特集:エネルギー安全保障の強化に挑む欧州原油・ガスの輸入先多様化、原子力・再エネ利用拡大が課題(チェコ)

2022年11月25日

チェコ政府は、ロシア産エネルギーからの脱却を目指し、イタリア、ドイツ経由の原油パイプラインの容量引き上げ、液化天然ガス(LNG)の輸入拡大に向けて各国と協議を行っている。また、EU復興基金などを活用し、再生可能エネルギーを積極的に支援する一方、チェコ電力(CEZ)とともに、原子力発電を推進する。なお、本レポートの内容は、2022年8月19日時点の情報に基づく。

原油、ガス輸入先の多様化を目指す

チェコ内閣は綱領の中で、EU、米国などとの関係を強化する一方、ロシア(および中国)との関係を見直す旨を宣言していた。ロシアのウクライナ侵攻(2022年2月)に関しては、一貫してEUの対ロ制裁の推進を求めており、ロシアへの化石燃料の依存度低下に積極的な姿勢を示している。

天然ガスに関しては、国内の既存のガスタンクでの貯蔵量を増やすため、4月27日に緊急措置を発布した。これにより、2022年11月に国内のガスタンク所有者あるいは使用者はタンク容量の80%以上を満たし、さらに12月には60%、2023年1月には34%の水準を保つことが義務付けられる。

4月29日時点での貯蔵量はタンク容量の約33%だったが、8月5日時点では72%にまで引き上げられている(注1)。

一方で、ヨゼフ・スィーケラ産業貿易相、ズビニェック・スタニュラ財務相は、6月にカタールを訪問し、シェイク・ハーリド・ビン・ハリーファ・ビン・アブドゥルアジーズ・アール=サーニー首相らと会談し、同国からのLNG輸入の可能性について打診した。スタニュラ財務相によると、2022年秋にカタールのシェイク・タミーム・ビン・ハマド・アール・サーニ首長がチェコを訪問し、協議を継続する予定だ(注2)。

原油に関しては、チェコはロシアを起点としてベラルーシ・ウクライナ・スロバキアを経由するパイプライン「ドルージュバ」と、イタリアを起点とするパイプライン「TAL」にドイツで接続しているパイプライン「IKL」を介して輸入している(図1参照)。2021年にチェコに輸送された原油はドルージュバからが48.8%、IKLからは51.2%であった(図2参照)。

図1:欧州のパイプライン網
チェコはチェコはロシアを起点としてベラルーシ・ウクライナ・スロバキアを経由するパイプライン「ドルージュバ」と、イタリアを起点とするパイプライン「TAL」にドイツで接続しているパイプライン「IKL」を介して輸入しています。

注:赤がドルージュバ、緑がTAL+IKL。その他のパイプラインは「欧州のパイプライン網(Ropovodní síť Evropy)(チェコ語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」で確認できる。
出所:メロ社(MERO ČR, a.s.、原油パイプライン運営会社)

図2:チェコの原油輸入に際しての各パイプライン使用割合の推移
ドルージュバが2010年58.7%、 2011年56.5%、2012年42.3%、2013年60.0%、2014年50.6%、2015年55.1%、2016年64.6%、2017年51.3%、2018年53.9%、2019年49.4%、2020年48.8%、2021年48.8%。IKLが2010年41.3% 、2011年43.5%、2012年57.7%、2013年40.0%、2014年49.4%、2015年44.9%、2016年35.4%、2017年48.7%、2018年46.1%、2019年50.6%、2020年51.2%、2021年51.2%。

出所:チェコ産業貿易省が2022年4月6日に発表した原油輸入統計を基にジェトロ作成

スィーケラ産業貿易相は2022年5月、チェコが原油供給ルートを確保するためには、TALの容量引き上げが最も適当と述べた。同相によると、ドルージュバからの供給分をTALとIKLでまかなうには、TALの容量を現在の年間3.800万トンから4,800万トンに引き上げる必要があり、そのインフラ整備には約2年かかると見積もっている。このプロジェクトに関して、チェコはドイツ、オーストリア、イタリアと、また資金に関して欧州委員会と交渉を行っている段階だ。その一環として7月には、ペトル・フィアラ首相が、ドイツ・バイエルン州のマルクス・ゼーダー州首相と会談、会談後の記者会見で、TALの容量の一部引き上げ許可を得たと発表した。これによりTALを経由したチェコへの年間原油供給量が、300万~400万トンから450万~600万トンに引き上げられると、チェコ政府は見込んでいる。

また、チェコ政府は一貫して、EUの天然ガス共同購入を推進する立場をとっている。

太陽光、バイオマス、ヒートポンプの利用を支援

産業貿易省は、2022年4月に発表した「ロシア産ガスへの依存度低下のための対策」の中で、主としてEU復興基金より、再生可能エネルギー源の開発支援に数百億コルナ(1コルナ=約6.0円)の補助金を割り当てるとしている。その一環として同省は5月、企業が所有・賃貸する不動産に太陽光発電システムを設置する際の補助金の予算を10億コルナ引き上げ、総額40億コルナとすることを決定した。9月からは企業向けに、エネルギー効率の改善や再生可能エネルギーの活用を支援するプログラムの公募を開始するとした。建物のエネルギー効率改善を目的とした改築や、ヒートポンプの導入、バイオマス、バイオガスを燃料とする発電設備の導入などが対象となる。これにはEUのオペレーション・プログラムを財源に100億コルナの予算が割り当てられる。同様の支援は公的機関を対象としたものも実施されており、EUの環境オペレーション・プログラムから8億2,500万コルナの予算が割り当てられている。

原子力に関しては、政府は一貫してチェコのエネルギー源の中核を成すものと考えている。政府の綱領には、将来の主要なエネルギー源として原子力と再生可能エネルギーを明記している。チェコにはテメリンとドコバニの2カ所に原子力発電所がある。ドコバニ原子力発電所では原子炉の増設計画が進められており、2022年3月に産業貿易省はフランス電力、韓国水力原子力(KHNP)、米国ウェスチングハウスの3社を対象に入札を実施することを決定した。原子炉の建設は2029年に開始され、2036年に稼働の予定となっている。

石炭の採掘に関しては、政府は2033年に採掘を終えるとしているが、アンナ・フバーチコバー環境相は、今後、延期が検討される可能性があることも示唆している。

なお、バイオマスやヒートポンプを使用したタイプのものなど、環境負荷の低い家庭用ボイラーの購入に対する補助金制度は、EUの環境オペレーション・プログラムにより2015年から実施されている。しかし、今後のガスの調達に不透明さが増したことから、ガスボイラーに関しては、2022年4月30日以降に購入したものは対象外となった。

チェコ電力、原発関連サプライヤーとLNGインフラを確保

政府が原子力発電を推進する上で、中心的な役割を果たしているのが、旧国営電力会社で、現在も国が約70%の株式を保有している発電・電力供給会社、チェコ電力(CEZ)である。CEZは子会社も含めると、顧客数は約700万人以上、従業員数は約2万8,000人で、前述の2カ所の原子力発電所のほか、石炭火力発電所9カ所、天然ガス火力発電所2カ所、大・小規模水力発電所37カ所、風力発電所4カ所、太陽光発電所12カ所、バイオマス発電所3カ所の運営・管理を国内外で行っている。その規模は欧州の電力会社でも、10位以内を占めている。

原子力発電に関しては、CEZは2022年6月にテメリン原子力発電所で使用する燃料供給に関する入札の結果、ウェスチングハウス、フランスのフラマトムの2社と契約を締結し、2024年から10年間の燃料を確保した。ウェスチングハウスは現在も同原発に燃料を供給しているが、燃料の供給中断のリスクを最小限に抑えるため、今回は2社との契約に至った。入札にはロシアのTVELも参加したが、同社を除く2社が選ばれた。

CEZは6月、さらに原子力発電設備メーカーのシュコダJSを買収し、100%子会社にした。同社はCEZのサプライヤーであるが、2007年にロシアのガスプロムバンクの傘下にある機械メーカー、OMZグループの子会社となっていたため、対ロシア制裁の対象となる可能性が危惧された。そこで、同社の設備供給が中断されないよう、CEZが買収に踏み切った。

一方、天然ガスに関しては、7月に産業貿易省とCEZは、オランダ北部フローニンゲン州のエームスハーフェンに建築中のLNGターミナルの一部と、チェコまでの輸送用パイプラインを確保したと発表した。同ターミナル全体の年間天然ガス取扱量は80億立方メートルで、そのうちチェコのレンタル分は30億立方メートルに当たる。これは、チェコの年間の国内需要の約3分の1に相当する。CEZのダニエル・ベネシュ代表取締役社長は、チェコのエネルギー安全保障の上で重要な一歩と評し、「核燃料、サプライヤー企業、そしてガスにいたるまで、ロシアへのエネルギー依存の脱却戦略を続けることがわれわれの目的だ」と述べた。


注1:
9月13日時点では約85%。
注2:
カタール首長のチェコ訪問は10月5日に実施され、2国間経済・貿易・技術協力協定を締結した。
執筆者紹介
ジェトロ・プラハ事務所
中川 圭子(なかがわ けいこ)
1995年よりジェトロ・プラハ事務所で調査、総務を担当。

この特集の記事