特集:エネルギー安全保障の強化に挑む欧州再エネ活用で気候中立を目指す、アントワープ・ブリュージュ港を水素拠点へ(ベルギー)

2022年9月2日

ベルギーの2021年の電力源別発電量では、原子力が全体の50.3%を占め、再生可能エネルギー(水力を含む)が25.3%、化石エネルギーが24.4%と続いている(表1参照)。2017年から2021年にかけて発電電力全体に占める再生可能エネルギーの割合は21.7%から25.3%まで拡大しており、中でも風力による発電量は同期間で約2倍に増え、発電電力全体でも11.9%を占めて、原子力、天然ガスに次ぐ主要な電源の1つとしてその重要性を近年増している。特に洋上風力発電の進展が顕著で、2021年にはベルギーの洋上風力発電容量は世界第6位となった。化石エネルギー由来の電源では、天然ガスが発電電力全体の22.5%を占め、石炭は0.1%となっている。

表1:ベルギーにおける電源別の発電量(輸入を含まない) (単位:GWh、%)
電源 発電量 構成比
2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2021年
化石エネルギー 天然ガス 23,014.1 23,980.7 25,529.0 26,772.6 22,576.6 22.5
石炭 90.9 91.3 93.9 81.5 57.8 0.1
石油 176.0 160.8 70.9 119.9 110.5 0.1
その他 *1 2,334.1 2,253.5 2,421.7 1,795.6 1,704.8 1.7
原子力 42,226.8 28,597.0 43,523.6 34,434.7 50,326.2 50.3
水力 *2 1,397.4 1,307.6 1,181.2 1,314.6 1,325.0 1.3
再生可能エネルギー 太陽光 3,307.8 3,903.2 4,251.6 5,105.4 5,608.2 5.6
風力 6,518.3 7,571.4 9,750.2 12,763.6 11,942.3 11.9
その他 *3 7,540.1 7,161.9 6,806.8 6,990.3 6,479.9 6.5
合計 86,616.3 75,036.8 93,639.8 89,389.0 100,142.3 100.0

注:微量な発電量があるため各項目と合計は一致しない。*1高炉ガス(BFG)、コークス炉ガス(COG)、その他の回収ガス、*2揚水発電を含む、*3バイオ燃料、バイオガス、廃棄物、回収熱など。
出所:ベルギー統計局のデータを基にジェトロ作成(6月16日時点)

2020年時点でベルギーは年間で231.3テラワット時(TWh)の天然ガスを輸入しており、輸入元はノルウェーからが最も多く、全体の41.0%を占める(図1参照)。次いで、オランダが34.4%、カタールが11.8%、ロシアの6.7%と続く。輸入天然ガスの53.5%が主に家庭用として供給され、24.5%が産業用、22.0%が発電用に使用されている。ベルギーは1960年代から、主に家庭向けとして、オランダ北部のフローニンゲンから天然ガス(低カロリーガス)を輸入しており、長らく同国が最大の輸入元国だった。しかし、採掘の際に地震がたびたび発生、オランダ政府が段階的な採掘停止を発表したことを受け、ベルギーは国内のパイプラインネットワークを高カロリーガス用に切り替えるなどの対応を進めている。こうした背景から、オランダからの輸入は2017年以降減少に転じており、2020年にはノルウェーが最大の天然ガス供給国となった。

図1:天然ガスの輸入元別シェア(2020年)
ノルウェー41.0%、オランダ34.4%、カタール11.8%、ロシア6.7%、米国2.8%、英国2.0%、その他1.4%

出所:ベルギー電気・ガス事業者連盟(FEBEG)資料を基にジェトロ作成 

図2:原油の輸入元別シェア(2021年、暫定値)
ロシア29.2%、ノルウェー17.5%、英国10.0%、サウジアラビア8.1%、イラク4.0%、ナイジェリア3.0%、その他28.2%

出所:ベルギー連邦政府経済省資料を基にジェトロ作成 

原油については、2021年の年間輸入量(暫定値)は約2,868万トンで、国別でみると、ロシアが最も大きく、29.2%を占める。次いで、ノルウェーが17.5%、英国10.0%と続く(図2参照)。ロシア産原油の輸入禁止措置を受けて、輸入元の切り替えが急がれる。一方で、北部アントワープの製油施設では重質油から軽質油まであらゆる種類の原油に対応できることから、価格への影響は潜在的に排除できないものの、供給不安に陥る可能性は少ないとみられている。

2019年策定の「国家エネルギー・気候計画2021-2030」(PNEC、フランス語)にもあるように、国内のエネルギー需要を満たすため、ベルギーはエネルギー資源の大部分を輸入に頼っている。国際エネルギー機関(IEA)の統計によると、2020年のベルギーのエネルギー自給率は27.0%だ。このため、政府としては、エネルギー資源とその供給国・ルートの多角化を図り、安定的な供給を実現することがエネルギー政策上の重要事項と、PNECの中で言及している。政府は一次エネルギーについて、特定の国・地域からの輸入に偏重しないよう継続的にモニタリングしており、状況によっては政府の介入の可能性が選択肢として検討し得ることを示唆している。

このように、エネルギー資源の大部分を輸入に依存している状況下、ベルギーも世界的なエネルギー価格高騰の影響を受けている。電気代やガス代などが軒並み高騰し、家計や企業への影響が無視できない水準になると、連邦政府は2022年2月、国内の全世帯を対象に、電気料金の請求額から100ユーロを直接差し引く措置や、住宅用電気料金の付加価値税(VAT、基本税率21%)を3~6月末まで6%に低減するなど、11億ユーロ規模の措置を発表した。その後、2月のロシアによるウクライナへの軍事侵攻に伴って3月からエネルギー価格がさらに高騰すると、9月末まで住宅用電力の減税措置を延長し、天然ガスの付加価値税も6%に低減することや、軽油とガソリンの特別物品税の時限的な軽減措置など追加の経済対策を発表した(2022年3月22日付ビジネス短信参照)。なお、住宅用の電力や天然ガスに対する付加価値税の減税措置は、2022年12月まで延長することが6月に合意され、価格高騰が続く場合は2023年3月まで再延長する可能性も検討されている。

洋上風力発電や水素を中心とした再生可能エネルギーの利用促進

化石燃料依存へのリスクがあらためて露見したことにより、脱炭素経済への移行の取り組みはベルギーのエネルギー政策の中でますます重要性を増している。PNECでは、持続可能で信頼性が高く、低廉な価格で供給可能なエネルギーシステムへの移行を目指すとしており、2040年までに再生可能エネルギーによってエネルギー需要全体の40%を賄い、2050年には全量を再生可能エネルギー由来とする目標を掲げている。また、連邦政府は2020年に、温室効果ガス排出量を2030年までに55%削減し、2050年までに気候中立達成を目指すことを発表。目標の達成に向けて、連邦政府は、風力、水素、太陽光、原子力、持続可能なモビリティーの5分野を中心に、気候中立の早期実現に向けた取り組みを進めるとした(表2参照)。

表2:気候中立の早期実現に向けた主な取り組み
分野 主な取り組み
風力発電
  • 北海の洋上風力発電の発電容量増強:洋上風力発電施設の増設と大型タービンの導入により、2030年までに発電容量を5.8ギガワット(GW)、2040年までに8GWまで引き上げ
  • 風力タービンの建て替え(リパワリング)による既存の風力発電施設の発電容量の拡大
  • 洋上風力送電網の近隣諸国(ノルウェー、デンマーク)との相互接続を可能とするエネルギーアイランドの建設
  • 洋上風力送電網の近隣諸国(ノルウェー、デンマーク)との相互接続を可能とするエネルギーアイランドの建設
水素
  • グリーン水素の輸入・輸送拠点化計画:港から国内の工業地帯を経由し、ドイツまでつなぐ水素インフラの整備
  • 企業の水素へのエネルギー転換促進のため、民間セクターとの連携強化
太陽光発電
  • 太陽光パネルの付加価値税を時限的(2022~2023年)に6%に軽減
  • 浮体式の洋上太陽光発電の導入
原子力発電
  • 国内で稼働中の7基の原子炉のうち、2基の稼働を10年間延長
  • ベルギー原子力研究センター(SCK・CEN)などと連携し、今後4年間にわたり、次世代型の小型モジュール式原子炉(SMR)の開発に年間2,500万ユーロを投資
持続可能なモビリティー
  • 2030年までの鉄道貨物輸送倍増
  • 複合輸送と車扱貨物輸送に対して2023年に約1,500万ユーロを拠出
  • 線路使用料の構造的な引き下げ

出所:ベルギー連邦政府2022年3月18日付プレスリリースから作成

連邦政府は、再生可能エネルギーの中では、特に洋上風力発電の整備に力を入れており、2030年までに発電容量を現状の3倍となる5.8ギガワット(GW)に引き上げ、さらに2040年までに8GWまで増強することを目指し、一連の新設・増強計画を進めている。洋上風力の発電容量を3倍に引き上げることで、国内の総発電電力の4分の1を賄うことができ、国内の全家庭向けに必要な電力を供給することができるという。そのほかにも、ベルギー領海上の洋上風力発電施設と、デンマークやノルウェーなど北海周辺の他国の再生可能エネルギー生産施設を接続することで、電力の融通を可能にするエネルギーアイランドの建設計画も進めている。

水素に関しては、連邦政府は2021年10月に水素戦略を策定している。欧州でグリーン水素(注1)の輸入・中継拠点となることや、供給インフラ整備、水素市場の創出などを目標として掲げている。具体的な動きとしては、2030年までにアントワープ港をグリーン水素の主な輸入・輸送拠点として、港から国内の工業地帯をつなぎ、ドイツに至る水素インフラを整備することや、2026年までに150メガワット(MW)以上の電解設備の稼働といったプロジェクトが進められている。

原子力発電については、国内全ての原子炉の運転を2025年までに終了する計画だったものの、連邦政府は2022年3月に7基の原子炉のうち2基の稼働を10年間延長する発表を行った(2022年3月24日付ビジネス短信参照)。稼働延長を決定した原子炉の合計設備容量は2GWと、国内の原子力発電の総設備容量5.9GWの約3割を占める。連邦政府はこの決定について、ロシア・ウクライナ情勢を受けて、化石燃料依存からの脱却を加速化する必要があり、そのための措置と説明している。また、政府は原子炉の稼働延長に合わせて、小型モジュール式原子炉(SMR)への投資を積極的に行っていくとしている(2022年6月1日付ビジネス短信参照)。SMRは既存の原子炉に比べ、小型で工期が短く、安全性が高く、排出する放射性廃棄物の量も少ないという点を政府は評価。今後のエネルギーミックスについて、アレクサンドル・ド・クロー首相は2022年5月、再生可能エネルギーを補う電源として「持続可能な次世代の原子力発電」を活用する方針を述べている。

グリーン水素の欧州内輸入・輸送拠点を目指す

前述のように、連邦政府は水素戦略の中でベルギーをグリーン水素の輸入・輸送拠点とすることを目標の1つとして挙げているが、その目標を達成するために重要な役割を担うアントワープ・ブリュージュ港湾会社(PAB、注2)の取り組みを紹介する。

現在、アントワープ港には欧州最大級の石油化学クラスターが形成されており、ゼーブルージュ港は液化天然ガスの積み替え拠点として、それぞれ優位性を発揮している。それに加え、両港は航路ネットワークやインフラ、産業集積、後背国への接続性の良さなどを誇り、欧州の水素の輸入・輸送拠点として成長する可能性を有しているという。

水素のサプライチェーンは複雑かつ専門性が高いとして、2019年にアントワープ港湾局とゼーブルージュ港湾公社(当時)を含む7社・団体は共同プロジェクトの実施に向けて提携することを発表。両港のほか、ベルギーの海洋土木・建設大手のデメ(Deme)、海運・海洋オペレーターのエクスマール(Exmar)、エネルギーインフラ企業フラクシーズ(Fluxys)、フランスのエネルギー事業大手エンジー、ベルギー・オランダの水素関連産業クラスターのワーテルトフネット(WaterstofNet)が参画しており、水素の製造や輸送、貯蔵に関連するプロジェクトを進める。まずは水素の輸入から輸送までの工程について共同研究を行うという。それにより、製造、搭載、海上と陸上(パイプライン)輸送といった、水素の物流チェーンを構成するさまざま、な要素について、経済性、技術、規制などの観点から課題を抽出することを目指す。その結果を踏まえて、水素の最適な輸送方法の構築に向けたロードマップを策定、エネルギーや化学などの分野で、水素を様々な用途に活用することを目指すとしている。

また、PABは2028年までにグリーン水素の受け入れを開始するため、アントワープ港とゼーブリュージュ港の水素輸送船用ターミナルの容量拡張に取り組んでいる。加えて、両港間と欧州内陸部に水素パイプラインを設置することにより、港湾地域だけでなく、ベルギー全土、さらには欧州各国への水素供給を目指す。また、ベルギー国内ではグリーン水素を製造するに十分な再生可能エネルギーが調達できないことから、輸入先への働きかけも積極的に行っている。PABは2021年11月にチリのエネルギー省、カナダのモントリオール港とそれぞれ、グリーン水素の大陸間輸送の実現に向けた協力に関する覚書を締結(2021年11月10日付ビジネス短信参照)。また、連邦政府と共同で、ナミビアのハーゲ・ガインゴブ大統領をアントワープ港に迎え、グリーン水素の大量輸入の体制が整っていることをアピール(2022年2月18日付ビジネス短信参照)するなど、国外のパートナーとの関係構築にも余念がない。

さらに、PABはブルー水素(注3)に関しても、グリーン水素普及の足がかりとして一定の役割を果たすと、その役割を評価しており、二酸化炭素(CO2)の回収・利用・貯留(CCUS)の取り組みを推進している。具体的な事例として、アントワープ港では、フランスの産業ガス大手エア・リキード、ドイツ化学大手BASF、オーストリア化学大手ボレアリス、米石油大手エクソンモービル、英化学大手イネオス、フランス石油大手トタルエナジーズ、フラクシーズの化学・エネルギー大手7社と共同で、共通のCO2インフラを構築することを目指している。今後数年間でCO2を合理的なコストで回収・輸送し、沖合に隔離、または将来的に再利用する計画だという。現在は同計画を実施するためのエンジニアリング調査段階に入っており、2022年後半に第1段階の結果を踏まえた今後の投資に関する最終決定が行われる予定だ。加えて、2025年までに港湾内の産業が排出する250万トンのCO2のCCUSも進めたい意向で、これらを合わせて、PABでは、2030年までに港湾のCO2排出量を50%削減することを目標としている。


注1:
再生可能エネルギー由来の電力を利用して、水を電気分解して生成する水素。製造過程で二酸化炭素(CO2)を排出しない。
注2:
アントワープ港湾局とゼーブルージュ港湾会社が2022年4月に合併して設立。(2022年5月11日付ビジネス短信参照)。本稿では、港湾当局が主体となるものについてはPABとし、個々の港を指す場合はアントワープ港、ゼーブルージュ港とした。
注3:
化石燃料由来のエネルギーを用いた電気分解により製造されるが、CO2の回収・利用・貯留(CCUS)を行うもの。
執筆者紹介
ジェトロ・ブリュッセル事務所
大中 登紀子(おおなか ときこ)
2015年よりジェトロ・ブリュッセル事務所に勤務。

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