特集:エネルギー安全保障の強化に挑む欧州ロシアへの天然ガス依存からの脱却を急ぐオーストリア

2022年11月14日

オーストリアは、化石燃料のほとんどを輸入に依存している。天然ガスは、旧ソビエト連邦時代から長期的な供給契約があるロシアへの依存度が80%以上だ。ロシアによるウクライナ侵攻(2022年2月)の影響で、オーストリアはガス供給元の多様化を余儀なくされた。天然ガスは、企業向けのエネルギーと、再生可能エネルギーによる電力生産の変動を補正するために不可欠であるため、短期的には、ロシアのガスを放棄することは難しい。本稿では、2022年8月中旬時点の情報に基づき、政府や企業の動きについて解説する。

エネルギー供給の現状

オーストリアのエネルギー生産の特徴は、国内の化石燃料の少なさと再生可能資源の利用の多さである。水力とその他の再生可能資源が一次エネルギー供給の84.9%を占めている(表1参照)。

2020年の一次エネルギー供給量は519.7ペタジュール(PJ)と前年比でほぼ横ばいだ。内訳をみると、石油と天然ガスは大幅に減少した一方、再生可能資源が拡大した。風力のみが前年から9%減になった。エネルギーの自給率は前年比2.9ポイント増の38.6%だった。

表1:資源別一次エネルギー生産量(単位:ペタジュール(PJ)、%)
資源 2005年 2019年 2020年 2020年
構成比
石油 39.6 27.6 23.9 4.6
天然ガス 55.7 32.2 26.5 5.1
可燃性ごみ 16.7 26.4 28.0 5.4
水力 133.5 147.0 151.2 29.1
風力 4.8 26.8 24.4 4.7
太陽光 0.1 6.1 7.4 1.4
バイオマス 155.2 229.9 232.8 44.8
地熱 7.7 24.2 25.6 4.9
合計 413.3 520.2 519.7 100.0

出所:気候保護省(2021年12月)

オーストリアでは、化石燃料の大半は輸入に依存しており、2020年は石炭の97.9%、石油の97.4%、天然ガスの73.2%を輸入が占めた。2020年のエネルギー輸入量は全体で前年比1.0%減だが、天然ガスは16.3%増と大幅に拡大し、石油の輸入量を上回った(表2参照)。

表2:資源別のエネルギー輸入量(単位:PJ、%)(△はマイナス値)
資源 2005年 2019年 2020年 前年比
石炭 169.2 118.1 102.3 △ 13.4
石油 647.6 635 566.1 △ 10.9
天然ガス 336.4 492.5 572.6 16.3
バイオマス 13.1 37.6 33.3 △ 11.5
電力 73.3 93.8 88.3 △ 5.9
合計 1,239.7 1,377.0 1,362.6 △ 1.0

出所:気候保護省(2021年12月)

2020年の国内の総エネルギー消費量は、新型コロナ禍による経済の落ち込みのため、前年比7.6%減となった(表3参照)。一次エネルギー供給の傾向と同様、化石燃料の消費量は大幅に減少した一方、風力を除く再生可能エネルギーの消費が拡大した。

表3:国内の資源別総エネルギー消費量(単位:PJ、%)(△はマイナス値)
資源 2005年 2019年 2020年 2020年
構成比
前年比
石炭 168.2 122.2 104.5 7.8 △ 14.5
石油 605.7 538.6 460.8 34.2 △ 14.4
天然ガス 338.5 321.4 304.9 22.7 △ 5.1
可燃性ごみ 16.7 26.4 28 2.1 6.1
水力 133.5 147 151.2 11.2 2.9
風力 4.8 26.8 24.4 1.8 △ 8.8
太陽光 0.1 6.1 7.4 0.5 20.0
バイオマス 153.4 232.5 230.9 17.2 △ 0.7
地熱 7.7 24.2 25.6 1.9 5.9
電力の輸入 9.4 11.3 7.9 0.6 △ 29.8
合計 1,438.1 1,456.4 1,345.6 100 △ 7.6

出所:気候保護省(2021年12月)

EU27カ国の平均と比べたオーストリアの国内総エネルギー消費の構造の特徴は、原子力の占める割合がゼロの一方で、バイオマスと水力が多いことだ(図1参照)。

図1-1:国内総エネルギー消費の構造、オーストリアとEU27の比較
オーストリア(2020年)
単位は%。 オーストリア、2020年、石炭7.6、石油34.1、天然ガス22.7、可燃性ごみ2.2、バイオマス17.4、周囲加熱1.9、水力11.2、風力1.8、太陽光0.5、電力輸入0.6。

出所:気候保護省のデータを基にジェトロ作成

図1-2:国内総エネルギー消費の構造、オーストリアとEU27の比較
EU-27(2019年)
単位は%。 EU27、2019年、石炭12.1、石油34.5、天然ガス23.1、可燃性ごみ1.0、バイオマス9.4、周囲加熱1.7、水力1.9、風力2.2、太陽光0.7、原子力13.5。

出所:気候保護省のデータを基にジェトロ作成

エネルギー資源を発電量でみると、2021年は水力(構成比60.4%)をはじめ、再生可能資源が80.7%を占めた(表4参照)。

表4:オーストリアにおける電源別の発電量(輸入を含まない) (単位:GWh、%)
電源 発電量 構成比
2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2021年
化石エネルギー 天然ガス 11,064 10,072 11,397 10,010 10,751 15.3
石炭 3,915 3,613 3,420 2,346 2,128 3.0
石油 783 641 615 610 622 0.9
原子力 0 0 0 0 0 0.0
水力 42,088 41,184 44,206 45,386 42,478 60.4
再生可能エネルギー 太陽光 1,290 1,440 1,553 1,869 2,398 3.4
風力 6,569 6,029 7,457 6,792 6,738 9.6
バイオマス 4,520 4,616 4,494 4,573 4,367 6.2
その他 989 958 1,035 790 786 1.1
合計(その他を含む) 71,233 68,598 74,191 72,414 70,292 100.0

出所:E-Control「Erzeugung elektrischer Energie(22年5月発表)」を基にジェトロ作成

発電量の動向を資源別にみると、水力が1990年から半分以上を占めている(図2参照)。2010年代から石炭の割合が減少し、風力と太陽光がシェアを拡大し始めた。

図2:電源別の発電量の動向(1990~2021年)(単位:ギガワット時(GWh))
単位ギガワット時。1990年、水力(流れ込み式)23,423、水力(貯水式)9,067、石炭7,294、石油1,828、天然ガス7,337、その他燃料478。2000年、水力(流れ込み式)31,047、水力(貯水式)12,413、石炭6,843、石油1,494、天然ガス7,859、その他燃料564、風力67、太陽光1。2010年、水力(流れ込み式)28,002、水力(貯水式)13,572、石炭6,698、石油1,271、天然ガス14,307、バイオマス3,236、その他バイオ燃料1,280、その他燃料588、風力2063、太陽光36、地熱1。2020年、水力(流れ込み式)30,698、水力(貯水式)14,687、石炭2,346、石油609、天然ガス10,009、バイオマス3,165、その他バイオ燃料1,407、その他燃料790、風力6,791、太陽光1,869。

注:輸入を含まない。
出所:Eコントロール(2022年5月)

オーストリア統計局によると、2021年のエネルギー自給率は47. 9%(暫定値)。石油、石炭は、前述のとおり外国への依存度が100%に近く、天然ガスは約11%が国内で生産されている。

化石燃料の輸入相手国をみると、天然ガスが最も偏っており、2021年はロシアからの輸入の割合は80%以上だった(表5参照)。オーストリアは1960年代からロシア(当時ソ連)と長期的なガス供給契約を締結し、ここ数年、国内最大規模のガス輸入企業であるOMVの戦略で、ロシアがほぼ唯一の輸入元になった。ロシアに依存し過ぎていることを懸念する声も一部あったが、ロシアが安定的かつ低価格の天然ガスを供給したため、供給先を多様化しなかった。しかし、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻とそれに関わる制裁の導入以降、オーストリア政府はロシア産天然ガスへの依存を減らすための対策に急きょ取り組んでいる。

表5:化石燃料の輸入先(上位10か国)と輸入額(ユーロ)(単位:ユーロ、%)

石炭(-は値なし)
順位 輸入先 輸入額 シェア
1 ポーランド 225,290,264 45.4
2 ロシア 103,559,444 20.9
3 オーストラリア 58,274,326 11.7
4 米国 35,832,812 7.2
5 ハンガリー 30,207,251 6.1
6 ドイツ 19,595,227 3.9
7 チェコ 10,693,592 2.2
8 イタリア 4,502,609 0.9
9 シンガポール 2,736,546 0.6
10 ラトビア 2,499,033 0.5
EU-27 295,371,220 59.5
EU以外 200,745,336 40.5
合計 496,116,556 100
原油(-は値なし)
順位 輸入先 輸入額 シェア
1 カザフスタン 1,360,816,927 39.7
2 リビア 753,953,399 22.0
3 イラク 677,318,360 19.7
4 ロシア 256,785,894 7.5
5 イエメン 122,310,609 3.6
6 アルジェリア 97,505,558 2.8
7 アゼルバイジャン 47,927,643 1.4
8 ガイアナ 45,942,934 1.3
9 英国 45,814,491 1.3
10 ノルウェー 17,808,809 0.5
EU-27 4,002,188 0.1
EU以外 3,426,184,624 99.9
合計 3,430,186,812 100
天然ガス(-は値なし)
順位 輸入先 輸入額 シェア
1 ロシア 3,603,903,176 86.1
2 ドイツ 298,880,922 7.1
3 デンマーク 107,908,496 2.6
4 オランダ 46,198,714 1.1
5 フランス 39,086,961 0.9
6 ベルギー 30,738,475 0.7
7 イタリア 30,179,102 0.7
8 チェコ 22,572,687 0.5
9 リヒテンシュタイン 2,418,371 0.1
10 スロベニア 1,800,254 0.0
EU-27 578,803,166 13.8
EU以外 3,606,760,075 86.2
合計 4,185,563,241 100

出所:オーストリア統計局の貿易データを基にジェトロ作成

カール・ネハンマー首相は2022年3月5~6日、レオノーレ・ゲベッスラー気候行動・環境相と(当時の)エリザベート・ケスティンガー資源担当相(農業・地方・観光省)とともに、アラブ首長国連邦(UAE)とカタールを訪問。UAEとはグリーン水素分野での連携に関する覚書を締結、カタールでは首脳会談を実施しLNG(液化天然ガス)供給について協議したが、具体的な供給計画は進んでいない。

また、7月12日にイスラエルを訪問し、将来的なイスラエルからのガス調達も見据え、包括的戦略的パートナシップ協定に調印した。ネハンマー首相は、イスラエルは2年以内にEUが必要とするガス供給の10%を供給できる見込み、と発言。イスラエル産のガスはパイプラインでエジプトへ運ばれた後にLNG化され、船で欧州へ運ばれる計画、と報じられている。

天然ガスは、オーストリアの2020年の総エネルギー消費量でみると22.7%、電力生産量では15.3%を占めている。オーストリアの1年の天然ガス使用量は90億立方メートルで、うち75億立方メートルは主にロシアから輸入される。使用者別にみると、企業が40%、発電所30%、家庭20%、その他10%となっている。天然ガスの使用量が高い業種は紙・パルプ、化学、鉄鋼、建設材・ガラスと食料品だ(図3参照)。エネルギー集約型産業の紙・パルプ業はすでに再生可能エネルギーを60%利用しているが、天然ガスの割合は35%と依然高い。製紙工場であるサッピ・グラートクルンのマックス・オーバフーマ最高経営責任者(CEO)は「短期的には、天然ガスから再生可能エネルギーへの転換は技術的に不可能に近い。バイオガスの生産は可能だが、天然ガスの代わりとして使用できるほどの量は生産できない」と述べている。ロシアのウクライナ侵攻によるガス価格急騰のため、シュタイヤマーク州の紙・パルプ企業ノルスケ・スコグは3月、エネルギーコストを下げるために2週間弱、一部工場を停止した(「インダストリー・マガジン」紙8月19日付)。

水力、風力、太陽光などの再生可能エネルギーの電力生産量の変動を補充するため、天然ガス火力発電所はなくてはならない。オーストリアには、ガス火力発電所が59カ所ある。ガス火力発電所は15分で稼働できるといわれており、エネルギー効率が高い。

天然ガスは、2019-2020年の家庭の暖房のエネルギー資源としては23%を占めている(図4参照)が、州によって、ガス暖房の普及率は大幅に異なる。都市の少ない南部ケルンテン州では3%に過ぎない一方、首都ウィーンの家庭のほぼ半分はガスで温めている。ウィーンでは古い建物が多く、暖房設備の入れ替えが難しいといわれている。

図3:ガス使用量の高い業種(2020年)
単位はテラワット時。 紙・パルプ5.9、化学5.1、鉄鋼4.7、建設材・ガラス4.4、食料品3.5。

出所:インダストリー・マガツィン(2022年8月9日付)からジェトロ作成

図4:家庭の暖房の資源別割合(2020年)
396万家庭。単位は%。天然ガス23、薪17、灯油13、熱ポンプ11、その他7、地域暖房29。

出所:オーストリア・エネルギー・エージェンシーのデータを基にジェトロ作成

エネルギー供給上の課題、政府の目標・対策

家庭のエネルギー価格は2022年6月、前年同月比で45.1%上昇し、消費者物価上昇率(8.7%)を大幅に上回った。電力価格は政府のエネルギー価格高騰への対策により前年同月比で0.2%の微増だった一方、灯油(2.1倍)をはじめとした他のエネルギー資源の価格は大幅に上昇した(図5参照)。

図5:資源別エネルギー価格の上昇率(2022年6月時点、前年同月比)
2021年6月から2022年6月。単位は%。電力0.2、地域暖房16.6、薪33.9、ディーゼル65.3、パレット52.7、ハイオク60.5、天然ガス72.1、灯油109.6、消費者物価上昇率8.7、エネルギー物価上昇率45.1。

出所:オーストリア・エネルギー・エージェンシー

エネルギー供給会社のウィーン・エネルギーとEVNは、電力とガスの卸売価格の急騰のため、それぞれ9月からウィーンとニーダーエースタライヒ州における電力価格とガス価格を値上げすると発表した。詳細な値上げ率は、本稿執筆時点でまだ公表されていないが、年間電力使用量3,500キロワット時(kWh)の家庭の1カ月の料金が約57ユーロ、年間ガス使用量1万5,000kWhの場合は108ユーロ上昇する見通しが報じられている(それぞれ税込み)。すなわち家庭の1年間のエネルギ―料金が約2,000ユーロ上昇する見込みだ。リンツ市公益事業会社はすでに地域暖房料金を引き上げ、ザルツブルク市の公共事業会社は9月からの引き上げを、またウィーン市は9月から地域暖房の料金を92%値上げすると発表した。

エネルギー価格が急騰するなか、政府は、1月、3月、7月に家庭を対象に合計88億ユーロ規模のインフレ対策を発表・実施している。低所得者、失業者、最低年金受給者などのための300ユーロの補助、大人1人当たり500ユーロ・子供1人当たり250ユーロの補助(いわゆる気候ボーナス、注)、8月の児童手当の180ユーロ増額、2,000ユーロの家族ボーナスなどの即時措置があげられる。このほか、2023~2026年の間、税制改革による220億ユーロの軽減策を行うことを発表。企業向けには、電力価格の補助、従業員のボーナスの免税、エネルギー集約型企業への支援金を含む10億ユーロ規模の軽減策が発表されている。

しかし、野党や連邦労働院などは、政府のインフレ対策を不十分と批判し、ガスや電力、ガソリン価格などの上限価格の設定などを求めている、と報じられている。

ロシアのウクライナ侵攻を受けて、政府はオーストリア・エネルギー・エージェンシー(AEA)に、ロシア産ガスからの脱却の実現可能性について調査を委託した。AEAは、以下の政策を実施した場合、2027年あるいは2030年までのロシア産ガスからの完全な脱却が可能と結論付けた(図6参照)。

  1. 消費の削減:ガス暖房機器の交換、建物のエネルギー効率の向上(断熱措置)、企業のガス使用の削減(再生可能エネルギー資源の拡大、エネルギー効率向上)、ガス発電所の削減(再生可能エネルギー資源と置き換え)、地域暖房での地熱・太陽熱・ヒートポンプ・バイオマスの使用、バイオマス熱電併給システムの拡大、最終消費の効率化(習慣の変更など)
  2. 国内生産の拡大:天然ガスの生産拡大は不可能だが、バイオガスを現在の1テラワット時(TWh)から2030年までに10TWh へ拡大、グリーン水素を4TWh生産
  3. 供給源の多様化:現在ロシア以外の国から輸入されている16TWhの天然ガスに加えて、さらに20TWhの天然ガスまたはLNGを輸入
図6:ロシアガスからの脱却計画のスケジュール
単位はテラワット時。 現状はロシアからの輸入63、他国からの輸入16、国内生産10。2027年、ロシアからの輸入0、他国からの輸入(供給源の多様化)34、他国からの輸入(従来通り)16、グリーン水素1、バイオガス6、国内生産10。2030年、ロシアからの輸入0、他国からの輸入(供給源の多様化)20、他国からの輸入(従来通り)16、グリーン水素4、バイオガス10、国内生産10。ガス消費の削減29。

出所:コピーライト:オーストリア・エネルギー・エージェンシー(2022年4月)

2010~2021年の間、オーストリアのガス貯蔵施設の貯蔵量は50.9TWhから95.5TWhに拡大した(図7参照)。これはオーストリアの年間ガス使用量を超えているが、貯蔵されているガスのすべてをオーストリアが所有しているわけではない。例えば、ハイダッハ貯蔵施設のガスは、これまでドイツのガス供給網のみに接続されていた。ガスの売買は次の貯蔵企業5社によって行われている。オーストリアのOMVガス・ストレージ(OGS)、RAGエネルギー・ストレージ(RES)、ドイツのユニパ―・エネルギー・ストレージ・オーストリア(ユニパ―)、そしてロシアのガスプロムの子会社であるアストーラとGSA。

図7:ガス貯蔵施設の容量の動向(単位:TWh)
2010年OGS26.1、RES11.4、アストーラ4.5、GSA9、合計50.9。2015年OGS27.9、RES15.1、アストーラ9.9、GSA19.8、ユニパ―19.4、合計92.1。2018年OGS25.2、RES17.1、アストーラ10.4、GSA19.9、ユニパ―19.4、合計92.1。2021年OGS25.3、RES20.1、アストーラ11.3、GSA21.3、ユニパ―17.5、合計95.5。

出所:Eコントロール(2022年6月21日)

政府はガス事業法(Gaswirtschaftsgesetz)の改正によって、オーストリア国内にある全てのガス貯蔵施設がオーストリアのガス供給網にも接続されることと、未使用のガス貯蔵施設を使用することを義務化した。施設が「体系的に(意識的に)」未使用の場合(毎年7月1日に使用率が10%未満)、使用許可が撤回される(Use-it-or-lose-it principle:「使わなければ失う」原則)。この法令に基づき2022年7月、ザルツブルク州のハイダッハにある欧州最大規模のガス貯蔵施設において、前述のGSAの使用許可が撤回され、RAGオーストリアにその許可が付与された。


ハイダッハ・ガス貯蔵施設(出所:RAG / Karin Lohberger Photography)

オーストリアのエネルギー大手OMVは7月14日、2022年10月~2023年9月の期間に備えて、追加で40TWhのガス輸送能力を確保したことを発表した。これはオーストリアの年間ガス使用量の半分に相当し、OMVの供給義務を満たす。OMVのアルフレッド・シュテルンCEOは「ガス供給の多様化において重要な節目だ。これにより、弊社がノルウェーで生産している天然ガスに加えて、調達したLNGを必要に応じてオーストリアへ輸送でき、顧客に安定的にガスを供給できる」と述べた。同氏によると、OMVのガス貯蔵施設の貯蔵率はすでに80%近い。

オーストリア議会は2022年3月、大多数による賛成で、戦略的なガス備蓄を承認した。当初は1月に使用されるガスの相当量だったが、5月に備蓄量の拡大を承認し、合計20TWhとなった。2022年11月から利用可能になる計画だ。費用は政府が負担する。これによって、ロシアがガス輸送を停止した場合も国内のガス供給が確保できる。

オーストリア政府は2019 年、ガスの安定供給確保に係る措置に関するEU規則(2017/1938)に従って、ガスの供給確保のための緊急対策を承認した。同対策は以下の3段階に分かれる:

  1.  早期警戒:ガス供給の悪化に関する、信頼性のある情報を得たときに宣言される。エネルギー規制機関Eコントロールがガス貯蔵施設運営者や大口ガス消費者(企業)などの市場参加者と協力し、ガス市場をより詳細に監視し、政府に報告する。
  2. 警戒:ガス供給が実際に悪化するときに宣言される。企業のガス需要が問われ、ガス貯蔵施設運営者との密接な協力により障壁を回避する。
  3. 緊急事態:カス供給が停止し、ガス需要を満たせないときに実施される。企業が別のエネルギー資源で代替する措置を含む。政府によるエネルギー市場の管理も可能。最大の目的は、家庭と中小企業向けの供給を確保すること。

ロシアによるガス料金のルーブル払い義務化の要求を受けて、オーストリア政府は2022年3月31日に、緊急対策の第1段階である「早期警戒」を宣言した。その後、7月5日の緊急対策本部では、当面、緊急対策の第2弾を実施する必要がないことを合意した。しかし、同本部は大口ガス消費者に、できる限り別のエネルギー資源(主に石油)を使用するように推奨した。国民には、来冬の暖房を使用する期間を配慮し、ガスと電力の節約に協力するよう求めた。

2012年に発効されたエネルギー管理法に基づき、政府は、エネルギー供給の長期的な乱れ(たとえば第3段階の緊急事態)が発生した場合、各種エネルギー資源の配分を指定できる。議会の承認で、緊急対策は6カ月まで実施可能となっている。根拠になった条件が改善すれば、緊急対策は即座に廃止される。

天然ガスのロシアへの依存度を減らすために、政府は2022年6月、ガス供給源多様化法(Gasdiversifizierungsgesetz)を施行した。2022~2025年の間、ロシア以外の供給源からガスの調達や、ガス以外のエネルギー源を導入するために発生する過剰のコストの一部を支援金として提供、そのための予算として年1億ユーロを計上している。

支援金を受ける資格のための条件は以下のとおり:

  • 対象になるガスは、オーストリアで使用または備蓄される
  • 対象になるガスの外国への売却は禁止
  • ロシア以外の供給源であることが宣誓供述書で証明される
  • 過剰なコストが発生したことを企業によって証明する。支援金の上限は1メガワット時(MWh)当たり4.20ユーロ。
  • 支援金の半分はガスがオーストリアに到着したとき、半分はガスが使用された後に支出される。

エネルギー規制機関Eコントロールの調べによると、年間5万kWh以上のガスを使用する企業60社のうち4分の1が、6カ月以内にエネルギー資源をガスから石炭もしくは石油に切り替えることが可能だ。前提条件は、代替エネルギー資源の供給が実際に可能なことと、そのために必要なボイラー設備が利用可能であることだ。気候行動・環境省は、エネルギー資源切り替えによるコストを負担することに加えて、石油と石炭の排出権が天然ガスより高いことから、切り替えにより発生する排出権の過剰のコストもカバーすることを検討している、と報じられている(「デア・スタンダード」紙8月22日付)。

エネルギー供給上の問題解決に関する企業動向

監査法人大手PwCが従業員250人以上のオーストリア企業30社に対して行った、2022年7月末発表の調査によると、インフレの影響を受ける分野として、エネルギー価格の高騰や変動性を、87%の企業が今後受ける、47%の企業がすでに受けていると回答した。エネルギー価格高騰の対策として、企業の60%はエネルギー資源の変更、57%は供給先の多様化を検討している。すでに実施済みの企業はそれぞれ20%、23%だ。また49%の企業はすでに省エネなどエネルギー効率を上げるための対策を実施している。


注:
気候ボーナスとは、オーストリアで燃料を製造・輸入する企業から徴収する税金(CO2税金)を財源として、消費者に支給される補償金。2022年秋から年1回支給される予定。
執筆者紹介
ジェトロ・ウィーン事務所
エッカート・デアシュミット
ウィーン大学日本学科卒業、1994年11月からジェトロ・ウィーン事務所で調査(オーストリア、スロバキア、スロベニアなど)を担当。

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