトロ入構。イノベーション・知的財産部知的財産課、ジェトロ・ワルシャワ事務所を経て、2022年9月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ワルシャワ事務所
マルタ・ゴロンカ
2022年からジェトロ・ワルシャワ事務所で勤務。ウクライナ経済やポーランドのエネルギー分野に関する調査などを担当。

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